飲食店を営むうえで欠かせないのが「事業区分」の正しい理解です。特に簡易課税制度を適用する場合、事業内容に応じた正確な区分が求められ、誤った判断は消費税の申告ミスや税務リスクにつながるおそれがあります。本記事では、飲食店における代表的な事業区分の種類や判断基準、区分ごとの税務上の取扱いについて詳しく解説します。
目次
簡易課税制度には事業区分が必要
簡易課税制度は事業者の選択により、売上に係る消費税額を基礎として仕入れに係る消費税額を算出することができる制度です。中小事業者の納税事務負担に配慮する観点から、本制度が発足しました。
簡易課税制度では、事業の形態に応じて第1種から第6種までの6つの事業に区分されます。それぞれの事業の課税売上高に対し国が定めたみなし仕入率を適用して、仕入れにかかった消費税額(仕入控除税額)を計算します。
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飲食店の事業区分
飲食店の簡易課税事業区分は、原則として第4種事業に分類されます。ただし、小売、出前、旅館での飲食など、提供方法によっては異なる区分になるので注意が必要です。
飲食店が行う食品の小売販売
自社で製造したパンやケーキなどを販売する場合は第3種事業に該当します。街のパン屋さんをイメージすると分かりやすいでしょう。食品製造小売業者が店内のカフェスペースで飲食させる場合は「飲食業」とみなされ、第4種事業になります。
また、他から仕入れた食品を加工せずテイクアウト販売する場合は第2種事業(小売業)扱いです。自社製造のパン屋が直接販売する場合は第3種となります。しかし、店内飲食する場合は第4種に変わります。
デリバリーや出前
飲食設備がある飲食店が行う出前やデリバリーは第4種事業に該当します。ただし飲食設備がないデリバリー専門店は自社で製造・配達するため、製造小売業扱いとなり第3種事業になるので要注意です。例えば、ピザの宅配専門店などがこれにあたります。
民宿や旅館が行う飲食
民宿などが宿泊とセットで食事を提供する場合、一般的なケースでは宿泊サービスの一部とみなされ、全体として第5種事業に該当します。
また宿泊費とは別に飲食代を明確に請求する場合、この飲食代の部分は第4種事業として扱われます。旅館に併設されたレストランで、宿泊とは別に飲食代を支払うケースなどが該当するので覚えておきましょう。
飲食店経営では簡易課税と本則課税のどちらを選ぶべき?
それでは、飲食店経営者は簡易課税と原則課税のどちらを選ぶべきなのでしょうか?これは、飲食店の経営状況によって判断が異なります。どちらを選ぶべきかについては、以下の点を考慮して選択しましょう。
- 売上規模
- 利益率
- 事務負担
- 将来の成長計画
- 設備投資の予定
まず大前提として、簡易課税を選べるのは基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者に限られます。
この条件を満たす場合、次に着目すべきは利益率です。もし売上から人件費や減価償却費を除いた経費が売上の60%を超えるなら、原則課税の方が税金面で有利になるかもしれません。
また、事務負担の観点から選択するのもひとつの方法です。簡易課税は記帳の手間が少ないため、中小規模の飲食店に適しています。
しかし、将来的に売上が大きく伸びると見込まれる場合は、いずれ原則課税に移行する必要が出てきます。その手間を考えると、早い段階から原則課税を選択しておく方がスムーズかもしれません。
さらに今後、大型の設備導入を予定しているケースも想定してみましょう。この場合であれば、原則課税を選択しておけばその仕入れにかかった消費税を控除できる(仕入税額控除)可能性があります。
これらの要素を適切に判断するためには、税理士などの専門家に相談するのが最も確実です。あなたの経営状況や将来の計画に合わせて、最適な納税方法を選びましょう。
関連記事:簡易課税・原則課税はどっちがお得?損しないために知っておきたいポイント
簡易課税制度における消費税の計算方法
簡易課税制度を使った消費税の計算は非常にシンプルです。納める税額は、以下の計算式で求められます。
