海外出張費や外国企業との取引で、外貨による立替金が発生するケースは少なくありません。こうした外貨建ての立替金は、円に換算するタイミングや為替差損益の処理方法など、適切な会計処理が求められます。この記事では、外貨建て立替金の概要から、換算方法、仕訳処理、税務上の注意点までを初心者にもわかりやすく解説します。
目次
外貨建て立替金とは
外貨建て立替金とは、外貨建ての取引で、一時的に自社が立て替えて支払う金銭です。例えば、従業員の出張費を外貨で立て替えた場合や、取引先に外貨で支払いをした場合などが該当します。
立替金が起こるケース
立替金として扱われる範囲は広いため、どのような支出が該当するのかを事前に把握しておくことが重要です。立替金が発生するケースには、以下のような例があります。
従業員に対する立替の一例 |
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取引先に対する立替の一例 |
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立替金と仮払金の違い
立替金と仮払金の主な違いは、支払いの目的と責任者です。立替金は、会社が従業員や取引先が負担すべき費用を一時的に立て替えて支払うもので、後で相手に請求・回収します。一方、仮払金は、会社が自身の費用として、将来の経費を概算で事前に支払うものです。
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外貨換算とは
外貨換算とは、外国通貨で表示された金額を自国通貨(円)に換算することです。主に外貨建取引や財務諸表の作成において、自国通貨で会計処理や報告を行うために必要です。
レートの種類
以下では為替取引で用いられる主なレートの種類を解説します。
為替相場の名称 | 略称(英語) | 説明・使用場面 |
直物為替相場 | SR(Spot Rate) | 外貨を即時決済(通常2営業日以内)で売買する際の為替相場。 |
取引時の為替相場 | HR(Historical Rate) | 外貨建取引が発生した時点の為替相場。 |
決算時の為替相場 | CR(Current Rate) | 決算日時点の為替相場。期末の資産・負債を換算する際に使用される。 |
期中平均為替相場 | AR(Average Rate) | 会計期間中の平均相場。外貨建の売上や費用を換算する際に簡便的に使用される。 |
先物為替相場 | FR(Forward Rate) | 将来の特定時点での為替相場を、事前に予約(契約)した相場。 |
外貨換算のルールと手続き
外貨での取引を帳簿に記録するときには、日本の会計ルールに従う必要があります。基本的には、取引が発生したときの為替レートを使って円に換算して記録します。
そして決算のときには、外貨で保有している預金や売掛金、借入金などのお金に関する取引を決算日の為替レートで再計算します。外資系企業で本国の会計ルールを使っている場合でも、日本にある法人であれば日本のルールに従って決算や納税を行いましょう。
一方、商品の在庫や建物・機械などの固定資産については、取得したときのレートのまま変えずに記録を続けるのが一般的です。
また税金の計算(法人税)では、会計とは別に税法上のルールが決められています。例えば短期の外貨預金は決算日のレートで換算しますが、長期の外貨預金は最初の取引時のレートでそのままにするのが原則です。
さらに資産の種類や保有期間によって、使う換算方法が変わることもあります。別の方法を使いたいときには、事前に税務署に届け出るか、許可を取らなくてはいけません。
会計上の処理と税務上の処理が違っている場合は、税務申告のときに調整(別表調整)して正しい所得を申告しましょう。
外貨建立替金の会計処理
外貨による取引が発生した際、その金額を円換算して帳簿に記録する処理をいいます。この換算には、取引時点や決算時点の為替レート(為替相場)を用いるのが一般的です。適切なタイミングでの換算が、正確な損益計算や財務状況の把握につながります。
換算のタイミング | 会計処理の内容 |
発生時 | 発生時点の為替相場で外貨建立替金を計上する |
決算時 | 決算日時点の為替相場で再換算し、差額は為替差損益として処理する |
決済時 | 実際の決済時の相場との差額を為替差損益として処理する |
ただし「外国通貨による記録」を適用している外貨建取引については、この一般的な換算方法は適用されません。これらの取引については「外国通貨による記録」に関する会計基準に基づいて処理を行う必要があります。
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立替金の仕訳方法
以下では、立替金の仕訳方法を2パターンに分けて解説します。
立替払いをした場合
立替払いを行った際は、その内容を帳簿に記載します。この時の金額は、将来的に回収されることを前提とした「資産」として処理されます。
例えば従業員に代わって会社が支払った場合は、「従業員立替金」として記帳するのが一般的です。なお使用する勘定科目は会社ごとに異なることがあるため、自社で定められている勘定科目をあらかじめ確認しておくと安心です。
立替金を回収した場合
立替金を回収した際には、その内容を帳簿に正しく記録する必要があります。立替金は一時的な支出であり、原則として速やかに回収されるべきものです。
しかし長期間にわたって回収されない場合は、性質が変わる可能性があるため注意が必要です。そのまま放置せず、状況に応じて「貸付金」など別の勘定科目に振り替える対応が求められます。
またあらかじめ返済期間を定めておけば、回収までの期間に発生する利息を計上することも可能です。回収条件や処理方法については、事前に検討・整備しておきましょう。
関連記事:外貨預金の為替差益は確定申告が必要?必要なケースをわかりやすく解説
外貨を円換算する際の注意点
外貨を円に換算する際に注意すべき点は、まず為替レートの変動リスクを認識することです。
為替レートの変動により、換算後の金額が大きく変わることがあります。また換算のタイミング(取引日、決済日、決算日など)によっても換算レートが異なり、為替差損益が発生する可能性があります。
さらに、税務上の処理や、外貨預金など、特定の状況によって異なる取り扱いがあるため、注意しましょう。
立替金の仕訳や外貨換算に関するよくある質問
最後に立替金の仕訳や外貨換算に関するよくある質問をまとめたので、あわせて参考にしてください。
立替金に消費税はかかる?
交通費や旅費など、自社の業務に関連して支出した場合は、原則として消費税の課税対象となります。
一方で、取引先のために立て替えた費用については、相手先が利用する物品やサービスに対して支払っている金銭とみなされます。この費用については、消費税の対象外とされます。
こうした判断を適切に行うには、立替金の内訳を明確に記録しておくことが重要です。例えば行政手数料や保険料など、内容によっては非課税となることもあります。
消費税の取扱いに迷う場合は、個々の明細をしっかり把握しておくことで、正しい処理につながります。
15%ルールって何?
法人税法上の特例で、為替相場の変動が大きい場合に適用されるものです。期末時点の為替レートで換算した額と帳簿価額との差異が15%以上の場合に、換算特例が適用されることがあります。
まとめ
外貨建て立替金の処理には、為替相場の選び方や換算タイミング、為替差損益の扱いなど、慎重な対応が求められます。
また、立替金の性質や目的によっては、仮払金や貸付金への振替、消費税の課税判断も必要になるため、正確な仕訳処理が重要です。外貨取引の多い企業では、日頃から自社のルールを明確にして、さらに税務調整や会計基準への理解も深めておきましょう。
もし外貨建て立替金の処理にお悩みのことがあれば、税理士などの専門家に相談するのもおすすめです。もし立替金や外貨換算の取り扱いについてお悩みのことがあれば、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。