経営者貸付や役員貸付は、会社にとっても、経営者や役員にとっても、大半の場合はマイナスでしかありません。しかし、貸付という形で借金が発生する事態に陥ってしまうことはあります。そこで、この記事では経営者貸付の概要や、経営者貸付が起こる原因、解消方法などについて、詳しく説明します。
目次
そもそも経営者貸付とは

経営者貸付という言葉では、誰が誰へと金銭を貸すかで、その意味はまったく違ってきます。ここでは経営者貸付について、分かりやすく解説します。
会社が代表取締役等へお金を貸し付けること
経営者貸付とは、会社が代表取締役(経営者)等へと金銭を貸し付けることを差します。法人を視点とした貸付であり、会社側からすれば経営者へと金銭を貸している状態です。
経営者が、会社の資産から個人的な目的で金銭を引き出すほか、領収書のない支出があった場合も、経営者貸付と見なされるケースがあります。
経営者貸付と役員貸付の違い
経営者貸付とは、役員貸付の一種です。代表取締役が会社から金銭を借りた場合に該当します。
しかし、経営者貸付と役員貸付には、はっきりとした定義が設けられていません。広義では、役員も経営者に含まれる場合があります。しかし、一般的に経営者と言えば、その会社の代表取締役を差します。
なお、役員とは会社法において、取締役・会計参与・監査役の総称です。
経営者貸付と経営者借入の違い
会社側から見て経営者に金銭を貸すことが経営者貸付、会社が経営者から金銭を借りることが経営者借入と呼ばれます。
経営者借入は、資本金が不足している場合や、開業する際の費用として使うことを目的として、法人が代表取締役等から金銭を借りることです。そのため、会社にとっては負債に該当します。
経営者借入の特徴は、無利子でも利子つきでも、利息を任意で選べることです。とはいえ、借金であるため、いずれは会社から経営者へと金銭を返済しなければなりません。
経営者貸付の勘定科目
仕訳の際、経営者貸付に対して用いる勘定科目は、貸付金、もしくは役員貸付金に該当します。
さらに、貸付金は返済期限が1年未満であれば短期貸付金に、1年を超えるものは長期貸付金に区分されます。
経営者貸付の金利
経営者貸付が実行された場合は、法律に基づいた利子を計上しなければなりません。
経営者貸付の利率は、会社が他から借り入れて貸し付けた場合は借入金の利率、その他の場合は国税庁で公表されている利率を用いるのが一般的です。
令和4年から令和5年中に貸付が行われた分については、利率の下限が0.9%に定められています。
ただし、この利率の下限は年ごとに変動します。そのため、定期的な確認が必要です。
経営者貸付が起こる原因
そもそも経営者貸付は、どのような経緯で、なぜ発生するのでしょうか。さまざまなケースから、主な原因について考えてみましょう。
経営者が会社の資金をプライベートで流用
経営者が個人の支出を補う目的で会社の資金を流用し、プライベートな買い物や生活費などに使うと、経営者貸付と見なされる場合があります。
中小企業や小規模事業者では、経営者が会社の資金と個人の資金を混同しがちであるため、注意が必要です。
また、買い物や生活費などの支出だけではなく、経営者個人の税金を会社の資金で支払うことにより、結果的にそれが経営者貸付として扱われます。
個人的に借金を頼まれた
経営者が、ほかの役員から入院費や手術費といった理由で借金を頼まれ、まとまった金額を渡すために経営者貸付を行うというケースもあります。
また、その場合、借金を頼まれた経営者が借りるのではなく、役員本人による役員貸付として会社の資金が持ち出される可能性も考えられます。
正確な帳簿付けしておらず領収書の行方や用途が不明
中小企業や小規模事業者では、現金出納帳をきちんと帳簿付けしていなかったために、領収書の紛失やもらい忘れが発覚する場合があります。
用途不明な支出が重なると、経費計上が不可能となり、多額な経営者貸付、もしくは役員貸付の発生につながります。
これは、使途不明金があった場合、役員賞与に該当しないように貸付金として処理をするケースが多いためです。
