法人名義で不動産を購入することは節税対策として有効です。法人には税制の仕組み上、運用方法次第で税負担を軽減できる可能性があります。この記事では、法人が不動産を購入する際に知っておくべき基本知識と、節税につながる具体的な活用方法、メリット・デメリットについてわかりやすく解説します。ぜひ最後までお読みください。
目次
個人と法人の不動産購入の違い
法人名義で不動産を購入する場合、個人による所有とは税制や会計の仕組みが異なります。
個人が不動産を購入して家賃収入を得た場合、収益は不動産所得として所得税と住民税の対象となります。個人の所得税は累進課税のため、所得が増えるほど税率も上がり、最高税率は住民税を含めておよそ55%です。
一方で、法人が不動産を購入して得た所得には、法人税・法人住民税・法人事業税などが課税されます。法人税率は一定の範囲内で設定されており、税率はおおむね30%前後にとどまるでしょう。
そのため、高所得者の場合、個人での保有よりも法人で不動産を運用した方が税負担が軽くなるケースが少なくありません。
さらに、法人では不動産の赤字と他の事業の所得と相殺できるため、経営全体での節税効果も期待できます。個人の場合、不動産所得と事業所得の通算には制限があるため、この点でも法人の方が柔軟な対応が可能です。
このように、法人と個人とでは税金の仕組みが大きく異なります。法人にすることで、不動産投資の選択肢が増え、税金面でも有利に運用できる可能性があります。
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法人が不動産購入で活用できる節税対策
法人名義で不動産を購入・保有することで、さまざまな節税対策が可能です。ここでは、法人が活用できる節税方法を解説します。
減価償却費の活用
法人が建物付き不動産を取得した場合、建物部分については減価償却費として、一定期間にわたり取得費用を分割して費用計上ができます。これにより、年間の課税所得を軽減し、法人税の負担を軽減可能です。
減価償却の計算は、建物の構造や用途に応じた法定耐用年数に基づいて行われます。法人の場合、建物や建物附属設備などは定額法が用いられますが、設備や機械など一部の資産については定率法を選択することも可能です。
なお、中古物件の場合は建物の築年数をもとに残存耐用年数などを判断し、その年数に応じて減価償却を行います。
減価償却費は不動産の収益から差し引くため、帳簿上は赤字になっても実際には現金が手元に残り、キャッシュフローを改善できるメリットがあります。
経費計上
法人が不動産を所有・運用することで発生するさまざまな支出は、経費として計上することで課税所得を減らせます。
主な経費項目は以下の通りです。
- 管理費・修繕積立金
- 賃貸管理会社への手数料
- 修繕費
- 損害保険料(火災・地震保険など)
- 固定資産税・都市計画税
- 借入金利息
- 登記費用・不動産取得税
- 仲介手数料・司法書士報酬
- 交通費・通信費・出張旅費
- 役員報酬や従業員給与など
法人にすることで、個人では経費にしにくい費用も幅広く計上できるようになります。正しく経費処理を行うため、領収書をきちんと保管し、内容を明確に記録しておきましょう。
繰越控除の利用
法人が不動産運用で赤字を出した場合、その損失は繰越欠損金として最大10年間繰り越せます。これにより、将来不動産収入などで所得が出たとき、その所得と過去の損失を相殺し、法人税の負担を減らせます。
個人の場合、赤字の繰越期間は最大3年で、損益通算の対象にも制限がありますが、法人なら、こうした損失も無駄なく活かせるのも大きなメリットです。
購入初年度や大規模修繕などで一時的に赤字となった場合でも、長期的な視点で節税につなげることが可能です。
役員報酬の活用
法人が不動産運用で得た利益を役員報酬として支給することで経費として処理でき、法人税の課税所得を減らせます。
さらに、家族など複数の役員に分散して支給すれば、個人の所得税も累進課税の影響を抑えられ、全体として税負担を軽減可能です。
ただし、役員報酬の金額はあらかじめ決めておく必要があり、不自然に高額な報酬は経費として認められないことがあります。報酬額は業績や同業種とのバランスを考慮し、適正な額を設定しましょう。
社宅制度の導入
法人が不動産を社宅として役員や従業員に貸し出すことで、節税と福利厚生の両立が図れます。
社宅に関する費用(家賃、修繕費、保険料など)は経費として計上できる一方で、入居者である役員や従業員は住居費を軽減できるメリットがあります。
社宅制度を活用する際の主な条件は以下の通りです。
- 賃貸契約は法人名義で行う
- 賃料は適正な金額(原則として時価の50%以上)を徴収する
- 入居者との契約内容を明確にする
なお、福利厚生の一環として社宅制度を導入することで、従業員の定着率の向上や採用時のアピールポイントとして活用できます。
法人が不動産を購入するメリット
法人名義で不動産を購入すると、税金面での利点に加えて、経営や相続といった面でもさまざまなメリットがあります。ここでは、法人による不動産購入の主なメリットを見ていきましょう。
法人税率による負担軽減を見込める
法人が不動産を保有し、賃貸収入などの所得を得た場合、その所得には法人税が課税されます。個人の所得税は累進課税で、所得が増えるにつれて税率が高くなる仕組みですが、法人税は基本的に一定の税率で課税されるため、所得が大きくなるほど節税効果が見込めます。
例えば、中小法人の場合、年800万円以下の所得に対する法人税率は15%、それを超える部分でも23.2%です。
