建設業を営むうえで欠かせないのが「事業区分」の正しい理解です。特に簡易課税制度を適用する場合、事業内容に応じた正確な区分が求められ、誤った判断は消費税の申告ミスや税務リスクにつながるおそれがあります。本記事では、建設業における代表的な事業区分の種類や判断基準、そして簡易課税制度の申請要件と手続き、注意点を解説します。建設業における事業区分の判断でお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
目次
簡易課税制度には事業区分が必要
簡易課税制度は事業者の選択により、売上げに係る消費税額を基礎として仕入れに係る消費税額を算出することができる制度です。中小事業者の納税事務負担に配慮する観点から、本制度が発足されました。
また簡易課税制度では、事業の形態に応じて第1種から第6種までの6つの事業に区分されます。それぞれの事業の課税売上高に対し国が定めたみなし仕入率を適用して、仕入れにかかった消費税額(仕入控除税額)を計算します。
建設業の事業区分
建設業における消費税の簡易課税の事業区分は、原則として第3種事業に分類されます。具体的には、以下のような事業は第3種事業に含まれます。
- 一般的な土木・建築工事業や建築リフォーム業などの総合工事業
- 大工工事業、鉄筋・鉄骨工事業、左官工事業などの職別工事業
- 電気工事業、管工事業などの設備工事業
ただし、建設業であっても、状況によっては第4種事業や第5種事業に該当するケースもありますので注意が必要です。
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建設業の事業区分が第4種事業扱いとなるケース
ただし、以下のケースでは第4種事業扱いとなるケースがあります。
- 他の事業者から主要な原材料の無償提供を受けて工事の一部を行う場合
- 自社で工事用資材を持たずに他の業者の工事を手伝うといった「人的役務の提供」にあたる場合
また、原材料を無償支給されて行う修繕に関しても、第3種ではなく第4種に分類されます。また、一時的に人手を提供する「人工仕事」や、原材料の支給を受けて修繕を行う場合に関しても注意が必要です。
この場合もし普段の業務が第3種事業に該当していても、第4種事業として区別して計算する必要があります。
さらに職別工事業の中でも、とび工事業や解体工事業は原則の第3種ではなく第4種事業となる可能性があるため、混同しないようにしましょう。
建設業における簡易課税の計算方法
建設業における簡易課税の計算方法について、今回は建設業のみの場合の計算方法を紹介します。事業が第3種のみの場合は以下の計算式となります。
仕入控除税額=(課税標準額に対する消費税額-売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額)×みなし仕入率
より分かりやすく説明すると、以下のような手順で計算することになります。
- 実際の売上総額(課税標準額)を計算する
- 売上総額に消費税率を掛けて、売上にかかる消費税額を計算する
- 上記の売上にかかる消費税額から、返金や値引きなどの「売上に係る対価の返還等」に対応する消費税額を差し引く
- 「みなし仕入額」を計算する
- 「みなし仕入額」に消費税率を掛けて、仕入控除税額を求める
- 売上にかかる消費税額から仕入控除税額を差し引いて、納付すべき消費税額を計算する
例えば、売上総額1,000万円の場合の計算式の手順は以下のとおりです。
- 1,000万円×10%=100万円(課税標準額に対する消費税額)
- 1,00万円×70%=70万円(仕入控除税額)
- 100万円−70万円=30万円(納付する消費税額)
簡易課税制度は、小規模事業者が会計処理を容易にするために設けられた制度です。ここでは経費にかかる消費税を差し引く必要がないため、計算がより簡易的になります。
関連記事:簡易課税とは?事業区分や計算方法・メリットとデメリットを解説!
