2025年度の税制改正により、DX投資促進税制が廃止となりました。DX化を進める上で活用できる制度が1つ減ったことで、DX化に際して事業者にかかる負担が重くなる懸念があるのは事実です。しかし、DX投資促進税制以外にもDXを進める上で活用できる制度は複数存在します。
今回はDX投資促進税制が廃止された背景や、DX化を進める上で活用できる制度の例を紹介します。
目次
2025年3月31日をもってDX投資促進税制が廃止
2025年度の税制改正により、2025年3月31日をもってDX投資促進税制が廃止されました。
DX投資促進税制は一定の要件を満たすデジタル関連投資を行なった場合に、特別償却または税額控除の適用を受けられる制度です。デジタル要件と企業変革要件の両方を満たす必要がありました。
前述のように、DX投資促進税制はすでに廃止済みです。経済産業省の資料では「DX投資促進税制は先進的なDX事例の普及に一定の役割を果たした」ために廃止されたと説明されています。
参考:令和7年度(2025年度)経済産業関係 税制改正について|経済産業省
DX投資促進税制以外で活用できる制度の例
残念なことに、DX投資促進税制は廃止されてしまいましたが、そのほかにもDX化に際して活用できる制度は複数存在します。以下では2025年5月現在でも申請できる制度の具体例を紹介します。
IT導入補助金
IT導入補助金とは、中小企業等の業務効率化やDX化に向けたITツール導入を支援する補助金です。以下のように全部で5つの枠があります。
枠・類型 | 補助対象 |
通常枠 | 事業のデジタル化を目的としたITツール |
インボイス枠(インボイス対応類型) | インボイス制度に対応した決済ソフト、PC、ハードウェア等 |
インボイス枠(電子取引類型) | インボイス制度に対応した受発注機能をもつソフトウェア |
セキュリティ対策推進枠 | サイバーセキュリティ対策の強化を目的としたITツール |
複数社連携IT導入枠 | サプライチェーンや商業集積地に属する複数の事業者の連携による、生産性向上を図る目的でのITツール導入 |
参考:IT導入補助金制度概要|IT導入補助金2025公式サイト
補助対象が幅広く、DX化に向けた取り組みで利用しやすい制度です。
関連記事:【2025年度】個人事業主が利用できるIT導入補助金について
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ものづくり補助金)
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金とは、中小企業・小規模事業者等の設備投資等を支援する補助金です。一般的には「ものづくり補助金」と呼ばれています。名称にものづくりと入っていますが、製造業に限らず幅広い業態・業種を対象としています。
2025年7月に申請受付が開始される20次締切における補助対象事業枠は以下の2つです。
補助対象事業枠 | 補助対象 |
製品・サービス高付加価値化枠 | 革新的な新製品・新サービス開発の取り組みに必要となる設備やシステム投資等 |
グローバル枠 | 海外事業等を実施している企業における、国内の生産性を高める取り組みに必要となる設備やシステム投資等 |
参考:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金公募要項(第20次公募)
システム構築費やクラウドサービス利用費など、DX化に関する経費も補助対象経費に含まれます。回によって補助対象事業枠が異なる可能性があるため、必ず最新情報をご確認ください。
関連記事:ものづくり補助金とは?公募要項や採択事例などをわかりやすく解説
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金とは、非正規雇用の労働者の正社員化や処遇改善等の取り組みに対して助成する制度です。正社員化支援と処遇改善支援あわせて6つのコースがあります。
区分 | コース名 | 助成対象 |
正社員化支援 | 正社員化コース | 非正規雇用者の正社員化 |
障害者正社員化コース | 障害のある非正規雇用者を正規雇用労働者等に転換 | |
処遇改善支援 | 賃金規定等改定コース | 非正規雇用者の基本給を3%以上増額 |
賃金規定等共通化コース | 正規雇用者と非正規雇用者で共通の賃金改定等を規定・適用 | |
賞与・退職金制度導入コース | 非正規雇用者に対する賞与または退職金制度を導入、支給または積み立てを実施 | |
社会保険適用時処遇改善コース | 非正規雇用者を新たに社会保険に適用させ、かつ、収入を増加させる もしくは所定労働時間の延長により社会保険に適用させる |
DX人材の正社員化やDX推進に向けた人員体制の強化などに活用できます。
なお、先に紹介した2つの制度「IT導入補助金」と「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」は補助金ですが、キャリアアップ助成金は名前の通り助成金です。
