税務調査の一環として行われる「反面調査」は、納税者ではなく取引先に対して実施されるため、その範囲や影響について不安を感じる方も多いでしょう。税務署は売上や仕入れの整合性を確認するため、請求書や振込記録を精査します。本記事では、反面調査の対象や税務署がどこまで調べるのかを解説し、注意すべきポイントを5つ紹介します。事前に適切な準備を行い、調査の影響を最小限に抑えるための対策を確認しておきましょう。
目次
反面調査とは?
反面調査とは、税務署が企業や個人の申告内容の正確性を確認するために、取引先などの第三者に対して行う調査です。反面調査が実施されるのは、以下のように、取引内容の信憑性を確認する必要があるケースです。
- 架空取引の疑いがある場合
- 過度に高額(または低額)な取引がある場合
- 売上や仕入れの申告が不自然な場合
- 消費税の不正還付や経費の過大計上が疑われる場合
- 脱税や粉飾決算の疑いがある場合
特に、脱税や粉飾決算の可能性が高いと判断された場合、税務署は金融機関やその他の取引先にも照会を行い、より詳細な調査を実施します。
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反面調査はどこまで調べられる?
反面調査では、税務署が取引の実態を確認するために、取引先へ資料提出や事情聴取を行いますが、その調査範囲には限界があります。税務署がどこまで調べられるのか、具体例を交えて詳しく解説します。
反面調査における税務署の権限
反面調査では、税務署が取引の実態を確認するために、納税者の取引先へ情報提供を求めます。ただし、これはあくまで任意調査であり、税務署が強制的に書類を押収したり、取引先の業務を妨げることはできません。
とは言え、税務署からの問い合わせには一定の対応が求められるため、多くの企業は書類を提出し、質問に応じるのが一般的です。一方、取引先が協力しない場合や、取引内容に不審な点がある場合には、さらに踏み込んだ本格的な税務調査へ移行する可能性があります。
主な調査対象
税務署が反面調査で確認する情報は多岐にわたりますが、以下が主な調査対象になります。
調査対象 | 具体例 |
取引関連書類 | 請求書、納品書、領収書、契約書、発注書、受領書など |
支払い・入金記録 | 振込記録、銀行口座の取引明細、手形や小切手の控えなど |
帳簿・経理データ | 総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛・買掛帳など |
取引先情報 | 取引先の社名、所在地、担当者名、連絡履歴、取引の継続性など |
取引の経緯 | 取引先とのメールやFAX、打ち合わせ記録、見積書など |
従業員との関係 | 給与支払い台帳、雇用契約書、業務委託契約書など |
在庫・仕入れ情報 | 在庫管理表、棚卸記録、仕入れ台帳など |
税務申告内容 | 確定申告書、法人税申告書、消費税申告書、各種決算書類 |
金融機関への照会 | 法人名義・個人名義の口座情報、融資契約、送金履歴など |
反面調査では、税務署が取引の実態を確認するため、多角的な視点で書類や記録を精査します。取引の整合性や資金の流れ、帳簿と税務申告の一致などが主な確認ポイントです。
反面調査における納税者の権利と義務
反面調査によって申告内容に誤りが発覚し、不正が認定された場合、追徴課税や過少申告加算税、さらには重加算税が課される場合があります。特に意図的な虚偽申告と判断されると、税務上の罰則に加えて刑事責任を問われる可能性もあるため、正確な帳簿管理を行ってください。
また、反面調査では取引先が税務署に対して提供する情報が調査結果に影響を及ぼします。取引先が誤った証言をした場合、納税者が不正を行ったと疑われる可能性があるため、請求書や契約書、振込記録など取引の証拠を整理しておきましょう。
なお、税務署の指摘に納得できない場合、納税者は税理士に相談し、適切な対応を取ることも可能です。税務調査の専門家を通じて、税務署との交渉を行い、事実に基づいた正当な説明をすることで、過大な追徴課税を防ぐことができるでしょう。
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反面調査の流れ
反面調査の調査開始から完了までのプロセスを解説します。
開始から完了までのプロセス
反面調査は以下のようなプロセスで行われます。
