節税テクニックの1つとして「妻(配偶者)を社長にする」という方法を見聞きした経験がある人も多いでしょう。結論として、妻を社長にすると節税できるケースは確かに存在します。ただし、必ずしも妻を社長にするのが最善とは限らないため、注意点についてもしっかり把握した上で、夫婦どちらの名義を使うべきかの検討が必要です。
今回は妻名義での会社設立について詳しく解説します。
目次
【結論】妻を社長にすることで節税できるケースはある
結論として、妻を社長にすると節税できるケースは存在します。
とはいえ、妻を社長にしただけで自動的に税負担が軽くなるわけではありません。税負担の軽減につながるケースの例を2つ紹介します。
所得分散をする
妻を社長にして税負担を抑える手段として基本的な方法が、妻に役員報酬を支払うことによる所得分散です。
所得税は所得が一定額を超えると、その部分により高い税率を適用する超過累進課税制度を採用しています。そのため夫婦の一方のみが働く場合よりも、共働きで夫婦それぞれが収入を得る方が、世帯年収が同じでもトータルの税額は少なくなります。
関連記事:税金で一番得する年収はいくら?税率・世帯環境などの観点から徹底解説!
会社から夫婦の両方に報酬を支払えば所得が分散され、結果として世帯全体での税額を抑えることが可能です。
なお、夫婦2人とも役員ではなく、夫婦のうち片方は従業員にして給与賃金を支給する方法でも所得分散自体はできます。夫の勤務先に副業がバレてしまうのを避けるためには夫を従業員とするべきです。
ただし従業員を1人でも雇うと、原則として労働保険(雇用保険や労災保険)への加入が必要になります。労務関連の手続きの手間やコストが増えるため、特に理由がなければ2人とも役員にする方法が一般的です。また、みなし役員に該当する恐れがあるため注意しましょう。
雇用保険や労災保険については以下の記事をご覧ください。
関連記事:従業員の雇用手続きは?採用後に必要な書類や加入保険について
贈与税や相続税の課税対象を減らす
妻名義の会社を上手く活用すれば、贈与税や相続税の負担なく財産を妻に譲渡できるケースがあります。
副業や投資による収入が全額そのまま夫に入る状態では、夫の保有する現預金等の財産がどんどん増える一方です。それらの財産をそのまま贈与すると贈与税が課せられて、贈与財産の額によっては高額の税金が発生してしまうケースがあります。贈与税の税率は10〜55%で、贈与額が増えるほど高い税率が適用される仕組みです。
生前の贈与をほとんど行わずに夫が亡くなると、高額の相続税を課せられるケースが起こり得ます。相続税の税率も贈与税と同じく10〜55%です。相続税には高額の基礎控除や税額の軽減制度があるものの、相続財産が多ければ高額の相続税が発生する恐れがあります。
以上の理由から、税負担を抑えるためには贈与税や相続税の課税対象となる財産を減らすのが理想です。
副業や投資を会社として行えば、これらの収入は夫の収入とは別物として扱われます。結果、夫の財産が多額なために妻にかかる贈与税や相続税が重くなりすぎるというリスクを抑えられるでしょう。
関連記事:相続税と贈与税の違いとは?控除や節税のポイントも解説
なお、個人の事業や投資による収入を管理するための会社をプライベートカンパニーといいます。プライベートカンパニーの活用方法については以下の記事をご覧ください。
関連記事:プライベートカンパニーの作り方と節税に有効な複数の理由
妻を社長にする節税以外のメリット
続いて、妻を社長にすることによって得られる節税以外のメリットを2つ紹介します。
本業と経営管理の役割分担ができる
妻を社長にすれば、夫が本業に専念し、妻が経営管理を行うという業務分担ができるようになります。
会社運営では、売上に直接つながる営業活動のほかにも、バックオフィス関連の各種事務手続きもこなす必要があります。また、金融機関との面談や納税等の税務関連など、原則代表者本人が行うのが原則の手続きも存在します。
事業規模が大きくなるほど必要な事務手続きも多くなっていくのが一般的です。結果的に、事業規模や会社が成長するにつれて本業に割けるリソースが少なくなってしまう恐れがあります。
妻を社長にすれば、前述のように夫が本業・妻が経営管理を担当という分担が可能です。代表者が行う必要のある手続きも妻がこなす前提になるため、夫は本業のみに集中できます。
夫の副業がバレるリスクが下がる
妻を社長にすれば、夫の勤務先に副業がバレてしまうリスクを抑えられます。主な理由は2つあります。
1つ目の理由は、住民税の変動が起こらないためです。
