個人事業主にとって、事業運営に欠かせないツールであるパソコン。分割払いで購入した場合でも、正しいタイミングと方法で処理すれば、経費として認められるケースがほとんどです。この記事では、分割払いで購入したパソコンを経費として計上する際の具体的な勘定科目や仕訳例、金額による処理の違い、注意点などを詳しく解説します。
目次
個人事業主の経費とは
個人事業主が事業を行う上で発生するさまざまな支出は、条件を満たせば「経費」として計上できます。経費は所得から差し引かれるため、経費を正しく処理すれば節税にもつながります。ここでは、経費にできる条件と処理についてまとめました。
事業に必要な支出は経費として認められる
個人事業主が事業を進める上で必要な支出は、原則として経費にできます。経費とは、売上を上げるために使った費用を指し、例えば、消耗品の購入費や通信費、打ち合わせのため飲食代・交通費などが該当します。
これらの支出を経費として計上すれば、事業所得を圧縮でき、結果的に所得税や住民税の負担を抑えられるのです。経費にできるかどうか迷った場合は「その支出が事業に直接関連し、売上を得るために必要だったかどうか」を判断のポイントにしましょう。
関連記事:個人事業主の経費比率はどれくらいが適切?経費はいくらまで認められる?
支払い方法や金額によって処理方法が異なる
同じく事業に関する支出でも「支払い方法や金額によって経費処理の方法が変わる点」に注意が必要です。例えば、パソコンなど高額な物品は、金額によっては購入年度に一括で経費計上できず、複数年にわたって「減価償却」として処理する必要があります。
また、現金払いとクレジットカード払い、分割払いでは、記帳のタイミングや使用する勘定科目にも違いがあります。これらの違いを正しく理解し、支出の内容に応じた適切な方法で処理すれば、スムーズな確定申告につながるでしょう。
分割払いで購入したパソコンも経費として計上できる
個人事業主が事業のためにパソコンを分割払いで購入した場合でも、条件を満たせば経費として計上できます。パソコンは業務に必要な備品であり、事業に直接関係する支出とみなされるためです。
ただし、購入金額によって処理方法が異なるので注意しましょう。一定金額以下であれば購入した年に全額を経費にできますが、高額な場合は「減価償却」として、数年にわたって少しずつ経費として計上します。
また、分割払いの場合は、支払いが発生したタイミングではなく、パソコンを受け取った時点で経費を計上するのが一般的です。この際、支払い方法に応じた適切な勘定科目を用いることが重要です。
分割払いで購入した際の仕訳と計上時期
個人事業主がパソコンを分割払いで購入した場合、経費の計上時期は原則として「パソコンを使用した日」となります。支払方法にかかわらず、事業で使用する資産を使用した時点で会計処理を行う必要があるためです。
分割払いの場合、購入時には実際の支払いが発生していないため「未払金」という勘定科目を用いて記帳を行います。
例えば、10万円以上のパソコンを分割払いで購入し、固定資産として計上する場合、パソコンを受け取った日に「備品」などの資産科目を借方に、支払い義務を表す「未払金」を貸方に記帳します。
その後、実際に分割払いの引き落としが行われるたびに、「未払金」を減らし、実際に使った資金(例:「普通預金」)を貸方に記帳しましょう。この方法により、会計上の資産取得と実際の支払いが一致し、帳簿の整合性が保たれます。
【仕訳例】パソコンを分割払い(3回)で購入した場合(購入金額:15万円)
日付 | 借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
購入時 | 備品 | 15万円 | 未払金 | 15万円 |
初回支払い時 | 未払金 | 50,000円 | 普通預金 | 50,000円 |
2回目支払い時 | 未払金 | 50,000円 | 普通預金 | 50,000円 |
最終支払い時 | 未払金 | 50,000円 | 普通預金 | 50,000円 |
パソコンの購入金額に応じた経費処理の方法
