会社にはさまざまな役職が存在しており、その中でも役員は特別な役割を担っています。役員は、会社の経営や組織に対して重要な責任を負い、意思決定にも深く関わる立場です。そのため、一般的な従業員とは異なる雇用形態が適用されています。この記事では、役員と従業員の雇用形態の違いに着目し、メリットとデメリットについても詳しく説明します。
目次
そもそもどこから役員と呼ばれるのか
会社役員には複数の役職が存在しますが、どこからが役員と呼ばれているのか把握されていなかったり、曖昧にされたままだったりするケースもあります。
役員とは具体的にどの役職を指すのか、詳しく解説していくため参考にしてみてください。
取締役・会計参与・監査役が役員
会社法で役員として定められているのは、取締役・会計参与・監査役の3つの役職です。
取締役 | 事業を実行するにあたり、意思決定を行う。代表権を持つ役職は「代表取締役」と呼ばれる。 |
会計参与 | 会社役員に含まれるが、ほかの役員とは独立した立場を保ちつつ、取締役と共に計算関係書類を作成する。 また、その計算関係書類を会社とは別に5年間保管し、株主や債権者からの請求があれば、書類の閲覧や謄本の提供が必要。 会計参与に就けるのは税理士や公認会計士など、会計の専門家のみ。 |
監査役 | 取締役と会計参与の職務執行を監査するのが役目。 業務が適切に行われているか、会社の経営が正しく健全に行われているかを確認する。 |
これら3つの役職が、経営方針を決定したり、組織の管理を行うのが役員です。
常務や専務は取締役を兼任していないと役員ではない
常務や専務は、取締役を兼任していない限りは役員には含まれません。前述した通り、役員とは取締役・会計参与・監査役の3つの役職を指します。一方、常務や専務などは会社法により定められた役職ではないため、設置は会社の任意です。
常務も専務も、社長や副社長を補佐する役職であり、会社の業務を管理・監督する立場にあります。一般的には、常務は専務よりも下の立場であり、常務は従業員全体の管理や監督を、専務は会社の経営方針に携わる傾向が強いです。
取締役は複数名を設置できるため、常務や専務が取締役を兼任することで、役員に加われます。
執行役員は役員ではない
執行役員は役職に役員とついているものの、実際には会社法で定められている役員ではありません。常務や専務と同様に、執行役員も会社が任意で設置できます。
執行役員の役目は、取締役の意思決定に従って業務を行うことであり、立場的には一般の従業員のトップです。
役員と従業員は雇用形態が異なる
役員と従業員の違いとして分かりやすい点が雇用形態です。役員と従業員、それぞれの雇用形態について説明します。
役員は会社と委任契約を結んでいる
取締役・会計参与・監査役などの役員と会社とは、委任契約で契約締結が行われます。
委任契約とは業務委託契約の一種であり、法律行為を伴う業務を任せられるものです。
そのため役員は会社に雇用されることなく、専門家として経営を依頼されている立場にあります。
原則的に、委任契約による報酬は事業所得や雑所得として扱われるものの、役員が会社から受け取る役員報酬は所得税法では給与所得です。
また、同じ委任契約であっても、税理士や公認会計士が会社と顧問契約を締結する場合は、その報酬は一般的には事業所得として扱われます。
従業員は会社と雇用契約を結んでいる
従業員は会社と雇用契約(労働契約)を結び給与を受け取るため、その所得は給与所得に該当します。
雇用契約は民法で定められている契約形態の一種で、受け取る給与は従業員が雇用主の指示に従って労働した対価です。
そのため、従業員が役員に昇格した際には、雇用契約から委任契約へと雇用形態を変更する必要があります。
関連記事:役員の人数は何人が適正?必要人数や中小企業や株式会社における取締役を選び方
委任契約のメリット
複数の雇用形態がある中で、役員が会社と委任契約を結ぶことにはどのような利点があるのでしょうか。メリットを3つ紹介します。
リスクを回避できる
委任契約により委任内容を明示することは、さまざまなリスクの回避につながります。
委任契約は雇用契約とは異なり、原則的に労働基準法が適用されません。そのため、会社には労働基準法に基づき役員に残業手当を支給する義務がないのです。
