予定納税の金額は前年の所得税等の申告納税額をもとに決定します。そのため、本年の収入が前年よりも大幅に減少している場合など予定納税が困難となるケースが起こり得ます。このように予定納税の実施が困難な場合に活用できるのが減額申請です。今回は予定納税の減額申請の方法について詳しく解説します。
目次
所得税の予定納税の対象条件
予定納税とはその年に納付する税金の一部を事前に納付する制度です。
所得税の予定納税制度は予定納税基準額が15万円以上の人が対象になります。所得税の場合、予定納税基準額は原則としてその年の5月15日時点で確定している前年の所得税等の申告納税額と同額になります。前年の所得税の申告納税額が15万円以上であった場合に予定納税が必要になる仕組みです。
ただし以下のいずれかに該当する場合は、予定納税基準額の計算方法が異なります。
- 前年の所得に、山林所得、退職所得等の分離課税の所得(分離課税の上場株式等の配当所得等を除く)、譲渡所得、一時所得、雑所得、平均課税を受けた臨時所得金額(除外所得)が含まれる
- 前年の所得について外国税額控除の適用を受けている
- 前年の所得について災害減免法の適用を受けている
上記に該当する場合の予定納税基準額の計算式は以下の通りです。
予定納税基準額=A-B+C
A:前年分の課税総所得金額・分離課税の上場株式等に係る課税配当所得等の金額に係る所得税額
B:源泉徴収税額(除外所得にかかるものを除く)
C:復興特別所得税額
なお、所得税だけでなく、法人税と消費税にもその年に納付する税金の一部を前払いする制度が存在します。法人税と消費税の予定納税については以下の記事をご覧ください。
関連記事:法人税の予定納税とは?対象者や計算方法などについて幅広く解説
関連記事:消費税の予定納税とは?納付時期や税額について解説
予定納税の納付時期
所得税の予定納税の納付時期は毎年7月と11月の年2回とされています。7月分を第1期分、11月分を第2期分と呼びます。
令和6年(2024年)の第1期分・第2期分それぞれの納付期間は以下の通りでした。
- 第1期分:令和6年7月1日~令和6年9月30日
- 第2期分:令和6年11月1日~令和6年12月2日
出典:国税庁「No.2040 予定納税」
納付額の内訳は、第1期分および第2期分それぞれで予定納税基準額の3分の1の額となります。
予定納税の減額申請について
予定納税は原則として年2回あり、毎回の予定納税で予定納税基準額の3分の1の額を納付すると紹介しました。予定納税基準額は、原則として前年の申告納税額をそのまま用いるため、前年から大幅に所得が下がった場合は、予定納税が困難になる恐れがあります。
このように何らかの事情により予定納税が困難な場合に予定納税額の減額を求める手続きが、予定納税額の減額申請です。
以下で手続きの詳細について詳しく解説します。
減額申請の対象者
所得税の予定納税額の減額申請をできるのは、その年の申告納税見積額が予定納税基準額よりも少なくなると見込まれる場合です。また、同一生計配偶者分または扶養親族分にかかる予定納税特別控除額を追加する場合も予定納税額の減額申請ができます。
減額申請の対象者に該当する例としては、以下の5つが挙げられます。
- 廃業、休業、失業等をした
- 業況不振等の理由により、その年の所得が前年の所得よりも明らかに少なくなると見込まれる
- 災害、盗難、横領などにより事業用資産や山林に損害を受けた
- その年の所得控除額や税額控除額が前年分と比較して増加すると見込まれる明確な理由がある
- 予定納税特別控除額に、同一生計配偶者または扶養親族にかかる予定納税特別額を追加する
(予定納税特別控除額は1人3万円)
上記以外の場合でも、事情によっては予定納税額の減額ができるケースもあります。
予定納税額の減額申請書の入手方法
予定納税額の減額申請に必要な「予定納税額の減額申請書」は、国税庁の公式サイトでダウンロード可能です。また、e-Taxソフトで申請書の作成および提出まで行うこともできます。
参考:予定納税等通知書・減額申請の承認等通知書に係る電子通知について|e-Tax
減額申請書に必要な添付書類
予定納税額の減額申請では、減額申請書とあわせて申告納税見積額の計算の基礎となる事実を記載した書類の提出も必要です。
添付書類として活用できる書類は、減額理由によって異なります。たとえば業況不振が理由であれば、その年の6月末までの損益計算書を添付するのが適切です。
減額申請における注意点
予定納税額の減額申請における注意点として、以下の2つが挙げられます。
- 第1期分および第2期分の減額申請をする場合と、第2期分のみの減額申請をする場合で申請書の提出期間が異なる
- 第1期分および第2期分の減額申請と第2期分のみの減額申請では、申請書の「予定納税額」欄に記載する額の計算方法異なる
1の減額申請書の提出期間については以下の通りです。
申請する期 | 提出期間 |
