法人保険は損金算入できるものの、税制改正により節税するのは困難な状況です。法人保険を契約するときは、不測の事態への備えを目的に検討するのがポイントです。今回は、損金算入のルールやメリットとデメリット、経理処理の方法などについてわかりやすく解説します。最後まで読めば、法人保険に契約すべきか決断しやすくなるでしょう。
目次
法人保険とは
法人保険とは、法人や経営者や役員、従業員を被保険者として契約する保険です。保険料の支払と引き換えに、経営者や役員にもしものことがあった場合、解約返戻金を受けられるのが特徴です。
ここから、基本情報を詳しく解説します。
生命保険・損害保険・第三分野の保険を損金として算入できる
法人保険は「生命保険」「損害保険」「第三分野の保険」の3つに分けられ、保険料を損金算入できます。損金とは課税所得を求めるとき、法人の収益である益金から引ける経費を示します。各特徴については、以下の表にまとめました。
生命保険 |
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損害保険 |
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第三分野の保険 |
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法人保険を損金算入すると課税所得を下げられる一方で、満期保険金などは課税されると知っておく必要があります。節税効果でなく、以下の通り税金の支払タイミングを将来に移行する「課税の繰り延べ」効果があるという認識でよいでしょう。
課税の繰り延べによって節税につなげられる可能性はあるものの、限定的であると言えます。
2019年(令和元年)の税制改正で損金算入のルールが変更になった
2019年(令和元年)の税制改正で、基本的に法人保険の損金算入による節税ができなくなりました。具体的には、以下の表に示します。
最高解約返戻率 | 資産にする期間 | 資産にする額 |
50%以下 | なし | 全額損金 |
50%超70%以下 | 契約期間の4割経過まで | 保険料の40% |
70%超85%以下 | 契約期間の4割経過まで | 保険料の60% |
85%超 | 以下のうち長い期間まで
| 【10年経過まで】 当期保険料×最高解約返戻率の90% 【11年目から残りの期間】 当期保険料×最高解約返戻率の70% |
改正以前は、保険料すべてを損金算入したうえで、さらにお金を得られたケースもあります。本来の目的とは異なり、節税目的の商品が増えすぎたため、国税庁は税制の変更に踏み切ったと言えます。現在では法人保険で節税するのは困難だと言えるでしょう。
契約するときはあくまでも、不測の事態に備えるために加入すべきか、という視点で検討するのがポイントです。
法人保険のメリット
以下の表の通り、事業活動をするうえでプラスの影響が期待できるため、契約を真剣に検討したいところです。
簿外資産にできる |
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事業承継に対処できる |
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退職金にできる |
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法人保険を契約すると、不測の事態に備えられるため、事業の存続可能性を高める効果が期待できます。不動産投資や有価証券投資と比較すると、初期コストを抑えられたり想定外に価値が下がるリスクがなかったりするのも、メリットとしてあげられます。
法人の規模によっては、保険よりも共済の方が好ましいケースもあるのが特徴です。自社のみで検討するのではなく、専門家の意見を聞きつつ進めるのもポイントです。
法人保険のデメリット
以下の表の通り、契約するときに注意したいポイントもあります。
資金繰りを悪化させるリスクがある |
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解約時期で解約返戻率が異なる |
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税制改正の影響を受ける |
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法人保険はあくまでも目先の利益の繰り延べです。保険の解約返戻金は益金として扱われるため、法人税を課されるのが特徴です。節税目的で契約する場合、得するケースは基本的にないと理解しておく必要があります。
事業を通して生じた赤字と相殺したり、他の保険を利用したりするなどの適切な対策が求められます。特に、大型の保険を契約するときは、事前に税理士へ相談しておくと安心できるでしょう。
法人税の経理処理の方法
経理処理するときは、資産計上額などを踏まえておく必要があります。例として、以下のケースを紹介します。
- 2025年4月1日定期保険を契約:決算3月
- 2045年3月31日までの保険期間:満期まで契約
- 払込期間と保険期間が一致
- 毎月の保険料40,000円:年間48万円
- 最高解約返戻率:60%
契約期間 | 金額 |
2033年まで(契約期間の40%) | 損金算入60%・資産計上40% |
2040年まで(契約期間の75%) | 損金算入100% |
2045年まで(契約期間100%) | 損金算入100%+40% |
経理処理するうえで、各年度の損金を支払保険料、資産を保険積立金として適用しました。
決算年度 | 借方 | 貸方 | ||
2025年から2033年 | 保険積立金 | 19万2,000円 | 普通預金 | 48万円 |
支払保険料 | 28万8,000円 | |||
2034年から2040年 | 支払保険料 | 48万円 | 普通預金 | 48万円 |
2041年から2045年 | 支払保険料 | 48万円 | 普通預金 | 48万円 |
支払保険料 | 30万7,200円 | 保険積立金 | 30万7,200円 |
2041年からは、2033年までに積立したお金(192,000円×8年=1,536,000円)を5年間で取り崩す必要(153万6,000円÷5年=30万7,200円)があります。
関連記事:【税理士監修】会計処理と税務処理の違いとは?基礎知識について解説
法人保険に関するよくある質問
法人保険に関してよくある質問をまとめました。ここから詳しく見ていきましょう。
全額損金算入できる?
最高解約返戻率50%以下の法人保険に限り、できます。
今の税制において、50%超の場合、損金算入できる割合は限られるのが特徴です。法人保険を契約する前には、特徴をよく理解したうえで十分に検討するのが望ましいです。
資産計上するメリットは何?
会社全体の経済的価値である企業価値をあげられることです。
企業価値は株価の選定やM&A、リストラなどの基準になるのが特徴です。企業価値をあげられると、金融機関の審査に通りやすくなったり、M&Aで有利になったりするなどのメリットがあります。
法人保険の資産計上のほか、企業価値をあげるには、サステナビリティ経営の実践や収益力の向上などがあげられます。
2019年(令和元年)の税制改正で改正前と変わった点は?
解約返戻金が最も高くなるときの返戻率によって、損金算入できる割合が決定されるようになった点です。
改正前は、節税目的で法人保険を契約し、中途解約するケースが見られました。
そもそも保険とは、節税目的で契約するものではなく、経営者や役員などにもしものことが生じたときに対策などをするためのものです。金融庁の調査の結果をもとに、今の税制に変更されています。
全額損金の30万円特例とは?
被保険者1人あたりの年間保険料が30万円以下になると、全額損金として参入できる制度です。適用される保険は具体的に以下の2つです。
- 最高解約返戻率70%以下の定期保険
- 短期払込終身タイプの第三分野保険
複数の保険を契約している場合、合算したうえで30万円以下になるのかをチェックする必要があります。
税金に関する相談は税理士へ
法人保険の損金算入の特徴やメリットとデメリット、経理処理の方法などを解説しました。
2019年(令和元年)の税制改正によって、法人保険のあり方が見直されてきました。本来の目的に沿い、事業活動をする中で、不測の事態に備えたい場合にのみ契約を検討するのが望ましいです。
保険料は定期的に発生し続けるため、資金繰りに影響を与えることも押さえておきたいポイントの1つです。法人保険の契約後も、定期的に保険内容や金額の見直しが求められます。
契約で迷っていたり適切な節税方法を検討したりしている場合、税理士へ相談するとよいでしょう。
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