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M&Aを行う際に独占禁止法はどう関係する?事例と注意点を徹底解説

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M&Aを行う際に独占禁止法はどう関係する?事例と注意点を徹底解説

M&Aは企業同士が合併することで後継者不足の解消や従業員の雇用の維持によって企業の成長につながる手法のひとつ。しかし、この手法は市場の競争環境に大きな影響を与え、特定の企業が市場を独占してしまう可能性もあります。そのため、独占禁止法では、市場の競争を実質的に制限する恐れのあるM&Aを規制しているのです。本記事ではM&Aと独占禁止法の関係について事例を交えながら詳しく解説します。

独占禁止法の内容をおさらい

独占禁止法

まずは、独占禁止法とはどのような法律であるかその内容についておさらいしましょう。

独占禁止法の概要

独占禁止法は、公正かつ自由な競争を促進することを目的とした法律です。正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」と言います。この法律は、事業者が自主的かつ自由に活動できるようにした上で消費者の利益を確保することを目的としています。

具体的には、以下のような行為は公正かつ自由な競争を妨げるものとして規制されています。

  • 私的独占の禁止
  • 不当な取引制限(カルテル・入札談合等)の禁止
  • 事業者団体の規制
  • 企業結合の規制
  • 独占的状態の規制
  • 不公正な取引方法の禁止
  • 下請法に基づく規制

独占禁止法は市場経済の健全な発展を支える重要な法律です。企業側は独占禁止法を遵守し、公正な競争環境の中で事業活動を行う必要があります。

独占禁止法に背くとどうなる?

独占禁止法に背いた場合、以下のような措置が執られる可能性があります。

公正取引委員会による調査

企業への立ち入り検査や関係者への事情聴取など

排除措置命令

違反が認められた場合、公正取引委員会は違反行為の中止や再発防止策などを命じる排除措置を命令

課徴金納付命令

違反行為によって得た不当な利益を国に納付させる命令

刑事罰

違反行為を行った法人に対し罰金や懲役が科せられる
※故意・過失の有無を問わない

民事訴訟

違反行為を行った企業に対して損害賠償請求訴訟を提起

違反行為の内容や程度によっては、上記以外にもさまざまな措置が取られるケースもあります。そのため、企業は独占禁止法を遵守して公正な競争環境の中で事業活動を行わなければなりません。

参考:独占禁止法の概要|公正取引委員会

M&Aとは?

M&A

M&A(エムアンドエー)とは、企業の合併や買収、または資本提携などの企業提携の総称です。Mergers(合併)とAcquisitions(買収)の略で、企業や事業の経営権や資産を移転させる取引を意味します。

M&Aを進める際は、交渉先と以下の3つの契約を結びます。

秘密保持契約

  • M&Aの検討段階において当事者間で開示される非公開情報(財務情報、技術情報、顧客情報など)を第三者に漏洩しないように保護する
  • 秘密情報の定義や取扱範囲、例外規定から有効期限などが締結される

基本合意

  • M&Aの基本的な条件(取引価格、スキーム、スケジュールなど)について、当事者間の合意内容を明確化する
  • 取引の目的や取引価格、支払方法、M&Aスキームなどが締結される

最終契約

  • M&Aの最終的な合意内容を詳細に定める契約書で、法的拘束力を持ち、クロージング(取引実行)の条件となる
  • 取引の前提条件や取引価格の詳細、クロージング条件などが締結される

上記以外にもM&Aの規模や内容に応じて株式譲渡契約書や事業譲渡契約書、合併契約書などが締結される場合があります。

M&Aの事前届出制度手続きフロー

M&Aの事前届出制度は合併などを行う場合に公正取引委員会に事前に計画を届け出ることを義務付ける制度です。本制度はM&Aによって市場における競争が制限されるのを防ぎ、公正な競争環境を維持することを目的としています。

以下では、その事前届出制度手続きの流れについて簡単にまとめているのでぜひ参考にしてください。

相談

公正取引委員会への企業結合・合併に関する相談(任意)

事前届出の提出

作成した届出書を公正取引委員会に提出

1次審査

公正取引委員会による1次審査

2次審査

1次審査でより詳しい審査が必要と判断去れば場合に実施

問題解消措置に関する提案

M&Aが独占禁止法に違反する可能性がある場合、問題点を改善

排除措置命令

独占禁止法に抵触している場合、企業に対して競争を回復させるために行う措置

独占禁止法の規制対象となるM&A手法

独占禁止法は、以下のM&A手法を規制対象としています。

株式取得

他の会社の株式を取得し、経営権を握ること

株式譲渡

企業の株主が保有する株式を他社や個人に譲渡して、経営権を移転させること

事業譲渡

事業の一部または全部を他の会社に譲渡すること

合併

2つ以上の会社が1つの会社になること

共同新設分割

複数の会社が各自の事業を分割して、新設会社に承継させること

吸収分割

会社分割の一種で、事業の一部または全部を他の会社に承継させること

共同株式移転

複数の会社が共同で新会社を設立し、それぞれの株式を移転すること

M&Aを検討する際にはこれらの手法が独占禁止法に違反しないように、慎重に計画を進めましょう。

参考:独占禁止法の規制内容|公正取引委員会

関連記事:非上場株式を売却する際の税金はいくら?計算方法や税率を解説! 

