労働保険料の納付手続きは、事業主にとって毎年行う重要な業務の一つです。労働者の安全や雇用を支えるための制度である一方、計算や書類作成、提出期限の管理など、複雑な手順が求められます。この記事では、具体的な納付の流れや必要書類を分かりやすく解説しますので、初めて手続きを行う方や、効率的に進めたいと考えている方はぜひ最後までご覧ください。
目次
労働保険料とは?
労働保険料とは、労働者の雇用や安全を守るための保険料であり、「雇用保険」と「労災保険」の2つが含まれます。
「雇用保険」は、労働者が失業した際や育児休業中の生活を支える給付制度であり、労災保険は、仕事中のケガや病気、通勤災害に対する補償を目的としています。
「雇用保険料」は事業主と労働者が分担して負担する一方、労災保険料は事業主が全額負担するため、労働者の負担はありません。
手続きの流れ
労働保険の手続きには、「概算保険料」と「確定保険料」という2つの計算が含まれます。
「概算保険料」は、次年度(4月1日〜3月31日)の労働保険料を事業主が予想される賃金総額を基に見積もり、あらかじめ納付するものです。
「確定保険料」は、前年度(4月1日〜翌年3月31日)に実際に支払われた賃金総額を基に計算し、前年に納付した概算保険料との差額を精算するためのものです。
これらは、毎年6月1日〜7月10日に実施される「年度更新」の手続きで行わなければなりません。まず確定保険料を算出し、過不足を精算した後、次年度の概算保険料を計算・申告し、納付を行います。
この制度は厚生労働省の管轄であり、労災保険は労働基準監督署、雇用保険はハローワークがそれぞれ所管しているため、それぞれに申告書を提出し、保険料を納付する必要があります。
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労働保険料の納付の流れ
具体的な労働保険料の納付の流れについて解説します。納付は、以下1〜4の順に進めます。
1. 確定保険料の計算
労働保険料の年度更新時期(毎年6月1日〜7月10日)に、まず確定保険料の計算と申告書類の作成を行いましょう。
- 確定保険料の計算
- 概算保険料の計算
- 申告書作成
- 申告書の提出と保険料の納付
確定保険料は前年度(4月1日〜3月31日)に実際に支払われた賃金総額を基に算出します。基本給、残業代、通勤手当、賞与などの総額に、前年適用された雇用保険料率と労災保険料率を掛けて計算します。
保険料率は厚生労働省や労働基準監督署の公式サイトで確認できます。業種によって異なるため、最新の料率を事前に確認し、正確な計算に反映させてください。
例)賃金総額5,200万円、雇用保険料率1.45%、労災保険料率1.2%の場合
- 雇用保険料:5,200万円 × 1.45%(雇用保険料率)= 75.4万円
- 労災保険料:5,200万円 × 1.2%(労災保険料率)= 62.4万円
- 合計保険料:75.4万円(雇用保険料)+ 62.4万円(労災保険料)= 137.8万円
2. 概算保険料の計算
次に、次年度(4月1日〜翌年3月31日)の予想される賃金総額を基に概算保険料を計算しましょう。概算保険料は、次年度の労働保険料を見積もった金額で、基本給、残業代、通勤手当、賞与などを総額に含めます。
例)賃金総額5,000万円、雇用保険料率1.45%、労災保険料率1.2%と想定した場合
- 雇用保険料:5,000万円 × 1.45%(雇用保険料率)= 72.5万円
- 労災保険料:5,000万円 × 1.2%(労災保険料率)= 60万円
- 合計保険料:72.5万円(雇用保険料)+ 60万円(労災保険料)= 132.5万円
3. 申告書作成
労働保険料の計算が完了したら、「労働保険概算・確定保険料申告書(詳細は後述)」に計算した確定保険料と概算保険料を記載します。基本給や残業代、通勤手当、賞与の総額を確認するための賃金台帳や、賞与や控除額を証明する源泉徴収簿を参照し、正確に記入しましょう。
申告書を作成する際は、計算結果や記載内容に誤りがないかしっかり確認してください。また、必要に応じて管轄の労働基準監督署またはハローワークに事前相談を行い、提出時に必要な書類を揃えることも手続きをスムーズに進めるポイントです。
