寄付金は、法人・個人での税務処理に違いがあります。本記事では、寄付金の基本的な考え方から、法人・個人それぞれの仕訳方法までを詳しくまとめました。正しく処理しなければ税務リスクにつながる可能性もあるため、注意すべきポイントについても解説します。寄付金に関する基礎知識を身につけ、適切な対応ができるよう確認しておきましょう。
目次
寄付金とは?
寄付金とは、対価を求めずに無償で提供される金銭や資産を指します。一般的には、非営利団体や公益法人、地方公共団体などへの社会貢献や公共の利益を目的とした支出が中心です。
しかし、すべての寄付金が無条件で優遇されるわけではありません。寄付先や寄付内容によって損金算入や所得控除・税額控除などの税務上の優遇措置が受けられる場合と、そうでない場合があります。
また、会計処理においては、寄付の種類や目的に応じて適切な勘定科目を選び、正しく記帳することが求められます。寄付金の適切な管理は、税務リスクを避け、企業の信用を守るうえでも重要であると言えるでしょう。
関連記事:法人も寄付金控除は適用される?法人税の損金算入についても解説
寄付金は課税?不課税?
寄付金は基本的に善意で行う行為であり、「そこに税金がかかるの?」と疑問に思う方もいるのではないでしょうか。実際には、寄付を行った人の立場や寄付先の種類によって、税金の扱いが大きく異なります。
本章では、個人と法人それぞれが寄付をした場合の税務上の取り扱いについて解説します。
個人が寄付をした場合
個人が寄付を行った場合、通常の買い物やサービスの提供とは異なるため、消費税上は寄付行為そのものが課税されることは基本的にありません。つまり、寄付そのものに対して税金がかかることはなく、消費税上は不課税となります。
ただし、税務上の優遇措置として「寄付金控除」が用意されており、国や地方公共団体、認定NPO法人、学校法人、社会福祉法人などの一定の寄付先に対する支出については、所得税や住民税の軽減措置を受けることができます。
法人が寄付をした場合
法人が寄付を行った場合も、寄付自体は消費税の課税対象ではなく、一般的には不課税取引に該当するでしょう。しかし、法人税の計算上では、寄付金を損金算入できるかが重要なポイントとなります。
法人が支出した寄付金は、その内容によって次の2つに大別されます。
- 指定寄付金:国や地方公共団体、日本赤十字社などへの寄付で、全額を損金算入可能
- 一般寄付金:それ以外の団体への寄付で、一定の限度額内でのみ損金算入が可能
さらに、法人が物品等を寄付した場合は、その部分が課税対象となる場合もあります。
このように、寄付金は一律に「不課税」ではなく、支出の目的や相手先などによって、税務上の扱いが変わることに注意が必要です。
寄付金の種類と分類
寄付金は、寄付先や目的によって種類が分かれており、それぞれ法人税法上の扱いも異なります。ここでは、法人の主な寄付金の種類ごとの特徴と税務処理のポイントを解説します。適切な分類を理解することで、節税対策にも役立てられるでしょう。
国や地方公共団体への寄付
国や地方公共団体に対する寄付は、「指定寄付金」として扱われます。法人が寄付を行った場合、全額が損金算できます。
具体的には、国宝の修復、災害時の義援金などが該当し、多くの企業が社会貢献活動の一環として活用しています。
特に、認定地方公共団体への「企業版ふるさと納税」を利用すれば、損金算入に加えて税額控除の適用も受けられるため、納税負担の軽減と社会貢献の両立が可能です。
このように、指定寄付金は税制上の優遇措置が手厚く、法人にとって大きなメリットがある寄付の形態と言えるでしょう。
関連記事:損金とは?損金算入・不算入の項目や法人税の計算に必要な損金処理について
特定公益増進法人などへの寄付
特定公益増進法人とは、公益社団法人や公益財団法人、日本赤十字社、学校法人、社会福祉法人など、公益性の高い事業を行う法人や団体を指します。
これらの団体や、認定NPO法人などに対する寄付は「特定公益増進法人に対する寄附金」として扱われ、法人税法上、損金算入が認められるのです。
寄付額には一定の上限が設けられています。限度額を超えた部分は一般の寄付金として取り扱われ、損金不算入となる点には注意が必要です。
その他の寄付の場合
国や地方公共団体、特定公益増進法人以外への寄付は、「一般寄付金」として扱われるのが基本です。これには民間団体や法人、地域イベントへの協賛金などが含まれます。
一般寄付金は、法人の資本金や所得金額に応じて算出される損金算入限度額の範囲内でのみ、損金として認められます。限度額を超える寄付金については損金算入が認められず、税負担が増える点に注意が必要です。