こうしたことから委任契約を交わす際は、労働時間や手当を含めて委任内容を明らかにし、トラブルや訴訟に発展するリスクを抑えるよう配慮しましょう。
報酬や権限が明確になる
委任契約を交わす際には、各役員の報酬や取締役の権限を明示する必要があります。契約書の内容には、役割や業務範囲、報酬の基準などを具体的に記載しましょう。
また、役員の権限についても契約書で明確にされるため、意思決定が迅速化し、会社の運営効率が向上します。
業務遂行したことに対して報酬が支払われる
委任契約は業務成果に対してではなく、業務遂行に対価が支払われることが特徴です。そのため役員報酬は、業務の結果に金額が影響されません。一方で、業務遂行に関しては、役員は善管注意義務を負います。
善管注意義務とは、善良な管理者(善管)から業務を委任された専門家が、通常行うべき注意義務を果たすことです。
委任契約のデメリット
委任契約のメリットを確認した上で、デメリットも把握しておきましょう。委任契約のデメリットには、雇用形態に関する2つの事柄が挙げられます。
雇用保険や労災保険に加入できない
原則的に、委任契約を取り交わした役員は、ほかの従業員のような雇用保険や労災保険には加入できません。
雇用保険や労災保険の目的は、労働者の就職や生活を安定させることです。
一方、委任契約を結んだ役員は、この労働者に該当しないと判断されるため、雇用保険や労災保険の対象とは見なされていません。
労働基準法が適用されない
前述した通り、委任契約による業務には労働基準法が適用されません。労働基準法は、労働者の労働時間・賃金・休日や有給休暇、就業規則などについての基準を定めたものだからです。
労働基準法とは労働者の権利を守るための基準であり、雇用主はこの基準を守る必要があります。
対する役員は労働者ではなく、会社経営の一旦を担う立場です。そのため、役員には労働基準法が適用されず、委任契約で業務内容が定められます。
雇用契約のメリット
雇用契約には委任契約とは異なるメリットが存在します。委任契約と比較しながら、雇用契約のメリットにも着目してみましょう。
月々安定した収入が確保される
会社員の雇用契約は、月々安定した収入を得られることがメリットです。業績に関わらず、雇用されている限りは給料として収入を確保できます。
特に、月給の支払いで契約している正社員は、欠勤しなければ基本給は変動しません。病欠や早退などでやむを得ず働く日数が減ったり、働く時間が短くなったりしても大幅に収入が減少するリスクがないのです。
時給制が用いられるパートやアルバイトの雇用契約は、正社員ほど給与は安定しないものの、働く時間を自分で調整できます。また、定められた時給で給料が発生するため、収入をしっかりと得たいときには会社と相談のうえ勤務日数や勤務時間を増やすこともできるでしょう。
一方の役員報酬は、正社員やパート・アルバイトの給与とは異なり、労働基準法が適用されません。
そのため、例えば起業して間もない頃に役員報酬をゼロ円にしたとしても、法的な問題点はないのです。
ただし、役員報酬は原則的に1年間は変更できない決まりになっています。実際にゼロ円にしてしまうと役員にも会社の信用にもダメージを与えかねないことを覚えておきましょう。
関連記事:社長給与の決め方とは?中小企業の役員報酬の相場と節税のコツ
福利厚生が充実していることが多い
雇用契約では福利厚生が手厚く種類が豊富であるなど、充実している場合が多く見られます。福利厚生とは、給与や賞与以外に提供される従業員へのサービスのようなものです。
福利厚生には法律で定められている法定福利厚生と、会社が任意で提供している法定外福利厚生の2種類があります。
法定福利厚生は、健康保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険・介護保険などです。法定外福利厚生は会社ごとに任意で提供されるため、それぞれ種類や数が異なります。
法定外福利厚生は幅広いものの、主に通勤手当・健康診断・家賃補助・資格取得支援・災害見舞・出産祝い金・遺族年金などの完備が多い傾向です。
雇用契約のデメリット
収入の安定性や福利厚生の充実など、雇用契約には従業員が安心して働けるメリットがあります。ただし、その一方でデメリットも存在するため、しっかりと把握しておきましょう。
残業や休日出勤が発生する可能性がある
雇用契約を結んでいる従業員が正社員の場合は、残業や休日出勤も発生します。
