リース取引は法人税法上でリース資産の引渡時点で売買があったものとして処理され、減価償却や収益計上に影響します。さらに2024年度の税制改正では、リース譲渡に関する延払基準の廃止や新リース会計基準への対応が求められるようになりました。本記事では、リース譲渡を行った場合の延払基準や税制改正のポイント、改正後の対応について解説します。
目次
リース譲渡を行った場合の延払基準
リース取引で法人税や所得税の計算に延払基準を採用している場合、消費税でも同様の特例が適用できます。この例は、賦払金の支払期日まで資産の譲渡がなかったものとすることができる仕組みです。
例えばリース契約に基づく賦払金の一部について、まだ支払期日が到来していない分は、その課税期間では「譲渡等がなかった」として扱います。そして、支払期日が来たときに「資産の譲渡等があった」とみなされます。
この特例はすでに廃止されていますが平成30年4月1日以前のリース契約などには経過措置があります。法人の場合、令和5年3月31日以前に開始するまでの事業年度については、延払基準を適用することができます。
つまり旧基準でリースを行っていた事業者にはまだ猶予があるものの、新基準への対応と判断には注意が必要です。
参考:No.6161 延払基準、工事進行基準を用いているとき|国税庁
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新リース会計基準について
新リース会計基準とは、2024年9月に公表されたリース取引に関する新しい会計ルールです。2027年4月以降に開始される事業年度から適用されます。
日本では、1993年からリース会計基準が制度化されました。この基準が導入されて以降ファイナンス・リースは売買取引、オペレーティング・リースは賃貸借取引として処理されてきました。
しかし、国際基準との違いが生じたため、2007年に一度見直しが行われたのです。その後、国際会計基準(IFRS)では2016年に「IFRS16」が公表されました。そしてすべてのリース契約を原則オンバランスで処理する方式に変更されます。
この流れを受け、日本も再度国際基準との整合性を図る必要が生じ、新リース会計基準案を導入するに至ったのです。
税制改正のポイント:新リース会計基準への対応
2024年度の税制改正では、新リース会計基準への対応として、法人税・消費税・事業税の取扱いが見直されました。特に、貸手側の税務処理やリース取引における延払基準の廃止が大きな変更点です。以下、各税目ごとに整理して解説します。
オペレーティング・リースの損金処理は従来通り可能
オペレーティング・リース取引における損金算入方法は従来通り認められます。新会計基準ではオンバランス処理となりますが、法人税では「別段の定め」を設け、従来の賃貸借処理を継続可能としました。
リース譲渡の延払基準が廃止(貸手側)
リース譲渡に関する延払基準(分割計上方式)が法人税でも廃止されます。理由は、新リース会計基準でこの方式が認められなくなったためです。以下、従来の3つの会計処理方法のうち、リース料受取時の分割計上のみが廃止されることとなりました。
- 取引開始日に一括計上
- リース料受取時に分割計上
- 利息相当額のみ配分
なお、リース料受取時の分割計上に関しては廃止に伴い、経過措置も設けられています。
残価保証額も含めて1円まで償却可能
リース資産は残価保証額を含めて、1円まで償却できるようになります。新会計基準では残価保証があっても残存価額を0とする処理が求められるためです。ただし法人税上は、備忘価額として1円は残す必要があります。
リース譲渡に係る資産の譲渡時期の特例が廃止
賦払金の支払期日ベースでの課税ができる特例(延払基準)が廃止されます。この変更は、法人税の変更と整合を取るためです。
従来はリース譲渡時に課税、特例で分割課税が可能でしたが、今後は特例が廃止されて原則通り一括課税となります。こちらの詳細については後述します。
不動産リースの支払賃借料は従来通り
オペレーティング・リースによる不動産賃借料は、従来通り付加価値割の課税標準に含まれます。法人税上の損金算入額に基づき、課税標準とする取扱いが明確化されるようになりました。
オペレーティング・リースの支払利子の扱いの変更
オペレーティング・リースにおける支払利子は「純支払利子」ではなく「純支払賃借料」に分類されます。会計上は利子に見えても、法人税上では賃借料として扱うことが明確化されたためです。
関連記事:【2027年4月強制適用】新リース会計基準とは?変更点や必要な対応について解説 | 会社設立の基礎知識
リース譲渡における延払基準の廃止
前述で、リース取引に関してこれまで認められていた延払基準が廃止されると説明しました。この見直しは、国際的な会計基準との整合性を図るためです。今後は、リース資産を引き渡した時点で、収益と費用を一括計上する必要があります。
2025年4月1日より前に契約を締結した法人については、2027年3月31日までに開始する事業年度までは、これまでの延払基準に基づいて収益・費用の計算が可能です。
