法人成りとは個人事業主が会社を設立し、それまで個人事業主として行なっていた事業を法人に引き継ぐことです。法人成り後は会社としては1期目でも事業実績が存在する状態になります。そのため、イチから創業する場合とは利用できる融資に違いがあります。
今回は日本政策金融公庫に焦点を当てて、法人成りで利用できる融資制度の具体例や融資利用における注意点を紹介します。
目次
【日本政策金融公庫】法人成りで利用できる融資制度
法人成りで利用できる可能性が高い融資制度として、日本政策金融公庫が運営する制度として、「新規開業・スタートアップ支援資金」と「企業活力強化資金」の2つを紹介します。
なお、この2つはいずれも国民生活事業の融資制度です。中小企業事業による同名の融資制度も存在しますが、国民生活事業とは融資条件等が全く異なる点にご注意ください。
関連記事:起業・創業する際の資金調達の方法とは?知っておきたい資金調達まとめ
新規開業・スタートアップ支援資金
対象者 | 新たに事業を始める、もしくは事業開始後おおむね7年以内 |
---|---|
融資限度額 | 7,200万円 うち運転資金4,800万円 |
返済期間 |
いずれも据置期間5年以内 |
利率 | 原則として基準利率 一定の要件を満たす場合はより低い利率(特別利率)が適用される 【特別利率が適用される要件の例】
|
主な特徴 |
|
新規開業・スタートアップ支援資金は、創業者や事業開始後7年以内の事業者が利用できる融資制度です。創業時点でも利用できるため創業融資の1つといえますが、対象者の範囲が広いため、法人成りでも利用できる可能性が高いです。
「主な特徴」で紹介している通り、一定の要件を満たす場合はより有利な条件で融資を受けられます。
【女性、35歳未満または55歳以上の人】
女性、35歳未満または55歳以上の人は特別利率Aが適用されます。
2025年4月現在、特別利率Aの下限・上限は基準利率よりも0.4%ほど低く設定されています。融資限度額や返済期間等の条件は通常の新規開業・スタートアップ支援資金と同じです。
参考:新規開業・スタートアップ支援資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)|日本政策金融公庫
【中小会計を適用する場合】
前述した「女性、若者/シニア起業家支援関連」と同様に特別利率Aの適用対象です。
以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 新たに事業を始める、もしくは事業開始後おおむね7年以内である
- 「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」を適用している、もしくは適用予定である
- 自身で事業計画書の策定を行い、かつ、認定経営革新等支援機関による指導および助言を受けている
なお、以前は「中小企業経営力強化資金」という名称でした。現在は新規開業・スタートアップ支援資金の特例という扱いになっています。
参考:新規開業・スタートアップ支援資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)|日本政策金融公庫
企業活力強化資金
対象者
【商業振興関連】
以下いずれかの業種の事業を営む者
- 卸売業
- 小売業
- 飲食サービス業
- サービス業
- 不動産賃貸業
【支払条件改善関連】
取引先に対する支払い条件の改善に取り組む者
【キャッシュレス決済関連】
商業振興関連で挙げた業種1~4または道路旅客運送業を営み、かつ、キャッシュレス決済の導入による生産性向上を図る者
【取引環境改善関連】
親事業者の生産拠点の閉鎖・縮小や発注内容の見直しまたは脱炭素化の取組みの要請に伴い、自らの取引環境の改善に取り組む者
【パートナーシップ構築宣言関連】
「パートナーシップ構築宣言」を公表している者
【流通関連】
流通に係る業務を行う者、またはこれらの業務を行う者を構成員とする事業協同組合等
【省力化関連】
中小企業省力化投資補助金の交付決定を受けている
融資限度額
7,200万円
うち運転資金4,800万円
返済期間
設備資金:20年以内
運転資金:7年以内
いずれも据置期間は2年以内
利率
対象者の条件によって異なる
基準利率もしくは特別利率A、B、Cのいずれか
主な特徴
- 合理化等のための設備投資を行う人を対象とする
- どの要件に該当するかによって資金使途が異なる
- 事業実績や創業からの年数に関する要件は定められていない
企業活力強化資金は、合理化等のための設備投資を行う人を対象とした融資です。創業からの年数についての定めはないため、個人事業主としての事業実績が長くても利用できる可能性があります。特に、会社設立を機に設備投資を行う場合は利用を検討しても良いでしょう。
関連記事:設備資金・運転資金の返済期間はどれくらい?返済が難しいときの対処法も解説
法人成り時に日本政策金融公庫の融資を利用する場合の注意点
続いて、法人成りを行うタイミングで日本政策金融公庫の融資を利用する場合の注意点を2つ紹介します。
創業者を対象とした融資は利用できない可能性が高い
法人成りの場合、創業者を対象とした融資は利用できない可能性が高いです。
創業融資とは創業時点でも利用できる融資の呼称です。事業実績の代わりに創業計画などの情報を用いて審査を行います。
法人と個人事業主は別人格と扱われるため、法人成りによって設立した会社は1期目からのスタートです。しかし、法人は個人事業主からの事業を引き継いでいるため、事業実績や事業経歴自体は存在します。そのため、会社設立1期目であっても個人事業主としての開業からの年数が事業経歴とみなされます。
創業融資は多くの場合、創業直後および創業から間もない事業者のみが対象です。したがって法人成りによって設立された会社は、創業者を対象とした融資の利用はできないと考えるべきでしょう。
2025年4月現在、日本政策金融公庫に創業者のみを対象とした融資制度はありません。しかし、創業者は通常よりも有利な条件で融資を利用できる仕組みは存在します。
また、2024年3月までは創業者および税務申告2期を迎えていない人のみを対象とした「新創業融資制度」が存在しました。将来的には、創業者および創業から間もない事業者のみを対象とした新たな融資制度が登場することも十分に有り得ます。その場合でも、法人成りによって設立された会社は対象外になる可能性が高いでしょう。
設立1期目でも審査で事業実績がチェックされる
法人成りによって設立された会社で融資を受ける場合、設立1期目の会社であっても審査で事業実績がチェックされます。
創業直後の時点では事業実績が存在しません。そのため創業者を対象とした融資では、創業計画や申込者の経歴、自己資金などの情報を用いて審査を行うのが一般的です。
しかし、法人成りの場合は引継ぎ元である個人事業主の事業実績が存在します。そのため会社自体は設立したばかりでも、個人事業主の頃の確定申告書や決算書等などを審査に用います。
いわゆる創業融資とは審査の進め方が大きく異なる点に注意が必要です。
関連記事:起業する時に融資を受けるならこれ!起業・独立・開業時に利用したい融資制度をご紹介
関連記事:会社の借金はいくらまで?平均額と融資を通りやすくするポイント
法人成りでも日本政策金融公庫の融資を利用できる可能性がある
法人成りは個人事業主が会社を設立し、個人から設立した法人へ事業を引き継ぐことです。会社としては設立1期目でも事業実績が存在する状態になります。そのため、創業者を対象とした創業融資は利用できない可能性が高いです。
しかし、法人成りでも利用できる可能性がある融資制度は複数存在します。日本政策金融公庫であれば「新規開業・スタートアップ支援資金」と「企業活力強化資金」が比較的要件を満たしやすいでしょう。
法人成りは創業とは性質が大きく異なるため、利用できる融資や審査で用いる情報が大きく異なります。資金調達を上手く行うためには、自社のケースに適した融資制度を選ぶことが大切です。