セールアンドリースバック取引は、資金調達と固定資産の有効活用を両立できる方法です。セールアンドリースバック取引は、その種類によって会計処理の方法や仕訳が異なるため仕組みを正しく理解する必要があります。今回はセールアンドリースバック取引の会計処理方法やメリット・デメリットについて詳しく解説します。
目次
セールアンドリースバック取引とは
セールアンドリースバック取引とは、自社が所有する不動産等の固定資産を売却した後、同資産についてリース契約を結ぶ取引です。「賃貸借契約付き売却」とも呼ばれます。
売却により所有権は売却先に移転しますが、リース契約によって売却した資産を使用し続けることができます。
セールアンドリースバックの目的
セールアンドリースバックの主な目的として以下の3つが挙げられます。
- 固定資産売却による資金調達
- 業務効率化
- 経営の柔軟性の向上
セールアンドリースバックの特徴は、固定資産の売却によりまとまった資金を調達しつつ、売却した資産の使用を継続できる点です。そのため資金調達を目的に行うケースが多くみられます。
また、資産の利用は続けたいものの所有権は手放したい(資産にかかる手間を抑えたい)と考える場合にもセールアンドリースバックが効果的です。
セールアンドリースバック取引の種類別に会計処理を解説
セールアンドリースバック取引は3種類に大別され、それぞれ会計処理の方法が異なります。以下ではセールアンドリースバック取引の種類別に会計処理のやり方や仕訳例を解説します。
ファイナンス・リース取引
ファイナンス・リース取引とは、以下2つの要件を満たすリース取引です。
解約不能(ノンキャンセラブル) | リース期間中に解約できない、およびそれに準ずる契約内容 |
---|---|
フルペイアウト | 借り手側がリース物件の取得価額や諸経費のおおむね全額をリース料として支払う |
賃貸借契約ではあるものの、実質的にはリース会社を介してリース物件を分割で購入するような仕組みになります。
セールアンドリースバック取引におけるリース契約がファイナンス・リース取引に該当する場合の会計処理について紹介します。
まずは物件の売却時です。今回は以下の例を用います。
- 資産の種類:建物
- 取得価額:5,000万円
- 減価償却累計額:3,000万円
- 不動産売却価格:1,500万円(普通預金口座に入金)
上記の例の場合、売却時の仕訳は以下のようになります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
普通預金 | 15,000,000 | 建物 | 50,000,000 |
減価償却累計額 | 30,000,000 | ||
固定資産売却損 | 5,000,000 | ||
長期前払費用 | 5,000,000 | 固定資産売却損 | 5,000,000 |
一般的な売買取引との違いは、発生した固定資産売却損の全額を長期前払費用に計上する点です。(固定資産売却益が発生した場合は「長期前受収益」を計上します)
続いてリース取引に関する仕訳を紹介します。ファイナンス・リース取引は、リース取引の契約時にリース資産とリース債務の両方を計上する点が特徴です。
リース契約の内容として以下の例を用います。
- リース料総額:2,000万円(うち利息200万円)
- 契約期間:5年(前払い契約)
- 支払い方法:毎月30万円
今回の例では前払い契約のため、リース取引の契約締結時に1回目のリース料支払いが発生します。具体的な仕訳の方法は以下の通りです。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
リース資産 | 18,000,000 | リース債務 | 18,000,000 |
リース債務 | 300,000 | 普通預金 | 300,000 |
リース資産およびリース債務として計上するのは、リース料総額から利息部分を差し引いた金額です。また、2回目以降のリース料支払い時には利息も発生します。
なお、物件の売却時に計上した長期前払費用は、リース資産の減価償却の割合に応じて取り崩します。計算方法が非常に複雑なため、専門家である税理士のサポートを受けるのが安心です。
ファイナンス・リース取引の会計処理にお悩みであれば小谷野税理士法人へご相談ください。
オペレーティング・リース取引
オペレーティング・リース取引とは、ファイナンス・リース取引以外のリース取引のことです。前述したファイナンス・リース取引に比べてシンプルな会計処理となります。
まずは物件売却時の仕訳です。ファイナンス・リース取引と同じく以下の例を用います。
- 資産の種類:建物
- 取得価額:5,000万円
- 減価償却累計額:3,000万円
- 不動産売却価格:1,500万円(普通預金口座に入金)
オペレーティング・リース取引における売却時の仕訳は以下のようになります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
普通預金 | 15,000,000 | 建物 | 50,000,000 |
減価償却累計額 | 30,000,000 | ||
固定資産売却損 | 5,000,000 |
ファイナンス・リース取引と違い、固定資産売却損を長期前払費用に振り替える処理は必要ありません。通常の固定資産売却と同じように仕訳を行います。
続いてリース取引に関する仕訳です。オペレーティング・リース取引の場合、リース契約時に特別な仕訳は行いません。リース料支払いの都度、費用計上を行います。
たとえばリース料が毎月30万円の場合、支払い時の仕訳は以下の通りです。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
