個人事業主として独立し、マッサージ店の開業を考えているなら、開業のための手続きや注意点を把握しておかなければなりません。この記事では、開業手続きや税務、経費管理のポイントを解説し、経営の成功に役立つ有益な情報を提供します。個人事業主としての開業は、さまざまな準備を必要とし、収入を安定させるための工夫が求められます。さらに、適切な経費管理や税務手続きなどを把握することで、正確な申告と節税を実現できるでしょう。
目次
マッサージ店を開業するために取得しておきたい資格
マッサージとは、さまざまな身体の不調を抱えている方に対して、不調の改善や緩和を試み、健康を促すために行う施術です。マッサージ店として独立開業を目指すなら、顧客が安心して施術を依頼できるような資格を保有していると有利です。ここでは、マッサージ店を開業する際に取得しておきたい資格について詳しく紹介します。
あん摩マッサージ指圧師
国家資格の一つで、古くから日本で行われてきた伝承医学を基に施術を行います。資格を取得するためには、厚生労働省や文部科学省の認定を受けた学校で3年以上学び、試験に合格しなくてはいけません。
資格取得にかかる費用として、専門学校(3年間)で300~500万円、4年制大学で400~500万円ほどかかると言われています。
鍼灸師
はりやお灸などで施術を行うための国家資格です。鍼の施術は「はり師」、お灸の施術は「きゅう師」とそれぞれの資格が必要ですが、鍼と灸の両方の資格を取得するケースがほとんどです。
鍼灸師の資格を取得するためには、下記より認定を受けた学校や養成施設で学びます。
- 文部科学大臣
- 厚生労働大臣
- 都道府県知事
また、学校で鍼灸師の資格を取得するために必要な知識や技術を習得した後は、試験に合格しなくてはいけません。
鍼灸師の資格を取得する費用相場は、専門学校(3年間)で400~500万円、4年制大学の場合は500~600万円です。
柔道整復師
接骨院や整骨院で骨折や脱臼、ケガに対応する施術を行うための国家資格です。資格を取得するためには、指定の学校において3年以上の学習が必要です。その後、試験に合格すると資格を取得できます。
資格を取得するまでのかかる費用の平均は、専門学校(3年間)で300~500万円、4年制大学で500~700万円です。
無資格が認められるケース
マッサージ店を開業する際に、エステやリラクゼーション目的の施術を行う場合は、資格を必要としません。
とはいえ、資格を持っていないと顧客に不安を与え、集客力が上がらない原因となり得ます。特に開業当初は、赤字経営に陥りやすいため、経営の安定化につなげるためにも、できるだけ多くの顧客を集めることが大切です。
エステやリラクゼーションの民間資格がいくつかあります。それらを取得しておくことで、専門知識と技術を持っていることを証明できるでしょう。
また、エステやリラクゼーションサロンは資格なしで開業可能ですが、マッサージの施術をすると法令違反となるため注意が必要です。治療をメインとしたマッサージ店の開業を検討しているなら、国家資格を取得しましょう。
民間資格は多数あり、学校や資格の種類によって取得費用が大きく前後します。例えば、リンパマッサージの民間資格は、15万円程度から取得できます。
マッサージ店を開業する前にやっておくべきこと
開業の準備はもちろん、お店を開業するにあたり、お店について詳細を決めておくことが、事業の継続や経営の安定化に結び付きます。個人事業主としての働き方は多様にあるため、開業する前に施術内容や営業形態などについてしっかりと考えておきましょう。
施術の内容を決める
マッサージをメインとするなら、どのような施術を行うのかを事前に決めることが大切です。施術の内容に応じて、メニューやメインとするターゲットを決めるからです。
基本的に、取得している資格に応じて、施術内容を決めます。複数の資格を持っている場合は、施術のバリエーションを増やせるため、顧客の興味や関心を惹きつけるのに効果的です。
メインターゲットを決める
どのようなお客様に来店してほしいのかを考えることで、適切な施術メニューの考案、開業に適したエリアなどを絞り込めます。
例えば、高齢者をメインに身体の不調を緩和するマッサージ、若い女性をメインにした美容目的の鍼灸の施術といったように、ターゲットのニーズに合わせて施術内容を選べます。
また、開業する立地についても、メインターゲットがアクセスしやすいエリアや場所を選ぶことで集客力アップにつなげます。
働き方を決める
個人事業主としてマッサージ店を開業する場合、いくつかの働き方があるため、自分に合った開業方法を選ぶことが、事業の継続に結びつきます。
自宅で開業
