事業をさらに成長させるべく、個人事業を廃止して法人成りを目指す事業者の方も多いのではないでしょうか。もし個人事業を辞める際には、廃業届の提出をしなくてはいけないケースもあります。提出や記載についての詳しいやり方を把握しておけば、法人成りまでスムーズに手続きが進められるでしょう。そこで今回は廃業届が必要なケースと書き方、注意点を解説します。
目次
廃業届とは?
廃業届とは、個人事業主が事業を廃止する際に、税務署や都道府県税事務所に提出する書類です。正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」といいます。国や都道府県は、この届出を通じて個人事業の開始と終了を把握できます。
個人事業主が廃業届を出して法人成りするメリット・デメリット
個人事業主が廃業届を出して法人成りするメリット・デメリットを表にしてまとめました。
メリット |
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デメリット |
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個人事業主の方は上記のメリット・デメリットを踏まえて現状の事業状況を考慮して慎重に検討しましょう。
関連記事:個人事業主から法人化をするメリットは?タイミングと手順
法人成りで個人事業主の廃業届を提出する理由
以下では、法人成りをして個人事業主が廃業届を提出すべき理由についてまとめました。
個人事業の終了を税務署に認知してもらうため
法人成りをした後も廃業届を提出しない場合、税務署は「個人事業が続いている」と誤認してしまいます。その結果、不要な税務通知や納税義務が発生する可能性があるのです。
確定申告の場合に「個人事業」と「法人」で区別するため
廃業届が必要な理由として、個人事業と法人の両方で確定申告が必要であることが挙げられます。
廃業届によって個人事業が廃止される日が明確になるため、それぞれの期間における所得を正確に区分できます。これにより、確定申告もスムーズかつ正確にできるようになるでしょう。
法人成りで廃業届の提出が必要・不必要なケース
続いて、法人成りで廃業届が必要・不必要なケースをご紹介します。
廃業届が必要 |
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廃業届が不要 |
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もし廃業届の提出が必要かどうか判断できない場合は、税務署や税理士に相談することをおすすめします。
廃業届を出さないとどうなる?
個人事業主は廃業届の提出が義務付けられているものの、提出しなかった場合の直接的な罰則はありません。
ただし、廃業届を提出しない限り、税務署は事業が継続しているとみなし、確定申告に関する書類が送付され続けます。そのため、確定申告の必要がないにもかかわらず、書類が届き続けるので注意が必要です。
関連記事:個人事業主の法人成りに最適なタイミング3つについて解説
個人事業主の廃業届の書き方
廃業届のフォーマットは国税庁のホームページからダウンロードできるので、書き方の参考にしてください。
提出するタイミング・時期
「個人事業の開業・廃業等届出書」は廃業日から1ヶ月以内の提出が必要です。ただし廃業後の事業所の片付けや整理にかかる費用など事業との関連性が曖昧な支出は、経費として認められない可能性があります。
そのため、事業に関連する支出は廃業前にすませておくのがおすすめです。
提出する方法
パソコンでe-Taxソフトを使用して届出書を作成し、e-Taxで提出しましょう。e-Taxソフトは、インターネット上で国税に関する申告や納税などの手続きを行うためのソフトウェアです。
申告書などの様式に沿った入力画面で、必要な情報を入力することで申告データを作成できます。
記入する方法
個人事業主の廃業届は、以下の手順で記入します。
届出の区分 |
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所得の種類 |
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開業・廃業等日 | 事業を廃止した年月日を記入 |
廃業の事由が法人の設立である場合 | 法人成りの場合のみ、設立した法人の名称、代表者氏名、法人の納税地、設立登記の年月日を記載 |
開業・廃業に伴う届出書の提出の有無 | 廃業に伴う他の届出書を提出する場合は「有」を選択 |
関連記事:個人事業主は廃業届をいつ出すべき?その書き方と廃業方法
個人事業主が法人成りするまでの流れ
廃業届を提出したら、次はいよいよ法人成りの手続きに進みます。ここからは、個人事業主が法人成りするまでの流れについて簡潔に解説します。
①会社形態を決める | 株式会社、合同会社、合資会社、合名会社など、どのような会社形態にするかを決定する |
②基本事項を決める | 会社の商号(社名)、事業目的、本店所在地、資本金、決算日などを決定する |
③印鑑を購入する | 会社の代表者印、銀行印、角印などの印鑑を購入する |
④定款(法定文書)を作成する | 会社の商号、事業目的など、会社の基本事項を記載した定款を作成する |
⑤定款の認証を受ける(株式会社の場合) | 株式会社を設立する場合は、作成した定款を公証役場で認証を受ける必要 |
⑥資本金の払い込みをする | 決定した資本金を、発起人(出資者)の個人の銀行口座に払い込む |
