飲食店を開業する際には初期投資だけでなく「運転資金」も重要な要素です。しかし、どのくらい資金を準備しておくべきか、資金が用意できない場合どうすべきかお悩みの方も多いのではないでしょうか。本記事では、運転資金の基本知識から内訳、平均的な必要額、そして資金繰りのポイントについて詳しく解説していきます。これから飲食店を開業しようと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
飲食店の運転資金とは?
飲食店の運転資金とは、日々の事業を継続するために必要な資金です。食材の仕入れや人件費、家賃、光熱費などの経営に欠かせない費用をまかなう手元資金を指します。運転資金に余裕があれば一時的な赤字でも、一定期間は経営を継続できるでしょう。
逆に運転資金が不足すると仕入れができなくなったり、従業員に給料を支払えなくなったりと運営に支障をきたす可能性があります。最悪の場合、お店を閉店しなくてはいけないケースも考えられます。
安定した経営のためには日々の売上や経費をしっかりと管理するなどして、運転資金の確保に努めなくてはいけません。
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飲食店における運転資金の内訳
飲食店における運転資金には「変動費」と「固定費」の2種類に分けられます。ここからは、この2種類の内訳について詳しく解説します。
変動費
飲食店における変動費とは、その月の売上や客足によって変動する費用です。例えば、季節や天候によって来客数が変動すると、それに合わせて食材の仕入量も調整しなくてはいけません。こういった仕入や食材の費用は変動費に該当します。
また新メニューの導入や特定のキャンペーンの際に増える広告宣伝費も変動費のひとつです。変動費は売上高に比例するため、営業活動の変動や季節的な需要の変化に合わせて調整が可能です。
固定費
飲食店における固定費は、売上にかかわらず毎月一定額支払う必要がある費用です。これには家賃、スタッフの給与、光熱費、通信費、保険料などが含まれます。
固定費は売上が低迷している月でも必ず発生するため、開業前にしっかりと見積もりを行い、十分な運転資金を確保しましょう。
飲食店開業のける運転資金の平均と目安
ここからは、運転資金の平均額と目安について解説します。平均値と目安を参考にして、どれくらいの運転資金が必要か参考にしてみてください。
運転資金の平均額
日本政策金融公庫が発行した「創業の手引き」によると、運転資金の平均は約282万円と記載されています。この金額は開業に伴う内装工事や設備などの初期投資費用の2割相当です。
つまり、開業資金全体の2~3割を運転資金に充てると、比較的安定したスタートを切れると言えるでしょう。
運転資金の目安
飲食店の運転資金の目安は、6ヵ月分の変動費と固定費を用意しておくと安心です。例えば3ヵ月分の運転資金を融資で、残りの3ヵ月は自己資金で用意するといった具合で資金を分けるのがおすすめです。
このようにリスク分散をしておくことで、安定した経営基盤を築きやすくなります。
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飲食店の資金繰りを悪化させる原因
それでは、資金繰りが悪化してしまう原因にはどのようなケースがあるのかについても見ていきましょう。
客足の減少
売上減少の直接的な要因となる顧客数の減少は、経営にも大きな打撃を与えます。近年の外食市場は、テイクアウトやデリバリーの普及、消費者のライフスタイルの変化で集客に苦戦する飲食店が増えています。
ジャンルによっては市場の変化に影響を受けやすく、客足の変動が大きくなる傾向があるので要注意です。
原材料価格の高騰
食材価格の上昇も、飲食店の利益率を大きく低下させます。価格高騰の原因には世界的な食料需給の変化、気候変動、原油価格の高騰、為替レートの変動などが挙げられます。特に輸入食材に依存している場合、為替レートの変動による影響を受けやすいです。
人材確保難と人件費の増加
深刻な人手不足も人件費の高騰を招き、資金繰りを悪化させる要因のひとつ。近年は少子高齢化による労働力不足に加え、飲食業界の労働環境に対するイメージなどから人材確保が困難な状況が続いています。
