事業者を取り巻く税制度のなかでも、「事業所税」と「事業税」は名前が似ており、混同しやすい税目のひとつでしょう。特に、どちらが自社に適用されるのか判断に迷いやすく、申告や納付の誤りが思わぬリスクに繋がる可能性もあります。本記事では、「事業所税」と「事業税」の制度的な違いや確認のポイントをわかりやすく整理して解説します。
目次
事業所税と事業税の違いとは
「事業所税」と「事業税」は、どちらも地方税でありながら、課税主体や課税対象、申告・納付の方法まで異なります。名称が似ているため混同されやすいですが、両者の仕組みを正しく理解することは、実務上非常に重要です。
項目 | 事業所税 | 事業税 |
課税主体 | 市区町村(主に政令指定都市) | 都道府県 |
課税対象 | 延べ床面積(資産割) 人件費(従業者割) | 所得(法人・個人)、付加価値など |
納税義務者 | 法人、個人事業主(一定条件を満たす場合) | 法人、個人事業主(営利性のある事業者) |
対象地域 | 政令指定都市など限定された自治体 | 全国(すべての都道府県) |
計算方式の例 | 床面積 × 単価 人件費 × 税率 | 所得 × 税率 (外形標準課税を含む場合も) |
申告・納付時期 | 自治体が定める期日(決算後2ヵ月が一般的) | 法人税・所得税と同様の時期(通常は決算後2ヵ月以内) |
申告・納付方法 | 自己申告方式(各自治体への直接申告) | 確定申告書等により他の税と合わせて申告 |
事業所税について
事業所税は、都市部のインフラや行政サービスの費用をまかなう目的で、政令指定都市など一部の市区町村が独自に課している地方税です。全国共通の制度ではなく、東京23区、横浜市、大阪市など限られた地域でのみ導入されています。
課税方式は、事業所の延べ床面積に基づく「資産割」と、人件費総額に基づく「従業者割」の2つがあり、対象となるのは、一定規模以上の法人または個人事業主で、規模が小さい事業者は非課税となる場合もあるので留意しておきましょう。
申告は自己申告方式で、各自治体が定める申告書を使用して行います。
ポイント
- 課税主体は政令指定都市などの市区町村
- 延べ床面積と人件費に基づいて課税(資産割・従業者割)
- 全国一律の制度ではなく、地域限定の税制
- 自治体の指示に従って自己申告が必要
- 申告・納付期限は自治体により異なるため、事前確認が必須
事業税について
事業税は、法人や個人が営利目的で行う事業から得られる所得に対して、全国すべての都道府県が課税する地方税です。法人には「法人事業税」、個人には「個人事業税」として課税され、法人税や所得税とあわせて申告・納付するのが一般的です。
法人の場合は、所得に応じた税率が適用され、さらに資本金が1億円を超えるような大規模法人には、所得に加えて人件費や資本をベースに課税する外形標準課税が適用されるため注意しましょう。
個人事業税は、業種ごとに3〜5%程度の税率が設定されており、一定の所得控除後に課税されます。
ポイント
- 課税主体は都道府県(全国共通)
- 法人・個人ともに対象となる
- 法人は所得に加えて外形標準課税が適用される場合もある
- 個人は対象業種ごとに3〜5%の税率
- 法人税・所得税の確定申告と同時に申告・納付
関連記事:東京都の法人事業税率はいくら?計算方法と納税方法について
事業所税・事業税の違いで注意すべき5つのポイント
事業所税と事業税は、制度や課税根拠が異なるため、実務上の取り扱いにも注意が必要です。混同によるミスや見落としを防ぐために、注意すべき以下5つのポイントについて解説します。
- 対象地域の違いに注意する
- 計算対象の違いを把握する
- 免税点や非課税要件を確認する
- 課税の二重計上に注意する
- 制度改正・地域差を定期的に確認する
対象地域の違いに注意する
事業所税は全国共通の制度ではなく、東京23区や大阪市、横浜市など一部の自治体でのみ導入されています。そのため、事業所が政令指定都市にある場合のみ課税対象となり、それ以外の地域ではそもそも事業所税が発生しません。
一方で、事業税は全国すべての都道府県において課税されるため、所在地にかかわらず原則として対象となります。
複数拠点を持つ企業では、拠点ごとに課税される税目の有無を把握しておくことが重要です。特に新規出店や事業所移転時には、対象地域であるかの確認を怠らないよう注意しましょう。
計算対象の違いを把握する
事業所税と事業税では、課税対象となる基準が異なります。事業所税は「資産割」として延べ床面積、「従業者割」として人件費に課税されるのに対し、事業税は所得額や付加価値に基づいて課税されます。
そのため、使用する財務データも異なり、経理処理や会計処理の方法も分けて考える必要があるため注意しましょう。
両税を混同してしまうと、申告内容に齟齬が生じたり、集計方法を誤ったりする恐れがあります。正確な税額計算のためには、各税ごとに対象となる数値を明確に区別し、帳簿上でも別管理を行うようにしましょう。
