資産管理会社とは、個人が所有する不動産や株式、現金などの資産を一元管理する法人のことを指します。法人化により効率的な資産運用が可能となり、税負担の軽減が期待できます。ただし、資産管理会社の設立や維持にはコストがかかるのに加え、個人で資産を自由に使えなくなるため、設立に際しては専門家にも相談しながら慎重な判断が必要です。資産管理会社の仕組みや設立のメリット・デメリット、設立の流れを解説します。
目次
資産管理会社の基本的な仕組み
資産管理会社は、保有する資産を管理・運用するための法人を指します。効率的な管理により、収益の最大化を目的としているのが特徴です。
法人化により、税負担の軽減が期待できます。法人税の適用を受けられるため、所得税と比較して税率が低く抑えられ、税制面でメリットがあります。
さらに、経営方針や市場状況に応じて資産の売却や購入を柔軟に行えるため、資産運用戦略の効率的な展開も可能です。
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資産管理会社設立のメリット
資産管理会社を設立すれば、社会保険に加入できて保障を充実させられたり、経費計上可能な範囲が増えて、税負担を抑えられたりなど、さまざまなメリットがあります。
また、相続の際の節税や資産分割にも役立つでしょう。資産管理会社を設立するメリットを紹介します。
相続税の節税につながる
資産管理会社の設立により、相続税の節税効果を期待できます。特に不動産を保有している場合、法人名義にすることで不動産は法人の所有になります。個人の財産は株式として評価されるため、不動産そのものよりも資産評価額を低く抑えられる可能性があり、税負担の軽減が可能です。
また、資産管理会社を活用すれば、資産の株式化により将来の資産分割が容易になり、相続手続きをシンプルにできます。
個人資産は登記などの手続きも複雑です。法人化により登記手続きの手間が減らせると相続人間のトラブルが防げて、スムーズな相続手続きにつながるでしょう。
資産管理会社を通じた相続税対策は、長期的に見て賢明な選択と言えます。
社会保険に加入できる
資産管理会社の設立により、社会保険に加入できます。個人事業主の場合は国民健康保険や国民年金への加入が基本ですが、法人化して役員報酬を受け取れば、健康保険や厚生年金への切り替えが可能です。
社会保険に加入できれば、将来受け取る年金額が増えるだけでなく、傷病手当金や出産手当金などの支給など、手厚い保障を受けられます。
さらに、家族を役員として迎え入れた場合も社会保険に加入できるため、家族への生活保障を強化できます。資産管理会社の設立により、相続税などの節税対策を行いつつ、社会保険への加入を通じて保障を充実させられるでしょう。
所得の分散と課税負担の軽減を期待できる
資産管理会社の設立により所得を分散させられれば、税負担の軽減効果を期待できます。
家族や親族を役員や従業員として迎え入れて役員報酬を支給し、オーナーに集中する所得を家族間で分散させて、それぞれが所得控除を受けながら家族全体の税負担を軽くする仕組みです。
さらに、法人税率は個人の所得税率よりも低いことがあるため、法人を通じて資産運用を行う方が資産形成を効率的に進められます。税制を上手に活用すれば、中小企業経営者や個人資産家は効果的な資産管理が可能です。
経費計上可能な範囲が広がる
資産管理会社を設立すれば、経費計上可能な範囲が広がります。個人事業主やサラリーマンに認められる経費は限られており、原則として直接的に事業に関連する費用のみが対象です。
法人を活用すれば、事業活動に必要な間接経費も計上できます。例えば、役員報酬や経営者の日当なども経費として認められます。経費の活用により税負担の軽減が可能です。
また、さまざまな費用を経費計上できれば、経営効率を高められます。サラリーマンで副業や資産運用を行いたいと考えている方にとっても、法人化によって効率的な資産管理を行えて、経営資源の有効活用につながるでしょう。
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資産管理会社設立のデメリット
資産管理会社を設立する際には、デメリットも考慮する必要があります。法人の設立や維持には費用がかかるうえに、一旦法人名義の資産になると個人資産として自由に扱いづらくなります。ここからは、資産管理会社設立によるデメリットを見ていきましょう。
設立費用と維持費用がかかる
資産管理会社を設立する際には、設立費用とその後に発生する維持費用を事前に考慮する必要があります。設立費用としては、以下が挙げられます。
- 登録免許税
- 定款印紙代
- 定款認証手数料
- 会社印の作成費用 など
初期費用は会社の規模や内容に応じて異なり、通常数万円から数十万円の範囲です。
また、法人設立後には維持費用もかかります。維持費用の具体例としては、以下の通りです。