また従業員の離職率が高い場合、採用コストや教育コストが頻繁に発生して、さらに経営を圧迫してしまうこともあります。
設備投資・メンテナンス費の負担
店舗の設備維持や更新にかかる費用も飲食店の経営に負担がかかる要素です。衛生管理基準の厳格化、省エネ化への対応、顧客ニーズの変化への対応など、設備投資の見直しは常に必要です。
さらにキャッシュレス決済やオンライン注文システムの導入などは初期費用だけでなく運用コストも発生します。
また老朽化した設備があればその都度修繕もしなくてはならないので、これらの費用が重なると、資金繰りを悪化させてしまうでしょう。
飲食店が運転資金の融資を受ける方法
運転資金の資金繰りが悪化するのを防ぐために、飲食店はどのような融資を受けられるのでしょうか。以下では飲食店が融資を受けるための4つの方法について解説します。
政府系金融機関
飲食店にとって重要な資金調達先として、政府が資本金の一部または全額を出資している政府系金融機関が挙げられます。代表的な機関としては、日本政策金融公庫や商工組合中央金庫などです。
特に日本政策金融公庫は小規模事業者への支援に力を入れており、無担保または低金利で融資を受けられる可能性があるのは大きな魅力です。
商工組合中央金庫(商工中金)も、個人事業主や小規模事業者向けの融資を行っています。しかし商工中金の株主である中小企業団体(商工中金株主団体)とその構成員のみが融資対象となるため、注意が必要です。
銀行
都市銀行、地方銀行、インターネット銀行など、民間の銀行も運転資金の融資を取り扱っています。銀行融資は比較的低い金利で、審査によっては高額の融資を受けられる可能性があります。
しかし、銀行のプロパー融資は審査が厳しく、飲食店の運転資金調達においてはハードルが高いのが現状です。
そのため飲食店は基本的に信用保証協会の保証付き融資が中心となるでしょう。またメガバンクは大規模融資には強みを持つものの、個人経営の店舗への融資は厳しくなる傾向があります。
信用金庫
信用金庫は、地域社会の発展を目的に地域住民の相互扶助の精神に基づいて運営されている金融機関です。利益追求を第一の目的としていないため、小規模事業者や個人事業主に対しても積極的に融資を行っています。
信用金庫は地域に根差した中小企業や商店への支援に積極的であるため、小規模な飲食店でも融資を受けやすいのがメリットです。
ただし、銀行融資と比較すると金利が高めに設定されている場合が多く、返済時の負担が大きくなる可能性があります。また融資限度額も銀行より低く設定されていることが多いため、希望する融資額に満たない場合もあります。
ノンバンク
ノンバンクとは消費者金融や信販会社など、融資業務を専門とする貸金業者です。ノンバンクを利用するメリットは審査が比較的迅速で、融資までの期間が短いことです。
また他の金融機関に比べると審査基準が比較的緩やかなことも特徴のひとつ。急ぎで資金が必要な場合や他の金融機関の審査に通らなかった場合などの状況において、選択肢のひとつとなるでしょう。
しかしノンバンク融資は金利が高いというデメリットがあります。中には、法律で定められた上限金利に近い金利を設定している業者も存在しています。そのため借り入れを行う際には、綿密な返済計画を立てておきましょう。
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飲食店開業の資金繰りを成功させるためのコツ
飲食店を安定的に経営するために、資金繰りをうまく回していくことは重要なポイントです。そこで以下では、資金繰りを円滑にするための具体的な方策を解説します。
固定費の見直し
固定費は売上高に関わらず発生する費用のため、固定費を見直して可能な限り削減することが成功のコツです。例えば立地戦略を見直し、賃料に見合った集客が見込める場所への移転を検討するなどが挙げられます。
あるいは従業員の勤務時間管理を綿密に行い、無駄な人件費を削減するのもひとつの手段です。さらに節水型設備やLED照明の導入、従業員へ節電・節水を促すなどして水道光熱費の削減に取り組む企業もあります。
これらの施策を実行すれば、固定費を抑えつつ資金繰りの改善に繋げられるでしょう。