決算の調整
経営者貸付が決算の調整に用いられるケースも見られます。決算時、支出を貸付金という勘定項目に変えることで、かかった費用を少なく見せかける方法です。
決算の調整は粉飾決算に該当するため、法により罪に問われる可能性があります。
発覚した際のリスクが重いため、やむを得ない事情があったとしても、貸付を決算の調整に用いることは避けましょう。
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経営者貸付の注意点
経営者貸付には、注意すべき点が複数存在します。注意点を事前に把握し、リスクの低下につなげましょう。
税務調査で指摘を受けることがある
経営者貸付が返済されないまま放置されていることが発覚すると、税務調査が入った際に指摘を受ける可能性があります。
経営者貸付は経営者から考えると借金であるために、本来であれば利息を支払いつつ返却しなければなりません。
そのため、放置したままでは、税務署からは経営者貸付ではなく役員報酬として取り扱われるかもしれません。
貸付が実際には役員報酬だと見なされると、これまで行われていなかった源泉徴収の源泉所得税や、住民税の追加納付が発生します。
さらに、上記の場合は納付が遅れていると見なされるため、加算税や延滞税なども課されるでしょう。
会社の資金が減る
経営者貸付が行われると、個人で使用するために会社の資金が引き出されて減ってしまいます。
前述した通り、経営者貸付が起こる原因として、経営者が会社の資金をプライベートで流用することが挙げられます。
その場合には、利息を含め、貸付が返金されるとは限りません。経営者貸付が多額であるほど、会社の資金は減少し、法人としての体力も奪われていきます。
会社と経営者の信用度が落ちる
多額の経営者貸付や役員貸付が計上されている場合、会社と経営者の信用度は低く見られます。
使途不明金の存在を疑われるほか、経営者や役員が容易に資金を引き出せる財務状況にも疑問を持たれかねません。会社に貸付が多いことで、金融機関からも資金管理を問題視される可能性が高まるでしょう。
また、経営者貸付があると、経営者自身の社会的信用にも傷がつきます。私的流用や資金の使い方が不適切といった印象を持たれ、イメージが悪くなる可能性があります。
法人税の負担が増加する
経営者貸付には利息が発生するため、その収益が増えると、結果的に法人税の負担が増えます。とはいえ、利息を計上しないと、税務調査で指摘される可能性が高まります。
さらには、経営者貸付があるにも関わらず利息が支払われていなかった場合、その貸付は役員報酬や役員給与として見なされる可能性があるでしょう。結果的に、未納付の税金や加算税・延滞税などの発生につながります。
相続の際には債務として扱われる
経営者貸付は、経営者が会社から借りているお金であるため、相続すると債務として扱われます。
その際、会社側は相続人から経営者貸付の返済と利息の回収を行わなければなりません。
しかし、相続人は借金をした経営者本人ではないことから、貸付の回収が難しくなるケースもあります。
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経営者貸付を減らす方法
経営者貸付は、税務調査の際に指摘を受けたり、債務に変化する可能性があったりと、多くのデメリットを抱えています。経営者貸付が発生した際には早めの解決を目指し、次のような減らし方を参考にしてみてください。
経営者借入と相殺する
経営者借入がある場合には、経営者貸付との相殺を図る方法があります。
相殺は多くの場合、決算のタイミングで行えます。その場合の仕訳では、貸方の勘定科目は「借入」に、貸方の勘定科目は「貸付」に、それぞれ相殺する金額を記入しましょう。
役員報酬を増やして返済する
経営者が得ている役員報酬を増やすことで、その分を会社の貸付返済にあてられます。
また、受け取る役員報酬の金額をそのままに、経営者貸付の返済を行うことも可能です。ただし、この方法では、経営者の社会保険料や税金の負担は増えるため注意しましょう。