建設業で簡易課税制度を利用するメリット・デメリット
建設業で簡易課税制度を選ぶ際に知っておきたい利点と注意点をご紹介します。
メリット
建設業において簡易課税を選ぶ最大のメリットは、納税事務の負担を大幅に減らせる点にあります。
この制度では、個々の経費にかかる消費税額を細かく計算する必要がありません。売上にかかる消費税額に、定められたみなし仕入率を掛けるだけで済むため、経理処理の手間が大きく省くことができます。
デメリット
この制度では、売上に対して一律の率を適用して課税額を計算するため、実際に支払った経費を直接差し引くことができません。このため、経費が多い場合は実質的な税負担が重くなる可能性があります。
建設業は、資材の仕入れや外注費などで経費や仕入れ額が大きくなりがちな業種です。そのため、実際の経費を反映できる原則課税の方が、結果的に税負担が軽くなるケースが多い傾向にあります。
また、一度簡易課税を選択すると、原則として2年間は原則課税に戻せないという制約もデメリットのひとつです。
建設業におけるインボイス制度の影響
インボイス制度は、建設業に大きな影響を与えています。この制度があなたの会社にどう関係するかは、あなたが「免税事業者」か「課税事業者」かによって大きく変わってきます。それぞれのパターンで詳しく見ていきましょう。
免税事業者(基準期間の課税売上高1,000万円以下)への影響
この場合はインボイス制度が始まっても、直接納める消費税額は変わりません。建設業界では、一人親方の多くがこのケースに当てはまるでしょう。
しかし企業の取引先は、請求書がインボイスの要件を満たしていないと、仕入れにかかった消費税を差し引くことができません。
このため、取引先からインボイス発行事業者への登録を求められたり、あるいは値下げ交渉をされたりする可能性があります。そして、結果的に売上が減ることにもつながりかねません。
インボイスを発行するためには、課税事業者になる必要があります。そうなると、今まで免除されていた消費税の納税義務が発生し、税負担が増えてしまうでしょう。
課税事業者(基準期間の課税売上高1,000万円超)への影響
この場合は納める消費税額が変わるなど、直接的な影響を受ける可能性があります。課税事業者は、インボイス制度開始に伴い、主に次の3つの対応が必要です。
- 税額計算への対応
- 保管資料への対応
- 売上先の顧客への対応
ただし、ここでは簡易課税と原則課税のどちらを選択しているかで、具体的な対応は異なります。
簡易課税を選択した場合は特別な対応はほとんどないため、通常通りみなし仕入率を使って消費税額を計算して納税します。しかし、将来的に原則課税に切り替える可能性も考慮し、材料の仕入れ先や外注先がインボイス登録済みか確認しておきましょう。
原則課税を選んでいる場合は「税額計算への対応」と「保管資料への対応」が重要になります。具体的には、材料の仕入れ先や外注先から、インボイスの要件を満たした「適格請求書」を発行してもらう必要があります。
受け取った請求書やレシート、そして領収書がインボイスの要件を満たしているかを確認しておきましょう。もしインボイスを発行してもらえないと、仕入れにかかった消費税を売上にかかる消費税から差し引けません。その結果、消費税の納税額が増えてしまいます。
もし仕入れ先がインボイス登録をしていない場合、仕入税額控除を行うために登録を要請するのが望ましいです。あるいは仕入れ先を見直すといった対応が必要になるでしょう。
関連記事:【税理士監修】インボイス制度について「よくある質問」を図解でわかりやすく解説!
簡易課税制度の申請要件と手続き
簡易課税制度を利用するには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
- 基準期間における課税売上高が5,000万円以下であること
- 「消費税簡易課税制度選択届出書」を事前に提出していること
簡易課税を適用したい期間の2年前(法人なら前々事業年度、個人事業主なら前々年)を「基準期間」と呼びます。この基準期間における「課税売上高」(消費税が課税される取引の売上高)が5,000万円以下である必要があります。
基準期間の課税売上高を算出する際は、売上全体から非課税取引と不課税取引を除外して計算するのが一般的です。
また消費税簡易課税制度選択届出書は、適用を受けたい会計期間の初日の前日までに所轄の税務署へ提出しなければなりません。ただし、事業を始めた初年度であれば、その会計期間中に提出することで要件を満たせます。
簡易課税制度の注意点
簡易課税制度を適用するかどうかは、慎重に判断する必要があります。原則課税を選んでいれば、預かった消費税よりも仕入れた消費税の方が多い場合、その差額は還付されます。
しかし簡易課税の場合、常に預かった消費税をもとに納税額が決まるため、必ず消費税を納める義務が発生します。そのため、例えば簡易課税を適用する年に大きな設備投資などで多額の経費がかかると、消費税を「払い損」になることがあります。
また原則課税の期間中に高額特定資産を取得すると、その資産を取得した年度の初日から3年間は簡易課税制度へ切り替えられません。すでに簡易課税を選んでいる場合はそのまま適用されますが、それでも3年間は強制的に課税事業者となります。
このような制約もあるため、簡易課税事業者になるかどうかは、短期的な視点だけでなく、中長期的な事業計画も踏まえて検討することをおすすめします。
関連記事:【税理士監修】簡易課税とは?メリット・注意点や計算方法を解説
まとめ
建設業における事業区分は、簡易課税制度を利用する際の適用税率を左右する重要な要素です。賃貸・売買・管理・開発など、業務内容によって区分が細かく異なるため、税務処理や帳簿管理にあたっては慎重な判断が求められます。
誤った区分で申告を行うと、後々の修正申告や追徴課税といったリスクも生じます。税務上のトラブルを回避して正確に経理処理を行うためにも、不明点がある場合は専門家である税理士への相談をおすすめします。