学校法人は、教育という公共性の高い事業を担っています。そのため財務分析を通じて、安定した経営基盤を維持しなくてはいけません。しかし、一般的な企業と学校法人では財務分析の性質が大きく異なるため、分析にお悩みの方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、学校法人の財務分析方法について解説します。分析のポイントや注意点も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
学校法人会計とは
学校法人会計基準は、私立学校の財政基盤の安定と補助金配分の基礎として、長年活用されてきました。しかし、社会経済の変化や会計基準の国際化、経営環境の変化に対応すべく新たな基準が求められるようになったのです。
こうして平成25年1月の「学校法人会計基準の在り方に関する検討会」の報告書に基づき会計基準の改正を行いました。改正には「計算書類等の内容を一般に分かりやすくする」「学校の経営判断に貢献する」といった内容が含まれています。
この改正によって、学校法人が作成しなければならない計算書類は以下のように定められました。
資金収支計算書 |
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事業活動収支計算書 | 事業活動収支内訳表 |
貸借対照表 |
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これらの改正により学校法人の財務状況がより透明化され、社会からの信頼性が向上することが期待されます。
学校法人で用いられる財務分析方法
学校法人の財務分析で用いる分析方法を、以下の表にまとめました。
- 経常収支差額比率
- 人件費比率
- 人件費依存率
- 積立率
- 基本金組入率
- 生徒一人当たり経費支出
- 志願倍率
- 合格率・実質倍率
- 歩留率
- 入学定員充足率
- 収容定員充足率
- 専任教員一人当たり生徒数
財務分析を行う際は、これらの指標を組み合わせて経営状況を多角的に分析しましょう。
学校法人の財務分析で知っておきたい区分
学校法人の財務分析で重要な区分について表でまとめました。
区分名 | 内容 | 収入・支出科目 |
教育活動収支差額 | 学校法人が教育活動によってどれだけの収支を生み出しているかを示す | 学生生徒等納付金 補助金 人件費など |
教育活動外収支差額 | 学校法人が財務活動によってどれだけの収支を生み出しているかを示す | 受取利息・配当金など |
経常収支差額 | 上記2つの区分における経常的な収支バランスを示す | – |
特別収支差額 | 学校法人の一時的な資金の出入りを示す | 施設設備補助金など |
基本金組入前当年度収支差額 | 毎年度の収支バランスを示す | – |
財務分析の指標や区分を正しく理解することで、経営上の課題や改善点を明確に把握できるようになります。収益性や効率性を評価して無駄なコストを削減し、より効果的な事業運営が可能となるでしょう。
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学校法人で財務分析をするメリット
学校法人の経営状況を確認するために財務分析をする大きなメリットについて解説します。
事業戦略を立てやすくなる
財務分析は事業戦略を立てるのにも有効な手段です。特に複数の施設を運営する法人では、各施設の経営状況を把握し、注力すべき事業を判断できます。また収益性の低い事業からの撤退を検討できるのもポイントです。
例えば園児数減少などの問題を具体的な数値で把握すれば、具体的な計画を立てて事業撤退などの危機を回避しやすくなるでしょう。つまり決算書は単なる過去の記録ではなく、現状を正確に把握し将来の事業戦略を立てるための重要なツールであるということです。
人材を採用する際の目安になる
幼児教育・保育施設では人件費が支出の大部分を占めるため、決算書による人件費率の把握が重要です。人件費率と現場の状況を照らし合わせることで、適切な人材採用やシフト管理が可能になります。
例えば決算書から施設の経済状況を把握して人件費に充てられる金額を試算すれば、適切な人材採用計画につなげられます。つまり決算書を適切に活用することで、人件費管理を適正化して、効果的な人材戦略を立てやすくなるのです。
施設の整備や拡充の計画が立てやすい
園舎の老朽化に伴う建替えは、法人経営に大きな影響を与えます。そこで財務分析を活用すれば施設整備にかけられる金額や、整備後の安定経営の見通しを立てられるのです。
例えば過去の決算実績や園児数予測に基づき借入金の返済計画を立案するなど、施設整備の意思決定を適切に行えるようになります。ただし施設整備は法人運営に重大な影響を与えるため、一度税理士などの専門家へ相談するのがおすすめです。
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学校法人の決算で必要な書類
