法人成りとは、個人事業主が会社を設立し、個人で行っていた事業を法人でも継続して行うことを指します。一般的には、個人としての事業は廃止になるため「廃業届」の提出が必要です。しかし、事業内容によっては廃業届を出さない方が良いケースもあります。この記事では、法人成りに伴って廃業する際の注意点を解説します。
目次
法人成りのときに廃業届の提出が必要なケース・出さない方が良いケース
個人事業主が法人成りする際、基本的には廃業届の提出が必要です。ですが、提出しない方が良いケースもあります。
廃業届の提出が必要なのは「すべての事業を法人化する場合」
廃業届の提出が必要なのは、以下のようなケースです。
- 個人事業として行っていたすべての事業を法人に引き継ぐ
- 個人事業としての活動を完全に終了する
つまり、個人としての活動を完全に終了して新たに法人としてだけ活動する場合、廃業届が必要です。
廃業届を出さないと、税務署から問い合わせや税務調査が来るなど、余計なトラブルが起こることがあります。税務署は、個人事業がまだ続いていると思ってしまうからです。ただし、廃業届を出さないことに対する罰則はありません。
廃業届を出さない方が良いのは「一部の事業だけ法人化する場合」
廃業届を提出しない方が良いのは、以下のようなケースです。
- 個人事業の一部を継続する場合
- 不動産所得が発生する場合
複数の事業を行っており、そのうちの一部の事業のみ法人化し、他の事業は個人として続ける場合は、廃業届の提出は不要です。また、個人から法人に不動産を貸し付けるなど不動産所得があるケースも同様です。
建設業許可を持つ個人事業主は、廃業日を勝手に決めてはダメ
建設業許可を持つ個人事業主が法人成りする際、都道府県への相談なく勝手に廃業届を出してはいけません。廃業の前に、建設業許可の承継手続きが必要だからです。承継には都道府県による事前認可を受けなければなりません。
都道府県によっては「個人事業の廃業を承継認可日に合わせる」「承継予定日は自治体と協議して決める」などルールがあります。廃業日を自分だけで決めないようご注意ください。
手続きは、法人の定款案などを用意し、都道府県庁にある建設業許可を担当する部署と打ち合わせましょう。事前相談に予約が必要な自治体もあります。
もし建設業許可の承継手続きをしないまま法人成りすると、建設業許可が無い状態となります。個人事業主が廃業すると、個人名義の建設業許可も失効するためです。
無許可状態で500万円以上の工事を受けてしまうと、3年以下の懲役や300万円以下の罰金の対象になります(建築業法第47条)。
法人成りに伴う廃業届の書き方と提出するタイミング
ここでは、法人成りに伴う廃業届の書き方と、廃業届を提出するタイミングを解説します。
法人成りに伴う廃業届の書き方と、一緒に提出する書類
法人成りに伴う廃業の際は、一般的には以下の書類の提出が必要です。
- 廃業届(=個人事業の開業・廃業等届出書)
- 所得税の青色申告承認申請書の取りやめ届出書
- 消費税の事業廃止届出書
- 個人事業税の事業廃止届出書
- 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書
- 健康保険・厚生年金保険適用事業所廃止届
- 雇用保険適用事業所廃止届
廃業届の書き方や、その他の書類の提出先・提出期限などは、下記の関連記事で詳しく解説しています。
提出は廃業から1ヵ月以内!廃業のタイミングは年末がおすすめ
廃業届は、廃業日から1ヵ月以内に税務署へ提出しましょう。e-Taxでも提出できます。
確定申告の手間を省きたい方は、年末の廃業がおすすめです。なぜなら、廃業した年も、個人事業の所得は確定申告が必要だからです。個人事業の事業年度は1月1日から12月31日ですので、例えば2024年1月に廃業しても、2024年分の確定申告をしなければなりません。
とは言え、節税や事業展開などを総合的に考えると、適切なタイミングは個々のケースで異なります。自分に最も適した廃業タイミングが知りたい方は、税理士へ相談してください。
廃業届を出すタイミングについては、下記の関連記事でも詳しく解説しています。
関連記事:個人事業主は廃業届をいつ出すべき?その書き方と廃業方法
廃業&法人成りした年の確定申告は注意が必要
先ほど、廃業は年末がおすすめだとお伝えしましたが、年末にしたくても様々な都合でできないことも多いでしょう。この章では、廃業と法人成りが同じ年になった場合の確定申告について解説します。
廃業と法人成りをした年は、個人と法人両方の確定申告が必要です。廃業した個人事業の申告を怠ると、無申告加算税や延滞税といったペナルティの対象となります。
廃業&法人成りの年は、個人事業と法人で分けて経費を計上する
確定申告の際、経費の計上には注意が必要です。法人設立前に発生した経費は個人事業の経費として、法人設立後に発生した経費は法人の経費として計上します。
ただし、「法人設立のための費用」だけは、法人設立前でも法人の経費になります。例えば、法人設立のための印紙代、法人で使うためのハンコ代などが該当します。これらは個人の経費には計上しないでください。
なお、個人の確定申告の期限は3月15日ですが、法人の確定申告の期限は「事業年度終了日の翌日から2ヵ月以内」です。
廃業&法人成りの年は、役員報酬も個人の所得として確定申告する
法人に移行した年の所得の申告は、翌年以降の申告と異なります。個人事業時代の所得と、法人からの役員報酬が同じ年に発生するからです。1年の中で2ヵ所以上の所得源が存在するため、すべての所得を合算して確定申告を行う必要があります。
なお、法人成りに伴って個人事業を廃業した場合、法人成りの翌年以降の個人の確定申告は一般的には不要です。翌年以降は法人からの役員報酬が1年間通して支払われるため、年末調整でその年の所得税の精算が可能だからです。
廃業した年の個人事業税は、廃業した年の経費にできる
廃業した年の個人事業税は、通常の年の確定申告とは異なるため注意が必要です。個人事業税は、事業所得の290万円を超えた部分に掛かります。通常、X年の所得に掛かる個人事業税は、X+1年分の経費に計上します。
しかしX年に廃業した場合、X年の1月1日から事業廃止日までの所得に掛かると見込まれる個人事業税を、X年分の経費に計上できます。なお、事業主控除は年290万円ですが、年の途中で廃業した場合は控除額が月割額となります。
参考:租税公課|国税庁
廃業届や法人成りの手続きで困ったら税理士に相談を
この記事では、法人成りに伴って廃業する際の注意点を解説しました。個人事業を法人化することは喜ばしいことです。しかし、手続きや確定申告などが複雑であるため、大事な法人化初年度が事務処理に追われて終わってしまうこともあります。
複雑でミスが発生しやすいからこそ、忙しい方や自信がない方はぜひ税理士にご相談ください。税理士はミスのない手続きだけではなく、節税の提案もできます。また、法人設立後の確定申告などもサポートできます。