M&Aが求められるようになった背景

近年、中小企業を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。少子高齢化による国内市場の縮小に加え、経営者の高齢化が進み、後継者不足が深刻化している状況です。

帝国データバンクの調査によると、2024年に休廃業・解散した企業は前年比10,000件増の69,019件にのぼりました。後継者不足は長年培ってきた技術やノウハウが失われるだけでなく、従業員の雇用や地域経済にも大きな影響を与えているのです。

このような状況下で事業承継の手段として注目されているのがM&Aです。M&Aは、企業を売却・譲渡するだけでなく、合併や提携などさまざまな手法があります。このM&Aを活用することで、後継者不足の解消や従業員の雇用の維持などが可能になるのです。

参考:2024年の休廃業・解散、 過去最多6.9万件 前年比1万件の大幅増|帝国データバンク

M&Aに独占禁止法が関係しているのはなぜ?

M&Aは企業同士が合併・買収することで、市場における事業者の数や規模、勢力関係を大きく変化させる可能性があります。

もし市場を独占したり競争を著しく制限したりすれば、消費者は適正価格で商品やサービスを選べなくなるかもしれません。また新たな事業者の参入が妨げられ、市場の活力や革新性が失われる可能性もあります。

そのため独占禁止法では、市場の競争を実質的に制限する恐れのあるM&Aを規制しているのです。

独占禁止法に抵触する可能性があるM&Aの事例

続いて、独占禁止法に抵触する可能性があるM&Aの事例についてご紹介します。

シェア率70%以上の企業が同業のシェア率20%を占める企業と合併する

シェア率70%以上の企業が同業のシェア率20%を占める企業と合併する場合、独占禁止法に抵触する可能性が高いです。

合併後は市場において圧倒的な支配力を持ち、価格決定や商品・サービスの提供条件などを自由に設定できる立場になります。これにより、消費者の選択肢が狭まり、不利益を被る恐れがあるのです。

同業他社を合併・買収して市場シェアが集中する

複数の同業他社を合併・買収することにより市場シェアが集中することも、独占禁止法に抵触する可能性があります。

個々の企業の規模が小さくても合併・買収によって市場シェアが一定の基準を超えると、競争制限のリスクが生じるかもしれません。この場合においても公正取引委員会は市場への影響を考慮して、適切な措置を講じることができます。

何かを購入する際に特定の企業しか選択肢がない

消費者が商品やサービスを購入する際に特定の企業しか選択肢がない状況になると、独占禁止法に抵触する可能性があります。もし価格や品質に不満があっても他の選択肢がないため、特定の業者で購入せざるを得ない状況になってしまいます。

特定の企業がサービスや商品の価格を決定している

特定の企業が市場において価格決定権を握ることも同様です。競争がない状況下では企業は自由に価格を設定できるため、消費者は不当に高い価格を支払わされる可能性があります。

関連記事:デューデリジェンスの種類とは?費用や行う目的・注意点について徹底解説

独占禁止法に抵触した場合のリスクは?問題点を解説

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続いて、独占禁止法に抵触した場合のリスクや問題点について3つのケースを交えて解説します。

M&A自体ができない

独占禁止法に抵触するM&Aは、公正取引委員会によって禁止されることがあります。独占禁止法の審査をクリアできなければ、M&A自体が実現しないという事態に陥ります。

時間や費用を無駄にするだけでなく成長戦略の変更を余儀なくされるなど、大きな損失を被る可能性があるので注意しましょう。

M&Aが長期化する

公正取引委員会の審査は、M&Aの規模や内容によっては長期化することがあります。競争制限の恐れが大きいと判断された場合は詳細な調査が行われ、数ヵ月から数年に及ぶケースも珍しくありません。

もし審査期間が長引けば、M&Aのタイミングが遅れ、市場の変化に対応できなくなることもあるでしょう。

違反事業者に対して課徴金が課される

独占禁止法に違反した場合には、公正取引委員会から課徴金が課されることがあります。課徴金は違反行為によって得た不当な利益を没収するためのもので、多額になることもあります。

