社用車を業務で使用する際、どこまで経費として計上できるのか気になる方は多いでしょう。車両の購入費や維持費は経費計上が可能ですが、処理方法を誤ると税務上のリスクが生じることもあるでしょう。特に購入方法や金額、使用目的によって経費計上の扱いが変わるため、正しい知識が必要です。本記事では、社用車の経費計上の基本ルールやポイントを解説し、税務上適切な処理を行うための注意点についてご紹介します。
目次
社用車に関する経費の考え方
社用車を業務で使用する場合、その購入費や維持費を経費として計上できますが、法人と個人事業主では取り扱いが異なる点に注意してください。
法人では、社用車の購入費は資産として計上し、法定耐用年数に基づいて減価償却を行う必要があります。一方、個人事業主も資産として計上が必要ですが、業務利用分のみ経費計上が可能であり、私的利用との区別が求められます。
社用車の経費計上には、適切な処理を行わないと税務調査で否認されるリスクがあるため、明確なルールに基づいた管理を行いましょう。
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社用車の経費はいくらまで認められる?
社用車の経費に明確な上限は定められていませんが、無制限に経費計上できるわけではありません。購入費用は、基本的に減価償却を行い、法定耐用年数に応じて計上します。
業務利用の実態が認められなければ、経費計上が否認される可能性があり、特に高級車の場合は税務調査で厳しく審査されるため、適切な処理が求められるでしょう。
社用車の購入費は減価償却により経費計上可能
社用車の購入費は、一括で経費計上できず、「車両運搬具」として資産計上し、法定耐用年数に基づいて減価償却を行いましょう。例えば、300万円の普通車を購入した場合、耐用年数6年で定額法を適用すると、毎年50万円を減価償却費として計上できます。
減価償却には「定額法」と「定率法」があり、定率法を選択すると初年度に多くの減価償却費を計上できます。
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30万円未満の車・中古車は一括経費計上が可能
ただし、30万円未満の車両は、購入時に全額経費計上できる場合があります。また、中古車は新車に比べて耐用年数が短くなります。
車両の種類 | 経費計上方法 | 注意点 |
30万円未満の車 | 一括で経費計上可能 | 資産計上不要、青色申告者は年間300万円まで適用可 |
法定耐用年数の全部を 経過した中古車 | その法定耐用年数の20パーセントに相当する年数で減価償却 | 短期間で減価償却できる |
法定耐用年数の一部を経過した中古車 | その法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数に経過年数の20パーセントに相当する年数を加えた年数で減価償却 | 耐用年数は短縮されるが新車より長 |
30万円未満の車両は「少額減価償却資産」として扱われ、要件を満たせば購入時に全額経費計上が可能です。また、中古車は新車より耐用年数が短縮され、減価償却期間を短くできます。例えば、法定耐用年数6年の普通車を5年落ちで購入した場合、耐用年数は「6年×20%=1.2年(切上げ2年)」となり、より早く経費計上できます。
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リース・レンタルの社用車は全額経費計上が可能
リース契約の社用車は、毎月のリース料を「車両賃借料」として全額経費計上できます。例えば、会社が月額6万円のリース契約を結んでいる場合、年間72万円(6万円×12ヶ月)を「車両賃借料」として経費計上できます。
ただし、リースの契約形態によって処理方法が異なるため注意しましょう。
リースの種類 | 経費計上方法 | 主な特徴 |
オペレーティングリース | 月々のリース料を「車両賃借料」として全額経費計上 |
|
ファイナンスリース | 資産計上し、減価償却が必要 |
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高級車の購入費は業務利用の証明が必要
