電子帳簿保存法に対応するためには、タイムスタンプの正しい理解が欠かせません。どのような役割を果たし、どのような場面で必要となるのかを押さえておくことが重要です。本記事では、電子帳簿保存法におけるタイムスタンプの基本的な位置づけや、実務上意識すべきポイントについて、具体例を交えながらわかりやすく解説していきます。
目次
電子帳簿保存法におけるタイムスタンプとは
タイムスタンプとは、電子データが「いつ作成され、その後改ざんされていないこと」を証明するための技術です。
電子帳簿保存法では、紙の書類を電子データで保存する場合、データの真実性(作成時点の内容が正しく保持され、その後改ざんされていないこと)の担保が求められており、そこで有効な手段となるのがタイムスタンプです。
タイムスタンプを付与することで、保存されたデータが作成当時から改ざんされていないことを第三者に証明できるようになり、税務調査や監査の場面でも正式な証拠資料として認められるでしょう。
なお、電子帳簿保存法には以下3つの保存区分が設けられており、それぞれ義務か任意かが異なります。タイムスタンプの必要性や取り扱い方も区分ごとに違うため、内容を正しく理解し適切に対応しましょう。
区分 | 内容 | 対応義務 |
電子取引保存 | 電子メールやWebシステムを通じた取引データを電子保存する方法 | 義務 |
電子帳簿等保存 | 国税関係帳簿書類(仕訳帳、総勘定元帳など)を電子データで保存する方法 | 任意 |
スキャナ保存 | 紙の書類(領収書、請求書など)をスキャンして電子保存する方法 |
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電子帳簿保存法におけるタイムスタンプの要件
電子帳簿保存法では、電子データの信頼性を確保するために、タイムスタンプの付与に関して厳格な要件が定められています。
項目 | 要件 |
対象データの範囲 | スキャナ保存と電子取引。電子帳簿保存法に対応したシステムを利用する場合、原則タイムスタンプは不要。 |
付与までの期限 | データ作成後、概ね7営業日以内(最長2ヵ月)に認定タイムスタンプを付与する。付与漏れや遅延があると保存要件違反となるリスクがある。 |
使用するタイムスタンプ | 総務大臣から認定された事業者が発行するものに限る。未認定のサービス利用は要件不適合。 |
タイムスタンプ付与後の管理 | 付与後の電子データについて、改ざん検知機能と保存当時の真正性を証明できる仕組みを備えることが求められる。 |
電子帳簿保存法においては、訂正・削除履歴が残らない場合など、帳簿類や取引関係書類などの対象データに対し、作成後概ね7営業日以内(保存から最長2ヵ月)に、厳格な基準を満たしたタイムスタンプを付与することが義務づけられています。
特に、付与期限の遵守や、認定タイムスタンプ事業者のサービスを利用することは、データの真正性を客観的に証明するうえで不可欠なため留意しておきましょう。
また、タイムスタンプを付与した後も、改ざんを検知できる仕組みを備え、保存データの信頼性を維持し続けることが求められます。
これらの要件を満たしていない場合、電子保存が認められず、税務調査時に否認されるリスクが生じるため、制度に沿った厳密な運用が必要です。
タイムスタンプが不要なケース
電子帳簿保存法では、必ずしもすべての電子保存にタイムスタンプが必要なわけではありません。以下のようなケースでは不要となります。
国税関係帳簿書類の電子保存(電子帳簿等保存)を行う場合
国税関係帳簿書類(仕訳帳や総勘定元帳など)を電子データで保存する「電子帳簿等保存」では、タイムスタンプの付与要件は設けられていません。
帳簿を電子保存する場合には、訂正や削除ができないシステムや、社内でお互いにチェックできる体制を整えることによって、データの正しさが保たれていると考えられているためです。
ただし、訂正・削除の制限や履歴の保持、社内体制の整備など、他の保存要件は満たさないといけません。タイムスタンプが不要とはいえ、システムや運用面での適切な管理が求められる点には注意しましょう。
受領したデータに既にタイムスタンプが付与されている場合
取引先などから受領した電子データに、適切なタイムスタンプがすでに付与されている場合は、自社で再度タイムスタンプを付け直す必要はありません。
これは、タイムスタンプの目的が「作成時点から改ざんがないことの証明」であるため、発行元で適正に付与されていれば、そのまま保存することで要件を満たせるとされているためです。
ただし、受領時点でそのタイムスタンプが有効かつ要件を満たしていることを確認し、確実に保存・管理する必要があります。証明性を維持するためにも、データの改変や不適切な取扱いを避ける運用体制を構築しましょう。
訂正・削除履歴機能がある場合
訂正・削除の履歴を自動で記録できるシステムを導入している場合、タイムスタンプを付与しなくても保存要件を満たせることがあるでしょう。
具体的には、誰が・いつ・どのような内容を変更したかの履歴が自動記録され、後から確認できる仕組みが整っていれば、データの真正性を担保できると判断されるためです。
