在庫を評価する方式は複数ありますが、初心者におすすめなのが「最終仕入原価法」と「先入先出法」の2つです。どちらも他と比べて計算がシンプルだからです。前者は事務作業の手間がより少ないのが魅力で、後者は外部からの信頼性が高いのが魅力と言えます。今回は2つの評価方法の概要と計算例、さらに「どちらを選ぶべきか」の判断ポイントを解説します。
目次
最終仕入原価法と先入先出法の概要
ここでは、両者の特徴を見ていきましょう。
最終仕入原価法は「最後の仕入値」を使って評価する
最終仕入原価法では、最後の仕入値を基準に在庫を見積もります。直近の仕入値さえ把握していれば良いので、計算がシンプルで事務負担が少ないのが魅力です。
残っている商品の実際の仕入時期・価格を問わず、残っている同じ商品すべてに「直近の仕入値」を使って見積もります。
例えば、同じ年に同じ商品を100円で仕入れた日と200円で仕入れた日があるケースを見てみましょう。最後の仕入値が200円なら「在庫数×200円」、最後の仕入値が100円なら「在庫数×100円」となります。
関連記事:最終仕入原価法って何?棚卸資産の評価が簡単?デメリットも解説(監修中)
先入先出法は「古い仕入から順に売れたとみなして」評価する
先入先出法では、古い在庫から順に販売したとみなします。実態に近い形で在庫の動きを把握できるのが魅力です。
実際の仕入時期を問わず、「古いものはすでに払い出したとみなすから、残っているのは新しい仕入分だ」と判断されます。
具体的な計算例は、次の項目で解説します。
2つの評価方法を計算例で比較する
同じ仕入値・同じ数でも、評価方法が違うと評価額に差が出るケースがあります。評価方法によって「どの仕入価格を使うか」が異なるからです。
以下のように商品Aを買ったと仮定しましょう。
【例】
仕入月 | 商品Aの仕入値 | 仕入れた個数 |
1月 | 100円 | 15個 |
12月 | 200円 | 5個 |
12月末の期末時点で商品Aが10個残っていたと仮定します。
【最終仕入原価法】
直近の仕入値(200円)を使うため、評価額は下記の通りです。
10個×200円=2,000円
【先入先出法】
古い仕入分から販売したとみなすため、残っている商品Aの内訳は下記のように判断されます。
- 1月に仕入れた5個(×100円)
- 12月に仕入れた5個(×200円)
よって、評価額は下記の通りです。
5個×100円+5個×200円=1,500円
このように、評価方法によって評価額が変わり、結果として利益や納税額にも差が生じます。節税や実態との整合性を重視するか、手間の少なさを重視するかなど、自分の状況に適した方法を選びましょう。
他の方法や、在庫の額による税金の変化の詳細は下記の記事をご確認ください。
関連記事:期末在庫を増やすと税金が減る?計算方法や消費税の扱いも解説!
【一覧表】最終仕入原価法と先入先出法の強みの違いまとめ
両者を比べた場合に、より強みを活かせる方に○マークをつけました。
比較事項 | 最終仕入原価法 | 先入先出法 |
事務の手間 | ○ | |
インフレの際の節税効果 | ○ | |
デフレの際の節税効果 | ○ | |
在庫の実態との近さ | ○ | |
外部に見せる決算 | ○ |
以下、解説します。
事務の手間が省けるのは「最終仕入原価法」
事務負担を抑えたい場合は、「最終仕入原価法」がおすすめです。直近の仕入値さえ把握していれば良く、単価の変動を一つ一つ追跡する必要はありません。
また、評価方法を決めるための届出も不要です。届出を出さなければ「最終仕入原価法を適用している」と自動的に見なされるからです。
一方、先入先出法は、仕入値ごとの数量を把握する必要があり、管理の手間がかかります。また、先入先出法など「最終仕入原価法以外の方法」を選ぶには、税務署へ届出を提出する必要があります。
インフレの際は先入先出法・デフレの際は最終仕入原価法が節税に有利
物価の動向に応じて、節税に有利な評価方法が異なります。
前提として、在庫の価値が低い方が節税に有利になる仕組みがあります。評価額が高いと、売上原価が少なくなって利益が増え、結果的に税金も増えてしまうためです。
この仕組みを踏まえると、インフレの際は先入先出法が、デフレの際は最終仕入原価法が節税しやすくなります。
先ほど【2つの評価方法を計算例で比較する】の項目で、1月より12月の仕入価格の方が高いインフレの例を挙げました。その例では、商品A×10個の評価額は下記の通りでした。
- 最終仕入原価法:2,000円
- 先入先出法:1,500円
よって、インフレの際は先入先出法の方が評価額が低く、結果的に節税につながる可能性があります。
一方、デフレの例も見てみましょう。以下のように、1月より12月の仕入価格の方が低くなっている商品Aを買ったと仮定しましょう。
【例】
仕入月 | 商品Aの仕入単価 | 仕入れた個数 |
1月 | 200円 | 15個 |
12月 | 100円 | 5個 |
12月末の期末時点で商品Aが10個残っていたと仮定します。
【最終仕入原価法】
最後の仕入値(100円)で評価するので、評価額は下記の通りです。
