サラリーマンの節税対策のひとつとして、合同会社を設立する方法が有効と言われています。しかし、なぜ合同会社が良いのか、いまいちピンと来ない方も多いのではないでしょうか。この記事では、副業をしているサラリーマンが合同会社を作ることでなぜ節税効果が得られるのかについて解説します。さらに、サラリーマンと個人事業主で比較した際のメリットについてもまとめているので、ぜひ今後の参考にしてください。
目次
合同会社とは?株式会社との違い
合同会社とは、2006年5月に国が施行した会社法で新しく設けた法人形態のことです。アメリカのLLC(Limited Liability Company)を由来とすることから、日本版LLCと呼ぶこともあります。
現在の日本の会社形態は4つに分類されており、法務省の資料によるとその中でも合同会社の設立は2023年に4万件を超えたと報告されました。
- 株式会社
- 合同会社
- 合資会社
- 合名会社
なお、4種の会社形態の中で最も多い株式会社ですが、合同会社とは以下のような違いがあります。
株式会社 |
|
合同会社 |
|
また、詳細は後述しますが株式会社に比べて設立時の費用を抑えられる特徴もあります。
参考:登記統計 商業・法人商業・法人登記(年計表) 会社及び登記の種類別 会社の登記の件数 | e-Stat
関連記事:合同会社の設立にかかる費用はいくら?わかりやすく解説
サラリーマンが合同会社を設立すると節税になる理由
出資者が会社経営者と同一であるほか、設立時の費用を抑えられる合同会社ですが、サラリーマンの節税とどのような関係性があるのでしょうか。
ここではサラリーマンが合同会社を設立することで節税になる理由について解説します。
➀法人税が適用される
合同会社も株式会社も法人です。そのため、サラリーマンでも合同会社を設立すれば法人税が適用となり、節税効果を得られます。
個人事業主の場合、事業所得に対して所得税が課せられる仕組みです。そのため、所得が上がると税率も上がります。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円~194万9,000円まで | 5% | 0円 |
195万円~329万9,000円まで | 10% | 9万7,500円 |
330万円~694万9,000円まで | 20% | 42万7,500円 |
695万円~899万9,000円まで | 23% | 63万6,000円 |
900万円~1799万9,000円まで | 33% | 153万6,000円 |
1800万円~3999万9,000円まで | 40% | 279万6,000円 |
4000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
さらに令和19年までは、所得税と併せて復興特別所得税(2.1%)を申告納付しなければなりません。
一方、法人税の課税額は以下の通りです。
区分 | 適用関係(開始事業年度) | ||||||
平成28年4月1日以後(%) | 平成30年4月1日以後(%) | 平成31年4月1日以後(%) | 令和4年4月1日以後(%) | ||||
普通法人 | 資本金1億円以下の法人等※1 | 年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15 | 15 | 15 | 15 |
適用除外事業者※2 | 19※3 | 19※3 | |||||
年800万円超えの部分 | 23.40 | 23.20 | 23.20 | 23.20 | |||
上記以外の普通法人 | 23.40 | 23.20 | 23.20 | 23.20 |
※1 各事業年度終了の時において資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下であるものまたは資本もしくは出資を有しないものに掲げる特定の医療法人のみ。ただし各事業年度終了の時に次の法人に該当する場合は除外される
イ 相互会社および外国相互会社
ロ 大法人(次に掲げる法人をいいます。以下同じです。)との間にその大法人による完全支配関係がある普通法人
- (イ)資本金の額または出資金の額が5億円以上の法人
- (ロ)相互会社および外国相互会社
