損益分岐点は、売上と経費がちょうど一致して利益がゼロとなる「分岐点」です。このラインを超えれば黒字、下回れば赤字となるため、企業経営における重要な指標といえます。しかし損益分岐点を正しく把握するには、費用の性質を理解しなくてはいけません。本記事では損益分岐点を計算する際に知っておきたい基本的な計算方法、グラフ作成の手順、経営改善への活用方法まで解説します。
目次
損益分岐点を計算する前に知っておきたい費用
損益分岐点を計算する際に用いられる費用は、大きく以下の2つに分けられます。
区分 | 内容 | 主な項目例 | 補足説明 |
固定費 | 売上に関係なく発生する一定の費用 | 家賃 保険料 固定資産税など | アルバイト給与などは企業によって変動費扱いも可能 |
変動費 | 売上に応じて増減する費用 | 商品仕入 | 売上が増えるほど費用も増える性質。損益分岐点分析に重要な要素 |
このように費用を項目ごとに分けて把握すれば、自社の費用構成をより深く分析できるようになります。
関連記事:固定費と変動費の違いは?分類の仕分けや指標、計算方法について
損益分岐点とは?概要と計算式をわかりやすく解説
損益分岐点とは、売上と経費が一致して利益がゼロになる売上高や販売数量のことです。小売業だけでなく、すべての業種で経営管理に活用でき、固定費を含めた全経費と売上のバランスを把握できます。
損益分岐点を上回れば黒字、下回れば赤字となり、経営状況の把握や改善に役立つ指標です。損益分岐点売上高は、次の式で求めます。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷(1 - 変動費率)
また「1-変動費率」は、限界利益率とも呼ばれます。
関連記事:【税理士監修】損益分岐点比率とは?計算方法や業種別の目安・改善方法について
損益分岐点の活用方法
以下では、損益分岐点の活用方法について解説します。
活用方法 | 内容 | 補足・ポイント |
費用の削減 | 固定費・変動費の内訳を把握し、見直しを行う | 固定費:賃料・保険料・人件費の見直し |
適切な目標設定 | 黒字化に必要な売上高を明確にする | 例:損益分岐点が500万円なら売上目標は600万円 |
販売価格の見直し | コストと販売価格のバランスを検討する | 価格が低すぎると利益が出ず、高すぎると売れにくくなるといった問題点を調整 |
収益性の高い商品の特定と戦略立案 | 利益率の高い商品を把握し、重点的に販売する | 限られたリソースを利益貢献度の高い商品に集中することで効率化 |
損益分岐点の分析をすることで、経営改善のための具体的な行動につなげられます。しかし計算や分析には、費用分類の判断や業種特有の事情を反映しなくてはいけません。自社の経営状況に即した適切な分析を行うには、税理士などの専門家に相談するのが確実です。
【エクセル】損益分岐点グラフの作り方
エクセルを使った損益分岐点グラフの作り方を、ステップごとにわかりやすく表形式でまとめました。
ステップ | 内容 | 操作・ポイント |
1. データ作成 | グラフ作成に必要な売上と費用の表を作成 |
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2. グラフ選択 | データをもとにグラフを挿入 |
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3. グラフ調整 | 表示内容を見やすく調整 |
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損益分岐点をエクセルでグラフ化すれば、売上と費用の関係を一目で把握でき、経営の意思決定に役立ちます。グラフ作成のポイントは「売上」「変動費」「固定費」のデータを整理し、積み上げ型の面グラフで視覚的に表示することです。
損益分岐点を分析する方法
損益分岐点を分析する方法には、CVP分析(Cost-Volume-Profit分析)と呼ばれる手法があります。CVP分析は、販売数量の変動がコストおよび利益にどのように影響するかを分析し、損益分岐点を明確にする手法です。
収益構造や経営上の課題を可視化できるため、経営計画の策定や戦略の立案などに幅広く活用されています。
CVP分析の基本手順
CVP分析の基本手順は以下の通りです。
- 変動費と固定費を把握する
- 損益分岐点売上高を計算する
- CVP図(損益分岐点グラフ)を作成する
- 現状を分析する
- 必要な改善策を検討する
CVP図の作成はエクセルなどで簡単に行えるため、ここでは主に「現状分析」の手法に注目して解説します。
現状分析の主な手法
手法名 | 内容 | 特徴・目的 |
費用構造分析 | CVP図を用いて固定費と変動費の割合を把握する | 業種ごとのコスト構造の違いを理解し、利益の出しやすさや経営リスクを評価する |
安全余裕額 | 実際の売上高と損益分岐点売上高の差額を算出 | 売上減少への耐性や赤字転落までの余裕を測る |
時系列分析 | 変動損益計算書を複数期間分用意し、収益構造の推移を分析する | コスト構造の変化や改善の効果を継続的に確認できる |
分析の前提となるデータの正確性や、業種に応じた指標の見極めには専門知識が求められます。自社に合った分析を行いたい場合や分析結果を経営戦略に活かしたい場合は、税理士へご相談ください。
関連記事:財務分析に必須の収益性分析とは?重要な指標と収益性を高めるポイント
損益分岐点比率と安全余裕率の関係性
損益分岐点比率は低いほど不況への耐性が強いとされ、安全余裕率は高いほど経営に余裕があることを示します。安全余裕率とは実際の売上高が損益分岐点売上高をどれだけ上回っているかを示す指標です。
安全余裕率が高いほど、売上減少時の赤字リスクが低く、経営は安定していると判断できます。理想は30%以上を目指すことですが、まずは自社や業界平均と比較し、適切な目標設定を行うことが大切です。
損益分岐点比率と安全余裕率は、合計すると常に100%になります。たとえば、損益分岐点比率が80%であれば、安全余裕率は20%という関係です。このため、次のような計算式が成り立ちます。
- 損益分岐点比率(%)= 100 - 安全余裕率(%)
- 安全余裕率(%)= 100 - 損益分岐点比率(%)
例えば実際の売上高が1,000万円で、損益分岐点売上高が800万円の場合を見てみましょう。
- 損益分岐点比率:800万円 ÷ 1,000万円 × 100 = 80%
- 安全余裕率:(1,000万円 - 800万円)÷ 1,000万円 × 100 = 20%
経営の安定性を判断するためには、業種や事業特性に応じた適切な目標値の設定や分析には専門的な知識が求められます。「自社の現状を客観的に分析したい」とお考えの方は、ぜひ一度、税理士にご相談ください。
損益分岐点を下げるにはどうすればいい?
