もし上場株式を売却して譲渡損失が発生した場合、最長で3年間の繰越控除ができます。しかし、そのためには確定申告を正しく行うことが重要です。
本記事では、損失繰越の基本的な仕組みから控除するための具体的な手続きや注意点までわかりやすく解説します。税負担を軽減し、効率的な税務管理にお役立てください。
目次
繰越控除を活用するために知っておきたい確定申告のポイント
株式投資では利益が出る年もあれば損失が発生する年もあります。しかし、発生した損失を適切に申告し、繰越控除を活用すれば、将来の譲渡益と相殺することで税負担を軽減することができます。特に上場株式の譲渡損失は最長3年間繰り越すことが可能です。ここでは、確定申告で繰越控除を適用するためのポイントを解説します。
譲渡損失の申告を適切に行うこと
上場株式の譲渡損失を3年間繰越控除するためには、損失が出た年に確定申告を行い、損失を申告する必要があります。たとえば株式取引で損失が発生した場合、その損失を確定申告することで、次年度以降3年間にわたって譲渡益からその損失を控除することが可能です。
翌年以降も確定申告を続けること
繰越控除を行うためには、損失が出た翌年以降も連続して確定申告を行う必要があります。申告を行わないと、せっかく申告した損失が無効になり、翌年以降に繰り越せなくなってしまいます。確定申告の期限(毎年3月15日)を過ぎると適用されないため注意が必要です。
繰越控除の活用には利益の発生が必要
繰越控除を受けるためには、損失を申告した後の年度で株式の譲渡益が発生することが前提となります。たとえば1年目に株式の損失を申告し、2年目に利益が出たときにはその利益から1年目の損失を差し引くことで税負担を軽減できます。
新たな株式取引でも過去の損失が影響する
新たに取得した株式を売却する際にも、過去の損失を控除できる可能性があるため、確定申告の記録はしっかり管理しておきましょう。
これらのポイントを押さえて確定申告を適切に行えば、繰越控除を最大限に活用することができます。
関連記事:株の損失は確定申告でお得?節税のための損益通算・繰越控除について
確定申告に必要な準備と用意する書類
確定申告を適切に行うためには、事前準備と必要書類の把握が欠かせません。特に投資に関する損失申告では、特定口座年間取引報告書や源泉徴収票などの書類が求められます。ここでは、確定申告に必要な準備と用意する書類について説明します。
上場株式や投資信託の損失申告に必要なもの
上場株式や投資信託の損失を申告するためには、以下の書類が必要です。
1.特定口座年間取引報告書
特定口座を利用している場合に証券会社から発行される書類で、1年間の取引結果が記載されています。このデータを基に正確な損失額を算出します。この特定口座年間取引報告書は、譲渡損益の金額を確定するための基本的な資料となるため必須の書類です。
2.取引明細(一般口座を利用している場合)
一般口座を使用して取引を行っている場合、証券会社から年間の取引明細がだされないため、自身で取引履歴を整理して損益計算を行う必要があります。取引ごとの取得価額や売却価格を正確に把握し、計算ミスがないようにしましょう。
3.配当金の支払通知書 (必要に応じて)
配当金を受け取った場合に発行される書類です。配当所得を確定申告する場合や損益通算(譲渡損失と配当所得の相殺)を行う場合に必要になることがあります。
4.源泉徴収票 (必要に応じて)
給与所得がある人は、給与の源泉徴収票も確定申告に必要です。特に譲渡損失の繰越控除を行う際には、給与所得など他の所得との関係を確認するために提出が求められることがあります。
これらの書類を事前に用意することで、申告手続きがスムーズになります。また、書類の不備や不足があると手続きに時間がかかり、確定申告の期限に間に合わなくなってしまう可能性があります。また正確な損失額が算出できないと、本来受けられる控除額に満たなかったり、場合によってはペナルティとして加算税が課されてしまう恐れもあります。必要な書類は早めに取り寄せ、正確な情報をもとに申告を行いましょう。
株式やその他の金融商品の損益通算方法
株式やその他の金融商品については損益通算が重要です。譲渡損失が発生した場合、この損失を他の譲渡益と相殺することが可能です。
ケース1:譲渡益が譲渡損失を上回る場合