高級車を社用車として経費計上する場合、業務利用の証明が求められます。例えば、会社が1,000万円の高級車を役員用に購入した場合、税務調査で「本当に業務で必要なのか?」と厳しくチェックされる可能性があるでしょう。
業務実態が曖昧な場合、役員報酬とみなされ、経費計上が否認されるリスクがあるため注意する必要があります。
具体的には以下のポイントを押さえましょう。
- 業務利用の走行記録を残す(訪問先・距離・使用目的など)
- 社用車と私用車を明確に分ける
- 業務に適した車両を選び、合理的な使用目的を説明できるようにする
社用車の経費に関する勘定科目
社用車に関する経費は、その用途や性質によって異なる勘定科目で処理されます。適切な勘定科目を選ぶことで、正確な経理処理が可能となり、税務上のリスクを回避できます。
勘定科目 | 概要 |
車両運搬具 | 社用車の購入費用を資産計上する際に使用 |
減価償却費 | 購入した社用車の取得費用を毎年分割して経費計上するための科目 |
燃料費 | 業務で使用するガソリン代や軽油、EVの場合は充電費用 |
修繕費 | 車両の修理・メンテナンス費用(車検、オイル交換、タイヤ交換、バッテリー交換など) |
保険料 | 自賠責保険、任意保険、車両保険など、社用車にかかる各種保険料 |
租税公課 | 自動車税、重量税、環境性能割(旧:取得税)などの税金 |
旅費交通費 | 業務利用のレンタカー・カーシェア料金 |
車両賃借料 | リース契約での支払額 |
地代家賃 | 社用車専用の駐車場の賃料 |
正しい勘定科目で処理し、税務上のリスクを避けましょう。
社用車の経費計上の仕訳例
社用車の経費計上について、具体的な仕訳例を挙げながら経費処理の方法について解説します。
社用車を購入した場合の経費計上
社用車を購入した場合、購入費用は一括で経費計上することはできず、「車両運搬具」として資産計上し、法定耐用年数に基づいて減価償却を行います。
普通車は6年、軽自動車は4年の耐用年数が設定されており、定額法や定率法で毎年一定額を経費計上する必要があります。
(1)定額法の場合(耐用年数6年)
例)300万円の普通車を購入し、銀行振込で支払った場合
購入時
借方 | 貸方 | ||
車両運搬具 | 300万円 | 普通預金 | 300万円 |
毎年の減価償却(定額法・6年で均等償却)
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 50万円 | 車両運搬具減価償却費累計額 | 50万円 |
(2)定率法の場合(耐用年数6年・償却率33.3%)
例)300万円の普通車を購入し、銀行振込で支払った場合
耐用年数6年の定率法の償却率は0.333(33.3%)と設定されており、期末の未償却残高の33.3%を毎年経費計上します。
年度 | 減価償却費 | 期末帳簿価額 |
1年目 | 99万9,000円 | 200万1,000円 |
2年目 | 66万6,333円 | 133万4,667円 |
3年目 | 44万4,444円 | 89万223円 |
4年目 | 29万7,330円 | 59万2,893円 |
5年目 | 29万7,330円 | 29万5,563円 |
6年目 | 29万5,562円 | 1円(備忘価額) |
ガソリン代の経費計上
業務で使用したガソリン代は「燃料費」として計上します。ただし、私的利用分がある場合は按分が必要です。
例)毎月のガソリン代5万円を会社のクレジットカードで支払った場合
借方 | 貸方 | ||
燃料費 | 50,000円 | 未払金 | 50,000円 |
翌月クレジットカードの引き落とし時
借方 | 貸方 | ||
未払金 | 50,000円 | 普通預金 | 50,000円 |
車検・メンテナンス費用の経費計上
車検や修理費用は「修繕費」として計上します。ただし、エンジン交換などの大規模修理は資本的支出として資産計上が必要になる場合があるため、内容に応じて適切に処理しましょう。
例)車検費用15万円を現金で支払った場合
借方 | 貸方 | ||
修繕費 | 15万円 | 現金 | 15万円 |
例)オイル交換費用50,000円を銀行振込で支払った場合
借方 | 貸方 | ||
修繕費 | 50,000円 | 普通預金 | 50,000円 |