また、政治活動に関する寄付金など、個人に対し税額控除や所得控除の適用が認められる場合もありますが、一般的な寄付金の優遇措置はほとんど適用されません。
法人が寄付金を行った場合の仕訳方法
寄付金の仕訳は、支出先や目的によって処理方法が変わります。法人と個人ではルールも異なるため、それぞれの違いや正しい処理方法を理解することが重要です。まずは、法人の場合について解説します。
法人が寄付を行った場合の取り扱い
法人が寄付金を支出した場合、基本的に「寄附金」という勘定項目を使用し仕訳します。公益法人や地方公共団体への寄付は「寄付金」として計上され、一定の要件を満たすと損金算入の対象となり税金を軽減できるのです。
ただし、すべてが無条件で損金扱いになるわけではありません。寄付先が事業と深い関わりを持つ場合や、「広告宣伝費」や「協賛金」として処理したほうが良いケースもあります。支出の目的や寄付先を考慮し、適切な勘定科目を選択しましょう。
【仕訳例】
災害支援として30,000円を日本赤十字社に寄付したケースでは、次のような仕訳になります。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
寄付金 | 30,000円 | 現金(もしくは預貯金) | 30,000円 |
広告宣伝費として計上する場合
寄付金の中でも、企業名やロゴをPRできるような協賛金やスポンサー料は「広告宣伝費」として処理します。宣伝目的の支出は法人の営業活動としてみなされるため、通常の寄付金とは取り扱いが異なり、会計上は明確に区別する必要があるのです。
また、広告宣伝費として計上された協賛金やスポンサー料は、法人税の計算上、全額が経費と認められます。そのため、損金算入限度額のある通常の寄付金よりも、会社にとってメリットがあるケースもあるでしょう。ただし、内容や金額によっては税務調査時に確認される場合もあるため注意しましょう。
【仕訳例】
地域イベントに50,000円の協賛金を支払い、チラシや看板に自社のロゴが掲載されたケースでは、以下のような仕訳となります。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
広告宣伝費 | 50,000円 | 現金(もしくは預貯金) | 50,000円 |
交際費として計上する場合
取引先や関係者への贈与や協賛に対し「寄付」の形をとる場合でも、相手との関係強化や事業活動をスムーズにすることが目的であれば「交際費」として処理します。例えば、取引先主催のイベントに支払う協賛金などは「交際費」として計上されるのが一般的です。
交際費は損金として経費にできますが、法人の業種や規模によって使える金額に上限がある点に注意しましょう。
また、明らかに事業と関連性の低い支出を交際費として計上すると、税務調査で否認される可能性があります。支出の理由や必要性をきちんと説明できるよう、証拠書類をしっかりと残しておきましょう。
【仕訳例】
取引先の周年パーティーに30,000円の協賛金を支払った場合、以下のような仕訳となります。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
交際費 | 30,000円 | 現金(もしくは預貯金) | 30,000円 |
関連記事:経費の節税におすすめ!計上できる項目や損金との違い、判断ポイント
法人における損金算入のポイントまとめ
寄付する際のポイントは、以下を事前に確認しておくことです。
- 寄付先はどこか
- 限度額を超えないか
法人が寄付金を支出する場合、寄付先や寄付金額によって損金にできるかどうかが決まります。国や地方公共団体への寄付であれば、基本的に全額が損金算入の対象となり、損金算入されます。
一方、その他の法人や団体への寄付は「一般寄付金」として扱われ、資本金や所得金額に応じた損金算入限度額までしか損金算入が認められません。超過分は課税所得が加算され、法人税の負担が増加します。
また、寄付の内容によっては、交際費や広告宣伝費として処理したほうが適切な場合もあり、税務上の取り扱いが変わる点にも注意が必要です。
個人が寄付を行った場合の仕訳方法
個人事業主が寄付金を行った場合は、経費として計上できません。「事業主貸」として仕訳するのが基本です。ただし、一定の条件を満たせば所得控除や税額控除を受けられます。対象となるのは、主に以下の団体への寄付です。
- 国や地方公共団体
- 認定NPO法人
- 特定公益増進法人
【仕訳例】
特定非営利活動法人に10,000円を寄付した場合、以下のような仕訳となります。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
事業主貸 | 10,000円 | 現金(もしくは預貯金) | 10,000円 |
