会社の決算期は設立時に決めるものですが、実際に事業が軌道に乗り始めてから「決算期をもう少し後にしておけばよかった」などと後悔する企業も少なくないようです。実は、決算期は何度でも変更が可能です。今回は、決算期の変更手続きのやり方やメリット・デメリット、注意点について解説します。取引先などにも影響が出るため、本当に変更が必要かを慎重に検討しましょう。
目次
決算期は変更できる
決算とは、事業者の一定期間ごとの収益と費用を取りまとめて損益状態を把握し、決算日時点の資産、負債、純資産を確定させ財政状況を把握する作業です。決算期は、法人の事業年度の最終月のことで決算月とも呼び、法人は自由に設定・変更できます。
一般的には年に1回決算期と決算日を設定しますが、事業年度に2回設定することも可能です。会社の特徴に合わせて設定すると、効率的な経営ができるようになるでしょう。
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個人事業主と法人の決算期の違い
個人事業主と法人の違いは、決算月が設定されているか自由に設定できるかです。個人事業主の場合は、1月1日〜12月31日と事業年度が定められているため、必然的に12月が決算月です。
そして、翌年2月16日~3月15日(土日祝が重なる場合は、翌平日が期限)までの間に、所得税確定申告書の提出が義務付けられています。
法人は決算月を自由に設定できる一方で、どのタイミングに設定するかが重要なポイントになってきます。後述する決め方のポイントを考慮して、自社に合った決算月を設定しましょう。
法人の決算期で多い月
法人の決算月は3月・9月・12月が多く、約2割の法人は3月に設定しているでしょう。これは公的機関の事業年度が、毎年4月から翌年3月であるため、合わせた方が事業運営や業務を円滑に進めやすいと言えるでしょう。
欧米諸国では12月決算が一般的なことから、国際的な事業展開をしている企業では12月決算を採用しています。また、個人事業主から法人成りした企業は、そのまま12月決算を採用するケースも多いです。
決算期を変更するメリット
決算期を変更すると得られるメリットについて解説します。
節税効果が得られる
もし決算月に大きな利益が発生してしまうと、支払う法人税が大幅に上がってしまいます。節税対策の一環として決算期を変更する場合、大きな所得が出た月を翌期に持ち越すと、その年度の納付を抑えることができます。
時期の変更による節税対策は、他の節税対策を組み合わせると更に効果が高まります。例えば、役員報酬の変更や生命保険を活用した簿外資産の積立など、組み合わせての活用がおすすめです。
早めに役員報酬を変更できる
役員報酬を変更できる時期は、原則として事業年度開始日である期首から3ヵ月以内です。仮に3月が決算期の法人なら、役員報酬を変更できるのは4~6月の3ヵ月間となります。
時期を逃せば次の決算月翌月まで役員報酬を同じ水準での維持が必要となるため、変更すると一事業年度が短くなり、早めに役員報酬を変更できます。
資金繰りの調整がしやすくなる
会社が法人税の計算を行い、法人税申告書などを税務署に提出すれば、申告に関する業務が終了します。また、計算により求められた法人税は、決算期末から2ヵ月以内に納付することとされています。
ここで、法人税の納付を行う時期を納付しやすい時期に変更すると、現金売上が大きく発生した場合、現金が手元にあるため納税資金に苦労しません。しかし、掛売上が大きく発生した場合は、納税資金が確保できない場合もあるため、その時期は避けましょう。
決算期を変更するデメリット
メリットがある一方で、変更には次のようなデメリットも考えられます。
決算が前倒しになる
法人では、1年に1度決算を行う必要があるため、変更する場合はどこかで1年未満のタイミングが生じます。そのため、納税が前倒しになり一時的にお金が必要になるため注意が必要です。さらに、税理士などの専門家へ支払う費用も前倒しで発生します。
事前に期末に売上が上がり、納税額が増えると予想された場合には、決算期を早めると節税できるケースもあります。
手続きに手間と時間がかかる
決算期の変更には株主総会の開催などの手間がかかります。経営者が独断で進められる変更ではないため、多方面に相談・連絡をする必要もあるでしょう。
こうした手続きに加えて、通常の業務に加えて進めなければならないため、現場の担当者にとっては大きな負担です。場合によっては、手続きが滞ることで変更が計画どおりに進まないリスクもあるため、外部の専門家や業務代行サービスの利用も検討しましょう。
前年度との比較が難しくなる
決算月変更により、その年の事業年度は1年未満になるでしょう。そのため、決算書も前年と経営や財務の内容を比較しにくい傾向があります。
季節的な要因で毎月の売上高の傾向が異なる場合など、その影響を加味しての比較が難しくなります。そのため変更した年度の数字は、比較データを作成する上では参考程度にしか利用できません。
決算期変更の手続きの流れ
決算期変更の基本的な手続きの流れは、以下のとおりです。
①株主総会で特別決議を取得し、定款変更を行う