なお、役員報酬の金額変更は、原則的に事業年度の開始から3ヵ月以内と定められています。タイミングを逃さないよう、計画的に準備しておくことが大切です。
役員退職金と相殺する
経営者が将来受け取る役員退職金を利用し、貸付を相殺するという方法もあります。
これは主に、役員報酬を増減しても経営者貸付が解消されなかった場合に用いる手段の1つです。
退職金で経営者貸付を相殺できるのであれば、経営者は会社に貸付の返済を行わずに済み、また、法人としても退職金として支払う額を減らせます。
ただし、この手段を用いる場合には、経営者に退職金が支給されるまで、貸付を計上し続けなくてはなりません。
金融機関から借入して返済する
経営者自身が金融機関から借入をし、それを返済にあてると、会社から貸付をなくすことで財務の改善を図れます。
ただし、個人が十分な返済能力を持っていることが、この手段を実行する条件です。
例えば税務調査で指摘を受けた場合、この方法を用いるとすぐに経営者貸付を解消できます。
個人資産を会社名義に変更する
経営者が個人所有する土地や建物などの不動産、乗用車などを会社に売却し、法人名義に変更することで経営者貸付を解消できます。
個人資産を会社名義に変更する場合は、事前に売却する資産の適正価格や、売却に課される税金にも考慮しましょう。
なお、売却することで収益を得た場合には、譲渡所得の発生により確定申告が必要です。
会社による債権放棄
会社が債権放棄するという方法も、経営者貸付を解消する手段の1つです。
しかし、会社が債権放棄する方法は、その資金は貸付ではなく役員賞与として扱われる可能性があります。役員賞与とは、定期的に支給される役員報酬に対し、臨時的に支払われる給与の一種です。
つまり、経営者からすると、この役員賞与は給与として見なされるでしょう。そのため、源泉所得税の対象となるほか、社会保険料の負担増加へとつながるため注意が必要です。
関連記事:役員貸付金とは?デメリットや問題点・減らす方法をわかりやすく解説
経営者貸付のリスクを減らす対策
経営者貸付は会社にとっても経営者にとってもマイナスになりがちなため、できる限り借金をしないに越したことはありません。リスクを減らすためにも、次のような事柄に気をつけましょう。
会社の資産と個人の資産を明確にする
会社と個人、それぞれの資産の線引きを明確にすることが、経営者貸付を防ぐ第一歩です。
経営者貸付が発生してしまう原因の1つに、会社の資金をプライベートで流用する行為が挙げられます。
特に、中小企業や小規模事業者の場合には、経理の担当者を置かず、経営者が経理業務を行うことは珍しくありません。
経営者が事業資金を簡単に引き出せるような財務管理では、会社の負担が増加しやすくなるものです。会社の資金は事業用という意識を経営者自らがしっかりと持ち、事業を進めていく必要があります。
発覚した場合は放置しないこと
経営者貸付が発生した場合は、なるべく早く解消しましょう。
経営者貸付をそのままにしておくと、前述したように税務調査で指摘されたり、周囲からの会社・経営者への信用度も落ちてしまいます。
また、経営者貸付には利子が発生することから、貸付が長引けば長引くほど、その支払い総額は増えます。
さらには、定期的な返済や利息の支払いがきちんと行われているか、貸付が長いほど不明瞭となり、解消が難しくなる傾向があります。
税理士が解決!経営者貸付の悩みはまず相談を
経営者貸付には税金の問題が関わってくるほか、帳簿付けするにも決まった書き方があるなど、専門的な知識を求められる場面があります。
個人での解決が困難だと感じるようであれば、税のプロである税理士への相談がおすすめです。税務調査が入った場合でも、税理士から適切な対処についてのアドバイスが受けられます。
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経営者貸付にお悩みの際は、決して一人で抱え込まずに、まずはお気軽にご相談ください。