従業員の退職金を支給する際、損金算入のタイミングを正しく理解することが重要です。適切な時期に計上しなければ、税務リスクが発生し、余計な税負担に繋がる可能性もあるでしょう。法人税法のルールに基づいた正しい処理を行うことで、企業の財務健全性を保ちつつ、税務上のメリットを最大限に活用できます。本記事では、従業員退職金の損金算入が認められる条件や時期について解説します。
目次
従業員退職金の損金算入とは?
退職金は、従業員の長年の勤務や貢献に対する報酬として支給されるものであり、一定の条件を満たせば企業の損金、つまり法人税の計算上の費用として算入することが認められます。
損金算入が可能になれば、その分課税所得を減らすことができ、結果として法人税の負担を軽減する効果があります。
ただし、すべての退職金が無条件で損金にできるわけではなく、税法上の要件や手続きが厳格に定められているので注意しましょう。
支給のタイミングや金額、手続きが不適切であった場合、税務署から否認される可能性もあるため、事前に制度の仕組みや留意点を正しく理解し、適正な処理を行うことが重要です。
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退職金を損金算入できるケース
退職金を損金算入できるのは、税務上の要件を満たし、企業の正式な手続きに基づいて適正に支給される場合に限られます。例えば、以下のようなケースが該当します。
- 従業員が退職し退職金を支給
- 適正額の範囲内で支給された退職金
- 退職金共済に拠出した金額
従業員の退職に伴い、企業の退職金規程に基づいて適正な額が支払われた場合、損金算入が認められます。
また、中小企業退職金共済(中退共)や確定給付企業年金(DB)に拠出した場合、その掛金は支払い時点で損金算入が認められます。これは、法人税法上、退職金の準備金として適正とみなされるためであり、企業にとって有効な節税対策の1つと言えるでしょう。
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退職金が損金算入できないケース
退職金の損金算入が認められないのは、税務上の要件を満たさない場合や、不適切な方法で支給された場合です。例えば、以下のようなケースでは損金算入が認められません。
- 退職前に退職金を積み立てる
- 退職金規程がないまま支給
- 役員退職金が過大と判断される
- 実際に支給されていない退職金
退職金の積み立てを事前に行った場合、実際の退職が確定していなければ損金算入できません。これは、退職金が「確定した負債」として認められないためです。
また、退職金規程がなく、恣意的に支給された退職金は、税務調査において問題視されやすく、損金算入が否認される可能性が高くなるでしょう。
従業員退職金を損金算入する時期
退職金の損金算入時期は、法人税法上のルールに基づいて決まります。基本的には「退職金の支給決定が確定した時点」または「実際に支払われた時点」のいずれかが損金算入の基準となります。
項目 | 損金算入時期 | ポイント |
従業員退職金 | 支給決定時または支払時 | 退職が確定し、支給決定が正式に行われていること |
退職金共済 | 拠出時 | 拠出時点で損金算入でき、退職金準備金として計上可能 |
従業員退職金の損金算入における仕訳例
退職金を損金算入する際の仕訳例をいくつか紹介します。企業の財務処理において適正に計上し、税務上のリスクを回避するためにも、仕訳のタイミングや処理方法を正しく理解しましょう。
一般従業員の退職金を損金算入する例
A社では、3月31日に退職した従業員に1,000万円の退職金を支給することを決定し、4月30日に実際の支払いを行いました。
- 退職日 :3月31日
- 支給決定日 :3月31日
- 支給日 :4月30日
- 損金算入時期:3月決算なら3月、4月決算なら4月以降
この場合、3月31日時点で未払いの退職金を計上し、4月30日の支払い時にその未払金を処理することができます。
3月31日時点で退職金を計上
借方 | 貸方 | ||
退職金 | 1,000万円 | 未払金 | 1,000万円 |
4月30日の支払い時
借方 | 貸方 | ||
未払金 | 1,000万円 | 普通預金 | 1,000万円 |
退職金共済を利用した場合の例
C社では、従業員の退職金準備として中小企業退職金共済(中退共)に毎月50,000円ずつ拠出しています。これは損金算入が可能です。
- 拠出額 :毎月50,000円
- 拠出先 :中小企業退職金共済
- 損金算入可否:〇(拠出時に損金計上可能)
掛金拠出時は「福利厚生費」として計上しましょう。退職時には、退職した従業員やその遺族に振り込まれるため仕訳は不要です。
毎月の拠出時
借方 | 貸方 | ||
福利厚生費 | 50万円 | 普通預金 | 50万円 |
未払計上せず退職金を即時支給した例
D社では、従業員の退職が決定した当日(6月30日)に、退職金500万円を即日振込で支給しました。支給決定と支払日が同一日のため、未払金の計上は行わず、支払い時に直接仕訳処理します。
- 退職日・支給決定日:6月30日
- 支給日 :6月30日
- 損金算入時期 :6月決算であれば6月に損金算入
このような場合は、未払計上をせず、以下のように仕訳します。
借方 | 貸方 | ||
退職金 | 500万円 | 普通預金 | 500万円 |
この処理は、退職金の支給が確定し、かつ実際に支払われているため、そのまま損金算入が可能です。ただし、決算直前の支給など、時期によっては翌期への影響があるため、支給タイミングの調整も重要です。
従業員の退職金を損金算入する際の4つの注意点
従業員の退職金を損金算入するには、税務上の要件を満たす必要があります。誤ると否認される可能性があるため、以下4つの点に注意しましょう。
- 退職金の適正額を超えないようにする
- 退職金の支給タイミングを考慮する
- 退職金規程の整備を行う
- 税務リスクを避けるため専門家のアドバイスを受ける
退職金の適正額を超えないようにする
退職金の額が過大と判断されると、税務署に否認され、損金として認められない可能性があります。
退職金の支給タイミングを考慮する
退職金の支給時期は、企業の利益状況に影響を与えるため、事業年度の損益を考慮しながら決定する必要があります。
例えば、黒字が見込まれる年度に退職金を計上することで法人税の負担を軽減できる一方、赤字年度での支給は節税効果が低くなる可能性があるでしょう。長期的な財務戦略の一環として、適切な支給時期を見極めることが重要です。
退職金規程の整備を行う
退職金規程が整備されていないと、支給が恣意的と判断され、損金として認められない可能性があります。
税務リスクを避けるため専門家のアドバイスを受ける
退職金の損金算入に関する税制は、法改正や税務当局の判断によって変わる可能性があります。
適切な税務処理を行うためには、税理士などの専門家に相談し、最新の税制に基づいたアドバイスを受けることが有効でしょう。特に、役員退職金の支給額や時期の決定は慎重に行う必要があり、専門家の意見を参考にしながら適正に処理することが推奨されます。
従業員退職金の損金算入についてお悩みの方は専門家に相談
退職金の損金算入にはさまざまな税務上のルールがあり、適切に処理しないと追加の税負担が発生する可能性があります。
税務リスクを避けつつ、最適なタイミングで損金算入を行うためには、専門家のサポートが不可欠でしょう。
小谷野税理士法人は、退職金の損金算入に関する豊富な知識と実績を持ち、適正な支給額の算定や最適な計上時期のアドバイスが可能です。従業員退職金の損金算入でお悩みの方は、ぜひ小谷野税理士法人にご相談ください。