自然災害や思いがけない損害に直面したとき、少しでも家計の負担を軽くしたいと考える方は多いでしょう。そんなときに知っておきたいのが「雑損控除」という制度ですが、誰でも・どんな損害でも対象になるわけではありません。本記事では、雑損控除の「対象」となるケースや、申告の際に気をつけるべきポイントについて分かりやすく解説します。
目次
雑損控除とは
雑損控除とは、地震や台風、火災、盗難など予期せぬ災害や被害によって、個人の資産に損害を受けた場合に、その損失の一部を所得から差し引ける制度です。
一定の条件を満たすことで、確定申告により所得控除として認められ、結果として所得税や住民税の軽減に繋がります。生活に不可欠な財産が損害を受けた場合の経済的な救済措置として設けられている制度と言えるでしょう。
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雑損控雑損控除 対象除の対象
雑損控除の適用可否は、「損害の原因」、「財産の所有者」、「財産の種類」の3つの観点から判断されます。以下に、それぞれの基準ごとの主な該当・非該当ケースをまとめました。
判断基準 | 該当するケース | 該当しないケース |
損害の原因 |
| 詐欺・恐喝・経年劣化・自己の過失による損害 |
財産の所有者 |
|
|
財産の種類 | 自宅・家具・衣類・自家用車など日常生活に必要な資産 | 別荘・30万円以下の宝石や骨董品・事業用資産など |
これらの判断基準すべてを満たす場合に限り、雑損控除の対象として認められます。以下で、各基準について詳しく解説します。
対象となる損害
雑損控除の対象となる損害は、災害や盗難、横領のいずれかによるものに限られます。
災害には、地震、台風、大雨、火災、雪害などの自然災害が含まれます。盗難や横領も対象となりますが、損害を受けたのが納税者本人、または生計を一にする親族の財産であることが条件なので注意しましょう。
なお、自己の過失による損害や、詐欺・恐喝による損害は控除の対象外となります。
対象となる納税者
雑損控除を受けるためには、損害を受けた財産の所有者が「納税者本人」または「生計を一にする配偶者やその他の親族で、その年の総所得金額等が48万円以下」であることが必要です。
例えば、実家の家財であっても、生計を別にしている親族が所有している場合は対象外となります。また、法人名義の財産についても雑損控除の対象にはなりません。対象はあくまで、個人の生活に直接関わる財産に限定されます。
対象となる財産
雑損控除の対象となる財産は、日常生活に必要な資産に限られます。具体的には、住宅、家具、衣類、自家用車などが該当します。
一方で、別荘、30万円以下の宝石や骨董品、書画などの贅沢品や趣味性の高い資産は対象外です。また、事業用資産や賃貸用の不動産など、業務目的で保有している財産も雑損控除の対象にはなりません。
個人の生活に密着し、日常的に使用されている財産であるかどうかが、判定の重要なポイントとなります。
雑損控除の計算方法
雑損控除の金額は、損害から保険金などの補填額を差し引いた上で、次の2つの計算式のうちいずれか大きい金額を「所得控除」として適用します。
- 【計算式①】損害額 - 保険金等 - 総所得金額等 × 10%
- 【計算式②】災害関連支出の金額 - 保険金等 - 50,000円
例えば、以下のようなケースで考えてみましょう。
前提条件
- 総所得金額:400万円
- 損害額:80万円(地震による自宅の損害)
- 保険金:20万円
まず、保険金を差し引いて「実質的な損失額」を求めます。
損失額=80万円 − 20万円=60万円
次に、2つの方法で控除額を計算します。
- 【計算式①】60万円 −(400万円 × 10%)= 20万円
- 【計算式②】60万円 − 5万円= 55万円
この場合、方法②の金額が大きいため、「55万円」が雑損控除額となります。
雑損控除では、計算式①と計算式②のうち、金額が大きい方が採用される仕組みとなっています。
雑損控除を受ける際の4つの注意点
雑損控除は、適用条件や計算方法が比較的複雑な制度であるため、正しく活用するためには、制度上の制限や併用可能な制度との違いを理解しておく必要があります。申告時、特に注意すべき以4つのポイントについて解説します。
- 損害の種類に注意する
- 財産の用途と所有者が問われる
- 補填金は控除額に影響する
- 災害減免法と比較する
