個人事業主として事業を続けていると、さまざまな理由で廃業を考えることがあるかもしれません。しかし、廃業は計画的に進めることが重要です。必要な書類や提出方法を事前に把握しておくことで、スムーズに手続きを進められます。特に、e-Taxを使えばオンラインで廃業届を作成・提出できるため、効率的です。この記事では、廃業手続きの流れや、e-Tax利用のメリット・デメリットについて説明します。
目次
個人事業主の廃業に必要なもの
個人事業を廃業する際は、提出の必要な書類が複数存在します。期限が設定されている書類もあるため、提出漏れがないように、しっかりと確認しておきましょう。
個人事業の開業・廃業等届出書
個人事業の開業・廃業等届出書は、一般的に開業届と呼ばれていますが、廃業する際にも同じ書類を兼用して提出する必要があります。そのため廃業の際は、個人事業の開業・廃業等届出書の「開業」の文字を、上から二本線を引き、消してから提出すると良いでしょう。
廃業届にある提出の区分欄では、廃業と書かれたところにチェックを入れ、その理由を記します。開業届と同じく、廃業届は提出しなくても罰則が設けられているわけではないものの、廃業にとっては必要な手続きです。
廃業届の提出期限は、廃業日から1ヵ月以内ですが、期限が土日祝日と重なった場合には、翌日に出してもかまいません。また、廃業届を提出すると、その後に事業で支出があったとしても経費計上できなくなることから、タイミングは慎重に選びましょう。
税務署に提出する事業廃止届出書
消費税を支払っている課税事業者の場合は、廃業の際、事業廃止届出書の手続きを行わなくてはなりません。ただし、似た名前の書類がいくつかあるので、間違えないよう注意が必要です。
消費税に関わる事業廃止届出書は、個人事業の廃業届とは異なります。また、都道府県税事務所に提出する地方税の廃業届とも別物であるため注意しましょう。
所得税の青色申告の取りやめ届出書
確定申告で青色申告をしているのであれば、所得税の青色申告の取りやめ届出書の手続きをしましょう。
所得税の青色申告の取りやめ届出書には、提出期限が設けられており、青色申告を取りやめる年の翌年3月15日までに届け出なくてはなりません。その際、廃業届と同時に提出することで、何度も税務署を訪問する手間が省けます。
また、注意したいのが、廃業時に所得税の青色申告の取りやめ届出書を出さないまま放置すると、青色申告が継続されてしまう点です。届出書を提出しないと青色申告の承認が取り消され、次に青色申告の承認を受ける際、すぐに承認が受けられない可能性があるため、気をつけましょう。
所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書
予定納税を行っている場合は、所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書を税務署に提出しましょう。廃業すると、所得税の見積額が予定納税の基準額より少なくなるケースがあるためです。
そもそも予定納税とは、前年の申告納税額(予定納税基準額)が150,000円以上となる対象者が、所得税を分割して前払いすることで、支払いの負担を軽減できる措置を指します。
そのため、廃業の際に減額を申請する際は、所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書のほかに、申告納税見積額の計算のもととなる事実を記した書類提出も必要です。
所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書の提出期限は、第1期分と第2期分の減額申請が7月1日から7月15日まで、第2期分だけの場合は11月1日から11月15日までと定められています。
参考:A1-3 所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請手続|国税庁
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
従業員・事業専従者を雇用している個人事業主は、給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書を廃業時に提出する義務があります。
事業専従者とは、個人事業主の事業に6ヵ月超にわたって従事し、生計を共にしている配偶者や15歳以上の親族のことです。給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書は、廃業日から1ヵ月以内が提出期限と定められています。
期限を過ぎると源泉所得税の納付が漏れ、本来よりも多くの税金が発生するでしょう。また、廃業した翌月10日までに源泉所得税を支払わなければならないため、廃業日を選ぶときには注意が必要です。
参考:A2-7 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出|国税庁
関連記事:開業届をオンラインで提出する流れとは?メリット・デメリットも解説!