個人事業主が事業用にパソコンを購入した場合、金額によって会計上の処理方法が異なります。
購入金額に応じて、すぐに全額を経費として計上できるケースもあれば、数年にわたって費用を分割する必要があるケースもあるため注意が必要です。ここでは、金額ごとに対応方法をわかりやすく解説します。
10万円未満の場合
購入金額が10万円未満の場合、「少額の減価償却資産」または「消耗品費」として扱われるため、購入した年に全額を経費として計上できます。複雑な減価償却の処理が不要なため、手続きも比較的シンプルです。
勘定科目としては、「消耗品費」や「事務用品費」を使用するのが一般的です。例えば、9万円のパソコンを現金で購入した場合は、借方に「消耗品費 90,000円」、貸方に「現金 90,000円」と仕訳しましょう。
購入した年の所得からパソコンの購入費用全額を差し引くことができ、節税効果も見込めます。
10万円以上20万円未満の場合の処理方法
購入金額が10万円以上20万円未満の場合、いくつかの経費処理方法が考えられます。1つ目は「通常の減価償却」で、パソコンの法定耐用年数(通常4年)に応じて毎年一定額を計上します。
2つ目は「一括償却資産」として扱う方法で、購入金額を3年間で均等に償却するものです。
3つ目は、青色申告者限定で使える「少額減価償却資産の特例」です。この特例を使えば、年間300万円までという上限はあるものの、30万円未満であれば購入した年に全額を一括で経費として計上できます。
どの方法を選択するかは、事業の利益状況や将来の税負担などを踏まえて判断することが重要です。
関連記事:少額減価償却資産の特例とは?いくらまで経費にできるのかを解説!
20万円以上30万円未満の場合
この価格帯のパソコンは一括償却資産の対象外となり、白色・青色の申告形態によって処理方法が異なります。
白色申告の個人事業主は「通常の減価償却」が原則となり、パソコンの耐用年数に応じて費用を分割して計上します。一方、青色申告の個人事業主であれば「少額減価償却資産の特例」を適用し、購入した年に全額を経費として計上可能です。
白色申告者か青色申告者かによって、経費計上方法が変わるため、ご自身の申告形態を確認し、適切な処理方法を選択しましょう。
30万円以上の場合
購入金額が30万円を超える場合は、「一括償却資産」や「少額減価償却資産の特例」の対象外となるため、原則として「減価償却」による処理が必要です。
減価償却では、パソコンの法定耐用年数(通常は4年)にわたって毎年一定額を経費として計上していきます。計算方法には「定額法」と「定率法」がありますが、個人事業主の場合は「定額法」が一般的です。
例えば、40万円のパソコンを購入した場合、定額法を用いれば毎年10万円ずつ4年間にわたって経費として計上していく形となります。
高額なパソコンであればあるほど、購入した年だけでなく、今後数年にわたる費用計上と資金計画に影響します。購入時には、こうした会計上の取り扱いも含めて検討しましょう。
分割払いやクレジットカード利用時の注意点
分割払いやクレジットカードを利用して経費を計上する際には、支払いと会計処理のタイミングの違い、手数料の取り扱いについて正しく理解しておくことが重要です。ここでは、主な注意点をお伝えします。
引き落とし時の未払金処理を忘れない
クレジットカード払いや分割払いの場合、実際の支払いは後日になります。そのため、購入時の会計処理では、貸方の勘定科目に「未払金」を使用するのが基本です。
購入日に「備品」や「消耗品費」などの経費科目を借方に、支払い義務として「未払金」を貸方に計上します。
その後、実際に口座から代金が引き落とされた際に、「未払金」を借方に、支払いに使った口座(例:「普通預金」)を貸方に記帳して、未払金の残高を減らします。
この処理を忘れてしまうと、帳簿上の未払金残高と実際の支払い状況が一致せず、経営状況の把握や税務申告に支障をきたす可能性も。特に分割払いの場合、複数回にわたってこの処理が必要になるため、注意が必要です。
クレジットカード手数料の取り扱いに注意する
