「法人事業税」と「特別法人事業税」という似た名前の税金ですが、実は制度の成り立ちも目的も異なる別の税目です。どちらも法人の所得に影響して計算される税金でありながら、分類や仕組み、会計処理で注意すべき点が多くあります。名前が似ていることで混同しやすく、誤った理解は申告ミスにも繋がりかねません。本記事では、両者の違いや関係性、申告・計算時の注意点まで、企業の経理担当者や税務担当者に向けてわかりやすく解説します。
目次
「特別法人事業税」と「法人事業税」の違い
特別法人事業税は、もともと法人事業税に含まれていた課税部分を国税として切り出したもので、2019年度の税制改正により導入されました。
つまり、両者はもともと一体の税でありながら、制度改正によって役割が分けられた関係にあります。現在も一体で申告・納付されるものの、法人事業税は地方税、特別法人事業税は国税として分類され、それぞれの使途や制度趣旨に違いがあります。
項目 | 法人事業税 | 特別法人事業税 |
創設年度 | 戦後(昭和から存在) | 2019年度の税制改正時 |
財源の使途 | 地方自治体の財源 | 地方間の格差是正(再分配) |
税の種類 | 地方税(都道府県税) | 国税(地方交付税の原資) |
課税対象 | 所得や資本金等 | 所得(所得割額を基準) |
税率 | 所得・資本金に応じて変動 | 法人の種類により異なる |
納付先 | 都道府県 | 都道府県(国に納付し再配分) |
両者は同じ「法人の所得」が影響して課税される点では共通していますが、法人事業税は各都道府県が財源とする地方税、特別法人事業税は国が一度集めて地方に配分する再分配型の国税です。
制度的な目的や税収の行き先が異なるため、会計処理や税務理解のうえで正しく区別することが重要です。
両者は一体で申告・納付される
法人事業税と特別法人事業税は、申告書や納付書が統合されており、まとめて計算・申告・納付を行う仕組みになっています。
具体的には、法人税の確定申告時に作成する「地方税申告書」において、両税目をあわせて記載し、都道府県に提出・納付します。
このように、実務上は一連の流れの中で処理されるため、「法人事業税=地方税」「特別法人事業税=国税」といった制度上の違いが意識されにくいのが実情です。
しかし、それぞれの税金には異なる制度趣旨と財源構造があるため、会計処理上も別々に費用計上することが求められます。
例えば損益計算書における分類や、税務調査時の説明根拠としても明確に区別されている必要があります。
見た目は一体、制度は別物である。そうした理解を持つことが、申告ミスや経理処理の混乱を防ぐために重要です。
特別法人事業税・法人事業税の計算・申告・納付時の5つの注意点
特別法人事業税と法人事業税は、同時に申告・納付する一方で、それぞれ異なる制度やルールに基づく税金です。特に法人の種類や事業形態によって適用内容が変わるため、正確な理解が不可欠です。
実務で特に注意すべき以下5つのポイントについて解説します。
- 課税対象や適用税率を法人の種類ごとに確認する
- 基準所得割額での計算に注意
- 中間申告の義務と方法を確認する
- 税務ソフトや申告書作成時の記載場所に注意
- 会計処理では別々に費用計上する必要がある
課税対象や適用税率を法人の種類ごとに確認する
法人の種類によって、課税対象や税率が異なるため、まず自社がどの法人区分に該当するかを把握することが大切です。
医療法人や社会福祉法人などの「特別法人」に該当する場合、収益事業に限定して課税されるなど、一般の株式会社とは取り扱いが異なる場合があるので注意しましょう。
法人区分を誤ると、税額の計算ミスや申告誤りに繋がるため、事前の確認が不可欠です。
基準所得割額での計算に注意
特別法人事業税は、法人事業税の「所得割」に標準税率を適用して得られる「基準法人所得割額」をもとに計算されます。そのため、法人事業税の金額から単純に税率をかけて算出するのではなく、まず基準額を正しく把握しましょう。
税率は法人の規模や所得により異なるため、標準税率との混同に注意が必要です。
中間申告の義務と方法を確認する
事業年度が6ヵ月を超える法人は、法人事業税および特別法人事業税の中間申告が必要な可能性があります。
この中間申告には「予定申告」と「仮決算申告」の2つの方法があり、選択によって申告内容や計算方法が変わります。
特に予定申告では前年度の税額をもとに算定するため、前期との状況差がある企業は注意しましょう。
関連記事:中間申告と予定申告はどう違う?申告方法についても解説
税務ソフトや申告書作成時の記載場所に注意
法人事業税と特別法人事業税は、同じ申告書上に記載されますが、入力欄や扱いは異なります。
税務ソフトによっては、両者を別々に入力する設計になっている場合があり、誤って一方にまとめて記載してしまうと、修正申告や問い合わせの対象になることもあります。
特に初めて処理を行う担当者は、事前に申告書の構成やソフトの仕様を把握しておきましょう。
会計処理では別々に費用計上する必要がある
申告・納付は一体で行うものの、法人事業税と特別法人事業税は税目として明確に区別されるため、会計処理においても分けて記帳する必要があります。
勘定科目や補助科目で税金ごとに記録しないと、後の税務調査や決算作業に支障をきたす恐れがあります。
特に税効果会計を適用している場合は、税目ごとの処理の違いが財務諸表にも影響するため、最初から区別して管理しましょう。
特別法人事業税・法人事業税に関してよくある質問
特別法人事業税と法人事業税は制度的に似ており、実務でもまとめて申告されるため、混同されやすい税目です。以下で企業担当者からよく寄せられる疑問を取り上げます。
両者は二重課税になりますか?
法人事業税と特別法人事業税は、制度上は二重課税ではありません。
たしかに両者は同じ法人所得を課税標準とするため、「同じ利益に二重で課税されているのでは?」と疑問を抱く方も多いですが、実際には別の役割を持つ独立した税目です。
法人事業税は地方税として都道府県の財源となり、特別法人事業税は国税として国が徴収し、その後地方へ再分配される仕組みです。課税対象が重なる点はありますが、財源や目的の違いから、法制度上は二重課税には該当しません。
個人事業主にも関係ありますか?
特別法人事業税および法人事業税は、法人格を持つ事業者のみに課されるため、個人事業主には関係ありません。
個人事業主に対しては、所得税と地方税としての「個人の事業税」が課されます。法人事業税・特別法人事業税とは税率構造も申告方法も異なり、制度として完全に独立しています。
見た目は似ていても、課税対象となる事業体の性質が異なるため、事業形態によって適用される税制は明確に区分されているので注意しましょう。
赤字でも課税されるケースはありますか?
赤字でも課税されるケースがあります。
法人事業税・特別法人事業税は、原則として所得に応じて課される税金ですが、資本金などを基にした「資本割」などは、たとえ所得が赤字であっても課税対象になる可能性があります。
特に資本が大きく、事業活動を継続している法人においては、黒字・赤字にかかわらず税負担が発生することもあるため、決算状況だけで安易に判断せず、制度内容に基づいた対応が求められます。
法人税関連の処理に不安がある企業様は専門家に相談
法人事業税や特別法人事業税は、制度の成り立ちや税率の違いに加え、地方ごとの取り扱い差もあるため、処理の誤りが思わぬリスクに繋がることもあります。まずは、税務の専門家に相談して正確な対応方針を確認することが安心でしょう。
小谷野税理士法人は、法人税・地方税の制度に精通し、多くの企業の申告・節税対策をサポートしてきた実績を持つ税理士法人です。
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