たとえば、上場株式(A社株)の譲渡損失が50万円発生し、同じ年に別の株式(B社株)の売却によって譲渡益が80万円あった場合、これらを損益通算することで最終的な課税対象額は以下のように計算されます。
損益通算後の課税対象額: 80万円-50万円 = 30万円 |
この場合、課税対象となる金額は30万円となり、結果的に税負担を軽減できます。
ケース2:譲渡損失が譲渡益を上回る場合
もし譲渡損失が譲渡益を上回る場合、損失の繰越控除を活用することができます。たとえば、譲渡損失が120万円で、譲渡益が80万円だった場合、以下の計算となります。
損益通算後の課税対象額: 80万円-120万円 = -40万円(損失額) |
この損失40万円は、翌年以降に繰り越すことができ、次年度以降の譲渡益に対して相殺できます。
さらに翌年、別の株式(C社株)を売却して譲渡益が50万円発生した場合、繰り越した40万円を相殺することが可能です。翌年の計算例は下記の通りとなります。
損益通算後の課税対象額: 50万円-40万円 = 10万円 |
このように損益通算および損失の繰越活用により、年度ごとの譲渡損益を効率的に管理することができます。
この損益通算は、投資信託や先物取引、オプション取引等においても同様に相殺することができます。幅広い金融商品を保有する投資家にとってはメリットが大きいでしょう。
関連記事:譲渡所得がいくらから確定申告する?必要書類や書き方も解説
3年間繰越控除を適用するための注意点
繰越控除を利用するためには、譲渡損失発生時の確定申告やその後の毎年の申告が欠かせません。しかし繰越控除の申告を忘れてしまった場合でも、適切な対応を取ることで損失を活かせる可能性があります。ここでは、未申告分の確定申告を行う方法や過去に遡れる期限について解説します。
申告を忘れるとどうなる?
確定申告時に繰越控除を申告しないと、翌年以降の譲渡益や配当金と相殺できず、本来受けられるはずの税還付や軽減のチャンスを失うことになります。
しかし確定申告は原則として5年以内であれば「期日後申告」が可能です。
もし過去に未申告の損失がある場合でも、遡って期日後申告が行えます。繰越控除の申告をしたい年の取引履歴と必要な書類を取り寄せて申告を行えば、還付を受けられる可能性が高まります。
忘れた場合の対処法とは?
では実際に、繰越控除の申告を忘れた場合の流れについて以下より解説します。
1.過去の損失を確認する
まず、過去に発生した損失があるかどうかを確認します。これには証券会社や銀行の取引記録や帳簿などを見直すことで、正確な損失額を把握することができます。
2.申告に必要な書類を取り寄せる
譲渡損失による繰越控除の申告にあたっては、以下の書類が必要になります。
必要な書類 | 入手先 |
所得税及び復興特別所得税の更正の請求書(※) |
|
特定口座年間取引報告書 | 取引をしている証券会社または銀行 |
取引明細 | 取引をしている証券会社または銀行 |
配当金の支払通知書 | 取引をしている証券会社または銀行 |
※損失申告をする年の書式を使用してください。
3.「更正の請求書」を作成する
「所得税及び復興特別所得税の更正の請求書」の以下の欄に必要情報を記入します。
<主な記入欄>
- 請求の目的となった申告又は処分の種類
- 更正の請求をする理由、請求をするに至った事情の詳細等
<令和6年分所得税及び復興特別所得税の更正の請求書>
出典:A1-2、H1-1 所得税及び復興特別所得税の更正の請求手続|国税庁
4.所轄の税務署に提出をする
すでに確定申告済みの場合は、「更正の請求書」を所轄の税務署長に提出してください。更正の請求書はe-Taxでも提出できますが、スマートフォンには対応していないので、パソコンから作成・提出をしてください。
繰越控除によって還付金がある場合、およそ1~2ヵ月ほどで指定する口座に入金されます。e-Taxで申告をした場合はもう少し早く入金されるでしょう。
まとめ:株取引での損失を無駄にしないために
株取引における損失を無駄にしないためには、譲渡損失による繰越控除の仕組みを正しく理解することが重要です。繰越控除や損失通算を活用すれば、税負担を軽減し、将来の利益につながります。
最長3年の繰越控除を活用するには、毎年続けて確定申告を行なわければいけません。確定申告は正しく計算を期限内に提出することは、
税務に不安がある場合や複雑な手続きが必要な場合は、専門知識を持つ税理士に相談することで、確実に手続きを進めることができ、資産運用の安心感が高まります。