青色申告をしている個人事業主が家族に給与を支払う際、「青色専従者は確定申告が不要になるのでは?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。しかし、確定申告の要否は一律に判断できるものではなく、様々な条件によって異なります。本記事では、青色専従者に関する確定申告の要否を判断するための条件や実務上の注意点について、わかりやすく解説します。
目次
青色専従者とは
青色専従者とは、青色申告をしている個人事業主が、その事業に従事する家族に給与を支払い、それを必要経費として計上するために認められている制度です。ただし、誰にでも適用できるわけではなく、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 青色申告をしている個人事業主の家族であること
- その年の12月31日時点で15歳以上であること
- その年において、6ヶ月を超えて専らその事業に従事していること
- 税務署へ「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出していること
- 支給する給与額が労働の実態に見合った適正な金額であること
これらの条件を満たしていない場合、給与は経費として認められず、青色専従者としても扱われません。
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青色専従者の確定申告が不要なケース
青色専従者は必ずしも確定申告が必要とは限りません。条件を満たせば、確定申告が不要となるケースもあります。
給与収入が年収103万円以下の場合
青色専従者の年間の給与収入が103万円以下であれば、「給与所得控除(55万円)」と「基礎控除(48万円)」の合計である103万円までは所得税がかからないため、確定申告が不要になる可能性があります。
これは、いわゆる「年収103万円の壁」と呼ばれる基準で、多くのケースでこの範囲内なら申告義務が発生しません。ただし、住民税の申告が必要な自治体もあるため、自治体のルールも確認しておきましょう。
給与の支払い主が源泉徴収を行っている場合
青色専従者の給与を支払う事業主が、給与から所得税を差し引いて納付する「源泉徴収」を適切に実施している場合、確定申告の手間が軽減される場合があります。加えて、年末に事業主が年末調整を行い、1年間の税額の過不足を調整していれば、専従者本人が確定申告を行う必要がないケースもあるでしょう。
ただし、年の途中で就労を開始・終了した場合や、別途副業収入がある場合などは、個別の判断が必要です。源泉徴収票は必ず保管し、不足や過剰徴収がないか確認しておきましょう。
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青色専従者の確定申告が必要なケース
一方で、青色専従者であっても、状況によっては確定申告が必要な場合があります。
医療費控除や寄附金控除を受けたい場合
年間で多額の医療費を支払ったり、ふるさと納税や認定NPO法人への寄附を行った場合などの控除制度を利用したいときは、たとえ年収が103万円以下でも確定申告が必要です。
これらの控除は年末調整では反映されないため、自分で申告を行わなければ控除を受けることはできません。医療費の領収書や寄附金の受領証明書など、必要な書類を準備したうえで、確定申告を行うことで税金の還付を受けられます。
他に副業や不動産所得がある場合
青色専従者として給与を受け取っていても、それ以外に副業収入や不動産収入などがある場合には、それらを含めた全体の所得について申告を行う必要があります。例えば、アルバイトやフリーランスとしての収入、親から相続した物件の家賃収入などがある場合、それらが一定額を超えると申告義務が発生します。
特に給与所得以外の所得が20万円を超えると確定申告が必要になるため、すべての収入源を把握し、忘れずに申告しましょう。
年の途中で退職して年末調整を受けていない場合
青色専従者として働いていた方が年の途中で退職し、事業主による年末調整を受けていない場合には、自分で確定申告を行う必要があります。
年末調整は、その年の最終給与支払者が行うものですが、退職によって年末まで在籍していない場合、調整が実施されていない可能性があるため、源泉徴収された税額と実際の納税額を調整するために、確定申告を通じて精算を行いましょう。
青色専従者に給与を支払う際の5つの注意点
青色専従者に給与を支払えば、その分を必要経費として計上できるメリットがありますが、制度の適用にはいくつかの厳格なルールがあります。実際に給与を支給する際に気をつけたい以下5つのポイントについて解説します。
- 青色事業専従者給与の届出が必要
- 就業実態の記録が求められる
- 労働時間や仕事内容に見合った金額にする
- 他の仕事との兼業は制限される
- 支給実績がなければ経費にできない
青色事業専従者給与の届出が必要
青色専従者に給与を支給するには、「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出しておく必要があります。この届出がないと、たとえ家族に給与を支払っていても、その金額は必要経費として認められません。
届出はその年の3月15日までに提出する必要があり、期限を過ぎると当年度は経費計上できなくなります。開業したばかりの場合も、通常は開業日から2ヵ月以内の届出が求められるため、提出タイミングに注意しましょう。
就業実態の記録が求められる
青色専従者として給与を支払うためには、実際に従事していた業務の内容や勤務状況を証明できるよう、日々の就業記録を残しておくことが大切です。例えば、業務日報や出勤簿、シフト表などを作成しておくことで、実態の証拠になるでしょう。
税務調査が入った場合、「実際に働いていた証拠を提示してください」と求められることもあるため、形式的な書類だけでなく、実際の業務の中身が分かるような記録を残しておくようにしましょう。
労働時間や仕事内容に見合った金額にする
青色専従者に支払う給与は、労働時間や仕事内容に見合った適正な金額である必要があります。実際の業務内容と比較して不自然に高額な給与を支払っていると、税務署から「不相当に高い報酬」と判断され、経費として否認される恐れがあります。
反対に、極端に少ない金額も就労実態との整合性を欠くと見なされる可能性もありますので、相場に基づき、同種の業務における適正な水準で金額を設定しましょう。
他の仕事との兼業は制限される
青色専従者は、その名のとおり「専ら事業に従事すること」が制度の大前提です。パートタイムで別の仕事をしていたり、副業として他の事業に関与していた場合、税務署から「専従性が認められない」と判断され、青色専従者としての扱いが無効になることがあるでしょう。
特に、他の雇用先から給与を受け取っている場合や、事業主以外の家族の仕事を手伝っている場合などは要注意です。専従性を示すためにも、勤務時間や日数に一貫性を持たせることが大切です。
支給実績がなければ経費にできない
「届出を出してあるから大丈夫」と思っていても、実際に給与を支払っていなければ、その金額は必要経費として認められません。給与の支払いは実際に行われ、かつその証拠が明確に残っていることが求められます。
例えば、銀行振込による支払い記録や給与明細、源泉徴収簿などがこれに該当します。現金で手渡ししている場合でも、領収書などを保管しておかないと証明が難しくなります。届出と実際の支給の両方が揃ってはじめて、経費計上が可能になる点に留意しておきましょう。
青色専従者の確定申告が不要かどうか迷ったら専門家に相談
青色専従者の確定申告が必要かどうかは、所得状況や控除の有無などによって異なるため、自己判断が難しいケースが多いでしょう。間違った判断によって申告漏れや経費否認といったリスクを避けるためにも、専門家へ相談することをおすすめします。
小谷野税理士法人は、個人事業主の税務に精通した実績豊富な税理士事務所です。確定申告の必要性に不安がある方や、適切な手続きを確認したい方は、ぜひ小谷野税理士法人にご相談ください。