e-Taxで廃業届の手続きをする方法と書き方
個人事業主の廃業届は、e-Taxでも手続きできます。e-Taxを利用した手続きは、専用のソフトを用いることで、廃業届の作成から提出までを一貫して行えるため便利です。その手続き方法を紹介します。
【e-Taxで廃業届を作成・提出する流れ】
- 利用者識別番号(ID)を取得する
- 電子証明書を取得する(電子署名を行うために必要)
- e-Taxソフトのダウンロード
- e-Taxで「個人事業の開業・廃業等届出書」を作成する
- データを送信する
- 送信結果を確認する
参考:利用の流れ | 【e-Tax】国税電子申告・納税システム(イータックス)
e-Taxで廃業届を提出する場合、本人確認書類の提示やコピーの添付は不要です。手続きはすべてe-Taxにて済ませられます。ただし、e-Taxを利用して廃業届を作成・提出するためには、次のようなものが必要です。
【e-Taxを利用するために必要なもの】
- マイナンバーカード
- 読み取り機器(ICカードリーダライタやスマートフォン)
- インターネット接続環境
- 端末(パソコン)
- e-Taxソフト
ソフトは国税庁が提供しているものを、e-Taxホームページよりダウンロードできます。
また、e-Taxソフトを利用するためには、事前に政府共用認証局(官職認証局)のルート証明書とセコムパスポートfor WebSR3.0のルート証明書・中間証明書のインストールが必要です。
e-Taxソフトを起動したあとに、必要な税目のプログラムもインストールしなければなりません。e-Taxソフトの使用にはパソコンの知識が求められますが、廃業届以外にも、国税に関する申請や手続きをネット上で行えるため、幅広く活用できます。
税務署を訪問する手間や時間も省かれ、24時間いつでも税に関する手続きを進められるのがメリットです。
参考:e-Taxソフトのダウンロードコーナー | 【e-Tax】国税電子申告・納税システム(イータックス)
個人事業主が廃業届を提出するときのタイミング
個人事業主が廃業手続きを進める際は、経費計上を考慮した上でタイミングを選びましょう。所得税では、廃業したあとに発生した支出が事業に関係している経費であったとしても、計上できない可能性が高いです。
そのため、施設や設備の処分、従業員への退職金など、事業に関する支出はできる限り廃業する前に清算する必要があります。すでに前述しているように、廃業届の提出期限は廃業日から1ヵ月以内です。処分や支払いにかかる日数を鑑みて、計画的に廃業日を決めることをおすすめします。
個人事業主が廃業届手続きをするメリット・デメリット
個人事業主が廃業届手続きをすると、従業員や取引先にも影響を及ぼします。個人事業主が廃業するメリット・デメリットから、どのようは影響があるのかを見てみましょう。
廃業するメリット
個人事業主は廃業を選択することで、自己破産を回避できます。
自己破産すると、周囲からの信用を失うだけでなく、ブラックリストに載ることで借り入れができなくなるなど、新たな事業を始める際に悪影響を及ぼす可能性が高いです。
事業が上手くいかず、経営不振が長く続いているようであれば、自己破産せざるを得ない状況になる前に決断し、廃業をしたほうが良いでしょう。
廃業するデメリット
個人事業主の廃業には、費用がかかります。
設備の処分や、店舗・事務所・工場など施設の原状回復に費用が必要であるほか、特に従業員を雇っている場合は、人数分の退職金を支払う可能性があります。
個人事業主の場合、会社を設立するための登記が不要であることから、法人よりも廃業にかかる費用は抑えられるでしょう。しかし、個人事業主も、廃業する際には事前に費用を準備しておくことをおすすめします。
関連記事:【税理士監修】開業届とは?書き方や必要書類、提出方法までの完全ガイド
個人事業主が廃業届を提出するときのQ&A
個人事業主が廃業届を提出する前、または提出したあとには、さまざまな疑問点が浮かぶこともあるでしょう。ここでは、個人事業主の廃業届に関して、よくある質問に回答します。
廃業届を出さないとどうなる?
廃業届を提出しなければ、事業を続けているものとみなされ、税金が発生したり税務調査が入ったりする可能性があります。
廃業届を出さなくても特に罰則は設けられていませんが、提出しないと税務署は事業を廃業したと知らないままです。税務に混乱が生じるため、廃業届は廃業日から1ヵ月以内には税務署へと提出しましょう。
廃業しても確定申告は必要?
廃業届を提出したとしても、所得の合計が480,000円以下のときを除き、条件を満たせば原則的に確定申告が必要です。
毎年2月から3月に行われている確定申告は、個人事業主の場合、その前年の所得に関わっています。該当の事業年度に所得が発生しているのであれば、確定申告をしなくてはなりません。
廃業してすぐ開業できる?
廃業日から短期間で、新事業の開業が可能です。
廃業から日を置かずに、税務署へと新たな事業の開業届と青色申告申請書を提出できます。
もしも、現在の事業を廃止したあとすぐに開業したい場合は、廃業手続きを進めつつ、新事業の準備をすればスムーズに開業できるでしょう。
廃業ではなく休業するときは?
事業を廃止するのではなく、休業したい場合には、休むための必要書類を提出しましょう。
ただし、休業届は存在しないため、次のような書類を税務署に届け出ます。下記の書類には、いずれも提出期限は設けられていません。
- 異動届出書:異動届に休業の旨を記載
- 給与支払事務所等の廃止届出書:従業員を雇用している場合に必要
- 健康保険・厚生年金保険適用事務所全喪届:社会保険に加入している場合に必要
手続きも比較的に簡単であることから、事業が再開可能であれば、廃業よりも休業がおすすめです。
ただし、休業期間が長く続き、1事業年度の売り上げがないような場合には、状況を見て廃業を検討したほうが良いでしょう。
参考:A2-7 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出|国税庁
参考:適用事業所が廃止、休止等により適用事業所に該当しなくなったとき|日本年金機構
関連記事:開業届の提出タイミングはいつがベスト?期限や出さないデメリットを解説!
税理士なら個人事業主の廃業届手続きにも詳しい!
個人事業主の廃業届手続きは、法人に比べればシンプルな手順であるものの、費用やタイミングには十分な考慮と計画が必要です。
できる限り周囲に影響を与えず、スムーズに廃業するためにも、まずは税理士に相談してみてはいかがでしょうか。
廃業届は税務署へと提出するだけに、税と深い関わりを持っています。税の専門家である税理士であれば、適切で具体的なアドバイスが期待できるでしょう。
私ども小谷野税理士法人では、個人事業主を対象とした税務・会計に対し、幅広い対応をしています。
廃業についてお悩みの場合は、1度ご相談ください。