無償で資産やサービスを提供した場合「お金を受け取っていないから税金もかからない」と考える方は少なくありません。しかし、法人税法上では、たとえ無償であっても“時価”をもとに課税対象となるケースが存在します。本記事では、無償取引にまつわる法人税の課税関係について詳しく解説します。有価証券や建物の無償譲渡、役務の無償提供、さらに現物出資や相続に関する論点まで、具体的なケースを交えながら解説します。
目次
無償取引でも法人税がかかる?
会社が商品や資産を無償で提供した場合、通常はお金が入ってこないため、「もうけ(利益)」は発生しません。しかし法人税の計算では、たとえ無償で取引を行っていても、実際に利益が出たかのように扱われ、法人税が課されることがあります。
例えば、会社が保有している有価証券を第三者に無償で譲渡したケースでは、実際には何も対価を受け取っていません。しかし法人税の計算では、その有価証券を「時価」で売ったものとみなして、所得(もうけ)が出たとされるのです。
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役務の提供とは?
「役務の提供」とは物ではなく、サービスや労働などの形で提供される経済的な利益を指します。資産のような有形のものを無償で提供するのではなく、サービスや機能の提供を無償で行うことが該当します。
具体例として、以下のようなケースが「無償の役務の提供」に当たります。
- 設計業務を無償で行う(設計事務所が無料で業務を提供)
- 無償で建物を貸す(親族に事務所を無償貸与)
- 無利息でお金を貸す(親族企業に利息ゼロで貸付)
役務の提供に該当しうる内容の一例についてもご紹介します。
- 受取手数料が本来発生するような業務を無料で行った
- 人的サービス(労務、専門知識の提供など)を無償で行った
結論として役務の提供とは「サービス」や「労務」など、有形資産以外の経済的利益を提供することを意味します。法人間で無償でこれを行った場合には、税務上の益金認識が問題となるケースがあることを覚えておきましょう。
対価を受け取らなくても税金がかかるケース
建物や土地を会社に無償で譲渡・貸与する場合、たとえ対価を受け取らなくても、課税対象になることがあります。
この理由は無償であっても経済的利益が発生しているとみなされることがあるためです。税務上は「時価」で取引されたものと扱われるケースがあり、適切な対応をしないと後から税負担が発生する可能性があります。
以下では、対価を受け取らなくとも税金がかかるケースについて解説します。
無償譲渡の場合(会社に建物や土地をタダであげたとき)
建物や土地を個人が会社に無償で譲渡すると、その資産は時価で譲渡されたものとされます。また会社側では時価相当額が受増益として法人税の益金に算入されます。
個人側になると、譲渡所得として所得税の対象です。受け取った会社に他の株主がいる場合、株式の価値が上がることで間接的な贈与とみなされ、贈与税が課されることもあります。
なお個人が亡くなった際に、会社に譲渡した土地や建物は個人資産ではないため相続税の対象になりません。しかし、会社の株式は課税対象となることを覚えておきましょう。
無償貸与の場合(社長が会社にタダで貸すとき)
社長が所有権を持ったまま会社に無償で貸す場合は、法人税や所得税は発生しません。この場合は、借地権の認定課税がないことを前提とします。
しかし、土地や建物が社長個人の資産である以上、相続税の課税対象になります。無償貸与では評価額が下がらず、賃貸減額や小規模宅地等の特例も使えないため、相続税が高くなる可能性があります。
現物出資の場合(資産を出して株式をもらうとき)
現物出資では、資産の時価相当額で会社の株式を取得する形になるため、「無償」ではありませんが金銭の受け渡しはありません。この場合は法人税は発生せず、株式の取得に伴い決算時に減価償却費が損金に算入されます。
社長側では、譲渡所得が所得税の課税対象となり、相続税については株式が課税対象です。現物出資は有償取引にあたるため、消費税が課税される場合もあります。ただし無償譲渡・貸与の場合は不課税です。
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無償の役務提供を行った場合の会計処理
続いて、無償の役務提供を行った場合の会計処理について解説します。
譲渡人側(役務を無償で提供した法人)
法人間で無償の役務提供を行った場合、提供した法人(譲渡人)は以下のような会計処理を行います。
借方 | 貸方 | ||
売掛金 | 50,000 | 売上 | 50,000 |
寄付金 | 50,000 | 売掛金 | 50,000 |
なお「寄付金」は全額が損金として認められるわけではなく、損金算入には限度があります。そのため、提供側にとっては課税上不利になる可能性があるので注意しましょう。
譲受人側(役務を無償で受けた法人)
一方、役務の提供を受けた法人(譲受人)は、以下のような会計処理を行います。
借方 | 貸方 | ||
支払手数料 | 50,000 | 未払金 | 50,000 |
未払金 | 50,000 | 債務免除益 | 50,000 |
支払手数料(損金)と債務免除益(益金)が同額で計上されるため、課税所得には影響がありません。したがって、実務上はわざわざ計上するメリットが乏しいのが実情です。
無償取引による法人税の計算を税理士に任せるメリット
長年の慣習として行っている無償貸与であっても、みなし贈与やみなし給与として課税対象となるリスクがあります。事態が表面化する前に、まずは専門家に相談することをおすすめします。
無償貸与が課税対象となるかどうかは、貸与の状況や対象によって判断が分かれるため、一律の対応はできません。
仮に有償化によって是正を図る場合でも、適正な価格設定や、貸与先との交渉が必要です。相手方の理解が得られなければ、話し合いが長引く可能性もあります。
税理士などの専門家に事前相談すれば、リスクの有無を客観的に把握でき、最も適切な対処方法を選ぶことが可能になります。
以下では、税理士に依頼するメリットをご紹介します。
時間を大幅に節約できる
税理士に依頼すれば、面倒な帳簿の整理や申告書作成を任せられるため、税務署に何度も通う必要がなく、二度手間も回避できます。
記帳は税理士の独占業務ではありませんが、記帳から申告まで一括で任せられるため作業の効率も大幅にアップします。より信頼性の高い申告をしたい方におすすめです。
正確で安心な申告ができる
税法に精通した税理士が対応することで、法令に基づいた正確な申告書を提出できます。例えば、時限立法の適用時期や証憑類の添付など、細かな判断も税理士が対応してくれるため安心です。
さらに、確定申告書に税理士の署名があれば、税務署からの問い合わせにはまず税理士が対応してくれます。
節税の可能性が広がる
税務処理には複数の選択肢がある場合があります。税理士に相談すれば、どの方法がより有利かをシミュレーションして提案してくれます。特に、投資減税や優遇税制など節税効果の大きい制度を見逃さず活用できる点は、大きなメリットです。
経営や将来の不安も相談できる
税理士は税務だけでなく、事業に関する幅広い相談に対応してくれます。例えば、今後の消費税申告や資金繰り、事業承継などについてもアドバイスを受けられます。
税理士にも専門分野がありますが、対応が難しい場合は他の専門家を紹介してもらえるため、継続的なサポートが期待できるでしょう。
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まとめ
無償であっても法人税の課税対象となるケースは少なくありません。利益がないように見えても税務上は「時価」での取引とみなされ、益金計上や贈与税・相続税などが発生することがあります。
こうした税務処理はケースごとに判断が分かれやすく、誤解や過少申告のリスクを伴います。特に、慣習的に行われている無償取引には注意が必要です。適切な対策と申告を行うためにも、早めに税理士などの専門家に相談し、リスクの把握と適切な対応を進めましょう。