一人社長として会社を経営する場合、自身の給与(役員報酬)は自身の裁量で決めることができます。しかし、役員報酬には法律上のルールがあり、月ごとに自由に変更することはできません。
本記事では、一人社長の給与の決め方や注意点を詳しく解説し、節税対策や社会保険とのバランスを考えた最適な報酬額の決定方法を紹介します。
目次
一人社長の給与とは
一人社長は個人事業主と似た立場に思われがちですが、法律上の扱いは異なります。法人格を持たない個人事業主と異なり、一人社長は法人の代表者であり、事業の責任は法人にあります。
まずは、そもそも一人社長の給与とはどのようなものかについて簡単におさらいしましょう。
一人社長の給与は「役員報酬」
一人社長における「給与」と呼ばれるものは、正確には「役員報酬」を指します。
役員報酬とは、会社の役員に支払われる報酬のことです。会社法上では、役員は株主から会社の経営を委任される立場にあります。会社との契約は雇用契約ではなく委任契約であり、役員報酬はその報酬です。
役員報酬は原則として株主総会の決議により年間の上限額が決められ、毎月一定額が支払われます。一人社長の場合も、会社の方針として自身の役員報酬を決定し、適切に設定する必要があります。
一般の給与と役員報酬の違い
一般の給与と役員報酬との違いについて、更に詳しく解説します。
給与と役員報酬は、いずれも労働や業務の対価として支払われる一方、その取り扱いや仕組みにはいくつか違いがあります。
給与と役員報酬の主な特徴は以下のとおりです。
給与
- 従業員に支払われる報酬であり、勤務実態に応じて毎月の額が変動することがある
- 税法上、給与は月ごとの変動に関して規制はない
- 所得税や住民税が源泉徴収され、社会保険料(健康保険、厚生年金など)が適用される
- 会社にとって損金(経費)として計上される
役員報酬
- 会社の役員(社長や取締役など)に支払われる報酬
- 株主総会の決議によって年額が決定され、その後毎月一定額が支給される
- 基本的に会計年度の途中で額が変動することはない
- 会社法や法人税法に基づいて、委任契約により支払われる報酬として扱われる
- 社会保険が適用される一方、雇用保険は対象外
- 税制上、損金に計上するためには一定の条件を満たす必要がある
上記の通り、役員報酬は会社が支払った金額を無条件に損金(経費)にはできません。節税のために役員報酬を経費として損金算入するには、いくつかの要件を満たす必要があります。次項では、役員報酬を損金算入するための重要なルールについてお伝えします。
関連記事:一人社長の役員報酬の適正額はいくら?決め方にルールはある?
一人社長の給与(役員報酬)を決めるためのルール
法人税法では、役員報酬を損金として計上するためには以下のいくつかのルールを満たさなければなりません。給与形態を適切に設定することで、法人税の負担を軽減し節税効果を得られます。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 業績連動給与
給与形態に関しては、税務上の規定があるため適切に遵守することが求められます。一つずつ詳しく解説します。
定期同額給与
定期同額給与とは、毎月一定額を支給する形態です。定期同額給与を採用することで、給与の額が年を通して変動せず、予算計画が立てやすくなります。
役員報酬は原則として期首から3ヵ月以内に決定しなければなりません。その後は月単位での変更はできません。変更ができるのは、年に一度または経営の悪化時に限って可能です。なお、変更時に発生した差額は損金計上できない恐れがあるため注意しましょう。
事前確定届出給与
事前確定届出給与は、役員報酬を税務署に事前に届け出る制度です。届出後はその内容に基づき支給し、確定した金額は経費として計上できます。
届出の期限は株主総会決議から1ヵ月以内、または会計期間開始から4ヵ月以内です。新設法人の場合、設立日から2ヵ月以内に届出が必要です。
業績連動給与
業績連動給与は、会社の業績に基づいて報酬額が変動する仕組みです。
ただし、業績連動給与を適用するためには、特定の要件を満たさなければなりません。客観的な指標に基づく金額設定や、有価証券報告書への記載、同族会社でないことが条件です。
参考:No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)|国税庁
関連記事:役員報酬を経費にするには?ルールや判断基準・注意点を徹底解説!
一人社長の給与(役員報酬)の決め方 注意点とポイント
一人社長の役員報酬の決め方として、いくつかの注意点を考慮しなければなりません。役員報酬の設定は、税負担や社会保険料のバランスを取るだけでなく、会社の収益や経営状況にも大きく影響を与えます。自社の収支計画を踏まえ、長期的な視点で慎重に決定しましょう。
役員報酬を決める際の注意点として、以下の点が挙げられます。
- 個人の税負担と報酬のバランスを考慮
- 個人の社会保険料の負担を考慮
- 会社の収支計画に基づいたシミュレーション
- 同業他社の報酬を参考にする
- 小規模企業共済やiDeCoを活用
- 銀行や税務署の視点にも注意
以下より一つずつ詳しく解説します。
1.個人の税負担と報酬のバランスを考慮
まず重要なのは、個人の税負担や社会保険料の負担を理解し、報酬設定とバランスを取ることです。過度に高額な報酬は、個人の所得税や住民税の負担を増やします。一方、報酬を極端に少なくすると法人税の負担が増えるため、いずれも一長一短です。
2.個人の社会保険料の負担を考慮
役員報酬の額に応じて社会保険料が決まるため、高額な報酬設定は社会保険料の負担を増加させます。一方で、報酬を社会保険料負担の最低等級に設定すれば、保険料を大幅に抑えることが可能です。ただし報酬が低すぎると生活費が不足するリスクも生まれます。合理的かつ持続可能な報酬額の設定を検討しましょう。
3.会社の収支計画に基づいたシミュレーション
役員報酬を決定する際には、利益に対する報酬の割合を見極めることも重要です。役員報酬は、法人税法により会計期首から3ヵ月以内に決定しなければなりません。会計期首には法人の年間利益や法人税額が確定していません。したがって将来の利益を予想して計画的に決める必要があります。まずは会社の年間収支計画をもとに、慎重にシミュレーションを行いましょう。
4.同業他社の報酬を参考にする
同業他社の役員報酬額を調べることも重要です。業界の報酬水準を知ることで、バランスの取れた報酬設定が可能になります。定期的に業界の報酬事例を調査し、自社の基準を見直しましょう。
5.小規模企業共済やiDeCoを活用
一人社長個人の税負担を軽減する方法として、小規模企業共済やiDeCo(個人型確定拠出年金)などの活用も挙げられます。小規模企業共済やiDeCoは所得控除を受けられ、税負担の軽減に繋がります。経営者としての将来を見据えて、長期的な観点から報酬を設定しましょう。
6.銀行や税務署の視点にも注意
役員報酬は、銀行や税務署からも注目される要素です。銀行が融資を行う際には、役員報酬もチェックされます。過度に高い設定は、融資先としての評価を下げる要因になりかねません。また、税務署が役員報酬を不当に高額だと判断すると損金算入が認められず、法人税が増加する恐れがあります。銀行や税務署といった関係機関からの視点も考慮して報酬の設定を行いましょう。
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まとめ
一人社長の給与(役員報酬)について、報酬額の決め方と注意点について解説しました。
ひとり社長にとって、役員報酬は法人の成長や税負担だけでなく、個人のライフプランにも影響を与える重要な要素です。
柔軟性と計画性を持って、法人と個人の収入のバランスを見極めた報酬設定を行うことが大切です。長期的な安定した運営と個人の生活の確保の両方を目指しましょう。