場所を借りる費用がかからず、毎月の家賃負担もありません。ただし、住宅地の場合は集客が難しいだけでなく、プライベートのスペースと分ける工夫が求められます。また、自宅が賃貸物件の場合、物件によっては契約違反となることがあるため、事前に契約内容を確認しておきましょう。
貸店舗で開業
施術の内容、メインターゲットに合わせたエリアを選べるのが貸店舗の最大のメリットです。一方で、契約時の費用や毎月の家賃がかかるのがデメリットです。
シェアサロン(レンタルサロン)
日時を指定してサロンを借りるシェアサロン(レンタルサロン)も、選択肢の一つです。貸店舗と異なり、敷金や礼金、家賃がかからないため、固定費を減らせます。
ただし、家具の持ち込みやアロマオイルの使用など、シェアサロンによっては規制が厳しく、施術内容に影響が出ることがあります。
フランチャイズ契約
フランチャイズでの契約は、著名なサロンの知名度を利用できること、技術や設備、広告宣伝などのサポートを活用できる点がメリットです。しかし、施術内容や価格、お店のコンセプトなどは本部の方針に従うこと、毎月のロイヤリティーの負担がデメリットです。
訪問型マッサージ
店舗を持たず、依頼者の自宅などで施術を行います。店舗への来店が難しい高齢者や乳幼児がいる人などをターゲットにすると集客しやすいかもしれません。店舗がないため、家賃がかからないのがメリットですが、お店の知名度を高め、集客につなげるための努力が求められます。
個人事業主としてマッサージ店を開業するための手続き
マッサージ店を開業する際には、さまざまな準備が必要です。スムーズに手続きを進めるためにも、必要な準備について詳しく説明します。
開業届の提出
マッサージ店を開業する際には、税務署に開業届の提出が必要です。開業届は、開業から1カ月以内に、納税者の居住地もしくは開業先の所在地を管轄する税務署に提出します。
青色申告承認申請書
青色申告を希望するなら、青色申告承認申請書を税務署に提出します。個人事業主になると、自身で確定申告をしなくてはいけません。
確定申告には青色申告と白色申告があり、自身の好きな申告方法を選択できます。申告者の所得額や事業の内容に応じて、確定申告方法を決める必要はありません。
青色申告は白色申告よりも帳簿作成に手間がかかりますが、最大で65万円の青色申告特別控除を利用できます。さらに、家族に給与を支払っている場合は、給与を経費にできること、赤字を3年繰り越せることも青色申告のメリットです。
青色申告で確定申告をするなら、事前の届出が必要です。青色申告承認申請書は、開業届と併せて提出すると、提出忘れを防げるでしょう。
関連記事:個人事業主の青色申告とは?いくらから必要?メリット・デメリットや帳簿の書き方などについて解説!
事業開始等申告書
個人事業税に関わる書類で、都道府県に提出します。一定の収入を得ていること、課税対象の業種である場合に、個人事業税が課されます。
申告書の未提出による罰則はありませんが、開業届の記載内容とほぼ同じであるため、開業届と一緒に作成することをおすすめします。
関連記事:個人事業主と起業の違いは?メリットや手続き、税金の違いも解説
施術所開設届出書
あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師の資格を保有し、資格に関連する施術を行う事業を開始するときに保健所に提出します。施術所開設届出書の提出は、店舗を構えて営業するときだけでなく、出張マッサージ店を開業するときにも必要です。
施術所開設届出書は、事業を開始してから10日内に提出しなくてはいけません。必要書類は保健所で受け取る、もしくは自治体のホームページよりダウンロードできます。
マッサージ店を開業するためにかかる費用
マッサージ店を開業するためにかかるおおよその費用を紹介します。
費用の内訳 | 自宅での開業 | 貸店舗 | 出張マッサージ |
物件にかかる費用 | 改装で約50万円 | 約100~150万円 (敷金、礼金、必要に応じて改装費用) | 0円 |
設備費 | 約20万円 | 約20万円 | 約20万円 |
広告宣伝費 | 約30万円 | 約30万円 | 約30万円 |
消耗品費 | 約5~10万円 | 約5~10万円 | 約5~10万円 |
上記の費用はあくまでも目安です。さまざまな条件によって、必要な開業資金が異なります。また、開業当初は売上が伸びず、赤字が続くことが想定されます。
約3カ月分の運転資金を用意しておくことで、資金繰りの悪化を防げるでしょう。開業時に必要な資金について事前に調べておくこと、自己資金や融資、補助金などを活用して資金を準備しておくことが大切です。
関連記事:開業資金の融資はどうすれば受けられる?自己資金なしでも可能?資金の集め方や貯め方などを解説!