補助金は予算や採択枠が決まっているため、要件を満たしても審査に通過しなければ受給できません。一方で、助成金は要件を満たせば原則として支給されます。
関連記事:助成金と補助金の違いとは?知っておきたいポイントを解説
人材確保等支援助成金
人材確保等支援助成金とは、労働環境の向上等を図る事業主を助成する制度です。2025年5月時点では7つのコースが設けられています。
コース名 | 助成対象 |
雇用管理制度・雇用環境整備助成コース | 従業員の離職率の低下に対する取り組み |
中小企業団体助成コース | 中小企業団体による、人材確保や従業員の職場定着を支援する目的の事業 |
建設キャリアアップシステム等活用促進コース | 建設キャリアアップシステムを活用した雇用管理改善の取り組み等 |
若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野) | 建設事業主による、若年および女性労働者の入職や定着を図る目的の事業 |
作業員宿舎等設置助成コース(建設分野) | 建設事業主による、女性専用作業員施設の賃借ほか |
外国人労働者就労環境整備助成コース | 外国人労働者の職場定着を目的とした取り組み |
テレワークコース | テレワークの導入および実施により、人材確保や雇用管理改善等の観点で効果を発揮した場合 |
DX化に関連するコースとしてはテレワークコースが挙げられます。DX推進の一環としてテレワークを導入した場合に助成対象となる可能性が高いです。
関連記事:中小企業が活用できる補助金・助成金、人材確保におすすめの助成金について
自治体の補助金や助成金制度
自治体の補助金や助成金制度を活用できる可能性もあります。
例えば東京都には「DX推進助成金」という制度が存在します。DX推進助成金はデジタル技術の導入・活用、その他DXの推進に必要な費用の一部を助成する制度です。助成額は下限が30万円で最高3,000万円と、DX推進の取り組みにかかる負担の大幅な軽減が期待できます。
参考:DX推進助成金|デジタル化推進ポータル(東京公社)
事務所の所在する自治体が実施する補助金や助成金制度を調べ、DX関連の取り組みで活用できそうな制度があるか確認しましょう。
【2025年度税制改正】DX投資促進税制廃止以外の増税につながる変更点
DX投資促進税制の廃止により、DX化を進める上で活用できる制度が少なくなったため、事業主の負担が重くなる恐れがあります。制度の廃止前に比べて負担が重くなるとは、実質的な増税ともいえるでしょう。
2025年度の税制改正ではDX投資促進税制の廃止以外にも、実質的には増税といえるような変更が複数行われました。以下より具体例を3つ紹介します。
[変更点1]5G導入促進税制の廃止
5G導入促進税制とは、5G情報通信システムに係る設備を導入した場合に、特別償却または税額控除の適用を受けられる制度です。DX投資促進税制と同じく、2025年3月31日をもって廃止されました。
[変更点2]防衛特別法人税の導入
防衛特別法人税とは2025年度の税制改正によって創設された、防衛力強化に係る財源確保を目的とした税金です。以下の計算式で算出されます。
防衛特別法人税の額=課税標準法人税額(課税標準)×4% |
いわゆる付加税に該当する税金のため、実質として法人税の増税といえます。
2026年(令和8年)4月1日以後に開始する事業年度から適用開始となり、2025年5月時点では適用終了時期は未定です。
[変更点3]中小企業者等の軽減税率に関する見直し
現行制度において中小企業者等に適用される法人税の軽減税率は15%ですが、税制改正により以下2つの見直しが行われました。
- 所得が年10億円を超える事業年度の軽減税率を17%に引き上げ
- グループ通算制度の適用法人を特例税率の対象から除く
財務省のパンフレットによると、見直しの対象となるのは現行の特例税率の適用者の0.3%、中小企業全体の0.1%です。
なお「特例税率」の文字通り、軽減税率15%は時限的な措置です。軽減税率の仕組み自体は本則にも存在しますが、本則では19%と定められています。
関連記事:【税理士監修】中小企業の法人税率とは?ざっくり計算!
DX投資促進税制以外の制度を上手く活用しよう
DX投資促進税制はDX化にかかる負担を抑える上で効果的な制度でしたが、2025年度の税制改正をもって廃止されました。
DX化に向けた取り組みに活用できる制度として、ほかにも複数の選択肢が挙げられます。制度を上手く活用し負担を最小限に抑えるためには、まずはどのような制度が存在するかを知ることが大切です。制度の特徴や要件を確認し、自社に適した制度を選びましょう。
DX化に向けて活用できる補助金等の制度についてのお困りごとやご相談は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。