税理士に税務を依頼する際、税理士が通帳を渡すよう求める場合があります。一般的な記帳代行や税務申告であれば、通帳のコピーやデータで対応できるケースが多いです。しかし、税務調査や融資手続き、相続関連などでは通帳の原本が必要になるケースもあります。この記事では、税理士に通帳の原本を預けるケースや、預ける際の注意点を解説します。
目次
税理士に通帳の原本を預ける必要があるケース
税理士に通帳を預ける際、原本を預ける必要があるケースと、コピーやデータで対応可能なケースがあります。どちらになるかは、税理士が求める情報の目的や精度によって決まります。
税理士に対して通帳の原本を預けるケースは、正確性や証拠性が重視される場合です。例えば、以下のようなケースです。
複雑な記帳代行や税務申告を依頼する場合
記帳代行や税務申告を税理士に依頼する際、通帳の原本を求められるケースがあります。特に、取引が頻繁にある場合や多額の取引がある場合など、取引が複雑なケースに多いです。
コピーのみ渡した場合、不備や漏れがあった際に再度原本を確認する必要が生じます。よって、最初から原本を渡していた場合に比べて時間やコストがかかるリスクがあります。
最初から原本を預けることで、データやコピーを都度送付する手間が省け、よりスムーズな対応ができます。
逆に言えば、複雑ではない一般的な記帳代行や税務申告なら、通帳のコピーでも対応可能です。
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資金繰りや融資のサポートなど金融機関での手続きが必要な場合
税理士が融資申請や金融機関との交渉を代理で行う際、通帳の原本を預かり、金融機関に提出するケースがあります。資金繰りや融資申請の際、金融機関は事業者の信用力を判断するために通帳の原本を確認するのが一般的だからです。
コピーやデータでは、原本と比べて加工や改ざんのリスクが高いため信頼性が下がります。さらに原本には印影やホログラムといった識別情報も含まれており、「本物である」と確認しやすいのです。よって原本が求められます。
ただし金融機関ごとにルールが異なるため、事前にコピーで対応可能か確認するのをおすすめします。また、税理士が原本を長期間預かるケースは少なく、通常は必要なタイミングで一時的に預かります。
税務調査に対応する場合
税務調査とは、税務署の職員などが納税者に対して行う調査です。申告内容が正確かを確認します。
税務調査の対応を税理士に依頼する場合、事前準備のために税理士が通帳の原本を預かるケースがあります。原本はコピーに比べて抜け漏れのリスクが低いためです。原本を用いて、税務署から指摘されそうな点を事前に洗い出し税務調査に備えます。
税務調査の際も、税務署の職員が通帳原本の提示を求めるケースがあります。例えば取引内容が疑われる場合などです。このときに原本があるとスムーズに対応できます。
なお、税務調査について詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:税務調査はどこまで調べるのか?知っておきたい対象範囲や注意点・手続きなどを詳しく解説
関連記事:税務調査にかかる時間は?時間帯はいつ?個人・法人別に解説
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相続の財産を確認する場合
相続税申告の際の税理士は、被相続人だけではなく相続人や周囲の関係者の通帳原本を確認するケースがあります。原本はコピーに比べて改ざんや抜け漏れのリスクが低く、信頼性が高くなるためです。
相続では、亡くなった日の預貯金の「残高証明書」があれば十分だと考える方もいらっしゃいますが、それだけでは不十分です。
例えば生前に子供に渡したお金や、死亡直前に引き出された現金などは、相続税の対象となる可能性があります。親族名義ではあるものの実質的に被相続人の財産とみなされる預金なども同様です。
こうした資産の見落としを防ぐため、通帳の原本を細かく確認し、取引履歴を詳しく追跡します。具体的には、関係者すべての口座の入出金履歴を基本的には過去3年分ほど遡って確認します。
関係者が多い場合や取引履歴が複雑な場合、税理士が長期間通帳原本を預かる可能性もあります。税理士に原本を預ける際は、返却日を確認しましょう。
税理士に預けるのが通帳のコピーなどでも問題ないケース
原本ではなく、通帳のコピーやデータで対応可能なケースもあります。
一般的な記帳代行や税務申告を依頼する場合
記帳代行や税務申告を税理士に依頼する際、特に複雑でなければ、通帳のコピーでも対応可能なケースが多いです。
ただし、取引日・入出金額・残高・相手先などの重要事項がコピーから分かる必要があります。
インターネットバンキングを利用している場合
インターネットバンキングを利用している場合、PDFやCSV形式で取引明細を提供するケースもあります。金融機関から直接ダウンロードしたデータは、コピーと違って信憑性が高いためです。
近年は通帳自体がない口座も多いため、データ対応が主流になってきています。ただし、紙の通帳も持っている場合は、紙の通帳も提出を求められるケースがあります。
税理士は通帳をどう使う?通帳から把握できること
預けた通帳はどのように使われるのでしょうか。ここでは、「記帳代行や税務申告の場合」「相続財産を確認する場合」の2つに分けて、通帳から読み取れるポイントを解説します。
記帳代行や税務申告の場合
記帳代行や税務申告では、通帳から読み取れる以下の点を整理し、正確な帳簿作成と申告に繋げます。
チェックするポイント | 解説 |
入金の内容 | 売上金や売掛金、借入金、助成金などを適切な科目に分けて処理する。 |
出金の内容 | 経費の仕訳や、事業用クレカの整合性などを確認する。 |