損益分岐点を下げて黒字化を目指すための対処法について解説します。
固定費を削減する
家賃や光熱費などの固定費は売上に関係なく発生するため、ここを見直すことで経営が安定します。
ただし人件費の安易な削減は、スタッフのモチベーション低下やサービスの質の低下につながるため要注意です。業務効率化やテレワークの導入など、従業員に配慮した方法が望ましいでしょう。
変動費率を下げる
商品の仕入れコストや原材料費などを見直すと、損益分岐点を下げられます。ただし、品質を落とすと顧客離れのリスクがあるため、仕入れ方法の工夫などを検討しましょう。
商品単価を上げる
単価を引き上げると限界利益率が上がるため、結果として損益分岐点が下がります。例えば10,000円の商品を1万1,000円に値上げした場合、売上台数が少なくても黒字に転じやすくなります。ただし価格上昇は顧客離れの原因にもなり得るため、慎重な判断が必要です。
損益分岐点の計算は税理士への依頼がおすすめ
損益分岐点の計算は売上・原価・固定費・変動費といった要素を正確に把握する必要があり、経営に大きな影響を与える分析です。しかし、会計知識がない状態で正しく計算するのは意外と難しく、誤った数値をもとに経営判断をしてしまうリスクもあります。
こうした理由から損益分岐点の計算は、専門知識を持つ税理士に依頼するのがおすすめです。
税理士に依頼すれば、正確な計算に加え、自社の事業構造に応じたアドバイスも受けられるため、固定費の見直しや利益を出すための売上目標など、より具体的な経営改善につなげられるでしょう。
自社にマッチした税理士の選び方
以下では、自社にマッチした税理士の選び方のポイントを解説します。
相性や考え方が合うか
税理士とは日々の相談から決算、節税対策に至るまで、継続的にやり取りを行うことになります。そのため、人としての相性や、業務に対する考え方・価値観が合うかどうかは非常に大切なポイントです。
初回面談の際には、「こちらの話をきちんと聞いてくれるか」「専門用語をかみ砕いて説明してくれるか」など、コミュニケーションの取りやすさを確認しましょう。
費用が明確か
税理士報酬は、顧問料だけでなく、決算申告、年末調整、記帳代行などの業務ごとに追加料金が発生することがあります。また、会社の規模や相談内容によっても費用は変動します。
契約前に、どの業務が基本料金に含まれており、どこからがオプション扱いになるのかを明確にしておくことが重要です。
「顧問料は安かったが、打ち合わせがすべて別料金だった」「追加業務で想定外の請求が来た」といったトラブルを未然に防ぐためにも、費用とサービスの範囲を細かく確認しましょう。
対応が迅速か
税務や会計の問題は、タイミングを逃すと大きな損失やペナルティにつながることがあります。そのため、税理士の対応スピードは経営判断に直結する重要な要素です。
実際に契約する前に、メールや電話で簡単な問い合わせをしてみて、どれくらいで返信が来るか、内容が丁寧かどうかを確認してみるのも有効です。
税務署からの調査連絡や、急な資金繰りの相談が必要になった際に、すぐに対応してくれる税理士であれば安心して任せられます。
自社の業界に詳しいか
業界によっては、特有の商習慣や税務上の留意点があります。たとえば、建設業なら工事進行基準、医療業界なら特定の減価償却資産の扱いなど、業種特有のルールや節税ノウハウが存在します。
過去にどのような業種を担当してきたかを確認し、自社と同業種のサポート実績がある税理士であれば、業界に即した的確なアドバイスや実務サポートが受けられます。業界知識の有無が、節税や資金調達の成功にもつながるため、ぜひ重視したいポイントです。
関連記事:税理士の探し方がわからない経営者必見!いい税理士の探し方と見極めポイント!
まとめ
損益分岐点とは、売上と費用が一致して利益がゼロになる水準のことで、固定費と変動費に分けて費用を把握する必要があります。損益分岐点を上回ると黒字、下回ると赤字となり、経営判断の基準となります。
計算式やグラフ、CVP分析を活用することで、収益性の分析や目標設定、費用見直しなどに役立ちます。正確な分析には専門知識が求められるため、税理士のサポートを受けることが経営改善の近道となるでしょう。
損益分岐点の計算方法についてお悩みのことがあれば、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。