- (ハ)受託法人
ハ 普通法人との間に完全支配関係があるすべての大法人が有する株式および出資の全部をそのすべての大法人のうちいずれか一の法人が有するものとみなした場合においてそのいずれか一の法人とその普通法人との間にそのいずれか一の法人による完全支配関係があることとなるときのその普通法人(上記ロに掲げる法人を除きます。)
ニ 投資法人
ホ 特定目的会社
ヘ 受託法人
ト 大通算法人
※2 適用除外事業者には、通算制度における適用除外事業者を含む
※3 平成31年4月1日以後に開始する事業年度において適用除外事業者(その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人等)(令和4年4月1日以後に開始する事業年度においては、通算制度における適用除外事業者(注2)を含む) に該当する法人の年800万円以下の部分については19%の税率が適用される
上表を比較すると、法人税は所得にかかわらず一定であり、個人事業主は累進課税が適用されていることが分かります。サラリーマンが会社設立によって節税効果を得る場合には、法人税を意識することも必要と言えるでしょう。
なお、株式会社でも問題はありませんが、設立時の費用が合同会社に比べて10万円以上高い点に注意が必要です。
- 株式会社の設立費用:約10万円~
- 合同会社の設立費用:約25万円~
設立費用の内訳は、会社設立時に必要な登録免許税に加えて、株式会社に必要な定款認証手数料などが含まれます。合同会社の設立費用が低いのは定款認証が不要のためです。
初期費用を抑えつつ節税効果を得たい方にとっては合同会社の設立が合っていると言えるでしょう。
➁経費の範囲が広く所得を減らすことができる
合同会社は法人に含まれることから、個人事業主よりも多くの項目を経費として取り扱うことができます。詳細は下表の通りです。
項目 | 合同会社 | 個人事業主 |
事業に掛かった費用 | 可 | 可 |
交際費 | 可 | 可 |
経営者本人の給与・賞与 | 可 | 不可 |
経営者本人の福利厚生費 | 可 | 不可 |
経営者本人の健康診断費 | 可 | 不可 |
経営者本人の社会保険料 | 可 | 不可 |
経営者本人の生命保険料 | 可 (法人契約のみ) | 不可 |
経営者本人の出張時の日当 | 可 | 不可 |
経営者本人の住宅費 | 可 (社宅制度) | 不可 |
経営者本人の慶弔費 | 可 | 不可 |
家族への給与・賞与 | 可 | 可 (事前に届けを提出する必要がある) |
経営者本人の退職金 | 可 | 不可 |
このように合同会社の設立によって、業務に必要なさまざまな費用を経費として取り扱うことが可能です。
さらに合同会社の設立によっては事業主に対して役員報酬を支払うこともできます。役員報酬は人件費として計上できるので、その分だけ法人の所得を減らすことが可能です。ただし報酬を受け取ることから、所得税や住民税が発生する点には注意が必要です。
ほかにも、家族を従業員にした場合、勤務実態があれば給与を経費にできます。個人事業主の場合、事業主の配偶者である必要や15歳以上であることなど、いくつかの条件が定められています。
会社を設立したうえで家計全体の節税効果にもつなげたい方にはメリットとも言えるでしょう。
③赤字繰越が可能
万が一、合同会社を設立した後に赤字を迎えても、その赤字を将来の黒字と相殺できる赤字繰越が利用できます。
合同会社や株式会社などの法人であれば最大10年間、個人事業主であれば最大3年間の繰越期間が設けられています。個人事業主と比較した場合、合同会社の選択によって適用課税を抑えられると考えられるでしょう。
関連記事:合同会社が赤字になった場合の税金はどうなる?納税の有無を解説
④設立後最大2年の間は消費税を免除できる可能性がある
すでに副業によって個人事業主として活動するサラリーマンであれば、合同会社の設立後2年間は消費税を免除できる可能性もあります。
例えば1,000万円以上の課税売上高があり消費税の納税義務が生じている場合です。この場合、確定申告よりも前に法人を設立することで消費税が免除されかもしれません。
消費税の納税義務の判定は以下の通りです。
- 2期前の課税売上高が1,000万円を超えている
- 前事業年度開始日から6ヵ月の課税売上と給与総額等が1,000万円を超えている
