寄付を通じて社会貢献をしながら、税金の負担も軽くできる「寄付金控除」は、個人と法人のどちらにも認められていますが、実はその仕組みや適用範囲には違いがあります。対象となる寄付先や控除の方法を誤解していると、本来受けられるはずのメリットを逃してしまう可能性もあるでしょう。本記事では、寄付金控除の基本を押さえたうえで、個人と法人の違いを整理しながら、制度を正しく活用するためのポイントを解説します。
目次
寄付金控除とは?
寄付金控除とは、特定の団体に寄付を行った際に税負担が軽減される税制上の優遇制度です。社会貢献としての寄付が、一定の要件を満たすことで所得税や法人税の軽減に繋がるため、個人・法人を問わず注目されています。
ただし、すべての寄付が対象になるわけではなく、寄付先や申告方法などに明確なルールがあるので注意しましょう。また、控除の仕組みも個人と法人で異なるため、制度を正しく理解したうえで活用することが重要です。
関連記事:寄付金が税金対策になる?寄付金控除の仕組みや対象について解説
個人と法人における寄付金控除の違い
個人と法人では、寄付をした際の税金の控除方法が異なります。個人は、「所得控除」や「税額控除」を使って、所得税や住民税の金額を直接または間接的に減らします。
一方、法人は、寄付金を経費(損金)として処理し、課税対象となる所得を小さくすることで、法人税の負担を抑えます。
以下で、個人と法人それぞれの寄付金控除の内容や違いについて詳しく解説します。
個人が受けられる寄付金控除
項目 | 内容 |
控除の種類 | 所得控除または税額控除(選択制) |
対象となる寄付先 | 国・地方公共団体、認定NPO法人、公益法人など |
控除の上限 | 総所得金額等の40%まで(控除額には別途上限あり) |
控除率(税額控除) | 所得税最大40%、住民税最大10%(寄付額から2,000円差し引いた金額に対する割合) |
必要な手続き | 確定申告・寄付金受領証明書の提出 |
個人が受けられる寄付金控除には、「所得控除」と「税額控除」の2つの方式があります。いずれも確定申告が必要ですが、税金の軽減方法に違いがあります。
所得控除は、寄付金額を所得から差し引くことで、課税対象となる所得自体を減らす仕組みです。
税額控除は、寄付金額に応じて計算された金額を、算出された所得税・住民税から直接差し引きできます。
特に税額控除では、所得税や住民税から直接控除されるため、要件を満たせば大きな節税効果が期待できるでしょう。
対象となるのは、国・地方公共団体、認定NPO法人、公益法人など、法律で定められた特定の団体への寄付です。
控除を受けるためには、確定申告を行い、寄付金受領証明書を提出または保管しておく必要があります。ふるさと納税もこの制度の一環として活用されており、多くの人に広く利用されています。
参考:No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)|国税庁
法人が受けられる寄付金控除
項目 | 内容 |
控除の種類 | 損金算入(寄付金の一部または全部を経費として計上) |
対象となる寄付先 | 国・地方公共団体、認定NPO法人、公益法人など |
控除の上限 | 一般寄付金:限度額あり(計算式による) 特定寄付金:限度額あり(計算式による) 指定寄付金:全額損金算入可 |
必要な手続き | 決算時に経理処理・証憑の保管 |
法人が行う寄付は、法人税の計算上、一定の条件のもとで「損金」として計上できるため、課税所得を減らし法人税の負担を軽減する効果があります。寄付金は「一般寄付金」「特定寄付金」「指定寄付金」に分類され、それぞれ扱いが異なります。
特定寄付金とは、国や地方公共団体への寄付が対象となり、一定の要件を満たせば全額を損金算入することが可能です。例えば、災害義援金や公益活動を支援する目的での寄付がこれにあたるでしょう。
一方の一般寄付金は、寄付先が公益性の要件を満たさない場合などで、損金算入できるのは法令で定められた限度額(資本金と所得をもとに計算)までとなります。限度額を超える金額は損金に含めることができず、税務上は控除の対象外です。
寄付先を誤って判断したり、経理処理に誤りがあると、期待していた税務上の効果が得られない可能性もあるでしょう。寄付の内容に応じて適切に区分し、証憑類を正しく保管することが大切です。
関連記事:損金とは?損金算入・不算入の項目や法人税の計算に必要な損金処理について
参考:No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算|国税庁
寄付金控除を受ける際の5つの注意点
寄付金控除を正しく受けるために押さえておきたい5つの注意点をご紹介します。
- 寄付先が控除対象であるか確認する
- 控除の種類と適用方法を理解する
- 控除の上限に注意する
- 必ず証明書類を入手・保管する
- 確定申告を忘れずに行う
寄付先が控除対象であるか確認する
