従業員の源泉所得税の処理は、法人が後の確定申告を進める上で欠かせない重要な業務です。正しく計算し、期限内に納付するためには、ルールやスケジュールをしっかり把握することが大切です。本記事では、給与から差し引く源泉所得税の計算方法や納付手続きについてわかりやすく解説します。
目次
源泉所得税の基本情報
源泉所得税とは、法人が従業員や取引先に対する給与や報酬から事前に差し引き、国へ納付する税金です。この仕組みは所得税の計算や納付に関わる手間を軽減しつつ、法人にとっては税務手続きを簡単に行えるメリットがあります。ここでは、源泉所得税の基本的な仕組みについて説明します。
源泉所得税の役割
源泉所得税とは、企業が給与や報酬を支払う際にあらかじめ所得税を差し引き、従業員に代わって国へ納める仕組みです。この制度により、従業員が納税する手間と負担を減らし、国としては税収を安定的に確保できます。従業員は毎月の給与から差し引かれ、年末調整で最終的な納税額が決まります。
源泉所得税の義務とは?
法人側は従業員等に給与や報酬を支払う際、源泉所得税を適切に計算・徴収し、国へ納付する義務と責任を負っています。万が一、納付が遅れたり計算ミスがあると、ペナルティや追徴課税が科されるリスクがあるため、慎重な管理が求められます。
源泉所得税が必要となる主なケース
源泉所得税の適用対象となるのは、従業員の給与、賞与、退職金などです。これらは会社が従業員に支払う所得に該当し、そのため法人側で源泉徴収を行う必要があります。
また、専門職に対する報酬や特定の報酬も源泉所得税の対象となります。そのほか外部の講師やコンサルタントに対する報酬の支払いにおいても、源泉徴収を行うことが求められます。
関連記事:源泉徴収する・しないの基準とは?対象の報酬・給与や計算法を解説!
源泉所得税の計算方法
源泉所得税の税額は給与額や扶養家族の数、社会保険料などの条件で毎年のように変わります。その税額は、毎年国税庁が発表する税額表に基づいて算出することになります。
ここでは源泉所得税の基礎から具体的な計算方法、注意点までを詳しく解説します。法人の経理担当者の方はぜひ参考にしてください。
月々の給与から算出する方法
月々の給与から源泉所得税を差し引く場合は、以下のステップに従って算出します。
1.月額給与の決定
基本給や各種手当などの合計額から欠勤控除などを差し引き、課税対象となる給与額を求めます。交通費は非課税なので含みません。ここでは、給与が30万円の場合を考えます。
扶養親族等の有無、人数によって源泉徴収額が異なるのであらかじめ確認しておきましょう。
2.社会保険料の計算
給与額から社会保険料を控除します。社会保険料は、ここで、社会保険料が約15%だと仮定すると、30万円×0.15=4万5,000円となります。
3.課税対象額の算出
給与から社会保険料を引いた額が課税対象になるので、30万円-4.5万円=25万5,000円です。
4.源泉所得税の計算
課税対象額(この場合、3.で算出した金額25万5,000円)に応じて、国税庁が公表している「給与所得の源泉徴収表(月額表)」を参照し、源泉所得税を算出します。
2025年度の源泉徴収表に照らし合わせると、25万5,000円の課税対象額に対する源泉徴収額は、扶養親族等がいない場合の源泉所得税額は6,750円、扶養親族等が1人の場合の源泉所得税額は5,140円、扶養親族等が2人の場合の源泉徴収額は3,510円となっています。
5.源泉所得税を控除した後の手取り額の計算
ここまでの計算を基に、最終的な手取り額を求めます。課税対象額から源泉所得税を引いた金額が従業員の手取り額となります。たとえば、扶養家族がいない場合、1人いる場合、2人いる場合、それぞれ下記の通りです。
◆扶養親族等がいない場合
25万5,000円-6,750円=24万8,250円
◆扶養親族等が1人の場合
25万5,000円-5,140円=24万9,860円
◆扶養親族等が2人の場合
25万5,000円-3,510円=25万1,490円
このように、月々の給与から源泉所得税を算出する過程は、計算式を理解し、必要なデータを正確に把握することが重要です。税率や控除額は年度や法改正により変動するため、最新の情報を常に確認しましょう。
賞与に適用される源泉所得税の計算
賞与の源泉所得税は、通常の給与とは異なる税額表を使用して計算します。企業は、賞与支給時に税額を差し引き、国に納付します。賞与に関しては、給与とは別に支払われるため、特有の計算方法が必要です。