課徴金の額は違反行為の規模や期間、事業者の売上高などを考慮して決定されるのが一般的です。

M&Aが独占禁止法に抵触した場合の2つの規制

M&Aにより競争を実質的に制限される可能性がある場合には、事前に公正取引委員会に届出と報告をしなくてはいけません。以下では、M&Aが独占禁止法に抵触した場合の2つの規制についてまとめました。

実体規制

M&Aの内容そのものが独占禁止法に違反するかどうかを審査する規制

届出規制

一定規模以上のM&Aを行う場合に、公正取引委員会に事前に届け出ることを義務付ける規制

実体規制は市場の競争を維持し、消費者の利益を保護するのが目的です。それに対して届出規制はM&A計画を審査し、競争制限の恐れがないかを確認することを目的としています。

関連記事:中小企業のホールディングス化は正解?メリットとデメリットを解説

M&Aにおける独占禁止法の注意点

M&Aを行う際に独占禁止法に抵触する可能性がある場合、どういった点に注意しなくてはいけないのでしょうか?ここからはM&Aにおける独占禁止法の注意点について解説します。

海外企業とのM&Aでは各国の法規制にも対応が必要

海外企業とのM&Aを行う場合には、各国の競争法規制にも対応する必要があります。各国によって法規制の内容が異なるため、注意が必要です。

例えばアメリカではHSR法、EUではEU競争法など、それぞれの国や地域における規制を知っておかなくてはいけません。海外企業とのM&Aを検討する際には、事前に各国の法規制に詳しい専門家に相談しておくと安心でしょう。

違法行為のリスクを認識する

独占禁止法に違反した場合、公正取引委員会から排除措置命令や課徴金納付命令などの措置が取られることがあります。最悪、刑事罰が科せられる可能性もあります。

そのため企業は独占禁止法に違反する行為のリスクを十分に認識し、コンプライアンス体制を整備しておきましょう。

M&Aや独占禁止法に関するよくある質問

最後にM&Aや独占禁止法に関するよくある質問をまとめたので、ぜひ参考にしてみてください。

独占禁止法におけるシェアの基準は?

当該市場におけるシェアが20%以上であることが基準とされています。シェアが20%以下であれば競合の取引の機会が減少する可能性は低いため、独占禁止法に抵触することは少ないでしょう。

参考:4 共同研究開発の成果等の競争者への供与の制限|公正取引委員会

独占禁止法のクリアランス期間とは?

独禁法クリアランスとは企業結合を行う際、公正取引委員会から「独占禁止法上の問題なし」というお墨付きをもらうことです。

これは、企業結合が市場の競争を阻害する恐れがないことを意味します。通常の独禁法のクリアランス期間は、届出受理日から30日間です。ただし、公正取引委員会が必要と認めた場合は、この期間を短縮することができます。

参考:禁止期間について|公正取引委員会

M&Aのメリット・デメリットは?

M&Aにおけるメリット・デメリットを簡単にまとめました。

譲渡する側

譲り受ける側

メリット

  • 後継者問題の解決

  • 事業継続と拡大

  • 廃業コスト削減
  • 既存事業の拡大
  • 新規事業への参入による事業の多角化

デメリット

  • 買収条件の交渉難航
  • 簿外負債や偶発債務のリスク

M&Aを成功させるためには上記のメリットとデメリットを理解し、適切な戦略を立てましょう。

M&Aにおける独占交渉権とは?

独占交渉権とはM&Aの交渉において、売り手が特定の買い手に対して一定期間、独占的に交渉する権利を与えることです。

買い手側は、独占交渉権を得ることで、他の買い手との競争を気にすることなく、売り手とじっくりと交渉を進められます。売り手側は独占交渉権を与える期間や条件については、慎重に検討する必要があるでしょう。

まとめ

本記事ではM&Aと独占禁止法の関係について、具体的な事例や注意点などを解説しました。M&Aを成功させるためには独占禁止法についての理解を深める必要があります。

独占禁止法に抵触するようなM&Aを行ってしまうと、計画が頓挫したり、多額の課徴金を課せられたりするリスクがあるからです。

特に海外企業とのM&Aの場合には、各国の法規制にも対応する必要があるため、注意が必要です。M&Aにおける独占禁止法に抵触するかどうか判断に迷う方は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

M&Aの際の独占禁止法に関するお困りごとやご相談は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。

この記事の監修者
池田 大吾小谷野税理士法人
カルフォルニア大学アーバイン校卒業、大手生命保険会社勤務を経て2007年小谷野税理士法人に入社。
会計、税務、経理実務の支援業務から各種補助金の相談・申請業務、企業及び個人のリスクマネジメントのコンサルタント業務を行う。
銀行はじめ多くの金融機関、会計・税務・財務業界に多くの人脈を持ち、企業財務のマルチアドバイザーとして活躍。
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