すべての寄付が税制優遇の対象になるわけではありません。控除を受けるには、個人の場合は国・地方公共団体、認定NPO法人、特定公益増進法人など、法令で定められた団体への寄付である必要があります。
寄付先が控除対象かどうかは、自治体や内閣府などが公表しているリストで確認できるので、寄付を行う前に必ず調べておきましょう。
参考:内閣府NPOホームページ
控除の種類と適用方法を理解する
寄付金控除には複数の方式があり、選び方によって節税効果が大きく変わることがあります。
個人は「所得控除」と「税額控除」のどちらかを選ぶ必要があり、それぞれ仕組みや控除額の計算方法が異なります。
法人の場合は、寄付金が「一般寄付金」「特定寄付金」「指定寄付金」かによって、損金算入の可否や上限が決まります。制度を正しく理解し、自分に合った控除方法を選びましょう。
控除の上限に注意する
寄付金控除には上限があり、すべての寄付金が税金の軽減対象になるわけではありません。個人の場合は、総所得金額等の40%までが控除対象の寄付金額となり、さらに税額控除にも別途上限があります。
法人も資本金や所得に応じた計算式で限度額が決められています。上限を超えた分は控除されないため、事前に試算して無理のない範囲で寄付を行うようにしましょう。
必ず証明書類を入手・保管する
個人が寄付金控除を受けるには、寄付先から発行される「寄付金受領証明書」などの書類が必要です。この証明書がなければ、どんなに正当な寄付でも税務上の控除が受けられない可能性があります。
証明書は確定申告時に提出、または5年間の保管義務があるため、寄付をした際には必ず入手し、大切に保管しておきましょう。インターネット寄付などの場合も、証明書の発行有無を確認しておくと安心です。
確定申告を忘れずに行う
寄付金控除を適用するには、確定申告を行う必要があります。会社員などで年末調整をしている人も、寄付金控除については別途申告しなければ適用されません。
申告期限を過ぎると控除が受けられず、せっかくの節税効果を逃してしまうことになります。寄付を行った翌年の申告期間をあらかじめ確認し、必要書類を準備して忘れずに手続きしましょう。
寄付金控除の活用でよくある質問
以下に、寄付金控除に関して多く寄せられる質問とその答えを紹介します。
ふるさと納税も寄付金控除の対象ですか?
はい、ふるさと納税は寄付金控除の一種であり、原則として「所得控除」と「税額控除」の組み合わせです。自己負担額2,000円を除く部分について、所得税・住民税が軽減されます。
手続きが簡単な「ワンストップ特例制度」もありますが、条件を満たさない場合は確定申告を行いましょう。寄付先や金額によって控除額が異なるため、確認してから利用することをおすすめします。
関連記事:【税理士監修】寄付金控除の上限はいくらまで?ふるさと納税を含めて説明
どんなNPO法人でも控除対象になりますか?
いいえ、寄付金控除の対象となるのは「認定NPO法人」等に限られます。認定を受けていない一般のNPO法人への寄付は、控除の対象外となるため注意しましょう。
認定NPO法人かどうかは、内閣府の認定リストや各団体のホームページで確認できます。寄付前に認定状況を調べておくことで、控除の可否を見落とさずに済みます。
住民税にも寄付金控除はありますか?
はい、寄付先が条例指定された団体であれば、住民税の控除も受けられます。特にふるさと納税では、所得税と住民税の両方が軽減される仕組みです。
ただし、住民税の控除には自治体ごとの上限があり、控除額の計算も複雑なため、控除明細や証明書を確認し、事前に自治体の案内にも目を通すようにしましょう。
確定申告を忘れてしまったら控除できませんか?
原則として、確定申告をしなければ寄付金控除は受けられません。ただし、申告期限後5年以内であれば「更正の請求」や「還付申告」が可能なケースもあります。
寄付した証明書を保管していれば、後から申告して控除を適用できる場合がありますので、まずは税務署や税理士に相談してみると良いでしょう。
医療費控除や住宅ローン控除と併用できますか?
はい、寄付金控除は医療費控除や住宅ローン控除など、他の所得控除や税額控除と併用が可能です。
ただし、全体としての控除額には所得に応じた限度があるため、併用によってすべてが満額で適用されないケースもあります。年末に向けて各種控除のシミュレーションをしておくと、最も効果的な組み合わせを把握できるでしょう。
寄付金控除の活用方法でお悩みの方は専門家に相談
寄付金控除の制度は、個人と法人で仕組みや控除方法が異なり、複雑に感じることも少なくありません。特に、どの寄付が対象になるのか、どちらの控除方法を選ぶべきかといった点で迷う方も多いでしょう。
そうした場合には、税務の専門家に相談することで、最適な申告方法や控除活用のアドバイスが得られます。小谷野税理士法人では、寄付金控除に関する税務対応はもちろん、寄付金に関わる法人の経理処理や戦略的な節税支援も行っています。