第1期分および第2期分 | その年の7月1日から7月15日 |
第2期分のみ申請 | その年の11月1日から11月15日 |
ただし、令和6年分は第1期分および第2期分の申請時期が7月1日から7月31日でした。年によって期間が異なる可能性があるため、その年の提出期間については必ず国税庁の案内をご確認ください。
2の減額申請をする際の予定納税額の計算については、国税庁が公開する「減額申請書PDFファイル」の「予定納税額の減額申請書の記載方法」で確認することができます。
しかし、初めて書く場合はかなり手間がかかると思われます。このようなケースでは、税理士に依頼することで正確かつ期限内に提出することが可能になります。
予定納税額の減額申請書について疑問や悩みがあれば、ぜひ小谷野税理士法人にご相談ください。
参考:A1-3 所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請手続|国税庁
予定納税額の減額申請書の書き方
最後に予定納税額の減額申請書の書き方について大まかに解説します。
※今回紹介する内容は令和6年分の減額申請書を基にしています。年によって書類の様式が変わる可能性があるため、予定納税額の減額申請を行う場合は必ず最新情報をご確認ください。
1.基本情報欄を記入する
まずは申請書上部の基本情報欄を埋めましょう。記載事項は以下の4つです。
- 現在の住所または居所、事務所等
- 職業
- 氏名(フリガナ)
- 電話番号
基本情報欄のすぐ下には、予定納税額について通知を受けた額と申請額を記載する欄もあります。通知を受けた額については書類の内容を転記するだけで済みますが、申請金額は後述する計算書欄を埋めるまでわかりません。そのため、この時点では予定納税額の申請金額については一旦保留とします。
2.必要書類の準備、添付書類の作成をする
減額申請書には、その年の所得金額や控除額等の見積もりを記載する欄があります。これらの欄を埋めるためには金額を証明する書類の準備が必要です。
また、減額申請の理由によっては自身で添付書類の作成が必要なケースがあります。たとえば業況悪化による収益減少が原因の場合は、前年同時期に比べて収益が少ないことを証明する書類として損益計算書が必要です。損益計算書は記帳の内容をもとに作成する必要があるため、時間に余裕をもって進める必要があります。
3.減額申請の理由を記載する
申請書の真ん中あたりに減額申請の理由を記載する箇所があります。具体的な記載事項は以下の通りです。
- 減額申請の理由
廃業、休業、失業、災害、盗難、横領、医療費、その他の中から該当する項目を丸で囲みます - 減額申請の具体的理由
「主要取引先の倒産により売上が〇%減少した」「〇〇の理由により医療費が増加した」等、具体的な理由の記載が必要です - 添付書類の名称
添付する書類について記載します
4.「申告納税見積額等の計算書」の各欄を埋める
書類の下半分は「申告納税見積額等の計算書」で、各項目に申請金額を埋める必要があります。主な項目の例は以下の通りです。
項目 | 内容 |
所得金額の見積額 | その年の所得金額の見積額を記載します。所得の種類ごとに記載が必要です |
所得から差し引かれる金額 | 6月30日時点(11月減額申請の場合は10月31日時点)の状況で、その年の控除額を見積もって記載します |
課税される所得金額 | 所得見積額の合計から控除額を差し引いた金額を記載します。千円未満切り捨てです。 |
税額 | 課税される所得金額に税率を乗じた額を記載します |
税額控除等 | 税額控除の種類ごとに金額を埋める欄があるため、適用を受ける税額控除があれば記入しましょう |
申告納税見積額 | 申告納税見積額から予定納税特別控除額を差し引いた額が予定納税額となります |
予定納税額の計算まで完了したら「1.基本情報欄を記入する」の工程で保留にした予定納税額の申請金額欄を埋めましょう。
予定納税に関する内容とはいえ、通常の確定申告と同じような作業が必要となります。税額の計算や書類の書き方に不安があれば専門家である税理士のサポートを受けるのが安心です。
減額申請のまとめ
所得税の予定納税基準額は、原則として前年の申告納税額を用いるため、収入減少等の理由により予定納税が困難になるケースが起こり得ます。何らかの事情により予定納税が困難な場合は、予定納税額の減額申請をすることで事業継続の手助けとなります。
予定納税の減額申請期間は短いわりに、通常の確定申告と同じような作業量が必要となるため、提出期限に間に合うよう余裕をもって準備を進めることが大切です。
予定納税の減額申請はややイレギュラーな手続きな上に細かな計算が必要なため、納税者が1人で対応するのは困難な可能性があります。予定納税の減額申請について疑問や不安があれば、当事者のみで対処しようとせず、専門家である税理士のサポートを受けるのが確実です。