リース車両の経費計上
リース車両を利用する場合、月額リース料を「車両賃借料」として計上します。ただし、ファイナンスリース契約の場合は「車両運搬具」として資産計上し、減価償却が必要になることがあるため、契約内容を確認しましょう。
例)月額60,000円のリース料を銀行振込で支払った場合
借方 | 貸方 | ||
車両賃借料 | 60,000円 | 普通預金 | 60,000円 |
駐車場代の経費計上
社用車専用の駐車場賃料は「地代家賃」として計上します。ただし、従業員の自宅駐車場代を会社が負担すると給与課税の対象となる可能性があるため注意が必要です。
例)月額15,000円の駐車場賃料を銀行振込で支払った場合
借方 | 貸方 | ||
地代家賃 | 15,000円 | 普通預金 | 15,000円 |
社用車の経費計上に関する5つの注意点
社用車の経費計上には、税務上の注意点がいくつかあります。以下5つのポイントに注意しましょう。
- 業務利用と私的利用の区別を明確にする
- 減価償却のルールを守る
- 高級車の取り扱いに注意する
- リース・レンタルの契約内容を確認する
- 経費計上の証拠を適切に保管する
業務利用と私的利用の区別を明確にする
社用車を私的に使用した分を経費計上すると、税務調査で否認される可能性があります。特に個人事業主は、業務利用と私的利用を明確に区別し、家事按分を行う必要があるので注意しましょう。
例えば、月間走行距離が1,000kmのうち業務利用が700kmなら、70%のみを経費計上し、30%は対象外とする必要があります。走行記録の作成、ETCやガソリンカードの分別、GPSの活用などで業務利用の証拠を残し、公私混同を避けることが重要です。
関連記事:家事按分とは?経費にできる割合や目安、計算方法を解説
減価償却のルールを守る
社用車の購入費用は、一括で経費計上できず、「車両運搬具」として資産計上し、法定耐用年数に基づいて減価償却を行う必要があります。例えば、300万円の普通車を定額法で減価償却すると、年間50万円ずつ6年間経費計上できます。
定率法を選択すると、初年度の経費が大きくなり、税負担を早期に軽減することが可能です。誤った減価償却処理をすると、税務調査で否認されるリスクがあるため、適切な方法で処理しましょう。
高級車の取り扱いに注意する
社用車として高級車を購入すると、税務調査で業務利用の実態を厳しく確認されます。業務上の必要性を証明できない場合、役員の私的利用とみなされ、経費計上が否認されるリスクが高くなります。
業務利用の証拠を残すため、走行記録や業務日報の作成、社内利用規定の整備を行いましょう。また、業務に不相応な車両を選ぶと、税務上問題視される可能性があるため、必要性を十分説明できるように準備することが重要です。
リース・レンタルの契約内容を確認する
社用車をリースやレンタルで利用する場合、契約形態によって経費計上の方法が異なるため、事前に確認しましょう。通常はオペレーティングリースは毎月のリース料を全額経費計上できますが、ファイナンスリースは資産計上し、減価償却が必要です。
契約形態を誤ると、本来資産計上すべきものを経費計上してしまい、税務調査で指摘されるリスクがあります。リース契約書を確認し、正しい経理処理を行いましょう。
経費計上の証拠を適切に保管する
社用車の経費計上には、領収書や請求書の保存が必須です。ガソリン代・修理費・車検費用などの証拠がないと、税務調査で経費として認められない可能性があります。
適切な管理のために、領収書・請求書の電子保存やクラウド管理を活用すると、保管・検索が容易になるでしょう。特に電子帳簿保存法に対応するため、デジタルデータでの保存を推奨します。適切な証拠管理を徹底し、税務リスクを回避しましょう。
社用車の経費計上でお悩みの方は専門家に相談
社用車の経費計上は、減価償却やリース契約の扱い、高級車の取り扱いなど、専門的な知識が必要です。適切に処理しないと税務調査で否認されるリスクがあるため、確実な対応が求められます。
小谷野税理士法人は、法人・個人事業主の経費計上に関する豊富な実績を持ち、税務リスクを抑えながら適切な節税対策を提案できます。社用車の経費計上に関して不安がある方は、ぜひ小谷野税理士法人にご相談ください。