不備があると納付額に差異が生じ、追加手続きが必要になる可能性があるので注意してください。
4. 申告書の提出と保険料の納付
完成した申告書は、年度更新期間である6月1日〜7月10日までに、管轄の労働基準監督署またはハローワークへ提出します。申告書の提出に加え、確定保険料の不足分と次年度分の概算保険料を同時に納付しましょう。
保険料の納付は、銀行窓口やコンビニエンスストア、または電子納付(e-Govやインターネットバンキング)など、複数の方法から選択できます。なお、税務調査や監査時に、領収書や納付記録を求められる場合がありますので、必ず保管しておいてください。
例外的な納付手続き
基本的な納付の流れについて説明しましたが、以下では例外的な納付手続きについて解説します。
分割納付する場合
分割納付は、労働保険料の負担を軽減するための制度で、以下に当てはまる事業所が該当します。
- 概算保険料が40万円以上
- 労災保険と雇用保険のいずれか片方のみ加入しており、その保険料が20万円以上の場合
この制度を利用するには、年度更新の申告時に「分割納付申請書」を提出し、承認される必要があるので留意しておいてください。
納付は3回に分けて行い、それぞれの期限を厳守しましょう。第1期は申告と同時に7月10日までに納付、第2期は10月31日まで、第3期は翌年1月31日までに納付します。
いずれかの期で期限を過ぎると分割特例が無効となり一括納付を求められる、または延滞金が発生する場合もあるため注意してください。
例)概算保険料:60万円
- 第1期(7月10日まで):60万円 × 1/3 = 20万円
- 第2期(10月31日まで):60万円 × 1/3 = 20万円
- 第3期(翌年1月31日まで):60万円 × 1/3 = 20万円
新規適用事業所の場合
事業を新たに開始し、労働保険の適用事業所となる場合は、速やかに労働保険への加入手続きを行いましょう。
この際、「概算保険料申告書」を作成して提出し、1年間分の概算保険料を一括で支払います。手続きの期限は、事業開始日から10日以内と定められており、これを過ぎると延滞金が発生する可能性があるため注意してください。
保険料の還付手続きをする場合
保険料の過払いが発生した場合、「保険料還付請求書」を提出することで還付を受けられます。ただし、還付額が1,000円以上の場合が対象となるので留意しておいてください。申請時には、過払い額を証明する書類(賃金台帳や納付控えなど)が必要となります。
雇用保険に年度途中で加入した場合
従業員の増加により、雇用保険の適用事業所となった場合は、速やかに「労働保険関係成立届」と「雇用保険適用事業所設置届」を提出しましょう。提出期限は、適用事業所となった日から10日以内です。
これらの届出を管轄の労働基準監督署またはハローワークに提出後、保険料の追加計算が行われます。追加で発生した概算保険料は一括で納付する必要があり、納付期限を守らない場合には延滞金が発生することもあるので注意してください。
労働保険料の納付に関する書類と書き方
労働保険料の納付に際して必要となる書類の書き方について以下で解説します。
確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表
項目 | 内容 |
概要 | 前年の賃金総額を集計し、労働保険の確定保険料および一般拠出金を算定する基礎資料 |
提出期限 | 6月1日~7月10日 |
提出先 | 管轄の労働基準監督署またはハローワーク |
取得方法 | 管轄の労働基準監督署、ハローワーク、または厚生労働省の公式ウェブサイトから用紙をダウンロード |
この書類は、労働保険料の確定保険料および一般拠出金を算定するために必要です。賃金台帳や源泉徴収簿を基に、前年(4月1日〜翌年3月31日)の実際の賃金総額を正確に集計して作成しましょう。
必要な書類は管轄の労働基準監督署やハローワークで配布されているほか、厚生労働省の公式サイトからダウンロードすることも可能です。後述の申告書と同時に提出するため、作成を年度更新手続きの開始時期に合わせて進めましょう。
労働保険概算・確定保険料申告書
項目 | 内容 |