⑦登記申請を行う | 登記申請書、定款、払い込み証明書などを用意し、本店所在地を管轄する法務局に、設立登記申請を行う |
法人成りの手続きは煩雑なため、税理士に相談するのも1つの手段です。定款の作成、認証、登記申請、税務署への届出など、煩雑な手続きをサポートしてもらえます。法人設立に関する税務、会計、法律などの専門知識に基づいたアドバイスも受けられます。
法人成り後に知っておきたい手続き一覧
無事に法人成りした後も、会社設立後にはさまざまな手続きが発生します。以下では、法人成りに際して知っておきたい手続きを一覧で紹介します。
開業費と創立費の処理
開業費は会社設立前に事業開始のために支出した費用、創立費とは会社設立のために支出した費用です。これらの費用は税務上、繰延資産として計上して任意で償却することができます。
減価償却資産の処理
個人事業から法人成りに変わるにあたって減価償却の法定償却方法が定額法から定率法に変更となります。もし個人事業で使用していた減価償却資産(車両、備品など)を法人へ引き継いだ場合、適切な評価と会計処理が必要です。
会社設立に関する書類手続き
会社設立後には税務署、都道府県税事務所、年金事務所、労働基準監督署、ハローワークなど、さまざまな機関への届出が必要です。
法人設立届出書、青色申告承認申請書、社会保険・労働保険の加入手続きなど、必要な手続きを期限内に行います。また、法人口座の開設や、必要に応じて許認可の取得などもしなくてはなりません。
関連記事:法人成りの手続きに必要な5ステップについて詳しく解説
法人成りする個人事業主に関する注意点
それでは、法人成りを目指す個人事業主が廃業届を提出する際に注意すべきポイントについて解説します。
個人事業主と法人の両方で確定申告をしなくてはいけない
法人成りした年は、個人事業としての期間と法人としての期間、両方の確定申告が必要です。個人事業の確定申告は、1月1日から廃業日までの期間の所得を計算し、翌年の確定申告期間内に申告・納税を行います。
法人としての確定申告は設立日から最初の決算期までの期間の所得を計算し、決算日の翌日から2ヶ月以内に申告・納税しましょう。
廃業に際して費用がかかる可能性がある
個人事業の廃業自体には、法人解散のような法定費用はかかりませんが、以下の費用が発生する可能性があります。
- 個人事業で使用していたオフィスの解約に伴う原状回復費用や契約解除費用
- 法人成り後の新しい事務所の賃貸契約費用や既存事務所の名義変更手数料
事業に直接関連する費用は、廃業年度の必要経費として計上できる場合があります。ただし、個人的な目的や新たな事業の準備にかかる費用は対象外です。経費として認められるか不明な場合は、税理士などの専門家に相談しましょう。
個人事業主の廃業に関するよくある質問
最後に個人事業主が廃業届を提出して法人成りするまでの流れに関するよくある質問についてまとめました。こちらも参考にしながら、廃業届や法人成りの手続きを進めましょう。
法人成りのメリットとデメリットは?
個人事業主が法人成りをするメリットとデメリットを以下にまとめました。
メリット |
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デメリット |
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法人成りは事業の状況や将来の展望によって最適な選択が異なることを覚えておきましょう。
開業届の提出を取り下げるにはどうすればいい?
開業届を提出したものの事業開始に至らず、開業届の提出自体を取り消したいというケースも考えられます。しかし、税務署に提出した開業届を取り下げるための正式な書式は存在しません。
このような場合には自身で「開業届撤回届」または「開業届取下書」といった文書を作成し、税務署に提出します。この手続きはイレギュラーな対応のため、事前に税務署に相談し、指示を仰ぎましょう。
休業したい場合は?
新型コロナウイルス感染症のような予期せぬ事態や、事業主自身の健康上の理由などで、一時的に事業を停止したい場合に選択されるのが休業です。所得税法上、個人事業主の休業に関する正式な届出制度は存在しません。
そのため休業を選択しても自動的に廃業扱いになることはなく、青色申告の承認が取り消されることもありません。将来的に事業を再開する意向がある場合は、安易に廃業届を提出しない方が良いでしょう。
事業継承したい場合は?
事業承継は廃業に代わる選択肢として、次世代への事業継承を可能にします。承継方法には、①贈与、②相続、③譲渡の3種類があり、後継者は新たに開業届を提出する必要があります。
相続の場合、遺産分割協議や相続税申告、名義変更手続きもしなくてはいけません。また、一定の要件を満たすと、相続税の納税猶予が適用される「個人版事業承継税制」も利用可能です。
まとめ
事業の成長のために法人成りを考えている個人事業主の方も多いかと思います。法人成りをするためには廃業届を提出して税務上の手続きを適切に行わなくてはなりません。
しかし廃業届を提出してから法人成りするまでの所定の手続きは煩雑なため、1人ですべてこなすのは大変なことも多いです。
個人事業を廃業し法人成りする際の手続きや、会社設立手続き、税務申告、節税対策については税理士に相談してみましょう。法人成りを予定しているけれど手続きに不安があるという方は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。