個人事業を家族とともに営んでいる方にとって、「専従者給与」は重要な節税制度です。ただし、専従者給与を正しく活用するには、税務署への届け出や源泉徴収、確定申告書類への記載など、いくつかの手続きが必要です。本記事では、専従者給与の基本から、源泉徴収の具体的な計算方法、記載ミスを避けるための確定申告手順まで、実務に役立つ情報をやさしく解説します。税務処理に不安のある方は、ぜひ参考にしてください。
目次
専従者給与とは
青色事業専従者給与とは、青色申告の承認を受けた個人事業者が利用できる制度です。期限までに税務署へ「所得税の青色申告承認申請書」「青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書」を提出していれば、家族や親族に支払った給与を必要経費として計上できます。
多くの個人事業主は配偶者や子ども、親など家族とともに事業を行っていますが、通常、家族に支払う給与は必要経費になりません。しかし、この特例を利用すれば、支払った給与が業務の対価として妥当な範囲であれば、全額を経費に含めることが可能です。
家族への給与を経費に計上することで、事業主の課税所得が減少し、所得税や住民税の負担を軽減できます。特に毎月給与を支払っている場合、その効果は大きくなります。
なお、青色申告承認申請書の提出期限は、その年の3月15日まで(新規開業の場合は事業開始から2か月以内)です。期限を過ぎないよう注意をしなくてはいけません。
また、家族への給与に関しては、白色申告者が利用できる「事業専従者控除」という制度もあります。こちらは控除できる金額に上限があり、配偶者の場合は最大86万円、その他の親族は1人につき50万円までとなっています。
青色事業専従者給与は、届け出をし、給与が妥当と認められれば実際に支払った全額が経費となる点で異なります。
関連記事:青色専従者給与はいくらまでOK?金額設定の考え方と注意点を解説
専従者給与も源泉徴収対象
青色事業専従者給与は、会社員の給与と同様に源泉徴収の対象となります。家族に支払う給与が月額8万8,000円以上になると、事業主には源泉徴収の義務が生じます。
市区町村によって異なりますが、給与を受け取る家族の年収が100万円を超えると、住民税の課税対象となるでしょう。さらに、年収が103万円を超えると、所得控除の一部が適用されず、所得税が発生する可能性があります。
家族側の税負担を抑えたい場合は、年間の給与を100万円または103万円以内に収めるのがひとつの方法です。一方で源泉徴収の手間を省きたい場合は、月額8万8,000円未満にとどめることも検討できます。
専従者給与によって事業主本人の節税効果も得られます。そのため、家族全体の税負担や手続きの手間を総合的に比較・検討することが重要です。
関連記事:青色専従者給与は学生(子ども)にも適用される?認められないケースや注意点
専従者給与の源泉所得税の計算方法
個人事業主が専従者に給与を支払う場合、その給与には「源泉所得税」が発生します。これは一般の従業員と同様、給与を支払う側が所得税を天引きし、税務署に納付する仕組みです。
源泉所得税の金額は、国税庁が公表している「給与所得の源泉徴収税額表」に基づいて計算します。税額表には「月額表」と「日額表」の2種類がありますが、専従者給与の場合は基本的に月額表を使用します。
源泉徴収額を正確に計算するためには、次の3つの情報を押さえる必要があります。
①社会保険料等控除後の給与等の金額を確認する | まず、支給する給与から社会保険料などの控除額を差し引いた金額を算出します。 例えば給与総額が10万円で、社会保険料が10,000円の場合、課税対象となる金額は90,000円です。 |
②「甲欄」「乙欄」の区分を正しく把握する |
通常、専従者給与を支給する際は、事前に扶養控除申告書を提出してもらっているはずなので「甲欄」での計算が一般的です。 |
③扶養親族の数を把握する | 専従者が提出した「扶養控除等申告書」に基づいて判断します。 なお、扶養親族になれるのは以下のような条件を満たす人です。
ただし、専従者給与を受け取っている人自身は、ほかの人の扶養親族にはなれませんので注意しましょう。 |
専従者給与を経費として計上するには、正しい源泉徴収処理を徹底しなくてはいけません。扶養控除申告書の提出状況や、扶養親族の数などを正確に把握し、月額表に基づいた適切な税額を計算しましょう。
源泉徴収の手続きや税額計算に不安がある場合は、早めに税理士など専門家に相談するのがおすすめです。
関連記事:青色専従者に賞与は支給できる?経費にできる条件と注意点を解説
専従者給与がある場合の確定申告のやり方
通常、専従者給与のみを受け取っている家族については、事業主が年末調整を行うため、本人による確定申告は不要です。
ただし、以下のようなケースでは確定申告が必要になる可能性があります。
- 専従者給与以外に、パートやアルバイトなどの収入がある
- 複数の所得があり、合算して申告が必要な場合
なお、副業などで他の仕事に就くと「専ら従事している」という専従者の要件から外れてしまう恐れがあります。あらかじめ確認しておきましょう。
専従者給与を支給した場合、以下の4つの書類に記載を行います。
青色申告決算書(2枚目) |
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青色申告決算書(1枚目) | 「繰入額等」欄の「専従者給与」に、上記で記載した専従者給与の合計額を転記します |
確定申告書 第一表 | 「所得から差し引かれる金額」欄にある「専従者給与(控除)額の合計額」に、決算書に記載した合計額を記入 |
確定申告書 第二表 | 「事業専従者に関する事項」欄に記載 |
専従者給与は事業経費として大きな節税効果があります。しかしその一方で、記載ミスや要件外の取り扱いをしてしまうと、経費として認められないリスクもあります。会計ソフトを活用するか、税理士に相談することで正確な申告ができるようになるでしょう。
関連記事:青色専従者に退職金は支給できる?制度の活用法と注意点を解説
専従者給与の源泉徴収に関するよくある質問
最後に専従者給与の源泉徴収に関するよくある質問をまとめたので、こちらもあわせてチェックしておきましょう。
専従者の給与収入の証明はどうやってする?
事業専従者の所得は「給与収入」として扱われます。そのため、外部の証明が必要な場合には市区町村が発行する「住民税納税証明書(支払給与総額が記載されているもの)」などを提出します。この証明書に記載された金額が、専従者の収入として認められます。
専従者は年末調整は必要?
青色事業専従者である配偶者や親族にも、会社員やアルバイトと同様に年末調整が必要です。なぜなら、青色事業専従者も給与を受け取る「給与所得者」として扱われるためです。
専従者給与と副業はバレる?
専従者がパートなど他の仕事を掛け持ちしている場合、税務署に把握されるきっかけの一つが「確定申告」です。
複数の勤務先から給与を受け取っている場合は、正しく所得税を計算するために確定申告が必要です。その際に専従者給与と副業収入の両方を申告しなくてはいけません。
関連記事:青色専従者はパート勤務できる?条件や注意点をわかりやすく解説
まとめ
専従者給与は、家族に支払う給与を経費として扱える非常に有効な節税手段のひとつです。青色申告による届出を行い、支払額が業務に見合った適正なものであれば、全額を必要経費にできます。
ただし、源泉所得税の徴収や年末調整、確定申告時の正確な記載が求められる点には注意が必要です。
家族への支払い金額や所得状況によっては、住民税や所得税の課税対象となることもあります。そのため、金額設定や支払い方法は慎重に検討しましょう。税務処理に不安がある場合は、税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。