概要 | 労働保険料(概算保険料・確定保険料)の申告と精算を行うための書類 |
提出期限 | 6月1日~7月10日 |
提出先 | 管轄の労働基準監督署またはハローワーク |
取得方法 | 管轄の労働基準監督署やハローワークで配布、厚生労働省の公式サイトからダウンロード |
記載事項 |
|
前述の「確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表」を基に、次年度(4月1日〜翌年3月31日)の概算保険料と前年度(4月1日〜翌年3月31日)の確定保険料を記載します。
申告書は労働基準監督署またはハローワークで入手するか、厚生労働省の公式サイトからダウンロードできます。正確な記載がスムーズな手続きに繋がるため、十分に確認を行いましょう。
労働保険料納付書
項目 | 内容 |
概要 | 労働保険料の納付を行うための書類 |
提出期限 | 6月1日~7月10日(申告書提出と同時) |
提出先 | 管轄の労働基準監督署、ハローワークまたは納付先の金融機関 |
取得方法 | 労働基準監督署やハローワークで配布 |
記載事項 |
|
この書類は、申告した労働保険料の納付を行う際に使用します。納付書は、管轄の労働基準監督署またはハローワークで取得できます。
納付方法として、銀行窓口、コンビニエンスストア(30万円以下の場合)、または電子納付(e-Govやインターネットバンキング)を利用できるので確認しておいてください。
納付後は領収書や納付記録を必ず保管し、監査や税務調査に備えましょう。
保険料分割納付申請書
項目 | 内容 |
概要 | 労働保険料の分割納付を申請するための書類 |
提出期限 | 6月1日~7月10日 |
提出先 | 管轄の労働基準監督署またはハローワーク |
取得方法 | 管轄の労働基準監督署やハローワークで配布、厚生労働省の公式サイトからダウンロード |
概算保険料が40万円以上、または雇用保険・労災保険いずれかの保険料が20万円以上の場合に、この申請書を提出することで分割納付が可能になります。
申請書は管轄の労働基準監督署やハローワークで入手できるほか、厚生労働省の公式サイトからダウンロードも可能です。提出期限を守り、必要書類とともに提出してください。
労働保険料の納付に関する3つの注意点
労働保険料の納付において、以下3つの点に注意してください。
- 納付期限の遵守
- 計算ミスの防止
- 書類の保管
1. 納付期限の遵守
労働保険料は、毎年6月1日〜7月10日までに納付する必要があります。期限を過ぎると、最大で年14.6%の延滞金が発生するため、早めの対応が重要です。
特に分割納付を選択した場合は、第1期(7月10日まで)、第2期(10月31日まで)、第3期(翌年1月31日まで)と、各期の納付期限も厳守しなければなりません。期限内に手続きを終えるため、スケジュールを余裕を持って組むことを心掛けましょう。
2. 計算ミスの防止
労働保険料の計算には、賃金台帳や源泉徴収簿を参照し、正確な賃金総額を基に行う必要があります。賃金総額の誤記や、適用される保険料率の計算ミスが発生すると、不足分に対する追徴金や過払いのリスクがあります。
これを防ぐため、計算結果は必ず二重にチェックし、不明点があれば専門家や管轄の労働基準監督署に確認することをおすすめします。
3. 書類の保管
労働保険料関連書類には、5年間の保管義務があります。保管する書類には、賃金台帳、源泉徴収簿、申告書控え、納付書控えなどが含まれます。
これらの書類は、税務調査や監査の際に提示を求められる可能性があるため、整理して安全な場所に保管してください。書類の紛失や損傷を防ぐため、デジタルデータとして保管する方法も有効です。
労働保険料の納付でお悩みの方は専門家に相談
労働保険料の計算や納付手続きは専門知識を要し、間違いや遅延が発生すると企業の信頼に影響を与える可能性があります。
小谷野税理士法人では、労働保険料のサポートを提供しています。煩雑な手続きをプロに任せることで、安心して本業に専念できるようお手伝いいたします。
労働保険料の計算や各種申告業務についてのお困りごとやご相談は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。