賞与に対しては1回に支払われる金額をもとに源泉所得税額が計算されます。この計算は前月の給与額や扶養親族の数によって異なります。扶養親族等が多いほど、源泉所得税が軽減されます。また、前月の給与額が大きいほど、税額も高くなるため、賞与支給時にはその都度、適切な税額表に基づいて計算を行う必要があります。
具体的には、以下のステップに従って算出します。
1.前月の給与から社会保険料を差し引く
賞与支給の前月の給与額から社会保険料を差し引きます。給与と同じように、交通費は含みません。
2.税率の確認
上記で算出した前月の給与金額をもとに、国税庁が公表している「賞与に対する源泉徴収税額の算定率の表」を参照し、該当する「賞与の金額に適用される税率」を確認します。
3.源泉所得税額の算出
賞与支給額から社会保険料等を差し引いた金額に、確認した税率を掛け合わせて、賞与の源泉所得税額を求めます。なお、計算結果が1円未満の場合は切り捨てとなります。
◆賞与が50万円の場合
扶養家族がおらず、賞与支給前月の給与の手取りが24万8,250円で、賞与が50万円だった場合の計算は下記の通りです。
まず、賞与から社会保険料を差し引きます。ここでは仮に7万5,000円とします。
50万円-7万5,000円=42万5,000円 |
基準額となる前月の手取り額を「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に当てはめると、税率は4.084%です。
42万5,000円 ×4.084%=1万7,357円 |
1万7,357円が源泉所得税として差し引かれ、賞与の手取り額は下記となります。
42万5,000円-1万7,357円=40万7,643円 |
◆賞与が150万円の場合
扶養家族がおらず、賞与支給前月の給与の手取りが24万8,250円で、賞与が150万円だった場合の計算は下記の通りとなります。
まず、賞与から社会保険料を差し引きます。ここでは仮に22万円とします。
150万円-22万円=128万円 |
基準額となる前月の手取り額を「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に当てはめると、税率は4.084%です。
128万円×4.084%=5万2,275円 |
5万2,275円が源泉所得税が差し引かれ、手取り額は下記となります。
128万円-5万2,275円=122万7,725円 |
高額な賞与には段階的な税率(累進課税)が適用されるため、税額表を使って計算します。具体的な税額は、国税庁の「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を確認しましょう。
賞与からは源泉所得税だけでなく、健康保険や厚生年金といった社会保険料も控除されます。これにより実際の手取り額はさらに少なくなります。
また、賞与の源泉所得税は、給与額や扶養家族の有無などの条件によって適用される税率が変動します。誤った計算を防ぐためにも、税額表を正しく参照し、適切に処理することが大切です。
参考:賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和 7年分)|国税庁
退職金や報酬の場合の税額の算定
退職金や特定の報酬にかかる源泉所得税の計算方法は、一般的な給与の計算とは異なり、特別な計算式を用います。
退職金の源泉所得税について
退職金については一時金として多額の支給が行われる場合が多く、その性質に応じた税率が適用されます。退職所得控除やその他の控除を適用したうえで、源泉所得税額が算出される仕組みです。
退職金の源泉所得税を計算する際には、以下のステップがあります。
1.退職所得控除額を算出
控除額は勤続年数に応じて計算されます。
- 勤続20年以下:40万円×勤続年数
- 勤続20年超:(40万円×20年)+70万円× (勤続年数-20年)
2.退職所得控除額を退職金の支給額から差し引く
3.残額を1/2に分割し、所得税の課税対象額を算出
4.所得税・復興特別所得税・住民税を計算し、最終的な源泉徴収額を算出
フリーランスや個人事業主への報酬の源泉所得税について
一方、特定の役務に対する報酬に関しては、所得の種類や契約内容によって源泉所得税の適用方法が異なる場合があります。
フリーランスや個人事業主が受け取る報酬に対して、支払い元は源泉徴収を行う義務があります。通常は一定の税率(例:10.21%)で源泉徴収され、その後、確定申告により最終的な納税額が確定します。
