2019年に導入された軽減税率制度と、2023年のインボイス制度の施行により、消費税の申告実務は複雑さを増しています。特に飲食料品や新聞など、軽減税率の対象品を扱う事業者にとっては、税率の区分や請求書の記載内容などに細かな配慮が必要です。本記事では、軽減税率の対象品目や確定申告の手続き、インボイス制度に対応した記帳方法、注意点などをわかりやすく解説します。
目次
軽減税率とは?概要と対象品目を理解しよう
まずは軽減税率という制度の概要から導入背景、対象品目について解説します。
軽減税率制度の概要と導入背景
軽減税率制度とは、消費税率を一律で引き上げるのではなく、一部の生活必需品に対して低い税率を適用する制度です。2019年10月の消費税率10%への引き上げと同時に導入され、家計への影響を緩和することを目的としています。
対象となる品目一覧(飲食料品・新聞など)
軽減税率の対象品目について表にまとめました。
項目 | 内容 | 軽減税率対象 |
飲食料品 | 食品表示法に規定される「食品」(人の飲用または食用に供されるもの) ※医薬品・医薬部外品・再生医療等製品は除く ※添加物は含まれる | ○ |
酒類 | アルコール飲料全般(ビール、ワイン、日本酒など) | × |
外食 | 店内飲食、レストラン、カフェなど | × |
ケータリング | 出張料理、宴会サービスなど | × |
テイクアウト | 飲食料品の持ち帰り・宅配 | ○ |
新聞 | 政治・経済・社会・文化などの情報を掲載し、週2回以上発行される新聞で、定期購読契約があるもの | ○ |
広告・広報紙 | 不定期発行のチラシ、広告目的の広報紙 | × |
電子新聞 | オンラインで配信される新聞 | × |
一体資産 | おもちゃ付きお菓子など、食品と非食品が一体化したもの※税抜価格1万円以下かつ、食品部分の価額が2/3以上のもの | ○(条件を満たす場合) |
一体資産(条件外) | 上記以外の一体資産 ※価格が10,000円超または食品の価額が2/3未満 | × |
軽減税率の対象品目は判断が難しいケースも多いため、適用の可否に迷う場合は税理士に相談するのがおすすめです。
確定申告における軽減税率の影響とは?
確定申告における軽減税率の影響をご紹介します。
税率の判断が難しくなる
飲食料品を扱う事業者は、取り扱う商品の税率を正しく判断・区分することが求められます。もし栄養ドリンクコーナーに並んでいる商品であっても、その性質によって税率が異なります。
例えば清涼飲料水に分類される「機能性飲料」は軽減税率(8%)の対象です。しかしその一方で「医薬品」や「医薬部外品」として販売されている栄養ドリンクは標準税率(10%)が適用されます。
混在税率の処理が複雑化し日々の会計処理に影響する
軽減税率と標準税率が混在する場合、それぞれの税率ごとに売上や経費を分けて記帳する必要があります。
例えば飲食料品と日用品を同時に販売している店舗では、商品ごとの税率を正確に把握し、帳簿やレジ設定にも反映させなくてはいけません。誤った集計は申告内容の誤りにつながるため、日々の管理が重要です。
関連記事:【税理士監修】インボイス制度と消費税の基礎知識!計算方法や納付の仕組みについても解説!
軽減税率適用後の確定申告における注意点
続いて、軽減税率適用後の確定申告における注意点を解説します。
誤った税率適用による申告ミスが発生しやすい
申告ミスが多いのは、税率の区分を誤るケースです。例えば飲食料品と一緒に販売する雑貨品を軽減税率として処理してしまうと、過少申告につながります。
特にレジ設定や帳簿記録があいまいな場合、税率区分ミスが生じやすいため注意が必要です。経費・売上ともに税率を意識した処理を徹底しましょう。
帳簿・請求書の記載不備は税務調査の指摘対象になる
税務調査でよく指摘されるのは、帳簿・請求書の記載不備や、税率の区分誤りです。税務署は適切な税率で処理されているかを重点的に確認するため、記載ミスや保存漏れがあると修正申告が求められます。
インボイス制度下では、適格請求書の保存義務があるため、運用ルールを整えておくことが必要です。
正しい申告をするためのポイント
以下では、軽減税率対象の確定申告を正しく行うためのポイントを解説します。
会計ソフトの導入
会計ソフトには、軽減税率用の税区分を適切に登録する必要があります。多くのソフトでは税率別の勘定設定が可能ですが、導入後に設定変更を忘れるケースがあります。
設定ミスは集計ミスにつながり、結果として申告誤りの原因になります。導入時・更新時には、税区分を必ず確認しましょう。
税理士への相談
軽減税率に対応した正確な申告を行うには、税理士に相談するのが確実です。実務では税率の判定や帳簿の記載、インボイス対応など専門的な判断が求められる場面が多く、自己判断ではリスクを伴います。
税理士に依頼すれば申告ミスを未然に防げるだけでなく、調査リスクも軽減できます。複雑な税制変更への適切な対応も期待できるため、安心して申告を行うには専門家のサポートがおすすめです。
関連記事:【税理士監修】インボイス制度を簡単に解説!基礎知識・ポイントをゼロから学ぼう
軽減税率や確定申告に関するよくある質問
以下では軽減税率対象品目や確定申告に関するよくある質問をまとめました。
軽減税率はいつまで続く?
この制度は、特定の品目に対して税率を8%のまま据え置くもので、2025年6月現在でも継続中です。法律上は終了時期の明記はなく、現時点での終了予定も決まっていません。
軽減税率の個人事業主やフリーランスへの影響は?
インボイス制度は、基本的に課税事業者が対象となる制度です。個人商店やフリーランスなどの個人事業主にとっては、取引先からインボイスの発行を求められるケースがあるため注意が必要です。
インボイスには、消費税率や消費税額のほか、法律で定められた項目を正確に記載する必要があります。正しく記載されていないと、取引先が仕入税額控除を受けられず、結果として余計な消費税の負担が発生する可能性があります。
また、インボイスを発行できるのは、「適格請求書発行事業者」として登録した課税事業者に限られます。現在、免税事業者である場合でも、インボイスを発行したい場合には課税事業者に転換する必要があるので注意しましょう。
免税事業者が課税事業者を選択したら何が必要?
基準期間の課税売上高が5,000万円以下であれば、届出により簡易課税制度の適用が可能です。この制度では、みなし仕入率を用いて仕入税額を計算するため、インボイスがなくても消費税は影響しません。
課税事業者がインボイスを発行するには、税務署への登録申請、請求書への登録番号等の記載、控えの保存が必要です。また、課税事業者は帳簿書類を原則7年間保存する義務があります。
参考:免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A
軽減税率で使える補助金はある?
中小企業庁は軽減税率への対応を支援するため、「軽減税率対策補助金制度」を実施しました。本制度により、複数税率に対応するレジの導入やシステム改修などにかかる費用の一部が補助されます。
関連記事:【税理士監修】インボイスの領収書の書き方は?見本やテンプレート、登録番号なしの場合は?
まとめ
軽減税率制度に対応するには、税率ごとの正確な区分や記帳、適格請求書の保存といった基本的な対応を徹底する必要があります。制度への理解不足や手続きミスは、消費税の申告漏れや仕入税額控除の否認につながる可能性があるため注意が必要です。
特に確定申告においては、税率別の計算や申告書の記載に誤りがないよう慎重に対応しましょう。申告や制度対応に不安がある場合は、税理士など専門家のサポートを受けてみるのもひとつの手段です。