損害の種類に注意する
雑損控除の対象となる損害は、「災害」、「盗難」、「横領」のいずれかに限られています。
災害には地震や台風、火災などの自然災害が該当しますが、詐欺や恐喝といった人為的被害や、経年劣化・自然消耗といった通常の損耗は対象外です。また、納税者本人の重大な過失によって生じた損害も控除の対象にはなりません。
損害の原因が明確でない場合や対象となるか不安な場合は、事前に税務署や税理士へ確認することが大切です。
財産の用途と所有者が問われる
雑損控除の対象となる財産は、日常生活に通常必要とされる生活用資産に限定されます。例えば、自宅や家具、衣類、自家用車などは対象となりますが、事業用の設備や在庫、貸付用不動産などの業務関連資産は対象に含まれません。
また、所有者にも要件があり、納税者本人または生計を一にする配偶者やその他の親族で、その年の総所得金額等が48万円以下の人の所有財産である必要があります。登記簿謄本や固定資産税通知書など、所有関係を示す書類を整えておくと、スムーズに申告できるでしょう。
補填金は控除額に影響する
雑損控除では、損害の金額そのものがそのまま控除されるわけではありません。保険金や見舞金など、損害に対して受け取った補填金額は損失額から差し引く必要があります。
補填があったにもかかわらずその分を差し引かずに申告すると、税務調査で否認されたり、過少申告加算税の対象となる可能性もあるため注意しましょう。
そのためにも、補填を受けたかどうか、金額はいくらかを正確に記録・把握しておくことが重要です。
災害減免法と比較する
雑損控除と似た制度として、「災害減免法による所得税の軽減・免除制度」があります。これは、災害によって住宅や家財に損害を受けた人のうち、災害があった年の所得が1,000万円以下の場合に適用できる制度です。
雑損控除は所得控除であるのに対し、災害減免法は税額控除または免除となるため、ケースによっては税負担の軽減効果が異なるでしょう。
両制度は併用できないため、自身にとってどちらが有利かを比較・検討してから選択することが重要です。
参考:No.1902 災害減免法による所得税の軽減免除|国税庁
雑損控除の適用を受けるための手続き
雑損控除を受けるためには、確定申告の際に所定の書類を準備し、正しく記載・提出する必要があります。以下で、必要書類と提出方法について解説します。
必要書類
雑損控除を受ける際には、損害の内容や財産の所有状況を証明する書類が必要です。以下の表に、提出書類とその内容を整理しています。
書類 | 内容 |
確定申告書 | 確定申告書の第二表に雑損控除額を記入 |
損害の証明書類 | 罹災証明書(市区町村発行)、盗難届受理証明書(警察)、保険金の支払通知書など |
財産の所有を証明する書類 | 固定資産税通知書、登記簿謄本、購入時の契約書や領収書など |
雑損控除に関する明細書 | 損害の内容や補填金額などを記載した専用の明細書 |
確定申告書では、第二表の「所得から差し引かれる金額」欄に雑損控除額を記入し、明細書には損害や保険金の内容を正確に記載しましょう。書類の不備や記載漏れがあると、控除が適用されないことがあるので注意してください。
提出方法
雑損控除を受けるには、毎年2月16日から3月15日までの確定申告期間内に、所轄の税務署へ書類を提出する必要があります。
提出方法は、税務署への直接提出のほか、郵送またはe-Tax(電子申告)も利用可能です。e-Taxでは、必要書類のPDF添付やマイナンバーカードによる本人確認が求められるので事前に確認しておいてください。
提出の際は、提出期限や添付資料の有無に十分注意しましょう。不備があると雑損控除が認められないこともあるため、事前の確認と準備が重要です。
関連記事:【税理士監修】確定申告のやり方ガイド!いつからいつまでの収入?郵送のケースや必要書類・マイナンバーカードについて
雑損控除の対象かどうか迷ったら専門家に相談を
雑損控除の可否は、損害の種類や財産の内容、保険金の受け取り状況など複数の要素で判断されるため、専門的な知識が必要となることもあります。迷ったときは、早めに税理士へ相談するのが安心でしょう。
小谷野税理士法人では、雑損控除を含む各種所得控除や確定申告について、豊富な実績と専門知識でサポートしています。「対象になるのか不安」、「手続きに自信がない」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。