日本の課税制度には、課税額に応じて税率が高くなる累進課税制度というものがあります。累進課税制度を採用している代表的な税としては所得税が挙げられるでしょう。累進課税制度には、超過累進課税と単純累進課税という2種類に分けられ、それぞれ税の計算方法が異なります。
本記事では、累進課税制度の概要や超過累進課税と単純累進課税について解説していきます。
目次
累進課税制度とは
累進課税制度とは税の課税方法の1つで、税の課税対象となる金額が高くなるほど税率が高くなるという方式のことを指します。累進課税制度には超過累進課税と単純累進課税という2種類がありますが、日本に導入されているのは超過累進課税のみです。
累進課税制度を導入している理由は?
累進課税制度が導入されている背景には、国民の所得の格差とそれによる税負担の違いが挙げられます。年収が100万円の人と500万円の人が同じ30万円を負担することになると、100万円の人の方が生活に与える影響が大きくなってしまいます。しかし、累進課税制度を導入すると、それぞれの年収に応じた納税額になるため、国民間の格差を埋めることができるのです。
豊かな人から集めた税金は社会保障や福祉などに役立てられるため、経済状況に関係なく十分な支援が受けられるようになるのも累進課税制度を導入している理由の1つです。
累進課税制度を採用している税金
累進課税制度を採用しているのは以下の3つの税です。
- 所得税
- 相続税
- 贈与税
所得税とは国民の所得に対して課せられる税金です。所得税は収入全体に課せられるわけではなく、所得から各種控除を差し引いた課税所得に対して課せられるようになっています。この課税所得額が一定ラインを超えると、より高い税率が課せられるようになっています。
亡くなった方の財産を相続した際に、相続した財産に対して課せられる税が相続税です。相続税では、相続した財産の額が高いほど税額が高くなるように設定されています。相続した財産に借金がある場合や、元々財産を所有していた方の葬儀を行った場合はその金額を控除できます。
贈与税とは、財産や資産を譲り受けた際に課せられる税金です。贈与税も累進課税制度を採用しており、個人から110万円を超える財産や資産を譲り受けると納税義務が生じます。
超過累進課税と単純累進課税
超過累進課税とは
超過累進課税とは、一定のラインを超えた部分に対してより高い税率を課す方式のことを指します。例えば、課税対象となる金額が100万円までは5%、100万円を超えた部分から150万までは15%、150万円を超えた部分には20%というように細かく税率を区分しているのです。これにより、その人の経済状況に応じた税金を課すことができるようになっています。
上記の例を用いて、課税対象となる金額が160万円の場合の計算をすると次のようになります。
100万円までの納税額:100万円×5%=5万円
101万円から150万円までの納税額:50万円×15%=7万5,000円
151万円から160万円までの納税額:10万円×20%=2万円
合計の納税額:5万円+7万5,000円+2万円=14万5,000円
このように超過累進課税では課せられる税率が細かく分かれてしまうため、計算が煩雑です。そこで、国は簡単に税額を計算できる速算表というものを公表しています。この速算表では上記のように区分ごとの税率を掛けて計算するのではなく、課税対象となる金額に一定の税率を掛け、税率に応じた控除額を差し引くことで計算します。
この控除額というのは、一定ラインを超えた部分にだけ高くなる税率を1つの税率を掛けるだけで計算できるように調整する役割を持っています。細かく計算をするよりも簡単に税額が計算できるため、このような速算表および控除額が設けられているのです。
単純累進課税とは
単純累進課税とは、課税対象となる金額が高くなるほど税率も高くなる方式のことを指します。例えば、課税対象となる金額が100万円の場合は5%、100万円以上200万円以下の場合は10%というように、課税対象となる金額全体に一律の税率を課すのが単純累進課税方式です。
上記の例を用いて考えると、100万円の場合の税率は5%であるのに対し、100万1,000円の人には10%の税率が課せられてしまいます。この方式では、税率のボーダーラインで大きく税額が変化してしまうため、個人に応じた適切な納税ができないと判断できます。そのため、現時点で単純累進課税方式は採用されていないのです。
累進課税の計算方法:所得税編
個人の所得に対して課せられる所得税は、以下の流れで計算します。
- 所得額の計算
- 課税所得額の計算
- 税額の計算
以下では、それぞれの計算方法について詳しく解説していきます。
所得額の計算
まず初めに所得額を計算します。所得額は収入-給与所得控除(必要経費)で求められます。給与所得控除額は以下の通りです。
給与収入額 | 給与所得控除額 |
190万円以下 | 65万円 |
190万円超360万円以下 | 収入金額×30%+8万円 |
360万円超660万円以下 | 収入金額×20%+44万円 |
660万円超850万円以下 | 収入金額×10%+110万円 |
850万円超 | 195万円 |
例えば、給与収入が650万の場合の所得額は以下の通りです。
650万円×20%+44万円=174万円
650万円-174万円=476万円
このケースでの所得額は476万円です。
参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
課税所得額の計算
次に、課税所得額の計算をします。課税所得額は所得-各種控除額です。所得から差し引くことができる控除を所得控除と呼びます。所得控除は以下の15種類あり、それぞれ適用される条件が設けられています。
- 基礎控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 勤労学生控除
- ひとり親控除
- 寡婦控除
- 障害者控除
- 医療費控除
- 社会保険料控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 寄付金控除
- 雑損控除
上記の中でも、年間の合計所得額が2,500万円以下のすべての人が利用できるのが基礎控除です。現在の基礎控除額は以下のように設定されています。
1年間の合計所得金額 | 基礎控除額 |
2,350万円以下 | 58万円 |
2,350万円超2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
適用される控除が基礎控除のみの場合、先ほどの所得額476万円のケースにおける課税所得額は以下のように計算します。
476万円-58万円=418万円
参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|財務省
税額の計算
課税所得額が418万円の場合の所得税額はいくらになるのか、以下の速算表を用いて計算しましょう。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円~194万9,000円 | 5% | 0円 |
