法人が事業年度の決算期を変更する際は、定款変更や税務署への届出など、いくつかの手続きが必要です。また、決算期変更には節税や資金繰りの調整、業務効率化などのメリットがある一方で、事業年度が短縮されたり、財務データの比較が難しくなったりするといったデメリットも。この記事では、手続きの流れや必要書類、メリットとデメリット、そして注意点について詳しく解説します。
目次
決算期変更の手続きの流れと必要書類
法人が決算期を変更するには、主に3つの手続きが必要です。本項では、株主総会での決議、定款の変更、そして税務署への異動届出書の提出という各手続きについて、1つずつ具体的に見ていきましょう。
株主総会の開催と決議
定款に事業年度が定められている場合、決算期を変更するには、株主総会で定款変更のための特別決議を行う必要があります。特別決議には、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。
規模が小さい会社の場合は、株主総会を開催せず書面による決議で済ませることもありますが、いずれの場合も決算期変更の旨を記載した株主総会議事録の作成が必須。議事録は税務署への届出時に添付する必要があるので、原始定款とともに保管しましょう。
定時株主総会を待たずに決算期を変更したい場合は、臨時株主総会の開催で対応可能です。この株主総会は、変更後の決算月の末日までに開催する必要があります。
定款の内容
株主総会で決算期変更の特別決議が承認されたら、定款に記載されている事業年度の項目を変更します。
定款そのものを書き換えるというよりは、株主総会の議事録の内容をもって定款が変更されたとみなされます。なお、事業年度は登記事項ではないため、定款変更に伴う法務局への登記申請は必要ありません。
税務署への異動届出書
株主総会での決議と定款の変更が完了したら、所轄の税務署、都道府県税事務所、市区町村に「異動届出書」を提出する必要があります。異動届出書には、決算期変更を決議した株主総会議事録のコピーを添付するのが一般的です。
提出期限は明確に定められておらず、届出が遅れても罰則はありませんが、遅くとも変更後の納税月の末日までには提出するのが望ましいでしょう。
例えば、決算期を3月から11月に変更する場合、変更後の納税月である1月31日までに提出することが望ましいです。なお、許認可が必要な事業を行っている場合は、関係省庁に追加で届出が必要となることもあります。
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決算期を変更する4つのメリット
決算期の変更は、経営戦略上、節税や資金繰りなどの面でいくつかのメリットがあります。本項では、決算期変更で得られる4つのメリットについて、詳しく見ていきましょう。
節税に繋がる可能性がある
決算期の変更が節税に繋がる可能性があります。例えば、期末に大きな利益が見込まれる場合、決算期の前倒しによりその利益を翌期に回し、当期の課税所得を抑えられ、納税額の調整や、計画的な節税対策が可能になります。
また、2期前の課税売上高が1,000万円を超える事業者は消費税の「課税事業者」となりますが、決算期を変更して1,000万円を超えないように調整することで、消費税の免税期間を延長できる場合もあります。
ただし、税法上の規定に基づいた適切な手続きと計算が必要となるので、専門家である税理士に相談しながら進めましょう。
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資金繰りを調整しやすくなる
法人税や地方税、消費税などの納税は原則として決算期末から2ヵ月以内に行う必要があります。もし、現在の決算期が会社の資金が不足しやすい時期と重なっている場合、資金に余裕のある時期に決算期を変更することで、納税の資金繰りへの影響を軽減できます。
特に、期末に多額の売上が計上され、納税額の増大が予想される場合には、決算期の前倒しによって納税時期を調整することで、資金繰りへの負担の分散が可能。突発的な資金不足のリスクを低減し、安定した企業運営が実現します。
役員報酬の見直し時期を調整できる
役員報酬は、原則として毎月一定額を支給する必要があります。事業年度の途中で金額を変更する場合、業績の悪化など特定の事由に該当しない限り損金算入が認められません。
役員報酬を増減させる場合は、事業年度開始の日から3ヵ月以内に開催される株主総会で決議を行う必要があります。
早期に役員報酬の見直しを行いたい場合は、そのタイミングに合わせて決算期の見直しを検討しましょう。これにより、経営戦略に基づき、柔軟に役員報酬を設定しやすくなります。
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決算業務の負担を軽減できる
決算期が会社の繁忙期と重なっていると、経理担当者や経営層に大きな負担がかかります。特に中小企業では経理担当者が他の業務も兼任していることも多く、決算期の多忙さが業務全体の非効率に繋がることも少なくありません。
その場合、決算期を閑散期に変更すると、決算業務に集中する時間の確保に繋がります。これにより、担当者の負担が軽減し、より正確で効率的な決算処理を行えます。ミスの防止や他の重要な業務へのリソース配分改善に繋げることが可能です。
決算期を変更する4つのデメリット
