法人成り直後の法人は、税務調査されやすい傾向があります。法人成りに伴う複雑な手続きで、税務処理のミスが発生しやすいためです。また、法人成り後3年間は個人事業主時代の申告についても税務調査が来やすいので注意しましょう。この記事では、法人成り後に税務調査が来やすい理由や、税務調査のリスクを減らす対策について解説します。
目次
法人成りと税務調査の基礎知識
まずは、「法人成り」と「税務調査」について簡単に解説します。
「法人成り」とは個人事業主から法人になること
「法人成り」とは、個人事業主が法人を作り、事業を法人として継続することを指します。この際、個人で使っていた資産や負債を法人に引き継ぐ形で事業を行うのが一般的です。
法人成りについて詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:個人事業主から法人化をするメリットは?タイミングと手順
関連記事:個人事業主の法人成りに最適なタイミング3つについて解説
「税務調査」とは申告内容に誤りがないか税務署などが調べること
税務調査とは、税務署などが納税者の申告内容を確認するものです。調査でミスが見つかると、ペナルティなどを求められます。特に、調査官が実際に訪問してくる調査は「実地調査」と呼ばれます。
税務調査について詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:税務調査とは?どこまで・何を調べる?流れや個人・法人の対応方法などについて詳しく解説
法人成りすると税務調査が来る確率が高まる理由3つ
個人事業主から法人成りすると、税務調査のリスクが高まる傾向にあります。ここでは、税務署から注目されやすくなる理由を3点解説します。
法人成り直後は「移行時の不備」が狙われやすいから
税務署は法人成り直後の法人に対して特に注意を払います。法人成りの複雑な手続きで税務処理のミスが発生しやすいためです。
具体的には、以下のような項目が税務署に狙われやすいポイントです。
法人成り時の資産・負債の引き継ぎ |
|
役員報酬の設定 |
|
消費税の免税目的 |
|
法人と個人の資金や資産の混同 |
|
売上や経費の計上時期のズレ |
|
個人から法人への移行時には複雑な処理が求められるため、必要に応じて税理士などの専門家にチェックを依頼すると安心です。
法人成り後に売上や利益が変動すると意図的な操作を疑われるから
法人成り後に売上や利益が大きく変動すると、税務署に意図的な操作を疑われ、税務調査のリスクが高まります。なぜなら、法人成りの前後で売上や経費の計上時期を意図的にずらし、個人事業の税負担を軽減しようとするケースがあるためです。
例えば、個人時代の売上を法人に付け替えたり、本来は法人で負担すべき経費を個人のうちに計上するなどの不正があります。そのため、税務署は法人成り後の売上や利益の動きに注目し、不自然な変動があれば税務調査を検討します。
法人は個人に比べて税務調査を受ける確率が高いから
国税庁のデータを見ると、法人は個人に比べて、実地による税務調査を受ける確率が10倍ほど高いことが分かります。実地調査とは、調査官が実際に訪問してくる調査です。
法人 | 個人 | |
母数 | 令和4年度の法人数: 290万9,847社 | 令和4年分の所得税申告人員: 2,295万人 |
令和4事務年度(令和4年7月〜翌年6月)の実地調査件数 | 62,000件 | 46,000件 |
実地調査を実施した割合 | 62,000件÷290万9,847社 =約2.1% | 46,000件÷2,295万人 =約0.2% |
法人は個人よりも売上や経費の規模が大きい傾向があるため、申告ミスや意図的な過少申告による税収の影響も大きくなります。よって、法人は個人よりも税務調査の優先度が高くなります。
参考:令和4年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について|国税庁
法人成りから3年間は個人に関する税務調査にも注意
廃業している個人事業についても、税務調査が来る場合があります。
一般的な税務調査は直近3年分の申告内容を重点的にチェックする
一般的な税務調査では、直近3年分が重点的にチェックされます。なぜなら、確定申告書の提出から3年以内に調査が行われなければ、原則時効となるためです(国税通則法第70条)。
税務署は時効前に調査したいので、まずは直近3年間の不備を調べます。したがって、法人成りから3年が経過すると、個人に関する税務調査が来るリスクは下がると言えます。
ただし、調査の過程で所得隠しや虚偽申告などが見つかった場合、時効は5年または7年に延長されます。
廃業していても税務調査は行われる