寄付先の受領証明書を確定申告で提出することで、寄附金控除が適用されます。これにより、支払う税金が軽減されるため、節税効果も期待できるでしょう。ただし、寄付金の種類や金額によって控除の範囲や控除率が異なる点には注意が必要です。
確定申告の際は、控除要件や必要書類を漏れなくチェックしましょう。また、ふるさと納税は寄付金控除(所得控除・住民税控除)の対象です。経費にはなりませんが、確定申告で控除を受けられます。
寄付金に対する課税について
寄付金に関する課税の取り扱いは、法人・個人によって異なるだけでなく、寄付の内容や寄付先によっても変わります。消費税の課税対象になるケースや、贈与税との違いなど、正しい知識を身につけましょう。
寄付金と消費税の関係
寄付金は、対価を伴わない無償の支払であるため、原則として消費税の課税対象外です。見返りが一切ない場合、寄付金は不課税扱いとなります。
一方で、広告掲載などの見返りを受け取る「協賛金」のようなケースでは、課税対象となり消費税が発生します。この場合、正しく消費税の計算をする必要がある点に注意が必要です。
寄付金と消費税の取扱いには細かな要件があるため、不課税対象・課税対象となるものそれぞれの違いについて適切な知識をつけましょう。
「贈与」と「寄付金」税務上の違い
寄付金と似た行為に「贈与」がありますが、原則として個人間の贈与には贈与税が課されます。一方で寄付金は、非営利団体や公益団体への支払であれば贈与税が非課税となる可能性があります。
ただし、個人間や親族間で財産を無償譲渡し、契約や合意がある場合には贈与税が発生し、課税対象となるので注意が必要です。贈与と寄付金は税務上の取り扱いが異なるため、状況に応じて正しく区別し、必要な申告や手続きを行いましょう。
寄付金にまつわるよくある質問
寄付金に関して、課税の有無や仕訳方法、税務上の取り扱いについて疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。ここでは、寄付金に関するよくある質問をまとめました。
Q1. 寄付金として認められる支出にはどのようなものがありますか?
A1. 認定NPO法人や地方公共団体への寄付、学校法人や社会福祉法人への寄付など、法律で定められた団体や目的に対する支出が「寄付金」として認められます。取引先や個人への贈り物や贈答などは寄付金としてみなされず、取り扱いが異なるため注意しましょう。
Q2. 法人が寄付金を支出した場合、損金算入限度額はどう計算しますか?
A2.寄付金を損金算入できる金額には上限があり、種類によって計算方法が異なるため注意が必要です。
【一般寄付金の場合】
損金算入限度額は、次の式で計算します。
(資本金等の額 × 当期の月数 ÷ 12 × 0.25% + 所得金額 × 2.5%) × 1/4
【特定公益増進法人等への寄付金の場合】
損金算入限度額は、次の式で計算します。
資本金等の額 × 当期の月数 ÷ 12 × 0.375% + 所得金額 × 6.25%) × 1/2
「資本金等の額」は、「期末の資本金の額および資本準備金の額の合計額または出資金の額」です。
限度額を超える部分は損金にならないため、正確な計算が重要です。税務署や国税庁の公式サイトで最新の計算式や要件を必ず確認してください。
参考:No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算|国税庁
Q3. 個人が寄付を行った場合、どのような税制優遇が受けられますか?
A3. 個人が国、地方公共団体、認定NPO法人などに寄付した場合、「寄付金控除」や「税額控除」を受けられます。適用を受けるためには、領収書や証明書を保管し、確定申告の際に提出しなければなりません。
関連記事:寄付金が税金対策になる?寄付金控除の仕組みや対象について解説
まとめ
寄付金に対する税金の扱いは、法人や個人、寄付先、目的によって大きく異なります。法人の場合、国や地方公共団体人への寄付は、一定の要件を満たせば全額を損金算入でき、課税所得の軽減につながります。
一方、一般団体や法人への寄付については損金算入の上限があり、超過分は損金と認められず税負担が増加するので注意が必要です。
個人の場合は、認定NPO法人や自治体への寄付で「所得控除」や「税額控除」が適用されます。確定申告の際は、寄付先からの証明書の提出が必須です。
また、寄付金は基本的に消費税の課税対象外ですが、協賛金など見返りがある支出は課税対象となることもあります。寄付を行った際に誤った処理をすると、税務調査時の指摘や税負担増加のリスクにつながります。
寄付金に関する税務処理はルールが細かいため、ミスを防ぐためにも税理士などの専門家へ相談しながら進めるのが安心です。