変更を行う場合、定款に定められた事業年度の変更により行うため、株主総会の決議が必要です。株主総会を開催し、定款変更の決議を行った後に株主総会議事録を作成します。
なお定款の変更には、株主総会の特別決議が必要であり、議決権を行使できる株主の過半数の株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成を得なければなりません。特に株主が多い企業の場合、一度否決になると次のチャンスまでに膨大な時間を要する恐れがあります。
②届出書類の準備と提出
所轄の税務署、都道府県税事務所、市区町村役所に、異動届出書のほか、変更後の定款、株主総会議事録を提出する必要があります。それらの書類が無事に受理されれば、変更に関する手続きは完了です。
許認可の取得が必要な事業を行っている法人の場合、管轄の省庁等への届出が必要となる場合もあるため、必要な手続きを事前に確認しておきましょう。
③主要取引先や金融機関への通知
時期の変更は社内だけでなく、外部の関係者にも影響を与えます。主要な取引先や金融機関には、事前に通知しておきましょう。特に、決算報告書や財務情報を提供する必要がある場合、変更後のスケジュールを早めに伝えておくと、取引先の対応もスムーズになります。
決算期変更によって書類の提出時期がずれ込む可能性があるため、これらの連絡を怠ると、信用問題に発展するリスクもあります。取引先や金融機関に対する配慮をしっかりと行い、透明性のある対応を心がけましょう。
関連記事:【公認会計士 税理士監修】上場会社の決算スケジュールについて
決算期の決め方
会社設立月に合わせて決める
会社設立月に合わせて決めるのも1つの方法です。1月に会社を設立した場合、12月を決算期にすると、1年間の経営状況を把握しやすくなります。
一方、6月に会社を設立し12月を決算期にすると、設立した年は6月から12月までの7ヵ月間になります。1年間の経営状況を把握したい場合は、会社設立月に合わせて決めるといいでしょう。
繁忙期を避ける
決算期は書類の作成や申告、株主総会の準備に時間がかかります。決算期を繁忙期に重ねると、業務に時間が割けなくなるため注意が必要です。
繁忙期に通常の業務と並行して決算申告業務をこなす必要があるため、従業員には大きな負担となります。そして、負担の増大は仕事でのミスを誘発する可能性があります。決算日を変更して繁忙期の従業員の負担軽減を図るのは、正しい判断と言えるでしょう。
消費税の免除期間に合わせる
資本金1,000万円未満の会社は、開業してから最初の2期目まで消費税納税が免除される可能性があります。免除期間が長ければ、余計な税金を払う必要がありません。免除期間を長くする方法は、会社設立月から最も遠い時期に合わせましょう。
免税期間が長いほど、資金繰りに余裕が生じやすくなります。例えば4月に会社を設立した場合は翌年3月、10月設立であれば翌年9月を決算期に設定すると良いでしょう。
大きく売上が上がる時期の直前に設定する
売上が上がるタイミングにする方法もあります。大きく上がる時期の直前を決算月に設定すれば、財務指標が良好な状態として評価されやすいためおすすめです。
多くの売上が計上される時期の直後を避ければ、在庫や仕入れが増加する前の状態で決算を迎えられ、貸借対照表上の財務状況を健全に保ちやすくなります。また、事業年度での売上予測も立てやすくなるといった点もメリットです。
納税月に合わせて決算期を決める
法人税等や消費税は、決算日から2ヵ月以内に納付しなければなりません。決算期には税金納付を見越して、十分な資金を準備する必要があります。
従業員の賞与支払月や仕入の多い時期など支払の多い月を避け、資金に余裕のある時期を見越して決めると良いでしょう。
関連記事:会社設立をしたら決算月はいつがおすすめ?節税を考えた決め方
役員の退任に注意
取締役や監査役の任期は、「選任後〇年以内に終了する事業年度のうち最終のもの」とされていることが一般的です。そのため、事業年度が変更された場合すでに就任している役員の任期に影響を及ぼす場合があります。
特に、任期が約1年として設定されている会計監査人については、この問題が発生しやすいため特に注意しましょう。このようなケースにおいては、定款変更を決議する株主総会において、役員の選任についても決議をしておくことが一般的です。
決算期の変更は慎重に検討しよう
決算期は、必要な手順を行えばいつでも自由に変更できます。変更手続きにあたり、時間と手間を割く必要はありますが、届け出費用など金銭面の負担はありません。事業を継続していく上で不便が生じた場合は変更も検討しましょう。
ただし、法人の繁忙期や収入の時期、取引先の決算期などの事情を考慮しながら慎重に決定する必要があります。将来的な事業計画や税務効果を見据えながら、本当に変更が適切かを検討する際には、ぜひ税理士に相談し、最適なアドバイスを受けるのがおすすめです。
決算期の調整で節税を狙う場合や手続きの流れを知りたい場合は、専門家に相談してスムーズに進めていきましょう。ぜひ一度「小谷野税理士法人」までお気軽にご相談ください。