キャッシュフローの可視化
資金繰りの改善にはお金の流れ、すなわちキャッシュフローを正確に把握しなくてはいけません。キャッシュフローとは文字通りお金の出入りを示すもので、これを的確に捉えれば資金繰り悪化のリスクを最小限に抑えられます。
まずは、日々の売上や仕入れにかかる費用、各種経費の支払いなどを詳細に記録し、資金繰り表を作成しましょう。
この資金繰り表を日々更新していけば将来の資金動向を予測し、事前に必要な対策を立てやすくなります。クレジットカード決済の入金サイクルや固定費の支払い期日なども考慮に入れることで、さらに精度の高い資金繰りを実現できます。
適正在庫の維持
過剰な在庫は資金を滞留させ、逆に不足すればビジネスチャンスを逃してしまいます。適切な在庫数を維持することで、資金繰りを効率化できるようになるでしょう。
適正な在庫数を維持するためには食材の使用頻度や賞味期限を考慮し、無駄のない最小限の在庫を維持することが基本となります。また過去のデータから需要の変動パターン(季節要因、曜日要因など)を分析し、それに基づいた仕入れ計画を立てることも大切です。
もし資金に余裕があれば在庫管理システムを導入することで、リアルタイムで在庫状況が把握しやすくなります。
売上増加の戦略を立てる
売上増加は、資金繰りを改善する上で最も直接的な手段と言えるでしょう。そのために顧客満足度を高め、新規顧客を獲得するための戦略を立てる必要があります。
例えばメニューの見直しや季節限定メニューの導入、質の高い接客サービスの提供などは、顧客満足度の向上に影響しやすいです。さらにSNSを活用した効果的な情報発信や、リピーター育成のためのポイント制度なども売上増加に効果的でしょう。
またテイクアウトやデリバリーサービスを拡充することで新たな収益源の確保に繋がります。大切なのは常に顧客のニーズを的確に捉え、これらに応じたサービスを提供し続けることです。
支払サイトの最適化
支払いサイト、つまり仕入れ代金の支払い猶予期間を適切に管理することも資金繰りを改善するための方法のひとつです。
例えば仕入れ先との交渉を通じて、可能な範囲で支払いサイトを延長することで、手元資金の確保に繋がります。もし「月末締め翌月末払い」から「月末締め翌々月末払い」に変更できれば、期限と資金に余裕を持たせることができるでしょう。
逆に顧客からの入金はできるだけ早く回収しておくのがおすすめです。クレジットカード決済であれば決済代行会社との契約を見直し、入金サイクルを短縮できないか検討しましょう。
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飲食店の開業における運転資金に関するよくある質問
最後に飲食店の開業における運転資金に関する質問に回答したので、こちらもぜひ参考にしてください。
開業して軌道に乗り始めるのはいつ頃から?
日本政策金融公庫のデータによると、6割もの企業は開業した飲食店が軌道に乗るまでに半年以上かかっています。
3ヵ月以内に軌道に乗ったと回答した企業は約2割に留まっているのが現状です。そのため、開店後半年分の売上を補填できる運転資金が必要と言われています。
融資を受ける際に必要な書類は?
金融機関によって必要な書類が異なりますが、一般的に融資を申し込む際に必要な書類は以下の通りです。
- 資金使途が記載されている資料
- 事業計画書
- 貸借対照表
- 損益計算書
- キャッシュフロー表
- 試算表
- 登記簿謄本
書類の記載方法に不安がある場合は、税理士に相談して一緒に準備を進めると安心でしょう。
まとめ
飲食店を開業して軌道に乗せるためには、運転資金の確保と資金繰りの管理を徹底しなくてはいけません。運転資金は、日々の営業を維持するための重要な資金であり、平均的な運転資金は300万円弱と言われています。
資金繰りを悪化させないためにも、固定費の見直しやキャッシュフローの可視化などの対策を打っておく必要もあるでしょう。
運転資金の資金繰りがうまくできるか不安な方は、一度税務に関する専門的な知識を持つ税理士に相談するのがおすすめです。
小谷野税理士法人では、飲食店の開業に関するあらゆるお悩みの相談やご依頼が可能です。まずは一度、お気軽にご相談してみてください。