契約内容や報酬額によっては、源泉徴収の税率が異なることや、特定の経費や控除が適用されることもありますので、条件を確認することが大切です。
源泉所得税の支払い手続き
主な納付方法
源泉所得税の納付方法にはいくつかあります。代表的な方法としては、窓口での納付と振替納税があります。
窓口納付では、毎月決められた期日までに税務署や金融機関で納付書を使って手続きします。一方、振替納税では事前に税務署に届け出をして専用口座を指定することで、毎月の給与支払後に自動的に納付されます。これにより納付の手間や納付忘れを防ぐことができます。
源泉所得税納付期限を守るための対策
通常、源泉所得税の納付期限は従業員に給与を支給した翌月10日となっています。この期日を逃さないためには事前の段取りが欠かせません。
まず、給与や賞与の支給日を把握し、必要な書類を早めに整えておくことです。給与計算や源泉税の算出を正確に行うためには、日程管理システムを導入したり、チェックリストやマニュアルを活用しましょう。また、税制改正があれば内容を更新することが大切です。これにより、ミスや抜け漏れを防ぎ、税務調査への備えも強化できます。
関連記事:源泉所得税における納期の特例とは?概要やメリット・デメリットを解説
給与計算に役立つツール
給与計算を効率よく行うためには、便利なツールを活用することが大切です。これにより、源泉所得税の処理を正確に進めることができます。ここでは、役立つツールをいくつかご紹介します。
給与計算ソフトウェア
給与計算専用のソフトウェアを使うことで、毎月の給与や賞与に対する源泉所得税の自動計算が可能です。たとえば弥生給与やマネーフォワードなどは、特に中小企業に人気があります。これらのソフトは、最新の税率に基づいた計算を行い、従業員の所得税を正確に示します。
オンライン計算ツール
ウェブ上には源泉所得税を簡単に計算できるオンラインツールも存在します。たとえば、国税庁の公式サイトには源泉所得税の計算機があり、これを活用することで、必要な情報を入力するだけで瞬時に税額がわかります。
税務相談サービス
税務専門家による相談サービスも有効です。税務に関する専門的なアドバイスを受けることで、源泉所得税処理のミスを未然に防げます。外部の専門家と連携することで、自社の状況に応じた最適な対策が講じられます。
従業員の所得税納付に関するご相談は、ぜひ小谷野税理士法人にお問い合わせください。
年末調整をスムーズに進めるための手順
年末調整をスムーズに進めるための手順には、いくつかの重要なステップがあります。以下にその手順を示します。
1.必要書類の収集
社員から必要な書類(扶養控除申告書、保険料控除申告書、源泉徴収票)を早めに集めることが大切です。
2.社員の情報確認
集めた書類をもとに扶養家族や保険などの状況を確認し、各社員に適用する控除額を把握します。
3.給与や賞与の金額を把握
年間の給与と賞与を確認し、正確な年間総額を算出します。前年のデータを参考にすることでより正確な計算ができます。
4.源泉所得税の計算
収集した情報をもとに各社員の源泉所得税を計算します。正しい税額を算出するためには最新の税制を確認することが必要です。
5.年末調整の実施
すべての情報が揃ったら年末調整を行います。社員に対して過不足金の返還や徴収を行い、源泉所得税の調整を完了させます。
6.書類の保存
年末調整の結果を従業員に通知します。源泉徴収票ほか必要書類は然るべき法定保存期間を守りましょう。
関連記事:【税理士監修】支払調書と源泉徴収票|その違いと使い方を徹底解説!
まとめ
従業員の所得税処理は、企業の経理業務において欠かせない重要な業務です。源泉所得税の計算や納付、年末調整など、正確性と適時性が求められます。これには従業員の書類確認や最新の税務関連情報の把握、さらには自動化ツールの活用が有効です。
また、税務関連の情報は、常に変化しているため、最新の法令や通知を確認することが大切です。特に、給与に関する源泉所得税の税率や控除額が変更されることがあるため、これをしっかり把握することは重要です。
最新情報を入手するためには、各税務署からの通知や国税庁のウェブサイトを定期的に確認することが有効です。また、税務の専門家である税理士のアドバイスを活用することで、企業としての責任をしっかり果たすことができます。専門的な知識が必要な場合も多いため、所得税の計算や確定申告については税理士に相談することをおすすめします。