2025年4月1日以後に終了する事業年度以降は、従来の繰延リース利益を5年均等(大綱上、消費税は10年均等)で計上することになります。
今後は、リース資産の引渡時に収益・費用を一括で処理することが求められます。従来の延払基準は原則として廃止され、経過措置の対象となる取引も限られているため、適用要件の確認が重要です。
延払基準廃止後の経過措置
過去にリース譲渡を行った法人については、条件付きで延払基準を継続適用できる経過措置が設けられています。
この措置は急な制度変更による影響を緩和し、企業がスムーズに新ルールへ移行できるようにするためです。具体的には以下のようなケースで、特例的に従来の処理を続けられます。
区分 | 内容 | 適用条件・時期 | 備考 |
1. 引き続き延払基準の適用が認められるケース | 旧リース契約について延払基準で収益・費用の処理が可能 | 令和7年4月1日以前にリース譲渡をして、その後に始まる事業年度(経過措置事業年度)であること | 経過措置として継続適用が可能 |
2. 延払基準で処理しなかった場合の対応(①) | 未計上の収益・費用を当該事業年度に一括計上 | 令和9年3月31日以前に開始した経過措置事業年度で延払基準による経理をしなかった場合 | 一括計上はその決算に対応する事業年度 |
3. 延払基準で処理しなかった場合の対応(②) | 未計上分を令和9年4月1日以後に始まる最初の事業年度に一括計上 | 上記期間中に一部の収益・費用が未計上だった場合 | 未処理分を最初の該当年度に計上 |
4. 延払基準で経理した場合の再継続特例 | 引き続き延払基準を適用できる | 令和9年4月1日以後の事業年度の確定決算で「利息相当額のみ収益とする延払基準」により経理した場合 | 上記2の一括計上に該当しても、継続適用が可能 |
5. 5年均等処理の選択肢 | 未計上の収益が費用を上回る場合は5年均等で計上可能 | 上記2に基づき一括計上する場合 | 収益>費用のときに選択可能(繰延負担の平準化) |
特例の適用には時期や経理方法に関する細かい条件があります。旧リース取引がある法人は、自社の状況が経過措置に該当するかどうか、慎重な判断が必要です。
新リース会計基準で企業が直面する課題とその対応策
続いて、新リース会計基準で企業が直面する課題とその対応策について紹介します。
リース契約の全体把握
企業はリース契約を網羅的に把握する必要がありますが、契約の種類や件数が多いと管理が煩雑になります。
そのため、まずはリース・賃貸借・レンタルなど契約形態を問わず一覧化しておくのがおすすめです。このように、グループ全体で一元管理できる体制を整えておくとリース契約の全貌を把握しやすくなります。
リース期間とリース料の見積もり
契約期間やリース料が不確定な場合、正確な会計処理が困難になりがちです。正確な処理のために、過去実績や将来の事業計画に基づいて見積もりを行いましょう。また必要に応じて契約内容の再評価を行うのも有効です。
割引率の設定
リース負債の現在価値を算出するには、妥当な割引率の設定が必要です。借手の追加借入利率をベースに設定して、判断が難しい場合は税理士など専門家の意見を活用しましょう。
システム導入による業務効率化
手作業による契約管理や会計処理は非効率でミスのリスクも高いため、専用の会計システムを導入するのがおすすめです。システムで自動化を図ることで、業務の正確性と効率性を向上できます。
開示要件への対応
新リース会計基準への対応には、開示体制の整備をしておきましょう。例えば社内の業務プロセスの見直しや必要なデータを適時に取得・管理できる体制の構築が必要です。事前に体制を整えておけば、法令対応の確実性が高まり、移行時の混乱を最小限に抑えられるでしょう。
新リース会計基準へ確実に対応するためには?
新リース会計基準は従来とは異なる処理が求められるため、社内の会計処理や税務申告に大きな影響が出る可能性があります。特にリース資産のオンバランス化や延払基準の廃止など、専門的な判断が必要になる場面も多くあります。
正確な対応が求められる中、自社のみでの対応には限界があるのが実情です。スムーズに移行するためにも、制度に精通した税理士に相談することをおすすめします。
実務への影響を最小限に抑えながら新制度に適切に対応したい方は、ぜひご検討ください。
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まとめ
新リース会計基準の導入と税制改正により、リース取引の税務処理に大きな見直しが入りました。特に延払基準の廃止により、リース資産の引渡時点で収益・費用を一括計上する必要があります。そのため、会計処理や申告実務への影響は避けられません。
旧契約には一定の経過措置が認められますが、その適用には条件があるため注意が必要です。今後の適正な対応には、専門家の支援を受けながら制度変更を正しく理解し、スムーズに移行しなくてはいけません。