ここまで見てきたように、決算期の変更は多くのメリットをもたらしますが、一方でいくつかのデメリットも存在します。本項では主な4つのデメリットを挙げ、ひとつひとつ詳しく解説していきます。決算期変更を考える経営者や経理担当者は必見です。
事業年度が1年未満になる
会社法上は例外的に12ヵ月を超える事業年度も認めていますが、税法上は、1事業年度が12ヵ月を超えることを認めていません。そのため、決算期を変更すると、変更後の最初の事業年度が1年未満になります。
例えば、3月決算の会社が9月決算に変更した場合、初年度は4月から9月まで。このように、決算期変更を行うと、必ず一度は12ヵ月より短い事業年度が発生するのです。
この短い期間で決算処理や税務申告を行う必要があるため、経理部門の負担が増加する可能性があります。
財務データの比較が難しくなる
通常、企業の業績を分析し、経営判断を行う際には、過去の事業年度の売上高や利益などの財務データを比較検討します。しかし、決算期変更によって事業年度の期間が短くなると、単純な金額での比較ができなくなります。
例えば、12ヵ月の事業年度と9ヵ月の事業年度の売上高をそのまま比較しても、正確な成長率や傾向は把握できません。
月ごとの売上や費用の変動が異なる場合は、期間を調整しても正確な比較は難しいでしょう。このため、決算期変更後の財務分析には特別な手法が必要となり、経営判断の精度に影響を与える可能性もあります。
税務に関する計算の調整が必要になる
決算期を変更すると、税務に関する様々な計算で調整が必要となり手続きが複雑化。特に、事業年度が1年未満となる場合、法人税の均等割や減価償却費の計算などで月割り按分などの調整が必要になります。
また、消費税の計算でも、基準期間や課税期間の考え方が変わるため注意が必要です。
こうした調整は専門的な知識を要する場合が多く、経理担当者の負担が増加したり、計算ミスが発生したりするリスクが高まります。税理士と密に連携し、正確な税務処理を心がけましょう。
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変更手続きに時間と手間がかかる
法務局での登記申請が不要な決算期変更は、比較的簡易な手続きとされていますが、それでも一定の時間と手間はかかります。特に、株主が多数いる会社の場合、株主総会の招集や特別決議を得るための調整に少なくない時間が必要となります。
複雑な手続きや調整に時間をミスなく進められるよう、事前の計画が何より重要です。
決算期変更の際の注意点
決算期変更を検討する際には、手続きの流れやメリット・デメリットに加え、いくつかの重要な注意点があります。
これらの注意点を事前に把握しておくと、変更前後のトラブルを防ぎ、スムーズな決算期移行が実現します。本項では、把握しておくべきポイントについて詳しく見ていきましょう。
納税期限が短縮される場合がある
決算期を変更すると、変更後の最初の事業年度は1年未満となり、それに伴って納税期限が短縮される場合があります。前回の納税から次回までの期間が短くなります。資金繰りにも影響が出ますので、事前に納税額を予測し、資金準備をしておきましょう。
特に、変更後の短縮された事業年度で大きな利益が見込まれる場合は、納税額の増大に備えてより一層の注意が必要です。必要に応じて、金融機関への相談や資金調達の検討も視野に入れましょう。
消費税の免税期間への影響
消費税の納税義務は、原則として前々事業年度の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかで判定されます。
決算期を変更すると、基準期間となる事業年度や、課税売上高の集計期間が変わる可能性があり、当初予定していた消費税の免税期間が短縮されたり、逆に延長されたりすることがあります。
決算期変更に伴う消費税の計算や納税義務の判定はとても複雑です。事前に税理士に確認し、正確な処理を行うようにしましょう。
関係者への連絡
決算期を変更した場合は、社内外の関係者に連絡が必要です。まず、社内の関連部門、特に、新しい決算期に合わせて業務スケジュールや目標設定を変更しなければならない経理部門や営業部門には、速やかに周知しましょう。
また、主要な取引先や金融機関に対しても通知しましょう。これにより、請求書や支払いのタイミング、与信管理などで混乱が生じるのを防げます。
さらに、事業内容によっては、許認可を受けている行政機関などへの届出や連絡が必要になる場合もあるので注意しましょう。円滑に事業を運営するために、関係各所へ密な情報提供を心がけましょう。
まとめ
決算期変更は、法人にとって経営戦略上の有効な手段のひとつです。節税効果や資金繰りの改善、業務効率の向上など、様々なメリットを享受できる可能性があります。
しかし、こうしたメリットを受けるには、株主総会での決議、定款変更、税務署への異動届出書の提出など、所定の手続きを正確に行う必要があります。
また、事業年度が短縮されたり、財務データの比較が難しくなったりといったデメリットや、納税期限の前倒し、消費税への影響といった注意点も存在します。
本記事で学んだメリットとデメリット、注意点などを踏まえた上で、自社にとって望ましい判断をしましょう。決算期変更についてのお困りごとやご相談は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。