マッサージ店を経営する個人事業主が覚えておきたい経理のポイント
マッサージ店を経営するなら、できるだけ安定した収入を得たいと思うでしょう。売上を上げるためには、宣伝活動や施術内容を充実させることも大切です。併せて重要となるのが、売上や経費の適切な管理です。売上や経費の正しい管理、日々の記帳が適切な納税や節税につながるからです。ここでは、適切に経理を行うためのポイントを紹介します。
経費を適切に計上する
事業で利益を得るためにかかった費用は原則、経費にできます。適切に経費を計上することで節税効果を高めましょう。以下に、経費として認められる出費の一例を、ひと月当たりの費用の目安と共に紹介します。
- 店舗で使用するトイレットペーパーなどの消耗品:2,000円~
- 施術で使用する精油やオイル:3,000円~
- 施術用の器材(ベッドなど):5~10万円
- 事務処理をするためのパソコンやデスク:10万円~
- 店舗を装飾するためのインテリア品の購入:5~20万円
- 通信費(電話代やインターネット代):7,000円~
- 店舗のホームページ作成料、ドメイン使用料など:20万円~
- 店舗の水道光熱費:10,000円~
- 施術後やカウンセリング時のお茶とお菓子:3,000円~
- 広告宣伝費:売上の5%前後
店舗で使用した費用については経費として計上できます。ただし、上記で紹介した経費についてはあくまでも目安で、店舗の営業時間や顧客の人数など、さまざまな条件によって前後します。パソコンやデスクなどの経費は、毎月発生しないでしょう。
自宅と店舗を兼用している場合は、プライベートで使用した費用は経費にできません。しかし、家事按分で店舗での使用分を必要経費にできます。
本来は計上できるはずの経費の計上漏れがあると、節税効果が薄れます。経費にできるかどうかの判断で迷ったときは、税務署もしくは税理士に相談してみましょう。
関連記事:個人事業主は経費をどこまで切れる?経費にできるものや上限・メリットなどぶっちゃけ紹介!
正しい記帳と確定申告を行う
日々のお金の動きを適切に記帳することが、正しい確定申告につながります。青色申告を選択した場合、複式簿記での記帳が重要です。
白色申告よりも複雑な記帳が求められますが、青色申告特別控除や損失の繰り越しといった特典を受けられます。
簿記の知識がなくても、会計ソフトを活用することで正しい記帳をサポートしてくれます。記帳や確定申告手続きに不安があるなら、税理士に相談することも検討してみましょう。
また、業務が忙しくなってくると、会計業務が疎かになりがちです。確定申告時期の間際になってから慌てて経費や記帳の見直しをすると、ミスや記帳漏れが起こりやすいです。さらに、通常業務にも支障が出て、経営にも悪影響を及ぼすことがあります。
正しく記帳や納税を行い、本業に集中するためにも税理士のアドバイスやサポートが効果的です。また、節税対策も相談できるため、合法的に利益を上げることにも結び付きます。
関連記事:個人事業主の開業1年目、初めての確定申告の方法について
まとめ | 個人事業主としてマッサージ店を営業するなら事前の準備が大切
個人事業主として独立し、マッサージ店を営業するなら、安定して利益を出すことが経営を長続きさせるコツです。個人事業主となった場合、自身で開業の準備や確定申告の手続きが求められます。事前に必要な準備や開業資金について理解し、スムーズな開業を目指しましょう。また、日々の正しい記帳や申告手続き、節税対策などは税理士に相談すると、効果的なアドバイスやサポートを受けられるはずです。