ただし、履歴の改ざんができない構造になっているか、履歴が正確かつ継続して記録されているかなど、システムの仕様や運用実態が要件を満たしているかどうか、あらかじめ確認しておく必要があります。
訂正・削除ができない仕組みを採用している場合
ブロックチェーンなど、技術的に訂正・削除ができない保存方式を採用している場合には、タイムスタンプの付与が不要と判断されることがあります。
これは、技術的に改ざんが不可能な仕組みにより、データの真正性が担保されていると評価されるためです。
ただし、どのような技術でも自動的に要件を満たすとは限らず、システムの仕様や保存方法が税務当局の要件に適合しているかを十分に確認することが重要です。
また、ブロックチェーンなど新しい技術を使う場合には、その仕組みが実際に運用で機能しているか、文書で説明できる状態にしておくことが望ましいでしょう。
電子帳簿保存法対応に向けたタイムスタンプ導入の実務対応
電子帳簿保存法に対応するためには、単にタイムスタンプを導入するだけでなく、実務運用に落とし込むための体制整備が欠かせません。タイムスタンプを円滑に運用するために押さえておくべき実務対応を紹介します。
付与のタイミングを明確化する
タイムスタンプの付与は「作成後、一定期間内に付与」という要件がありますが、現場任せにしていると対応漏れが起きやすくなるでしょう。
そのため、データの作成から保存までの業務フローの中に「どのタイミングで誰が付与するか」を明確に位置づけ、社内で統一されたルールとして運用することが重要です。
具体的な手順をマニュアル化し、担当者への周知を徹底することで、法令違反リスクの軽減に繋がるでしょう。
認定タイムスタンプ事業者を選定する
電子帳簿保存法に対応するには、総務大臣に認定されたタイムスタンプ事業者のサービスを利用しなければなりません。
認定事業者でなければ、例えタイムスタンプを付与していても法的に認められない可能性があるので注意しましょう。
事前に国税庁の公表情報やベンダーの実績を確認し、自社の保存対象や業務量に合ったサービスを選定してください。
社内のルールを整備する
タイムスタンプの適正運用には、明確な社内ルールが不可欠です。誰が、いつ、どのデータにタイムスタンプを付与するのかを明文化し、マニュアルや業務手順書として整備する必要があります。
これにより、付与漏れや誤操作といったヒューマンエラーを防ぐことができるでしょう。また、万が一のトラブル時に備え、運用記録の保存や復旧方法もあらかじめ決めておくと、リスク管理面でも安心です。
定期的に運用状況を確認する
タイムスタンプを導入しただけでは、適切な保存が継続できているとは限りません。運用後も、付与のタイミングや記録状況に問題がないか、定期的にチェックする体制を整えましょう。
例えば、月1回の監査やログの確認を行うことで、法令違反リスクの早期発見に繋がります。タイムスタンプを付与すること以上に、付与の継続、正しく残すことを意識した運用が求められます。
システムとの連携を考慮する
大量の帳簿や書類を扱う企業では、手動でのタイムスタンプ付与は現実的ではありません。基幹システムや会計システムと連携し、自動で付与できる仕組みを構築することで、業務効率の向上とヒューマンエラーの防止が期待できるでしょう。
ベンダー選定時にAPI対応や既存ソフトとの互換性を確認し、自社の運用に適した自動化の体制を整えることが、長期的な安定運用に繋がります。
電子帳簿保存法のタイムスタンプ対応でよくある質問
電子帳簿保存法におけるタイムスタンプの取り扱いに関して、多く寄せられる質問とその対応方法について以下で解説します。
タイムスタンプ付与後にデータを訂正したい場合は?
タイムスタンプ付与後のデータは原則訂正できません。訂正が必要な場合は、新たに訂正内容を反映したデータを作成し、再度タイムスタンプを付与して保存する必要があります。元データとの関係も明確に記録しておきましょう。
タイムスタンプの有効期限はある?
タイムスタンプには有効期限がある場合があります。長期保存が必要な場合は、期限切れ前に再度付与(リタイムスタンプ)するか、長期有効タイプを選びましょう。有効期限の管理も適正保存の一環です。
無料のタイムスタンプサービスは使える?
無料サービスの中には電子帳簿保存法に対応していないものもあるため注意しましょう。国の認定を受けた事業者のサービスであるかどうか必ず確認し、信頼性の高いものを選ぶことが重要です。
電子帳簿保存法のタイムスタンプでお悩みの方は専門家に相談を
タイムスタンプ対応は単に「付与すればよい」というものではなく、運用ルールの整備や保存要件の遵守が不可欠です。電子帳簿保存法への適切な対応に不安がある場合は、税理士などの専門家に早めに相談すると良いでしょう。
電子帳簿保存法への実務対応に精通した小谷野税理士法人では、タイムスタンプの運用設計から保存体制の整備まで、幅広いサポートを提供しています。自社に合った最適な対応を進めたい方は、ぜひ一度、小谷野税理士法人へご相談ください。