クレジットカードで分割払いを利用し分割手数料が発生した際の、手数料の取り扱いにも気をつけましょう。業務用の備品など、事業に関連した支出にかかる分割手数料であれば、原則として経費として計上できます。
勘定科目は「支払手数料」が適切です。ただし、当然ながらプライベートな支出に関する手数料は経費にできません。
また、手数料はパソコン本体の購入費用とは別に扱う必要があるため、仕訳を行う際は本体の購入費用と手数料を分けて記帳することが大切です。例えば、本体は「備品」、手数料は「支払手数料」としてそれぞれ別の行で記帳します。
パソコンを経費として計上するときの注意点
パソコンの購入費用を事業の経費として計上すれば、節税にもつながります。しかし、会計処理を誤ると、税務署から経費として認められなかったり、追徴課税の対象となったりするリスクもあるので注意しましょう。
特に個人事業主の場合、事業用とプライベート用の線引きが曖昧になりがちなため、明確な区分と適切な処理が求められます。以下に、注意すべき4つのポイントを解説します。
事業と私用が混在する場合は「家事按分」が必要
パソコンを仕事だけでなくプライベートでも使用する場合、購入費用の全額を経費として計上することはできません。このようなケースでは、「家事按分」という方法を用いて、事業で使った割合だけを経費として計上します。
家事按分は、1日のうち何時間を事業に使っているか、あるいは事業用途としての使用割合など、合理的な基準で判断します。
例えば、使用時間のうち事業用が8割であれば、購入費用の8割が経費として認められるのです。按分の割合を証明できるよう、使用時間の記録などを残しておくことが推奨されます。
関連記事:家事按分を正しく適用!個人事業主が知っておきたい経費計上の方法と注意点
領収書は必ず保管する
経費として計上するには、領収書やレシートなどの証拠書類の保管が必須です。税務調査が入った際には、経費として計上した支出内容の根拠を示す必要があるためです。
領収書には、日付、金額、支払先、但し書き(購入内容)が記載されていることを確認しましょう。保管期間は、白色申告の場合で5年間、青色申告では原則7年間です。月ごとや勘定科目ごとに整理しておくと、申告時や調査時にもスムーズに対応できます。
関連記事:レシートと領収書の違いを徹底解明!税務上の扱いや経費精算のポイントまで
複数台購入時は「1台ごとの金額」で判断する
複数台のパソコンを一度に購入した場合、経費処理は「1台ごとの購入金額」で判断します。
例えば、1台90,000円のパソコンを3台購入した場合、合計金額は27万円になりますが、1台あたりは10万円未満であるため、それぞれを「消耗品費」として購入年度に一括で経費計上することが可能です。
一方で、1台あたりの金額が10万円以上であれば、固定資産として扱い、減価償却の対象になります。合計金額ではなく、1台あたりの取得価格が基準になる点に注意が必要です。
中古パソコンも金額に応じて処理する
中古パソコンを事業のために購入した場合も、新品と同様に経費として計上できます。ただし、会計処理の方法は購入金額に応じて変わります。10万円未満であれば消耗品費として一括計上できますが、10万円以上であれば固定資産とし、減価償却による処理が必要です。
中古品の減価償却においては、耐用年数の計算方法が新品とは異なる場合があり、その場合は「簡便法」と呼ばれる計算方法を用いるのが一般的でしょう。いずれにせよ、事業用として使用している実態を証明できる書類や記録を残しておくことが大切です。
まとめ
個人事業主がパソコンを分割払いで購入した場合でも、条件を満たせば経費として計上することが可能です。
経費計上の方法は購入金額によって異なり、10万円未満であれば「消耗品費」として一括計上、10万円以上であれば「固定資産」として減価償却の対象となります。
また、青色申告者であれば30万円未満の資産を一括で計上できる「特例制度」も活用できることを覚えておきましょう。適切な処理を行えば、節税効果を得ながら正確な会計管理につなげられるのです。