個人で事業を始める場合、法人ほど複雑ではないにせよ書類の提出など各種さまざまな手続きが必要です。業種によっては、免許や資格が必要ないと開業できない業種もありますが、いずれのケースでも必要となるのが「開業届」です。今回は開業届の提出に必要な書類について紹介し、開業届の出し方や注意点、メリット・デメリットなども解説します。
目次
開業届の提出に必要な書類
開業届の提出に必要な書類について紹介します。以下で紹介するものは全員が用意しなければならないものではないため、自分の状況に合わせて必要な書類を提出しましょう。
対象 | 提出先 | 提出期限 | |
開業届 | 法人・個人全員 | 納税地の税務署 | 事業開始から 1ヵ月以内 |
事業開始等申告書 | 個人事業主の場合 | 都道府県税事務所 | 事業開始から 1ヵ月以内 |
青色申告承認申請書 | 青色申告を行う場合 | 納税地の税務署 | 青色申告する年の 3月15日 |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 従業員を雇い 源泉所得税の特例適用を希望する人 | 納税地の税務署 | なし |
青色事業専従者給与に関する届出書 | 親族・配偶者を雇う個人の青色申告者 | 納税地の税務署 | 専従者が事業に 従事し始めた日から 2ヶ月以内 |
給与支払事務所等の開設届出書 | 従業員を雇う場合 | 納税地の税務署 | 従業員の 雇用開始から 1ヵ月以内 |
開業届
個人事業主として活動を始めるには、まず開業届が必要です。開業から1ヵ月以内に納税地を管轄する税務署に提出しましょう。正式には「個人事業の開業届出・廃業届出書」です。
始めに開業届が提出できないと、ほかの書類を提出しても開業できません。事業内容に合わせた内容の書類を作成しましょう。まとめて手続きを行うとスムーズです。
関連記事:【税理士監修】開業届とは?書き方や必要書類、提出方法までの完全ガイド
事業開始等申告書(個人事業主の場合)
事業開始等申告書は、都道府県に事業を開始したことを報告するための書類です。名称や提出期限は都道府県によって異なり、東京都であれば「事業開始等申告書」と呼ばれ事業の開始から15日以内に提出します。
開業届との違いは税金の種類です。税金には国税と地方税の2種類があり、開業時には国税に関する開業届と、地方税に関する個人事業開始申告書の両方を提出する必要があります。自身の提出先は、各都道府県の自治体サイトで確認しましょう。
関連記事:【税理士監修】個人事業開始申告書とは?手続きの書類と提出方法を紹介!出していないとどうなる?
青色申告承認申請書(青色申告を行う場合)
青色申告承認申請書は、確定申告で青色申告をするために必要な申請書類です。青色申告を行う場合は必ず提出しましょう。青色申告は白色申告よりも手続きに手間がかかりますが、最高65万円の特別控除を受けられるなどのメリットがあります。
開業後の提出も可能ですが、特別な理由がない限り開業届と合わせて提出するのがおすすめです。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(従業員を雇う場合)
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書は、従業員を雇った際に徴収した源泉徴収税の納付に関する特例制度を受けるために必要な書類です。提出期限はなく、特例を受けたい場合は税務署に提出しましょう。
源泉所得税は一般的に、給与を支払った翌月の10日までに納税するのが原則です。ですが源泉所得税の納期の特例を利用すると、源泉所得税の納付を年2回にまとめることができます。特例の対象は、従業員が10人未満の会社や個人事業主です。
青色事業専従者給与に関する届出書(親族を雇う青色申告者)
青色事業専従者給与に関する届出書は、青色申告者が配偶者や親族に支払う給与を経費にするために必要な書類です。青色申告者が家族に給与を支払う場合は必ず提出しましょう。なお、青色事業専従者給与の特例を受けるには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族
- その年で6ヵ月を超えて、申告者の営む事業に従事している
- その年の12月31日において15歳以上である(学生不可)
- 給与が仕事内容に対して適正な金額である
- 青色専従者給与に関する「届出書」を提出してある
- 「届出書」に記載した給与額の範囲内・方法で支給している
提出期限は、青色事業専従者給与を必要経費に算入しようとする年の3月15日までです。
給与支払事務所等の開設届出書(従業員を雇う場合)
給与支払事務所等開設届出書とは、個人事業主や法人が国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所等を開設した場合に必要な書類です。提出期限は、給与の支払いが決定した日から1ヵ月以内です。
給与支払事務所を開設すると、役員報酬や給与から所得税を源泉徴収して、従業員の代わりに税務署へ納付する義務が生じます。届出書を提出すると、税務署から源泉徴収した所得税を納付するための用紙が送られてくるため、それに沿って納税する仕組みです。
給与の支払がない個人事業主で開業届を提出する場合は提出の必要はありませんが、まれに提出を求められる場合もあるため税理士や税務署に確認しておくとよいでしょう。
開業届と合わせて必要なもの