ステップ | 内容 |
1. 調査の開始 | 税務署が取引の実態を確認するため、取引先に対して情報提供を求める。納税者には事前に知らされないことが多い。 |
2. 書類の提出・聴取 | 取引先が税務署の求めに応じ、請求書や契約書などの書類を提出し、口頭での説明を行う。 |
3. 情報の照合 | 収集した情報を納税者の申告内容と照合し、整合性を確認する。不審点があれば追加調査へ進む。 |
4. 追加調査の可能性 | 必要に応じて、他の取引先や金融機関へ照会し、さらなる証拠を収集する。不一致が解消されれば終了。 |
5. 調査の完了 | 問題がなければ調査終了。不備があれば納税者へ報告され、追加の税務調査が行われる可能性もある。 |
反面調査の結果による影響
反面調査の結果、申告内容に誤りや不備があると判断された場合、前述したように追徴課税や過少申告加算税、延滞税が発生する可能性があるので注意してください。
一方で、取引内容が適正であると判断された場合には、特にペナルティは発生しないとされています。ただし、調査の影響を最小限に抑えるためには、日頃から正確な帳簿管理を行い、適切な取引記録を保持しておくことが重要です。
反面調査の際に気をつけるべき5つのポイント
反面調査の際に気を付けるべき5つのポイントについて確認しておきましょう。
- 正確な帳簿管理を徹底する
- 取引先との契約書類を整備する
- 不自然な取引を避ける
- 反面調査に対する適切な対応を準備する
- 取引先とのコミュニケーションを重視する
1. 正確な帳簿管理を徹底する
反面調査では、税務署が取引の整合性を確認するため、帳簿や請求書、領収書などの証拠書類を精査するとされています。特に、売上や仕入れ、経費の記録が不明瞭な場合、税務署から疑義を持たれる可能性があるようです。
会計ソフトを活用するなどして、取引をリアルタイムで管理し、請求書・納品書・振込明細といった証憑を適切に保存しておくことが、税務調査に備える上で有効でしょう。
2. 取引先との契約書類を整備する
反面調査では、取引の実態があったかどうかをチェックされます。その際、取引の証拠として最も重要なのが契約書です。契約書が存在しない、あるいは内容が曖昧な場合、架空取引の疑いを持たれる可能性があります。
特に、大口の取引や継続的な取引については、契約書を作成し、双方が署名・捺印した書類を保管しておくことが望ましいです。
3. 不自然な取引を避ける
反面調査の対象になりやすいのは、不自然な取引とされています。例えば、急に高額な売上が計上されたり、過去の取引実績がない会社との取引が発生したりすると、税務署は「架空取引の可能性があるのではないか?」と疑う場合があるようです。
不自然な取引は、税務調査のリスクを高める可能性があるため、取引内容が適正かどうかを事前に見直しておきましょう。
4. 反面調査に対する適切な対応を準備する
反面調査が行われると、取引先が税務署の調査を受けることになり、その際に取引先から問い合わせを受けることもあるでしょう。
事前にどのように対応するか方針を決めておくと、スムーズな対応が可能になります。例えば、調査対象となった取引に関する資料を整理し、取引先との認識のズレが生じないように確認しておくことが重要でしょう。
5. 取引先とのコミュニケーションを重視する
反面調査では、取引先の回答が調査結果に影響を与えると考えられています。もし取引先が税務署の調査に対して誤った情報を提供した場合、納税者側に不正取引の疑いがかかるリスクもあるでしょう。
そのため、取引先との関係を日頃から良好に保ち、取引の内容について共通認識を持つことが重要です。特に、長期的な取引を行っている場合は、税務調査に関するリスクについて共有し、必要な情報を適切に管理しておくことが望ましいでしょう。
反面調査でお悩みの方は専門家に相談
反面調査は、税務署が企業の申告内容を確認するために取引先へ情報を求める調査ですが、誤った対応をすると思わぬ追徴課税やペナルティを受ける場合もあるでしょう。そのため、適切に対応するためには専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
小谷野税理士法人では、反面調査や税務調査の対応に精通した専門家が、企業の立場に立ってサポートを提供します。税務リスクを最小限に抑え、円滑に対応するために、ぜひ小谷野税理士法人にご相談ください。