- 法人税
- 社会保険料
- 会計業務や税務申告に伴う費用 など
継続的な支出は資金繰りに直接的な影響を与えるため、注意が必要です。資産管理会社の円滑な運営のためには、コストの全体像を正確に把握しなければなりません。さらに、合併や資産移転など予想外のことが起こった場合には、追加コストが発生するリスクもあります。
設立を検討する段階から細かく財務計画を立てておけば、資金面の問題が生じにくくなり、長期的な安定経営を目指せるでしょう。
会社保有の資産を個人で自由に使えなくなる
資産管理会社を設立すると、会社保有資産の個人的な使用が難しくなります。法人と個人は法的に別の存在と見なされるため、資産の利用には法的手続きが必要です。
例えば、会社名義の不動産や金融資産を個人名義に戻すには、法人と個人間での売買が必要です。役員報酬額を変更するのであれば、会社でその必要性の証明も必要です。
また、税制改正により、法人の資産管理に関するルールが変更される可能性も考慮しなければなりません。急な資金ニーズが生じた際に個人の自由裁量で会社資産を使用できない点は、デメリットとなる可能性があります。
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資産管理会社を設立するためのステップ
資産管理会社の設立には、会社に関する基本事項を決定した後、必要書類を準備して設立登記の申請を行う必要があります。資産管理会社設立のためのステップを詳しく見ていきましょう。
会社に関する基本情報を決定する
資産管理会社を設立する際には、まず会社に関する基本情報を決定しなければなりません。具体的には、会社名や所在地、事業内容、資本金の額などを決める必要があります。会社名にはブランドイメージや理念などを反映し、固有の特徴を持つ名前を選ぶと良いでしょう。
所在地については、利便性やアクセスの良さを考慮することが大切です。適切な所在地の選定により、日常業務の効率向上や取引先対応の円滑化につながります。
また、銀行からの融資を検討していれば、営業エリア内にあるかどうかも重要です。営業エリア内であることが銀行の融資条件に含まれる場合があります。
資本金の額は会社運営の基盤となるため、資産状況を考慮して決定する必要があります。ただし、あまりに少ないと信用が得られず、銀行からの融資が受けられない可能性もあるため、注意が必要です。
すべての基本情報が将来の発展の土台構築につながります。慎重に決定し、資産管理会社設立の準備を進めましょう。
必要書類を準備する
資産管理会社の設立には、書類の準備が必要です。必要な書類は、通常は以下の通りです。
- 定款:法人の基本的な規則を明示した文書
- 登記申請書:会社設立に必要な申請書類
- 役員の就任承諾書:役員就任を承諾したことを証明した書類
- 印鑑証明書:正式な印鑑であることを証明した書類
- 資本金の払込証明書:資本金を払い込んだことを証明した通帳コピーなど
書類を事前に準備すれば、法人設立をスムーズに行えます。
さらに、資産管理会社設立時には、設立費用も必要です。書類を準備する過程で、書類作成費用や登記手数料、その他必要な経費をあらかじめ試算し、計画的な資金準備を行いましょう。すべての書類を見直し、不備がないかを確認した上で、法務局へ提出します。
設立にかかる手続きを行う
必要な書類を揃えたら、設立手続きを行います。法人設立には、登記申請書類を法務局へ提出する登記申請が必要です。申請書類提出後は1〜2週間程度で登記が完了し、正式に法人格を持つ資産管理会社が誕生します。
設立登記が完了したら、税務署や市区町村に開業届を提出します。また、必要に応じて社会保険に関する届出も行いましょう。手続きの過程で不明な点があれば、専門家の助言を受けることで、スムーズかつ確実に手続きを進められます。
設立費用や手続きの詳細についてお困りのことがございましたら、ぜひ「小谷野税理士法人」にお任せください。
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まとめ
資産管理会社とは、個人が所有する資産を効率的に管理・運用するための法人のことを指します。設立にあたっては、メリットやデメリットを理解することが重要です。相続税の節税効果や所得分散のメリットがある一方で、設立費用や維持費用、会社保有の資産を個人で自由に使えないといったデメリットもあります。
資産管理会社の設立には、基本情報を決定してから必要書類を準備して手続きを行います。ステップを踏むことで、法人のメリットを享受できる環境を整えられるでしょう。
資産管理会社の設立は、税負担を減らしながら資産を効果的に運用する有効な手段です。しかし、しっかりとした計画と準備が欠かせないため、専門家の意見を参考にしながら進める必要があります。資産状況や運用方針を踏まえながら、設立を検討しましょう。