195万円~329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万円~649万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万円~899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万円~1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円~3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
課税所得額が418万円の場合の税率は20%、控除額は42万7,500円です。これを計算式に当てはめると以下にようになります。
418万円×20%-42万7,500円=40万8,500円 |
つまり、この例での所得税額は40万8,500円になります。さらに、税額控除を利用できる場合は所得税額から直接控除できます。税額控除の種類は以下の通りです。
- 配当控除
- 分配時調整外国税相当額控除
- 外国税額控除
- 住宅借入金等特別控除
- 政党等寄附金特別控除
上記の中に利用できる税額控除がないか、予め確認しておくと良いでしょう。
関連記事:所得税の超過累進税率とは?計算方法や税率を具体例付きで解説
累進課税の計算方法:相続税
相続税の計算式は、法定相続分に応じた取得金額×税率です。法定相続分とは、法定相続人が有する相続割合のことを指します。相続税には、だれでも利用できる基礎控除というものが設けられており、この基礎控除を引いた金額に対して相続税が課されます。相続税の基礎控除額は3000万円+600万円×法定相続人の数で計算可能です。
取得金額が上記の基礎控除額以下であれば相続税は発生しません。本来は相続税も区分ごとの税率を掛けて計算しますが、以下の速算表を用いると簡単に計算できます。
取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | ー |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
例えば、1億円の財産を子3人で相続する場合は次のように計算します。
1億円-(3,000万円+600万円×3)=5,200万円 |
5,200万円を法定相続持分に応ずる取得金額に税率をかけて計算します。
上記のケースでの相続税は約630万円ということになります。
贈与税
贈与税の税率は、贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の子どもや孫が両親者祖父母などの直系尊属から贈与を受けた場合に適用する特例贈与財産用と、夫婦や兄弟、18歳未満の子どもが贈与を受けた場合に適用する一般贈与財産用の2種類に分けられています。贈与税は、贈与を受けた額から基礎控除の110万円を引いた金額に対して税率を掛けることで計算可能です。
特例贈与財産用の速算表は以下の通りです。
課税価額 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | ー |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
例えば、550万円の贈与を受けた場合は次のように計算します。
550万円-110万円=440万円
440万円×15%-10万円=56万円
上記のケースの贈与税は56万円です。一方、一般贈与財産用の速算表は次のようになっています。
課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | ー |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
一般贈与財産の税率が適用される場合、550万円の贈与を受けると次のような計算になります。
550万円-110万円=440万円
440万円×30%-65万円=67万円
上記のケースでの贈与税は67万円ということになります。同じ金額の贈与を受けたとしても、適用される税率によって税額が異なる点がポイントです。
参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
関連記事:法人・個人間における贈与の扱いの違いは?4つのパターン別に解説
累進課税の節税のポイントは?
課税対象となる金額が高くなるほど、より高い税率が課せられる累進課税制度において、節税したい際に注意すべきポイントはどのようなものが挙げられるのでしょうか。以下では、税金の種類ごとの節税ポイントを紹介していきます。
所得税の節税のポイント
所得税の節税ポイントは、なるべく課税所得額を減らすことです。課税所得額は所得から各種控除を差し引いた金額であるため、適用できる控除を最大限に活かすことが節税に繋がります。
また、生命保険に加入したりふるさと納税を行ったりすることで利用できる控除の幅を増やしていくのも1つの方法と言えるでしょう。
相続税と贈与税の節税のポイント
相続税と贈与税は無関係のようですが、うまく制度を活用することで節税に繋がります。具体的には、死亡する前に財産の一部を贈与しておくという方法です。贈与税の基礎控除額は110万円であるため、税がかからない範囲で一部を贈与しておけば、それだけ相続税の課税対象となる金額が低くなるのです。
また、現金ではなく土地や建物を購入してそれらを相続させた方が税額が抑えられるケースもあります。土地や建物の他にも、資産を生命保険料の支払いに充てて死亡保険金を受け取れるようにしておけば、500万円×法定相続人の数までは非課税になるため節税に繋がります。
贈与税の節税では、毎年110万円以内に収まるように小分けにして贈与する方法がメジャーですが、贈与税には特例制度というものもあります。特別制度とは、結婚資金や教育資金を一括贈与する際に一定額まで非課税になる制度です。具体的な制度内容は国税庁のHPを参考にして下さい。
参考:No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除|国税庁
参考:祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし|国税庁
参考:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|国税庁
関連記事:相続税と贈与税の違いとは?控除や節税のポイントも解説
超過累進課税と単純累進課税の違いを理解しよう
課税対象となる金額に比例して税率が高くなる累進課税制度には、超過累進課税と単純累進課税という2つの種類があります。どちらも課税対象となる金額と税率が比例しているのに変わりはありませんが、超過累進課税は課税対象となる金額を細かく区分してそれぞれの区分に応じた税率を掛けるのに対し、単純累進課税は区分ごとの税率を課税対象となる金額全体に掛けるという違いがあります。
単純累進課税では、税率のボーダーラインに該当する人たちの税負担に大きな差が生じてしまうことから、日本では超過累進課税が採用されています。どのような仕組みで税金を支払っているのかを理解できれば節税対策もしやすくなるため、累進課税制度について正しく理解しておきましょう。