続いて、学校法人の財務分析で用いる書類について解説します。
収支計算書
収支計算書は「資金収支計算書」と「事業活動収支計算書」の2種類に分けられます。資金収支計算書は1年間の現金の動きを示す計算書であり、予算管理に用いられることが多いです。
もうひとつの事業活動収支計算書は、一般企業の損益計算書に相当します。基本金組入前の収支差額も計算するため、学校法人の本来の運営状況を把握できるのが特徴です。
貸借対照表
貸借対照表は学校法人の財政状況を示す書類であり、「資産の部」「負債の部」「純資産の部」の3項目で構成されます。貸借対照表の附属書類として固定資産明細表と借入金明細表、そして基本金明細表が必要です。
事業報告書
学校法人の事業方針やその内容を分かりやすく説明するための書類です。財務書類の背景となる情報を補足し、学校法人の活動内容を社会に開示する役割を担っています。
事業報告書で記載すべき内容の一部をご紹介します。
- 学校法人の基本情報(名称、所在地、設立年月日など)
- 設置している学校・学部・学科等の情報
- 役員・教職員の概要
- 当該年度の事業の目的・計画
- 事業の具体的な内容と実施状況
- 教育研究活動の状況
- 財務状況の分析と説明
- 財務状況の経年比較
- 貸借対照表、収支計算書などの財務書類に関する情報
事業報告書は社会からの信頼を得る役割があるほかに、学校法人の経営状況や教育活動を把握するための貴重な資料にもなります。
財産目録
財産目録は貸借対照表に記載された財産の種類、数量、価格を詳細に示した書類であり、貸借対照表の内訳明細表のようなものです。
主に、資産の総額の変更登記の際に使用されます。財産目録に記載されている内容は他の資料からも確認できるため、決算書の分析においてはあまり使用されません。
関連記事:【保存版】決算報告書の種類と書き方
学校法人の財務分析をする際のポイント
続いて、学校法人の財務分析をする際のポイントについて解説します。
事業活動収支差額比率が高くなっているか確認する
事業活動収支差額比率は、学校法人の経常的な活動による収支のバランスを示す重要な指標です。この比率が高いほど、学校法人が安定した黒字経営を行っていることを意味します。
ただし比率が高すぎる場合は、必要な投資や支出を抑制している可能性も考慮する必要があります。過去の推移と比較して比率が安定しているか、または変動している場合はその要因を分析するのがポイントです。
人件費が適正範囲に留まっているか確認する
人件費は学校法人の主要な支出項目のひとつのため、人件費が適正範囲に留まっているかを確認しておきましょう。
人件費比率は、学校法人の種類や規模によって異なります。そのため、過去の推移と比較して人件費比率が急激に変動していないかを確認するのがポイントです。
まずは教職員や生徒1人当たりの人件費などを分析し、人件費の構成要素を詳細に把握します。そして教育の質を維持しながら、人件費を効率的に管理するための施策を検討しましょう。
人件費比率が高すぎる場合は、人員配置の見直しや業務効率化を検討する必要があります。また低すぎる場合は教職員の負担が増加していないか、教育の質が低下していないか見直してください。
学校法人の財務分析に関する注意点
最後に、学校法人の財務分析をする上でおさえておきたい注意点を解説します。
事業活動収支計算書がマイナスにならないようにする
学校法人の財務分析では、事業活動収支計算書の黒字化は重要な目標です。数ある収支項目の中で特に注目すべきは「基本金組入前当年度収支差額」と呼ばれる、施設の純粋な運営成績を示すための指標です。
経年比較や前年度との比較を通じて、収支の変動を確認してみてください。この収支差額が減少傾向にある場合は原因を見つけ出して迅速な改善策を実行することが求められます。
運営に必要な資金は最低3ヵ月分用意しておく
幼児教育・保育施設を運営する上で、最低でも運営費の3ヵ月分の現預金を手元に確保しておきましょう。これは、賞与支払いや予期せぬ事態に備え、資金繰りのショートを防ぐためです。
特に人件費は支出の大部分を占めるため、日頃から1ヶ月分の運営費を把握し、現預金の残高を管理することが大切です。施設型給付費の入金がある場合でも、3ヶ月分の現預金があれば、より安心して運営できます。
まとめ
今回は学校法人の経営の健全性維持と教育の質向上のために必要な財務分析について解説しました。財務分析では、事業活動収支計算書などの財務諸表から収益性、安全性、効率性を評価する必要があります。
さまざまな区分や指標から総合的に経営状況を判断することで、正しい経営改善策を検討できます。財務分析を継続的に行い客観的なデータに基づいた経営判断ができれば、学校法人の持続的な発展にも繋がるでしょう。
もし自校の収益性分析が正しくできているか不安がある場合はプロの税理士に相談するのもおすすめです。財務分析についてのご相談は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。