納税額を計算する際、仕入れ時に支払った消費税を差し引ける「仕入税額控除」。これを適用するには、請求書(インボイスを含む。以下同様)と帳簿を両方保存している必要があります。ただし、請求書が出ない自販機での買い物など、一部の取引では請求書が手元になくても控除できる場合があります。この記事では、請求書を保存していなくても控除対象となる取引について解説します。
目次
請求書が手元になくても仕入税額控除が可能なケースもある
仕入税額控除とは、納税額の計算時に、預かった消費税から「仕入れのために支払った消費税」を差し引けるものです。控除の適用には、基本的に請求書が必須です。ただし、取引によっては請求書なしでも例外的に控除できるパターンがあります。
関連記事:仕入税額控除ってなに?インボイスとの関係についても解説
仕入税額控除の基本ルールは「請求書と帳簿の両方が必要」
仕入税額控除は、請求書と帳簿の両方を保存していることが適用要件です。それぞれ約7年間保存する義務があります。なお請求書は、仕入明細書や契約書など、仕入れの詳細が分かるものを含みます。
また、請求書にも帳簿にも、法定事項が記されている必要があります。帳簿の法定事項は以下の通りです。
【帳簿に記載する事項】
- 仕入れた相手の名称
- 仕入れをした年月日
- 取引内容(軽減税率対象ならその旨)
- 税率ごとに区分した支払額
参考:No.6497|国税庁
参考:No.6621|国税庁
また、請求書などは、基本的にインボイスや簡易インボイスなどの記載事項を満たしている必要があります。記載事項の詳細は下記の記事をご確認ください。
関連記事:【税理士監修】インボイス制度を簡単に解説!基礎知識・ポイントをゼロから学ぼう
関連記事:適格簡易請求書(簡易インボイス)とは?レシートでもいいのかを詳しく解説
なおインボイス未登録者から請求書を貰う場合、「区分記載請求書」の記載事項があれば、一定割合の仕入税額控除ができます。ただし2029年9月末までの経過措置です。詳しくは下記の記事でご確認ください。
関連記事:【税理士監修】インボイス制度の経過措置をわかりやすく解説!要件や対象者についてポイントを押さえよう
請求書が手元になくても仕入税額控除の対象となる9つのケース
仕入税額控除には請求書が基本的に必要ですが、一部の取引は帳簿の保存だけで控除が認められます。ただし、帳簿には先ほど解説した法定事項の記載に加え、「下記9つのケースに該当すると分かる記載」が必要です。
ケース | 備考 |
①公共交通機関の運賃(30,000円未満) | 電車・バス・フェリーなどでの移動費 |
②入場券などが回収される取引(簡易インボイス付き) | 映画や美術館などの入場券など |
③古物商が、インボイス未登録者から仕入れた古物 | 販売目的の仕入に限る |
④質屋が、インボイス未登録者から仕入れた質物 | 販売目的の仕入に限る |
⑤不動産業者が、インボイス未登録者から仕入れた建物 | 販売目的の仕入に限る |
⑥インボイス登録していない人から仕入れた再生資源・再生部品 | 金属くずや再利用パーツなど 販売目的の仕入に限る |
⑦自動販売機や自動サービス機での購入(1回の取引が30,000円未満) | 自販機での飲み物・お菓子、コインロッカー、コピー機など |
⑧ポストに出した郵便の送料(切手支払い) | 切手だけで料金を支払い、請求書などが出てこないケース |
⑨スタッフへの旅費や通勤手当など | 社員に支払う出張費・宿泊費・日当・通勤手当など |
参考:No.6496|国税庁
また、30,000円以上の入場券を買う場合など、状況によっては帳簿に「支払い先の所在地」の記載をしなければならないことも。帳簿への追加記載が必要な状況について詳しくは下記ホームページの問110をご確認ください。
参考:帳簿の保存(適格請求書等保存方式における帳簿に記載が必要な事項)
小規模事業者が行う10,000円未満の仕入れなら請求書なしでもOK
10,000円未満(税込)の仕入れは、請求書が手元になくても帳簿だけで控除できる「少額特例」が適用されます。ただし売上が基準以下の小規模事業者に限られます。少額特例は、小規模事業者の事務負担を軽減するために設けられた制度だからです。
少額特例を使えるのは、次のどちらかを満たす小規模事業者です。
- 基準期間の課税売上高が1億円以下(基準期間:個人は前々年、法人は前々事業年度)
- 特定期間の課税売上高が5,000万円以下(特定期間:個人は前年1月〜6月、法人は前事業年度開始後の最初の6ヵ月間)
少額特例の適用期間は、2029年9月末までです。なお、インボイス未登録者からの仕入れも対象です。
参考:少額特例|国税庁
請求書が手元にないと控除できない場合に必要な対応
請求書が手元にないのに、前章で解説した「請求書が手元になくても仕入税額控除の対象となるケース」に当てはまらない際の対応を解説します。請求書もしくは控除の要件を満たす書類を集めるために、下記のいずれかの対応を検討してみましょう。
契約書や通帳など他の書類で控除の要件が満たせるか確認する
請求書が毎回発行されない場合、通帳や契約書などをそれぞれ保存すれば控除できる可能性があります。1枚の書類に必要な記載事項がすべて書かれていなくても、複数の書類で「請求書の記載事項」をクリアしていれば大丈夫だからです。
家賃や業務委託のように「毎月一定額を振り込む取引」だと、都度請求書を発行しないパターンもあります。この場合、契約書などに情報の一部があり、通帳などで支払いの事実が確認できれば、各書類をセットで保管すると控除できる可能性があります。
例えば、以下のように書類が分かれていても構いません。
書類名 | 記載事項 |
契約書 | インボイス番号・支払者・支払先・金額・税率・税額など |
通帳or振込明細 | 支払った金額・取引日など |
ポイントは、請求書に必要な情報(支払先の名称・登録番号・取引日・内容・金額・税率・税額など)が書類全体でそろっていることです。
参考:家賃を口座振替・口座振込により支払う場合の仕入税額控除の適用要件|国税庁
相手に請求書の発行を依頼する
他の書類で控除の要件が満たせないときは、取引先に請求書の発行を依頼しましょう。
定期的に取引がある相手なら「1ヵ月分まとめて請求書を出す」などのまとめ記載も認められています。まとめ記載により、相手の事務負担を減らせます。
「30,000円未満の支払いは帳簿だけでOK」の制度は廃止済み
かつてあった「30,000円未満の取引なら請求書なしでも仕入税額控除が可能」という制度は、現在使えません。2023年10月に廃止されました。現在は、金額にかかわらず請求書の保存が基本的に必要です。
「前はOKだったけど今はNG」という制度ですので、うっかり過去の感覚で処理しないよう注意しましょう。
控除でお困りの際は税理士にご相談ください
この記事では、請求書なしでも例外的に控除可能なパターンについて解説しました。
一定の取引では、帳簿の保存だけで控除が認められます。その際、帳簿には追加の記載をしなければなりません。
また、請求書が手元にない場合でも、複数の書類で法定事項を満たせれば、控除が認められます。
ただし判断を誤ると、税務調査で控除を否認されるリスクもあります。請求書が手元にない場合の控除に不安な場合は、ぜひ税務のプロである税理士にご相談ください。