福利厚生が充実しているだけに、残業代や休日出勤手当が支給され、収入は増えるでしょう。
ただし、プライベートを大切にしたいと考えている人であれば、雇用契約に不満を感じる可能性があります。
希望する業務に携われないことがある
雇用契約を結んでいる従業員は、希望する仕事に携われない場合もあります。
会社によっては、従業員の希望を考慮してくれるところもあるでしょう。
ただし、一般的に従業員の配属先は会社側が決定するため、自分の希望する仕事に必ず就けるとは限りません。
役員報酬と従業員給与の違い
役員報酬と従業員給与には、数多くの異なる点があります。役員報酬と従業員給与を比較することで、違いを明確に確認可能です。
勘定科目の違い
役員報酬と従業員の給与では、該当する勘定科目がそれぞれ異なります。勘定科目とは、帳簿をつける際に金銭の流れを示す見出しです。
役員報酬の場合、勘定科目はそのまま「役員報酬」という見出しで記載します。
一方の従業員給与の書き方は、給与以外に給料・賃金・給与手当など複数存在します。とはいえ、給与関連の勘定科目が複数にわたっていると管理が煩雑になるため好ましくありません。帳簿をつける際は、給与の勘定科目をどれにするかをきちんと明確にし、統一しましょう。
残業代の有無
役員報酬の場合、会社は残業代を支払う義務はありませんが、給与の場合は勤務実態に応じた金額が支給されます。役員報酬には労働基準法が適用されないためです。
従業員には労働基準法が適用されるため、会社は時間外労働を課す際に残業代を支払わなくてはなりません
雇用保険の有無
従業員の給与には雇用保険が適用される一方で、役員報酬に対してはそれがありません。
雇用保険は雇用契約を結んだ労働者のための保険制度であり、主に従業員に対する保証を指します。
そのため、委任契約で役員に就いている取締役・会計参与・監査役は、原則的に雇用保険の対象外です。
最低賃金の有無
最低賃金制度により、従業員給与は賃金の最低額が定められています。しかし、役員報酬には最低賃金が定められていません。
最低賃金法に基づき、雇用主には、国が定めた金額以上の賃金を従業員に支払う義務が発生します。
一方、その適用を受けない役員報酬の場合は、報酬をゼロ円にすることも可能です。
実際に役員報酬をセロ円にしてしまうと、役員にも会社にもダメージがあるため現実的ではないものの、法的には何ら問題はありません。
日割り計算の可否
日割り計算は従業員給与には適用されますが、役員報酬では行われません。
例えば、従業員であれば月の途中で入退社したり、欠勤が見られたしたりした場合は、給与の日割り計算で勤務分の給与を算出可能です。
対して、役員報酬には一般的に日割り計算は適用されません。月の途中で役員が辞任したり、その逆に新しく加わったりした場合は、全額支給されるか全額支給されないかのいずれかです。
その決定は、定款や株主総会の決議で定められたルールに従って選択されます。
なお、従業員給与の日割り計算には法的な取り決めがありません。そのため、各会社が任意で計算を行います。
金額の決定方法の違い
役員報酬と従業員の給与では、金額の決め方がそれぞれ異なります。役員報酬は会社法にて、取締役会、または株主総会の決議で決めることが義務づけられています。
ただし、役員報酬は基本的に事業年度の開始から3ヶ月以内です。そのため、事業年度の途中での変更が許されていません。
そのため、役員報酬を決める際は、会社にどの程度の利益が出るかを見込んだ上で適切な金額の設定が必要です。
一方の従業員給与は、会社で定めた給与体系や評価、本人の能力などで決定します。
役員の雇用形態・報酬の税金の疑問は税理士へ
役員報酬は経費として扱われるため、増額すると会社の利益を減らすとともに、法人税が下がります。
ただし、役員報酬が増えることで、個人に課される所得税や住民税は上がるのです。
こうしたことからも、会社においても個人においても、役員報酬に関する税金の対応には、税理士によるアドバイスをおすすめします。また、税理士は会計参与として役員にも就ける専門家です。
役員報酬に関する税金や、顧問税理士や会計監査の相談についても、私たち小谷野税理士法人では幅広く対応しています。
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