開業届などの必要書類と合わせて必要なものを解説します。
本人確認書類
書類を提出する際は、なりすましを防ぐための本人確認を行います。本人確認書類として認められる書類は以下です。
- 運転免許証
- パスポート
- 公的医療保険(健康保険)の被保険者証
- 身体障害者手帳
- 在留カード
郵送の場合でも、個人番号がわかる書類と本人確認書類の写しが必要です。
マイナンバーがわかるもの
マイナンバーが記載された、公的機関の発行する書類が必要となります。具体的には、以下の3種類からいずれかを用意しましょう。
- マイナンバーカード
- マイナンバーの通知カード
- 住民票の写し(マイナンバー記載あり)
個人番号が分かる書類で通知カードもしくは住民票の写ししかない場合は、念のため本人確認書類も準備しておくと安心です。
印鑑
以前の開業届には押印欄がありましたが、2021年4月以降は押印欄は廃止されているため印鑑の持参は必須ではありません。
ただし、開業届を書き間違えた際には二重線と修正印による対応を行います。窓口で提出するのであれば、念のために印鑑を持参しておいて損はないでしょう。
開業届の出し方
開業届の出し方にはさまざまな方法があります。
①開業届を入手する(ダウンロード)
開業届の用紙を入手し、必要事項を記入しましょう。用紙は税務署で直接もらえますが、国税庁のホームページからテンプレートをダウンロードすると簡単です。様式は定期的に変わるため、最新版であることを確認しましょう。
青色申告を検討している場合は、青色申告承認申請書も併せて入手する必要があります。こちらも税務署でもらうか国税庁のホームページからダウンロードできます。
参考:国税庁|個人事業の開業届出・廃業届出等手続/所得税の青色申告承認申請手続
②必要項目を記入する
用紙に必要事項を記入していきましょう。税務署でもらった用紙もしくは、PDFをプリントアウトしたものに手書きで記入していきます。PDFであればパソコンで必要事項を入力することも可能です。また、ExcelやWordで自作することもできます。
「手書きは面倒」「書き間違えないか心配」という方には、パソコンでの作成がおすすめです。書き方については、国税庁のホームページから書き方のPDFがダウンロードできるため、必要な人は参考にしてください。
③提出する
必要事項を記入したら、納税地を管轄する税務署に提出しましょう。税務署の開庁時間は平日の午前8時半から午後5時までですが、日中は仕事など窓口の開いている時間に持ち込むのが難しい場合には、他の方法で提出しましょう。郵送やe-Taxでも提出できます。
なお郵送で提出する場合、開業届は個人情報が含まれる重要書類であるため、簡易書留などの方法で送りましょう。
開業届を提出するときの注意点
開業届を提出する時の注意点について解説します。
失業手当を受けられなくなる
失業手当は会社員として雇用保険に加入している方が、失業した場合に受け取れる手当です。個人事業主は求職中ではないため、原則として失業手当は受け取れなくなります。
もし開業して売上がない状態だったとしても受給資格はありません。開業届後に失業手当を受け取った場合、不正受給に当てはまる可能性もあるためご注意ください。
開業届の控えは必ず保管する
開業届の控えは必ず受け取るようにしましょう。融資を受けるときや、屋号名義の口座を作成するときなどに開業届の控えが必要になります。令和7年1月から申告書等の収受日付印が行われないため、提出日を忘れないように控えておきましょう。
e-Taxや会計ソフトで開業届をオンライン提出した場合は、提出後にメッセージボックスに届く受信通知が、控えの代わりになります。印刷して利用しましょう。
よくある質問
最後に、開業届に関してのよくある質問を回答と共に紹介します。
開業届の内容の変更方法は?
開業届の内容変更が必要となる時は、納税地に変更がある場合です。結婚・離婚などにより氏名が変わっても、屋号や業種を変更した場合でも届出は必要ありません。次の確定申告で、確定申告書に新しい氏名を記載するだけで問題ありません。
白色申告に必要な書類は?
白色申告には「収支内訳書」「確定申告書」「各種控除に関する証明書」の3つの書類を用意する必要があります。確定申告で申告できる控除の中には所得控除や税額控除などがあり、控除を受けるには各種証明書が必要です。紛失していると控除が受けられないため、手元にあるか確認しておきましょう。
開業届を提出しない場合罰則はある?
開業届の提出は法律で定められていますが、出さないことによる罰則はありません。ただし罰則がないからといって、開業届を出さなくてよいことにはなりません。開業届の提出は任意ではなく、義務として定められていると覚えておきましょう。
開業届の記入に迷ったら相談を
開業届の提出時に必要な書類や出し方について解説しました。開業届を提出すると青色申告で大きな節税効果を得られたり、屋号で銀行口座を作れたりなどのメリットがあります。
業種や事業規模によって必要な書類が異なるため、確定申告の方法や従業員の有無に応じて適切な書類を準備しましょう。事業開始時は本業に加えて様々な手続きで多忙になりがちなため、窓口に行かずに手続きが完了するオンライン申請や郵送もおすすめです。
自分の事業内容に沿って必要となる書類が分からない時や、記載方法について迷った時には、税理士にアドバイスを求め、早めに手続きを済ませると安心です。ぜひ一度「小谷野税理士法人」までお気軽にご相談ください。