廃業している事業についても、調査は行われます。先ほど解説したように、調査は最大7年さかのぼって行われるためです。
中には、廃業や法人成りを利用して過去の申告を隠そうとするケースもあります。そのため、法人成りに伴って廃業した事業は特に注目を集めます。
調査の対象期間について詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:税務調査の時効はどのくらい?無申告や脱税の場合の対象年数やペナルティを解説
法人成りを契機に個人事業時代の内容が見直される
法人成りがきっかけで、個人時代がどうだったか税務署が見直す場合があります。法人成りをするほどの事業の成長が、不正によるものではないか確認したいからです。
例えば個人のときは利益が少なかったのに法人で急に利益を上げた場合、個人時代の過少申告や不正な経費計上が疑われます。また、個人と法人で処理に一貫性や整合性があるか確認する場合もあります。
要するに、法人成りという大きな変化を機に、税務署は過去の申告に問題がないか確かめる場合があるのです。
法人成りの後に税務調査のリスクを減らす対策
ここでは、調査のリスクを減らす対策を5つご紹介します。
個人事業主時代の請求書や帳簿なども捨てずに保管しておく
個人の請求書や帳簿も、7年間は捨てずに保管しておきましょう。過去の申告を調べられる際、有力な証拠となります。
国税庁は、帳簿などについて最大7年保存する義務があるとしています。よって、もし帳簿や請求書を保管していない場合、調査で不利になる可能性が高いでしょう。
請求書の整理や管理方法について詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:請求書の整理や管理で悩んでいるあなたへ!保管方法を徹底解説!
個人事業主と法人の申告内容には一貫性を持たせる
個人と法人で、申告する内容に大きな差異がある場合、税務署はその変化が正当なものかどうかを確認したくなります。例えば、個人では経費として計上していなかった項目が法人で多く計上された場合、税務署はその変化が正当か調べます。
税務署が疑問を持った場合に説明できるよう、急激な変動があるときは理由を明確にしておきましょう。裏付けとなる資料を整えておくことも重要です。
個人の帳簿の内容を正確に法人に引き継ぐ
個人の帳簿の内容は、ルールに則って正しく法人に引き継ぎましょう。資産や負債、売掛金や買掛金などの引継ぎが不適切だと、調査の対象になります。
例えば棚卸資産は通常の販売価格の70%以上で引き継ぐ必要があるなど、引継ぎ方法にはいくつかのルールがあります。法人成りに伴う資産引継ぎについて、詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:法人成りで個人事業主の資産を引き継ぐ方法は?資産の種類、注意点も解説!
個人時代のミスに気づいたらすぐに修正申告する
個人時代の無申告やミスが発覚したらすぐに修正申告を行いましょう。修正申告は、提出済みの申告を自ら修正する手続きです。
税務調査の連絡を受けるよりも前に自主的に修正を行うと、ペナルティが軽減されるケースもあります。修正した場合、税務署は「意図的な脱税ではなく、単なるミスだった」と判断するためです。
一方、修正申告をせずに放置した場合、税務調査でミスが発覚すると、過少申告加算税や重加算税が課されるリスクが高まります。税務署から「意図的な隠ぺい」と見なされるためです。
修正申告について詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:修正申告とは?税務調査で修正申告が発生するのはどんな時なのか詳しく解説
税理士に相談してミスがないかチェックしてもらう
税務調査のリスクを減らしたい方は、税理士に相談し、手続きにミスがないかチェックしてもらいましょう。
税理士は税務に関する専門家です。過去の申告内容や法人成りの手続きに対して、適切なアドバイスができます。税理士によるチェックで誤った手続きが発見された場合、すぐに修正すれば税務調査のリスクを減らせます。
法人成りに伴う税務調査が不安な方は税理士にご相談ください
この記事では、法人成りすると税務調査が来やすい理由について解説しました。
法人成りすると、移行時の不備がないか税務署にチェックされます。また、法人成りから3年は、個人に関しても税務調査が来やすいので注意しましょう。個人時代の書類を保管しておくなど、対策が必要です。
「過去の申告に不安がある」「資産の引き継ぎを適切に処理したい」などお悩みの方は、税理士にご相談ください。税理士によるチェックやアドバイスを受ければ税務調査のリスクを軽減でき、安心して法人運営に臨めます。