すでに個人事業主として活動している人は、2年もの間、消費税が免除される可能性があることも押さえておきましょう。
関連記事:個人事業主の法人成りに最適なタイミング3つについて解説
⑤相続税・贈与税を大幅に削減できる
将来的に事業承継する予定がある場合、合同会社を設立することで、会社の財産は相続税や贈与税の対象外となります。つまり、相続税や贈与税をかけずに事業承継が可能になるのです。
家族以外の人が経営者として会社を引き継ぐ可能性も考えられます。事業継承において懸念材料となり得る税金が対象から外れる点も節税効果につながると言えるでしょう。
しかし、会社の株式は相続税や贈与税の対象となるため注意が必要です。
関連記事:法人・個人間における贈与の扱いの違いは?4つのパターン別に解説
合同会社のメリット
ここでは合同会社を選択することでみられるメリットについて解説します。
経営の自由度が高い
株式会社の場合、株主総会など、会社の意思決定において複数のプロセスを踏まなければなりません。しかし合同会社の場合、出資者が会社経営者かつ社員であるため、外部からの影響を受けずに意思決定が行えます。
事業に対してスムーズさを求める人にとっては、自由度が高い経営ができることは大きな魅力とも言えるでしょう。
決算公告義務がない
決算公告は、株主や債権者に対して会社の決算状況を公開することを指し、官報や日刊といった新聞に掲載するのが一般的です。
さまざまな費用が掛かるほか、不特定多数の人が目を通すデメリットがありますが、合同会社ではこの決算公告の義務がありません。
そのため、費用の削減とともに競合他社からの不要な詮索を避けることにもつながります。
将来的に株式会社へ移行できる
会社設立は、業績の成長によって株式会社へ移行することも可能です。株式会社も法人に含まれるので、利益の分配が株式によるものとなり、個人資産の保護も強化できます。
役員報酬の設定によって所得税の最適化も行えるので、合同会社の設立はサラリーマンにとって魅力的な選択肢と言えるでしょう。
関連記事:株式会社から合同会社へ組織変更をするメリット・デメリット
合同会社でみられるデメリット
合同会社にもいくつかのデメリットがあります。ここでは合同会社の設立でみられるデメリットを解説するので、今後の参考にしてください。
株式会社に比べて知名度が低い
株式会社から比べると、合同会社はまだまだ知名度が低いです。そのため、詳細を知らない人からみれば、資金の少ない会社と思われたり、採用の際に人材が集まりにくかったりするなどの懸念があります。
出資者同士の対立によって意思決定が難しくなる
合同会社は株式会社とは違い株主総会の必要がないので、経営にまつわる意思決定はスムーズに行えます。しかし合同会社の場合、出資割合にかかわらず一人一票の議決権を有するため、出資者同士の対立によって意思決定が難しくなる場合があります。
状況によっては、出資者一人ひとりに議決権がある部分にデメリットを感じる可能性があるでしょう。
資金調達が難しい
合同会社の場合、株式会社のように株を割り当てた資金調達が利用できません。そのため、合同会社が資金調達する際には、社債や融資などに限定されるのもデメリットです。
金融機関によっては合同会社の知名度が低いことなどを理由に、多額の融資の場合は審査を通さないケースもあるようです。
サラリーマンが会社を設立する流れ
サラリーマンが会社を設立する場合は、国税庁等の資料を参考にしながら必要な手続きを済ませなければなりません。
会社設立の詳細や流れについてはこちらの記事で分かりやすくまとめています。国税庁等の資料を見ても分かりにくい、今すぐ分かりやすい記事で情報を集めたい方は、こちらも併せてご覧ください。
サラリーマンの合同会社設立にはさまざまな節税効果がある
サラリーマンが合同会社を設立すると、法人税が適用されるほか、経費の項目が増えるなど、さまざまな理由によって節税効果が得られます。
しかし、合同会社の設立にはいくつかのデメリットもあるため、必要な情報を集めた上で決めることが大切と言えるでしょう。
合同会社の設立にあたって、専門家のアドバイスを受けながら手続きを進めたい人は、この機会に小谷野税理士法人へご相談ください。疑問を解決へと導きながら、合同会社設立をサポートいたします。