リース料 | 300,000 | 普通預金 | 18,000,000 |
金融取引
セールアンドリースバック取引が実質的には建物を担保とした融資であると認められる場合は金融取引とみなされます。
どのような取引が金融取引と認められるかは、取引当事者の意図や資産の内容など複数の要素から判断されるため一概にはいえません。ただし、以下の要件に該当するセールアンドリースバック取引は金融取引には該当しないとみなされます。
【新品の場合】
- 借り手側がリース会社に代わって購入する相当な理由が存在する
- 仮払金等の仮勘定で経理処理をし、対象の物件を購入金額でリース会社へ譲渡する
【中古の場合】
- 事業の用に供している資産等について、管理事務の負担を軽減する目的でセールアンドリースバック取引を行う
金融取引とみなされた場合は、当該資産を担保とするローンと同じような会計処理を行います。
関連記事:固定資産の減損処理はどのように行う?減損処理の概要も解説
セールアンドリースバックのメリット
セールアンドリースバック取引の主なメリットを5つ紹介します。
1.資産をオフバランス化できる
資産のオフバランス化とは、当該資産を貸借対照表(バランスシート)から除外することです。
セールアンドリースバックにより資産を売却すれば、その資産は自社の所有物ではなくなるため貸借対照表に計上されなくなります。結果として、以下のような効果を得られます。
- ROA(総資産利益率)の改善
- 貸借対照表のスリム化
- 自己資本比率の向上
(売却によって調達した資金を負債の返済に充てることで、他人資本の比率を下げられます)
2.経営の柔軟性を向上できる
セールアンドリースバックは経営の柔軟性を向上する効果も期待できます。具体的な理由は以下の3点です。
- 所有権がリース会社に移るため自社で管理事務を行う必要がなくなる
- 固定資産税や保険料の支払が不要になる可能性がある
- 資産の売却によってまとまったキャッシュを得られる
資産の管理にともなう手間やコストを削減できるため、リソースに余裕が生まれ別の分野に注力できるようになります。また、まとまった資金を調達できるため、突発的な資金需要や新たな投資機会が発生した場合の素早い対応も可能です。
3.コストを削減できる
固定資産の売却によって資産の所有権がリース会社に移るため、固定資産税や保険料、修繕費などの負担が不要になります。すなわち、資産の使用を継続しながらもコストを削減できるのです。
また、リース料は経費として処理できるため節税にもつながります。
4.調達した資金の使い道が自由
セールアンドリースバックにおける資産売却によって調達した資金の使途に定めはありません。売却資金の使い道は自由です。
通常の融資と違い、まとまったキャッシュを自由に使える点はセールアンドリースバックならではのメリットといえます。
5.資産を継続的に使用可能
セールアンドリースバック取引であれば、資産を売却した後もリース契約によって引き続き資産を使用可能です。資産の物理的な使用はそのまま維持されるため、業務の中断や生産性の低下を起こさず、経営の安定性を保つことができます。
セールアンドリースバックのデメリット
セールアンドリースバックには多くのメリットがある一方で、注意するべきデメリットも存在します。以下でセールアンドリースバック取引の主要なデメリットについて解説します。
継続的にリース料がかかる
大きなデメリットの1つが、資産を引き続き使用するためにはリース料を支払う必要がある点です。リース期間が長期にわたる場合、リース料の合計が売却時の資金調達額を上回る可能性もあります。
セールアンドリースバック取引のメリットとして「コストを削減できる」を挙げましたが、あくまで短期的なメリットです。長期的にみると、かえってコストが増大する恐れがある点に注意が必要です。
資産価値の減少リスクがある
セールアンドリースバックは、以下2つの観点から資産価値の減少リスクが高い取引といえます。
- 一般的な売買取引に比べ、セールアンドリースバック取引による売却価格は安価になりやすい
- 時間の経過や技術革新・市場価値の変動等により、リース契約の開始時に比べて終了時の方が価値が下がっている可能性がある
(リース期間の終了後に所有権が借り手側に移る契約や、リース契約が終了した時点で資産を再購入する場合に注意するべき事項)
資金調達を最優先にする場合や資産の再購入を検討している場合は、資産価値の減少リスクを考慮して慎重な判断が必要です。
まとめ
セールアンドリースバック取引は、リース契約の性質によって「ファイナンス・リース取引」「オペレーティング・リース取引」「金融取引」の3種類に大別されます。それぞれ会計処理が異なるため、どの取引に該当するか判断した上で適切な処理を行う必要があります。
セールアンドリースバックの主なメリットは、資金調達や財務改善が可能な点です。デメリットとしてはリース料が継続的に発生する点や、資産価値の変動リスクがある点です。また、必ずしもセールアンドリースバック取引が最適とは限らないため、メリット・デメリットを把握した上で、自社に適した手段か十分に検討しましょう。
どの取引が自社に適しているのか判断が難しい、またその取引の会計処理の方法が分からないという場合は、一度税理士に相談をしてみましょう。税理士は節税の観点から最適な取引の提案と会計処理の方法をサポートしてくれます。さらに顧問契約であれば、収支報告書や決算書などから将来的な事業拡大を見据えた判断もしてくれるでしょう。
会計処理の方法がわからない、自社に適した方法か判断できない等のお悩みがある状態で、取引を実行するのは危険です。セールアンドリースバック取引を行う前に疑問をしっかり解消しましょう。