これに法人住民税や法人事業税を加えた実効税率でも、個人の最高税率(最大約55%)より低くなるケースが多く、所得が多いほど法人化のメリットも大きくなります。
経費として計上できる費用の幅が広い
法人では、個人に比べて経費として認められる費用の範囲が広いため、不動産収益にかかる税金を効率よく減らせます。
例えば、建物の維持管理費や修繕費、借入金の利息、保険料、固定資産税などの不動産関連の費用だけでなく、法人の運営に伴う役員報酬や従業員給与、旅費交通費、福利厚生費、法人契約の生命保険料なども、条件を満たせば経費として計上可能です。
所得分散による節税対策を狙える
法人化することで、役員報酬として所得を複数の人に分散させることが可能です。例えば、家族を役員に登用し、適正な範囲で報酬を支払い、所得税の累進課税による負担を分散できます。
つまり、1人に集中していた所得を分けることで、個人の課税所得が低く抑えられ、結果的に世帯全体の税負担も軽減できます。特に、専業主婦(夫)や所得の少ない家族を役員とすることで、節税効果がより大きくなるでしょう。
相続税対策にもつながる
法人名義で不動産を所有しておくことは、将来的な相続税対策にも有効です。個人が不動産を所有している場合、その物件は相続財産として評価され、高額な相続税が課されることがあります。
一方で、法人が不動産を所有している場合、相続の対象となるのは不動産ではなく、その法人の株式です。
法人株式の評価は、不動産そのものとは異なる基準で行われるため、事前に税務面を考慮することで資産の評価額を抑え、相続税の負担を軽くできる可能性があります。
また、生前に株式を少しずつ家族に譲渡しておけば、事業承継や資産移転がしやすくなる点も、法人で不動産を所有する大きなメリットです。
ただし、相続対策は人それぞれ状況が異なるため、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
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法人が不動産を購入するデメリット
法人名義による不動産購入は多くのメリットがありますが、一方で注意すべきデメリットも存在します。事前にリスクやデメリットを理解し、総合的に判断しましょう。
購入時および所有時に税金・費用がかかる
法人が不動産を購入する際には、個人と同様に不動産取得税や登録免許税といった初期費用が必要です。購入後も固定資産税や都市計画税などが毎年発生するため、保有している間も継続的なコスト負担が生じます。
さらに、法人で設立・維持するためには、法人住民税(均等割)など、赤字であっても発生する税金があります。
会計処理や税務申告も複雑になるため、税理士に依頼する必要も出てくるでしょう。税理士への報酬なども含め、トータルのコストを見積もっておくことをおすすめします。
管理・維持の手間・費用がかかる
法人が不動産を所有・運用する際は、入居者対応、家賃回収、物件の修繕・点検など、日常的な管理業務が発生します。これらを管理会社に委託することもできますが、その場合は管理費用が必要です。
また、修繕やトラブル対応もする必要があり、費用と労力がかかる場面も少なくありません。よって、法人として不動産管理を行うには、それなりの体制や運用ノウハウも必要になります。
売却時の税金負担が重くなる場合がある
法人が所有する不動産を売却して利益が出た場合、その利益は法人全体の所得と合算され、法人税が課されます。個人の譲渡所得とは異なり、所有期間による税率の軽減措置はありません。
例えば、個人であれば5年超保有の不動産売却には長期譲渡所得として軽減税率(20.315%)が適用されますが、法人にはこうした優遇措置がなく、利益に応じて法人全体の税負担が増える可能性があります。
さらに、事業用不動産として課税売上に該当する場合、消費税が課されることもあるため、売却のタイミングや内容によっては高額な納税が発生するかもしれません。
住宅ローンの利用が制限される
法人が不動産を購入する場合、個人向けの住宅ローンは利用できません。そのため、事業用の融資や不動産投資ローンを活用しますが、これらは一般的に金利が高く、審査基準も厳しめです。
また、法人の信用力や決算内容が融資の可否に大きく影響するため、資金調達の面では個人よりも制約が多くなる傾向があります。
低金利で長期返済が可能な住宅ローンのような条件は期待できないため、借入れの条件や返済計画を慎重に見極めましょう。
関連記事:【税理士監修】法人の節税対策ガイド:法人設立から不動産活用まで徹底解説
まとめ
法人名義で不動産を購入・運用することは多くの節税メリットがあります。例えば、個人の所得税は累進課税ですが、法人であれば一定の法人税率が適用されるため、所得が大きくなるほど税負担を抑えやすくなります。
また、法人では不動産にかかるさまざまな費用を経費として幅広く計上することも可能です。
さらに、役員報酬による所得分散、赤字を将来に繰り越せる繰越欠損金制度の活用、社宅制度の導入による福利厚生と節税の両立など、節税の選択肢が広がります。
法人所有にすることで、相続時に株式評価での資産移転が可能となり、相続税対策にもつながる点もメリットと言えるでしょう。
一方で、法人を設立・維持するには一定のコストがかかり、不動産売却時の税負担が個人より重くなるケースや、住宅ローンが使えず金利の高い事業ローンを選択せざるを得ないなどのデメリットもあります。
法人による不動産購入は、事業規模や収益見通し、将来的な経営プランを踏まえた上で慎重に判断することが大切です。不動産購入にあたっては、税理士や不動産の専門家と相談し、自社の状況に合った運用方法を検討しましょう。