納付税額 = 売上にかかる消費税額 − (売上にかかる消費税額 × みなし仕入率)
具体的な計算の流れは次の通りです。
- 売上にかかった消費税の総額を計算する
- その売上にかかった消費税額に、あなたの事業の「みなし仕入率」を掛け合わせて、「仕入控除税額」を出す
- 1で計算した売上にかかる消費税額から、2で計算した仕入控除税額を差し引く
この手順で計算すれば、実際に納める消費税額が分かります。
関連記事:消費税の簡易課税方式はどうやって節税する?基礎知識や節税のポイントを解説
簡易課税制度の申請要件と手続き
簡易課税制度を利用するには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
- 基準期間における課税売上高が5,000万円以下であること
- 「消費税簡易課税制度選択届出書」を事前に提出していること
簡易課税を適用したい期間の2年前(法人なら前々事業年度、個人事業主なら前々年)を「基準期間」と呼びます。この基準期間における「課税売上高」(消費税が課税される取引の売上高)が5,000万円以下である必要があります。
基準期間の課税売上高を算出する際は、売上全体から非課税取引と不課税取引を除外して計算するのが一般的です。
また消費税簡易課税制度選択届出書は、適用を受けたい会計期間の初日の前日までに所轄の税務署へ提出しなければなりません。ただし、事業を始めた初年度であれば、その会計期間中に提出することで要件を満たせます。
簡易課税制度の注意点
簡易課税制度を適用するかどうかは、慎重に判断する必要があります。原則課税を選んでいれば、預かった消費税よりも仕入れた消費税の方が多い場合、その差額は還付されます。
しかし簡易課税の場合、常に預かった消費税をもとに納税額が決まるため、必ず消費税を納める義務が発生します。そのため例えば簡易課税を適用する年に大きな設備投資などで多額の経費がかかると、消費税を「払い損」になることがあります。
また原則課税の期間中に高額特定資産を取得すると、その資産を取得した年度の初日から3年間は簡易課税制度へ切り替えられません。すでに簡易課税を選んでいる場合はそのまま適用されますが、それでも3年間は強制的に課税事業者となります。
簡易課税事業者になるかどうかは短期的な視点だけでなく、中長期的な事業計画も踏まえて検討することをおすすめします。
関連記事:【税理士監修】簡易課税とは?メリット・注意点や計算方法を解説
飲食店の事業区分に関するよくある質問
最後に飲食店の事業区分に関するよくある質問をまとめたので、こちらも合わせてご確認ください。
オンライン注文アプリを使用した配達の場合の事業区分は?
ウーバーイーツや出前館といったオンラインフードデリバリーサービスを利用して配達する場合は、第3種または第4種事業に該当します。
例えば、店舗内に飲食スペースを設けず、自己で製造した飲食物を宅配専用で販売している場合は第3種に区分されます。オンライン注文アプリを利用した際も、この考え方が適用されるので、覚えておきましょう。
持ち帰りの事業区分は?
飲食店が自ら製造した料理を持ち帰り用に販売する場合、店内に飲食設備があるかどうかは関係ありません。
その取引はすべて製造業に該当し、簡易課税制度上は第三種事業として扱われます。また飲食料品のテイクアウト販売については、軽減税率の対象となるため、消費税率は原則として軽減税率の8%が適用されます。
まとめ
消費税の正確な申告と納税をするためには、飲食店経営における簡易課税制度の事業区分を正しく理解する必要があります。原則として飲食店は第4種事業に該当しますが、持ち帰りやデリバリーなどによって別の区分にも分類されます。
また簡易課税は基準期間の課税売上高5,000万円以下の事業者が対象で、事前の届出が必要です。納税額は売上に対するみなし仕入率を用いて算出しますが、設備投資時などは原則課税の方が有利な場合もあります。
誤った区分で申告を行えば、修正申告や追徴課税のリスクも伴います。不明点がある場合は、税理士など専門家へ相談するのがおすすめです。簡易課税制度や事業区分の判断でお困りごとがあれば、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。