回収困難となった債権を放棄する「債権放棄」を実行するためには、税務上の影響や煩雑な手続きが伴います。しかし、債権放棄を本当にすべきかどうかはメリット・デメリットも踏まえて慎重に判断したいはずです。そこで本記事では、債権放棄の概要から、税務処理のポイント、そして具体的な手続きの流れまでを分かりやすく解説します。不良債権の処理を検討している経営者や担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
債権放棄とは
まずは、債権放棄とはどういう意味なのか、その概要について分かりやすく解説します。
概要
債権放棄とは、債権者が債務者に対して債権の一部または全部の返済を免除することです。民法上では「免除」と呼ばれ、裁判所を通さない「私的整理」の一種でもあります。
裁判所が関わっている会社更生法や民事再生法といった法的整理とは手続きが異なるのが特徴です。
債権放棄を行う場合は債権者は債務者に、証拠を残すためにもその旨を内容証明または配達証明で通知することが重要です。
債務免除との違いとは?
債権放棄と債務免除はどちらも債権を消滅させることで、法的には同じ意味です。債権と債務のどちらを主体として見るかによって異なります。
関連記事:債務免除で税金がかかる?債務免除における税金の取り扱いについて
貸倒損失が認められるケース
債権放棄においては回収不能となった金額を損失として計上する貸倒損失が適用されるケースがあります。
金銭債権の金額を回収する権利が消滅した場合
これは、法律の手続きによって返済義務がなくなった場合です。例えば、以下のようなケースが考えられます。
- 会社の倒産手続き
- 債権者間の合意
- 書面による債務免除
まずは会社更生法や民事再生法などで、裁判所の決定に基づき債権が消失された場合です。また債権者集会や、行政機関・金融機関などが仲介する話し合いで、合理的な理由に基づき債権が放棄された場合もあります。
さらに、債務超過が長期間続き、返済の見込みがない場合に債権者が書面で返済義務を免除したパターンも挙げられます。
この場合、法的に債権がなくなった事業年度に放棄・免除された金額は「貸倒損失」として計上可能です。
債権は残っているが実質的に回収不可能になった場合
法律上はまだ債権が残っているものの、相手の状況から見て、もはや回収できないと判断されるケースです。このケースは不良債権の原因と回収努力があったかどうかが判断ポイントとなります。
まず、不良債権の原因については相手の倒産、代表者の死亡といった具体的な理由が必要です。また債権者側がこれまでどのような回収の手段を取ってきたか、その経緯も考慮されます。ただし、このケースでは以下の点に注意が必要です。
- 貸倒処理は担保物を処分した後でないと認められない
- 債権の一部だけを回収不能として処理することは原則不可(全額を貸倒損失として処理)
これらのケースの場合、債権の全額を「貸倒れ」として計上しましょう。
一定期間取引停止後、返済がない場合
売掛金といった継続的な取引から生じた債権に限り認められる特別なケースです。例えば以下のようなケースの場合、貸倒損失とみなされる可能性が高いでしょう。
- 取引先の経営状況が悪化し取引を停止した後、1年以上返済がない
- 同じ地域の取引先に対する売掛金の総額が、取り立てにかかる費用(旅費など)よりも少なく、督促しても支払われない
1年以上返済がない場合は売掛金の残額からごくわずかな金額(備忘価額)を除いた全額を貸倒損失扱いで処理ができます。
これは売掛金は他の債権と異なり、すぐに法的措置を取りにくいという事情を考慮しているためです。また少額で回収費用が高い場合も、同様に貸倒処理が可能です。
ただし、これらは継続的な取引による売掛金に限定されます。貸付金や、一回限りの取引(スポット取引)で生じた債権には適用されないことを覚えておきましょう。
参考:債務超過の状態にない債務者に対して債権放棄等をした場合|国税庁
関連記事:債務免除で税金がかかる?債務免除における税金の取り扱いについて
債権放棄で寄付金として扱われるケース
上記の貸倒損失として認められる要件を満たさない債権放棄は、原則として寄付金として扱われます。
寄付金扱いとなると、法人税法上の損金算入限度額の範囲内でしか損金として算入できません。損金算入限度額を超える部分は税務上の費用として認められず、課税所得を減少させる効果がないことも注意しましょう。
寄付金として扱われる可能性が高いのは、以下のようなケースです。
合理的な理由のない債権放棄 | 債務者の経営状況が悪化しているとは言えない状況で、特別な理由もなく債権放棄した |
債権回収努力を怠っている債権債務 | 内容証明郵便での催告など十分な債権回収手続きをせずに債権放棄した |
特に関連会社に対する債権放棄については、グループ法人税制の適用がある場合とない場合で取り扱いが異なります。完全支配関係のある親子会社間での債権放棄は、一定の条件下で寄付金の損金不算入と債務免除益の益金不算入となります。
債権放棄のメリット・デメリット
債権放棄をするメリット・デメリットは以下の通りです。
債権者側 | 債務者側 | |
メリット |
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デメリット |
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債権放棄はあくまで最終的な手段のため、実行するかどうかは慎重に決めなくてはいけません。これらのメリットとデメリットを十分に理解して、税理士などの専門家と連携して手続きを進めましょう。
債権放棄の手続きフロー
債権放棄の手続きフローは以下の通りです。
- 支払いの催促
- 債務者の経営・財務状況の調査
- 債権放棄通知書の作成
- 内容証明郵便での送付
- 債権放棄通知書の保管
なお債権放棄は、債権者が意思表明するだけでその効力を発揮します。債務者の意向とは無関係に、債権者の意志のみで債権放棄できるのがポイントです。
債権放棄は債権者の意思だけでできますが、対外的な周知には内容証明郵便が必要です。同じ文面を3通作成して債権者、債務者、郵便局で保管します。これは税務申告にも必要で、電話や普通郵便は認められません。
債権回収が見込める場合の対処法
売掛金を支払う能力があるにもかかわらず、支払いを避けている取引先に対しては、法的手段による回収を検討すべきです。民事保全手続きや支払いを求める訴訟を起こせば、売掛金が回収できる可能性があります。
ただし、法的手段には証拠が不可欠のため、専門家に相談しながら証拠収集を進めることをおすすめします。
もし法的措置に応じない場合や裁判所の請求手続きによって債務名義を得られた場合には、強制執行という手段も考えられます。これは相手の資産を強制的に差し押さえて売掛金を回収する方法ですが、手続きには時間と費用がかかるのを理解しておきましょう。
また未回収の売掛金には時効があり、原則として支払期限の翌日から5年を経過すると請求権が消滅します。
もし時効期間内であっても、取引先の状況によっては回収が困難になる可能性があります。確実に回収したい場合は専門家の協力を得ながら、迅速に対策を講じるのが確実です。
関連記事:売掛金・未収入金の違いは?仕訳例や計上方法、注意点まとめ
まとめ
今回ご紹介したように、債権放棄の手続きは複数の書類準備と郵送が必要で手間と時間がかかります。しかし取引先の倒産による損失を考慮すると、できるだけ早く手続き完了と損金処理をすべきでしょう。
債務放棄をすべき適切なタイミングや必要書類は専門知識がないと判断が難しいため、税理士に相談するのがおすすめです。
小谷野税理士法人では債務放棄の手続きについて状況に合わせた適切なアドバイスを提供しています。債務放棄の手順や税務上の注意について詳しく知りたい方は、ぜひ一度「小谷野税理士法人」までお問い合わせください。