不審な取引の有無 | 税務署に指摘されそうな取引がないか確認する。 |
資金繰りの状況 | キャッシュフローに問題がないか確認し、必要に応じてアドバイスする。 |
ほとんどの記帳代行や税務申告では通帳のコピーを提出すればOKです。しかし、頻繁な取引や多額の取引がある場合は、通帳原本を求められる可能性があります。
関連記事:フリーキャッシュフローとは?マイナスの要因や影響、分析方法まとめ
相続財産を確認する場合
相続税申告では、故人の通帳から読み取れる以下の点を確認し、正確な申告に繋げます。
チェックするポイント | 解説 |
生前の生活状況 | 光熱費・通信費・クレジットカードの引落し額などから普段の生活パターンを分析し、収入や支出に見合った残高があるか確認する。 |
亡くなる前後の引き出し | 亡くなる直前や直後に多額の現金が引き出されている場合、その現金が相続財産として計上される可能性がある。 |
高額な入金・出金 | 高額な入出金は隠れた資産の発見に繋がることがある。入金の場合、それが家賃や配当なら、不動産や株が相続財産に該当する可能性がある。 出金の場合、他の銀行口座や証券口座に資金が移動していれば、そちらも併せて確認する。 |
相続人との金銭のやりとり | 生前に贈与が行われていないか確認する。相続税の対象となる期間内の贈与は、相続財産として計上される可能性があるため。 |
知人との金銭のやりとり | 友人にお金を貸していればその返済状況を、友人からお金を借りていればその債務状況を確認する。 |
保険料の支払いの有無 | 生命保険や損害保険の保険料が支払われている場合、その保険契約が相続財産として計上される可能性がある。 |
配当金の有無 | 株式や投資信託の配当金が入金されている場合、その資産が相続財産として計上される可能性がある。 |
貸金庫の利用料金の有無 | 貸金庫には重要書類や貴重品などが保管されていることが多いため、利用料が支払われていた場合、貸金庫の中身を確認する。 貴金属や時計などがあった場合、それらも相続財産として計上される可能性がある。 |
賃貸物件の賃料の有無 | 賃貸物件や駐車場の賃料が入金されている場合、その物件が相続財産として計上される可能性がある。 |
債務の有無 | クレジットカードの支払いやローンの返済などがあるか確認する。相続税申告では、債務も相続財産として計上するため。 |
正確な財産を把握するため、必要に応じて相続人や関係者の通帳原本も確認します。
税理士に通帳の原本を預ける際に確認したいポイント3つ
通帳原本には口座番号や印鑑情報などが含まれているため、悪用されるリスクがあります。
税理士から通帳の原本を預けるよう求められたら、むやみに預けるのではなく、以下の3点を事前に確認しましょう。これにより、通帳を預けるときの物理的なリスクや心理的な不安を軽減できます。
通帳のコピーではなく原本である必要性を確認する
原本を預ける際は、なぜコピーやデータでは対応できないのか、納得できる理由を事前に確認しましょう。納得できない場合は、時間や手間が掛かったとしてもその都度コピーして渡すのも一つの方法です。
なお、コピーだけ渡す時は、金融機関名や口座番号・支店名などの情報も併せて提供すると、税理士の作業がスムーズに進みます。
税理士事務所の管理体制を確認する
原本を預ける際は、税理士がどのように通帳を管理するのか、紛失や漏洩を防ぐ対策が取られているかなどを確認しましょう。具体的には、以下のような点を事前に確認すると安心です。
- 預けた通帳が安全な場所に保管されているか(金庫や鍵付きの引き出しなど)
- アクセスできるスタッフは限られているか
- 誰がいつ原本を扱ったか記録されているか
- 事務所の管理は定期的にチェック・更新されているか
- 紛失・盗難・不正使用などがされた場合、税理士はどう対応するのか
- どのくらいの期間預ける必要があるのか
- 必要になった場合にすぐ返してもらえるか
預ける際は、預けた日付・返却予定日・目的などが明記された「預かり証」などの記録を残しましょう。トラブルになった場合、税理士が通帳の原本を受け取った証拠となります。
信頼できる税理士か確認する
原本を預ける際は、税理士が信頼できる人物か確認しましょう。
初めて依頼する税理士なら、まず税理士の登録番号を確認してください。下記の日本税理士会連合会のサイトで検索できます。
もし名前や登録番号で検索しても表示されない場合、偽の税理士である可能性があります。その場合は地元の税理士会に問い合わせるか、利用を避けましょう。
税理士事務所の評判や口コミなどを調べるのも一つの方法です。ただし評判には個人の意見が含まれるため、事実と異なる可能性がある点に注意してください。
複数の情報源を確認しても今の税理士が信頼できるか迷う場合は、他の税理士にセカンドオピニオンを求めましょう。本当に原本を預ける必要があるのかなど、今の税理士の対応が一般的なものか確認できます。
不安な方は、複数の税理士に意見を聞くと冷静に判断できるでしょう。税理士事務所の中には、無料相談を受け付けている所も多くあります。
税理士に通帳の原本を預けるのが不安ならご相談ください
この記事では、税理士に通帳の原本を預けるケースや、預ける際の注意点を解説しました。 一般的な記帳代行や税務申告であれば、通帳のコピーやデータで対応できるケースが多いです。しかし、税務調査や融資手続き、相続関連では原本が必要になるケースもあります。
とはいえ、原本を預けることに不安を感じられる方もいらっしゃるかと思います。当税理士法人では、個人情報の管理について、セキュリティ対策を実施しています。
もし通帳の預け方に不安を感じられた場合は、納得されるまでご説明させていただきます。また、安心できる方法を共に模索し、解決策をご提案いたします。セカンドオピニオンとしてのご利用も、ぜひご検討ください。