10個×100円=1,000円
【先入先出法】
古い仕入分から販売したとみなすため、残っている商品Aの内訳は下記のように判断されます。
- 1月に仕入れた5個(×200円)
- 12月に仕入れた5個(×100円)
よって、評価額は下記の通りです。
5個×200円+5個×100円=1,500円
よって、デフレの際は最終仕入原価法の方が評価額が低く、結果的に節税につながる可能性があります。
このように、物価の動向によって、どの方法が節税につながるかは変わります。ただし、一度評価方法の手続きをすると3年間は原則変えられません。長期的に使う前提で、自分の業種などに合った方法を選びましょう。
参考:令第100条関係|国税庁
なお、ここでは「在庫評価額」だけに注目して節税効果を解説しましたが、実務では注意が必要です。他の要素によっては節税に繋がらないケースもあるためです。
例えば、先入先出法を採用した会社がインフレに合わせて販売価格を引き上げた場合を見てみましょう。この場合、古い安価な在庫を高く売ることになるため、利益が大きくなり税負担が増える可能性があります。
よって、物価上昇だけではなく販売価格の動向や利益率なども踏まえて、総合的に評価方法を選択する必要があります。決定する前に、税理士などの専門家と事前にシミュレーションをすると安心でしょう。
在庫の実態と近いため外部から信頼されやすくなるのは「先入先出法」
融資や投資を受けたい場合は、先入先出法が適しています。
先入先出法は、最終仕入原価法と比べて、在庫の実態と評価額の乖離が小さい傾向があります。最終仕入原価法は、古くなった在庫商品も最新の仕入価格で評価されるため、実際よりも資産が高く見える可能性があるためです。
また、先入先出法は「企業会計基準」でも認められている評価方法です。企業会計基準とは決算書などを作る際の共通基準で、これに沿って作られた決算書は外部からの信頼性が高まります。
上場企業は、企業会計基準に従うよう義務づけられています。非上場企業も、融資や投資を受ける際は、基準に準拠しているかチェックされます。
一方、最終仕入原価法は実態との乖離が生じやすいため、企業会計基準では認められていません。
金融機関や投資家など第三者に決算書を提示する機会がある場合は、先入先出法の方が信頼が得られやすいでしょう。逆に、税務署だけにしか決算書を見せない場合は、最終仕入原価法でも構いません。
最終仕入原価法と先入先出法どちらを選ぶ?判断のポイント
今までの解説をもとに、最終仕入原価法と先入先出法を選ぶ際のポイントを整理します。
とにかく手間を減らしたいなら最終仕入原価法
在庫管理に手間や時間が割けない場合は、最終仕入原価法が向いています。税務署へ申請しなくても自動適用されますし、在庫の単価を直近のもの1つだけ把握していれば良いからです。
たとえ毎月仕入価格が異なる商品を扱っていたとしても、最後の仕入価格だけで期末在庫を評価できるため、記帳作業が簡単です。在庫が多い・単価変動が激しい事業では、時短効果が大きいでしょう。
最終仕入原価法は、余計な事務作業を増やしたくないという小規模事業者や個人事業主におすすめです。
実態に近い評価や節税を重視するなら先入先出法
在庫の実態に近い評価をしたい、あるいは節税を重視したいなら、先入先出法が向いています。
先入先出法は「古い在庫から先に出ていく」とみなすため、期末在庫は比較的新しいものとして評価されます。これは実際の出庫順と一致する場合が多いため、実態に即した管理ができます。企業会計基準にも準拠しており、銀行や投資家への説明資料としても適切です。
また、インフレ時に節税効果が期待できる点もポイントです。資源価格の上昇や人件費の増加などにより、物価は基本的に上がる傾向にあります。将来的な物価上昇を見越して、節税のために先入先出法を選ぶのも一つの選択肢です。
ただし最終仕入原価法と比べると、管理・記帳の手間がかかります。選択時には税務署への届出も必要です。
以上の理由から、先入先出法は、会計・管理体制が整っている中〜大規模事業者におすすめです。
自分に合った評価方法を選びたい方はご相談ください
今回は、最終仕入原価法と先入先出法の概要や違いについて解説しました。
最終仕入原価法は「最後に仕入れた価格」で在庫のすべてを評価する方法です。計算はシンプルですが、外部からの信頼性が低いというデメリットもあります。
先入先出法は「古い仕入から順に売れたとみなして」評価する方法です。外部からの信頼性は高いですが、計算や管理に手間がかかります。
また、棚卸資産の評価方法は他にも複数の種類があります。それぞれの方法に一長一短があり、自社の状況に合った方法を選ぶ必要があります。
評価方法が合っていない場合、税金を多く支払ったり、外部からの信頼を失ったりするリスクがあります。また、煩雑な方法を無理に使うと計算ミスが発生し、税務調査などにつながるおそれもあります。
関連記事:税務調査とは?どこまで・何を調べる?流れや個人・法人の対応方法などについて詳しく解説
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