勤務先に副業がバレる原因の1つとして、給与に対して住民税が高すぎることが挙げられます。住民税はすべての所得を合算した金額を基に計算されるため、住民税が高額な場合には別の収入源があると気付かれるでしょう。
副業を会社として行なって妻に対してのみ役員報酬を支払えば、夫の年収は変動しません。住民税は勤務先からの給与のみに課せられるため、住民税が原因で副業がバレる事態を避けられます。
2つ目の理由は、法人の登記事項証明書に夫の名前が載らないためです。
法人の登記事項証明書は誰でも閲覧できます。夫名義で法人成りをした場合、何らかの理由で法人の登記事項証明書を見られて副業がバレてしまう恐れがあります。
一方で妻を社長にすれば登記事項証明書に夫の名前は記載されません。登記事項証明書に限らず、代表者名が入る箇所にはすべて妻の名前が使われます。夫の名前が載らなくなるため、勤務先にバレてしまうリスクを抑えられるのです。
関連記事:雑所得(副業収入)は会社にバレない?バレないためのポイントを解説
なお、役員に関する事項は登記事項証明書の記載項目のため、副業をバレないようにするには夫を従業員にする必要があります。
妻を社長にする際の注意点
最後に、妻を社長にするにあたって注意するべきポイントを3点紹介します。
不相当に高額な報酬では指摘を受けるリスクがある
会社から社長である妻に対して支払う役員報酬が不相当に高額な場合、税務調査による指摘を受けるリスクが高いです。
役員報酬の決め方に明確なルールはありません。とはいえ、立場や責務、業務に対して適切な金額にしなければなりません。客観的にみて適正額を超えると判断された場合は、損金算入が認められず、かえって税負担が重くなる恐れがあります。
名義貸し状態では贈与税が発生する恐れがある
妻を社長にして税負担を抑えられる理由として、贈与税や相続税の負担なく夫の財産を妻に譲渡できる可能性がある旨を紹介しました。
しかし、妻は単なる名義貸し状態だとみなされてしまうと、夫に対して贈与税が発生する恐れがあります。具体的には、以下の2つに該当すると贈与税の発生リスクが高いです。
- 事業活動と経営管理の両方を夫がすべて行なっており、妻は会社の活動にかかわっていない
- 会社から妻に対して支払われた役員報酬が、そのまま妻から夫に渡される
上記のケースに該当すると、報酬の実質的な受け取り人は夫になります。しかし、一度妻を経由している以上、妻が自身の財産を夫に贈与したとみなされる可能性が高いです。
たとえ夫婦間でも、生活費・教育費以外で財産を渡すと贈与税が発生します。そして、夫に役員報酬が直接支払われる場合にかかる所得税よりも、妻を経由したことによって発生する贈与税の方が高い可能性があります。このように、かえって税負担が重くなるケースがあるため注意が必要です。
なお夫婦間での贈与に贈与税が発生するか否かはケースによって異なります。贈与税の有無について正確に判断するには、税務の専門家である税理士に相談するのが安心です。
贈与税が発生するかの判断にお困りであれば、ぜひ小谷野税理士法人にご相談ください。
妻も会社経営に携わることが大前提
妻を社長にする際は、妻も会社経営に携わることを大前提としましょう。
前述のように、単なる名義貸しとみなされてしまうと、夫側に贈与税を課せられる可能性があります。妻が事業活動に貢献していないとされ、役員報酬の支払い自体が不当と判断される恐れもあるでしょう。
さらに前述のように、経営管理に関連する手続きには代表者が行うべき手続きも存在します。妻が会社について理解していなければ、これらの手続きをスムーズに進められないリスクもあります。
主な事業活動を夫が行うという方針自体は問題ありませんが、妻も会社経営に携われるよう適切な役割分担を行う必要があります。
妻を社長にするメリットは節税だけではない!ただし注意点も要確認
妻を社長にすると、所得分散や贈与税・相続税の対象になる財産を減らすといった方法による節税ができます。夫ばかりに収入が集中してしまうケースよりも、トータルでの税負担を抑えられる可能性が高まります。
また、夫が本業に専念し妻が経営管理を行うといった役割分担もできます。代表取締役として公開されるのが妻の名前だけになるため、夫の勤務先に副業がバレるリスクも低くなります。
ただし、妻を社長にする際は名義貸し状態にならないよう注意が必要です。名義貸し状態ではかえって税負担が重くなる恐れがあります。また、社長である妻が会社について理解できていなければ、代表者が行うべき手続きがスムーズに進まなくなるでしょう。
妻を社長にする注意点を押さえた上で、メリットを最大限に活かせるような会社運営をしましょう。