免税点や非課税要件を確認する
事業所税と事業税には、それぞれ免税点や非課税の条件が設けられています。
事業所税の場合、多くの自治体で延べ床面積が1,000㎡以下であれば「資産割」は非課税となり、人件費についても従業者数が100人以下の場合は「従業者割」がかからないといった免除条件があります。
一方、事業税では、個人事業主に対して年間290万円の所得控除が設けられており、それを下回る場合は課税対象外となります。また、対象業種によっても課税されないケースがあるので注意しましょう。
こうした免税制度を正しく理解していないと、本来不要な税金を申告してしまうリスクがあるため、事前の確認が必須です。
課税の二重計上に注意する
事業所税と事業税は、それぞれ異なる課税主体(市区町村と都道府県)から課されるため、同一の法人や事業者に対して両方が同時に課税される可能性があるでしょう。
例えば、東京都23区に事業所を持つ法人の場合、「事業所税(区)」と「法人事業税(都)」の両方を納付する必要が生じます。
これは二重課税ではなく制度上認められているものですが、納税者がそれぞれの制度を理解していないと、一方の申告漏れや納付忘れが発生しやすくなります。
税務リスクを防ぐために、自治体・都道府県ごとの税務スケジュールと対応範囲を正確に把握しておきましょう。
制度改正・地域差を定期的に確認する
事業所税は各自治体が条例に基づいて独自に運用しているため、税率や免税点、課税方式の変更が行われることがあります。例えば、新たに導入される自治体が増えたり、税率が引き上げられるケースがあるでしょう。
一方、事業税についても、法人税制の改正に連動して外形標準課税の範囲が拡大されたり、税率が見直されたりすることがあります。こうした変更に気づかず従来通りの処理を続けてしまうと、申告ミスや過少申告の原因になりかねません。
毎年の税制改正情報や自治体発行の課税要領を定期的に確認し、必要に応じて専門家のサポートを受ける体制を整えておくことが大切です。
事業所税・事業税の対象かどうかを見極めるポイント
事業所税や事業税は、すべての事業者に自動的に課されるわけではありません。
税目ごとに対象地域や適用条件が異なるため、自社が課税対象となるかどうかを事前に確認しておくことが重要です。所在地、業種、事業規模などを基準に判断し、不要な申告や納税を避けるための基本的なチェックポイントを押さえておきましょう。
事業所税の対象かどうかを確認する方法
事業所税は、全国すべての自治体で課されているわけではなく、主に政令指定都市などの一部都市に事業所を有する場合にのみ課税対象となります。
また、対象となるには一定の規模要件も満たす必要があります。例えば、延べ床面積が1,000㎡超であることや、従業者数が100人を超えていることが挙げられます。
これらの要件は自治体ごとに異なるため、自社の事業所が所在する自治体の条例や課税要綱を確認するようにしましょう。特に本社と支店が異なる地域にある企業では、拠点ごとの取り扱いに差が生じるため、個別の判断が求められます。
確認ポイント
- 本社・支店の所在地が政令指定都市であるか
- 延べ床面積が1,000㎡超であるか
- 従業者数が100人を超えているか
- 自治体ごとの免税点や課税条件を条例で確認すること
事業税の対象かどうかを確認する方法
事業税は、全国すべての都道府県で課税されるため、多くの法人・個人事業主が対象となります。ただし、対象の有無は業種や所得金額、法人の規模によって左右されるので注意しましょう。
法人であれば原則として所得が発生している限り課税対象となりますが、個人事業主の場合は、地方税法で定められた約70業種に該当し、かつ所得が年間290万円を超える場合に課税されます。
また、法人の中でも資本金1億円超の大企業は外形標準課税の対象となり、所得以外にも付加価値や資本額に応じた課税が行われます。自身の事業形態と収益状況をもとに、課税対象かどうかを適切に判断しましょう。
確認ポイント
- 法人であれば、所得が発生しているかどうか
- 個人事業主であれば、対象業種(約70業種)に該当するか
- 年間所得が非課税基準(例:290万円)を超えているか
- 法人が外形標準課税の対象となる規模(資本金1億円超など)か
事業所税・事業税の違いでお悩みの方は専門家に相談
事業所税と事業税は、名前が似ているだけでなく、申告や納付のタイミングも重なるため、実務上で混乱しやすいです。地域や事業形態によって課税の有無が変わるため、正しく判断するのが難しい場面もあるでしょう。
自社がどちらの税の対象か分からない場合や、拠点ごとに課税制度が異なって処理を統一できない場合、さらには課税ミスによる追徴課税を避けたいときには、専門家に相談することをおすすめします。
小谷野税理士法人は、地方税を含めた法人税務に精通したプロフェッショナルです。事業所税・事業税の適用判断から、申告・節税対策まで、地域差を踏まえた的確な支援が可能ですので、事業所ごとの課税対応にお悩みの方はぜひ一度ご相談ください。